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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
4章 兄と妹

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59.新人大会 -一触即発-

「「初めてのチャイナ!」」

「はしゃぐ程のものでもないと思うけど。」



 キラキラ目を輝かせる2人に珍しくテンションの低いルイホァが苦笑いを見せる。


「緊張してるか?」

「まぁ少し。」

「大丈夫、お前賢いしどうにかなるさハハ!」


 パウルの適当な励ましにシュウゴははぁ、と生返事を返す。

 リーンハルト達は宿泊施設にチェックインしたあと、予選の説明があるとのことで出場者は訓練用の制服、他は正装で会場入りした。

 先に主催者側には挨拶をする必要があるとのことでゴーシは出場者とサポーターを連れて本部へ向かった。



「失礼いたします。トーキョー支部より参りましたゴーシ・テルシマと申します。」

「お入りください。」



 若い声が返事をする。

 明らかにルイホァが肩を震わせたため、ケイは横目でチラ見するが余計なことはするなとルイホァに睨み返される。



「やぁ、よく来てくれたね。ゴーシくん。息災で何よりだ。」

「ジュンシー様もお変わりないようで。」

「いやいや、時折歳を感じることもあるよ。パウルくんも元気そうで何よりだ。またチャイナで教鞭を取らないか?」

「ハハッ、またまた。でも機会がありましたらぜひ。ズーハオも元気そうだな。」


 ワハハ、と傍らにいた青年をバシバシと叩く。ズーハオと呼ばれた青年はペイとパウルを引き剥がした。


「で、そちらは元ベルリン副支部長のリーンハルト・ワイアットくんだったな。」

「はい、お初にお目にかかります。今回は私の部下が世話になりますので……胸を借りる気持ちで努めさせていただきます。」

「結構、噂には聞いているよ。」


 2人はゆるりと握手を交わす。こういったときに物怖じしない点はさすがと言うべきか。



「では改めて。私はペキン支部長のソン・ジュンシーだ。こちらは副支部長と監査局長だ。よろしく頼む。また何か有れば気軽に言ってくれて構わない。」

「お心遣い痛み入ります。本年は我々も容易に負けるつもりはありませんので。」

「そのようだ。愚女が出場しないなら然程足を引っ張る者もいないだろう。励みたまえよ。」



 その言葉にピクリと眉を顰めたのはシュウゴとヒロタダだった。それぞれリーンハルトとパウルに小突かれて頭を下げた。










 それから部屋を退出すると、ズーハオと呼ばれた青年が少し部屋を離れた場所で声をかけてきた。



「お前が見守る立場とは、たかが知れているな。我が妹ながら浅薄な思考だ。人の面倒を見ている暇があれば己の修行に時間をあてたらどうだ?」

「……はい。」


 言い返すと思いきや、ルイホァは他所から借りてきた猫のように恐縮するばかりだ。エルナもケイも驚いた顔でその光景を見つめるばかりだ。



「ズーハオよ、久々に会って言うのもなんだが兄妹のよ、私情を持ち込むな。」

「パウルさん、これは事実を述べた迄。修行の足りない隊員はいざ現場に出れば足を引っ張るだけ。ジパングの損失にもなりますよ。」

「お前な「あの!」



 2人は声がした方に視線を送る。

 声の主は顔を真っ赤にして怒りを辛うじて抑えているケイだった。



「お言葉ですけど! ルイホァは足も引っ張らないですし、コイツと修行したからこそのオレ達です。だから、今回の大会の結果もまだ分からないうちから仲間を貶めることは言わないでください!」

「……ケイ。」


 ルイホァは驚いた顔で彼を見る。慣れない敬語で辿々しくも必死に言葉で主張している。


「そうね、ルイホァが足を引っ張ってるならあたしたち全員一度は足を引っ張ってます。それ以上の言葉は大会後聞きます。」


 エルナもルイホァを庇うように立つ。真っ直ぐにズーハオを睨みつける。明らかに不快そうな顔をするズーハオから3人を隠すかのようにリーンハルトは間に立つ。


「いやー、部下が失礼を。」

「リー「でも。」


 ケイとエルナが言い返そうとしたが、リーンハルトに制されてだ黙る。彼の逆説の後に続く言葉は、信頼のおける上司から貰える最上級の言葉だったからだ。



「今はアンタの妹でなくてオレの部下です。足を引っ張っているかはオレが決めます。それにオレの部下をあまり舐めてかからないでいただきたい。ルイホァもこの若い2人も、今回出るそっちの2人も、アンタが思っている以上のものですよ。」

「……せいぜい結果を出すがいいさ。」



 言い返してきた面子を一巡すると、特に反応するわけでもなく受けて立つと言わんばかりに胸を張るとそのまま去ってしまった。



「ゴーシさんは言わせたままで良かったんですか?」

「私は結果を出せば文句は言わん。それよりお前こそ言い返さなくてよかったのか?」


 ヒロタダは案外止める気のないらしいゴーシのリアクションを意外に思いながらも、彼の質問に答える。


「僕は2人ほど強くありません。でも、仲間をああ言われて黙っているほど大人しくもないですよ。」

「……ならいい。」



 ゴーシはヒロタダの背を叩くとふっと笑った。











 予選会場に行くと、様々なエリアの新人達が集まっていた。七賢人や紋付と交戦しているヒロタダ達はどうも視線を集めがちだった。相変わらずケイとエルナはズーハオの言葉や、後からヒロタダに教わった「愚女」と言う言葉を言い放ったジュンシーについて文句を言っていた。

 シュウゴは思うところがあるようで2人の文句は止めなかった。恐らく顔には出ていないが怒ってはいるのだろう。ヒロタダが2人を何とか宥めていると説明者が現れた。



『皆さん、お忙しいところありがとうございます。今回の予選について説明をさせていただきます。』


「ヒロタダさん。説明中、一応能力を使っててもらっていいですか? オレ達の範囲だけでいいので。」

「うん? 分かった。」


 シュウゴの意図がわからなかったが無意味なことをするはずはないであろう、ヒロタダは素直に頷いた。



『皆さんにはこれから当支部で準備した航空用の基礎機体をお渡しします。それを予選当日までの3日間9:00〜17:00で規格内で改造してください!』


 説明役の男性はペラペラと規格について説明していく。一部の周りの人たちは慌ててメモをしているが、ヒロタダは準備万端、容易にメモをした。

 もちろん、シュウゴがいるため最悪聞き逃しても問題ないのであろうが。


『そして予選は、その機体を使ったレースとなります! ペキン郊外の会場から出発、この川沿いを北上し、渓谷を通過。チェックポイントを通り過ぎたら迂回して会場に戻ってきてください! レース中は直接的に命を奪うことさえなければ、能力、武器を用いた妨害はもちろんありです!』


 通信機を通じてマップは送られてきた。

 一方で規格については何も送られてこないあたり情報収集能力や瞬時の判断力が求められているのだろう。


『整備中の暴力および戦闘行為は禁止。基礎機体の破壊も禁止です! 判明した時点でそのチームは失格です。』

「判明した時点、な。」


 ケイのように周りにも察しのいい人間は何人もいる。ぼそぼそと相談し合う参加者も見られた。

 その様子を見ながら男性は愉快そうに笑いながら言い放った。



『くれぐれも、他の参加者とも仲良くしながら整備を進めてください。』



 その言葉の意味を果たして何人が正しく解釈できたか。それは予選でのお楽しみである。











「で、どうします?」



 ジパングチーム用の基礎機体の元へ向かうと、ケイはほう、と機体をまじまじと見ている。



「ゴーシさんの読み通り。オレが整備については勉強してきたから大丈夫だよ。ケイは整備手伝ってね。重い物運ぶのとか。」

「了解っす!」

「2人は他のチームに挨拶に行って。」

「あたし達が?」


 エルナが尋ねるとシュウゴは頷いた。


「あの説明の通りなら、戦闘行為を伴わない交流は問題ないということ。偵察、時間内の他チーム機体への接触、参加者への能力の施行は可能ってこと。それにね、必ず偵察には来るんだよ。」

「やっぱり、説明の時点から誰かの能力が発動してたのか?」

「はい。」


 彼はあっさりと頷く。エルナとケイはえ、と顔を見合わせた。



「たぶん、幻聴? とか、その辺だと思う。だから参加前に多少失格チームが出るだろうね。そして仕掛けたチームは必ず確認するはずだよ。『自身らの作戦に気づくような聡いチームは注意が必要だから』って。」

「なるほどね。なら、あたし達は何に注意しながら挨拶すればいいわけ?」

「エルナはよほど嫌な人じゃなければ握手して思惑だけ確認してきて。あとの所作についてはゴーシさんにしごかれたヒロタダさんがわかるから。」

「僕は適宜【無効化】を使いながら身を守ればいいんだよな?」


 ハイ、とシュウゴは頷く。


「1日目はケイに頼んで運搬から行う。あとオレの能力で必要部品の運搬。その間にできる限りのチームには接触。2・3日目はハリボテで囲んで作業、オレとヒロタダさんで一気に進める。ケイとエルナは周りの警戒ね。」

「こっちから妨害はしなくていいんすか?」

「それは大丈夫。こっちにはヒロタダさんがいるし。ちゃんと考えてる。あと当日の操縦なんですがヒロタダさんお願いしていいですか?」


 確かに、面子を見ると未成年と普段車に乗らない人物であるから自分が妥当であろう、頷いた。


「なら【無効化】の使い所はシュウゴが指示するよう頼むな。」

「勿論です。」


 シュウゴは了承した。



「とりあえず絶対本戦に残って優勝だな!」

「その通りよ、バカにされたまま終わるなんてまっぴらよ。」

「僕も同意だ。」

「……オレもです。」

「よっしゃ、じゃあやってやりましょう!」



 自然と4人は手を合わせ、おー! と手を挙げた。












「まぁ、そんなことがあったの。」



 後から現地入りしたオリヴィアは支部長達のとやりとりを聞いて他人事のように呟く。

 その横には愉快そうに顛末を語るパウルと、部下達の前では平静を装っていたが、実はかなりご立腹だったリーンハルトが地団駄を踏んでいる。



「いやー、でもリーンハルトもしっかり啖呵きるわケイとエルナもはっきり宣戦布告するわで笑ったぜ。本当にお前らの班は仲良いよなぁ。」

「でも、パウルさんだって一応は元教え子を諌めようとはしたんでしょう?」

「そうだけどもアイツかなり可愛げがなくなってたぜ。学生時代はヴィリに負けて悔しがるような……まさにルイホァとよく似てたけどなぁ。」


 それに、とパウルは頭を抱えつつ、普段は吸わないタバコをふかしていた。


「あそこの家族はまた特殊だからな。オレも怖くて手出しができねー。ルイホァも、ズーハオも、親父さんも、何にもできねーのさ。」

「だから今回をきっかけに打ちとければ、って? 冗談じゃねーよ、ルイホァにあんな顔させといて和解なんて調子のいいことを。」

「お前は何でこの場になると急にガキ臭くなるかね。」


 普段部下達の前では見せないであろうリーンハルトの姿にパウルは苦笑した。

 しかし、オリヴィアとしては彼の言い分も分からなくはなかった。普段なら退屈だと皆のいる部屋に駆け込んで来そうなものだが、彼女はオリヴィアと同じ部屋で独り過ごしているのだ。



「まぁ打ち解けるはさておき、ヒロタダくん達には頑張ってもらいましょう。あの4人なら予選は大丈夫だと思うけど。」

「そうだなぁ。何事もなく終わればいいが。」

「終わんねーだろ。だから、現地の奴らも警戒してる。さすが情報は速いな、ペキン支部はよ。」



 そう、通常の大会より警備数は多く、観客に対する配備もかなり厳重なのだ。元より慎重な支部ではあるが特に今回は神経質なまでに実行されている。



「とにかく、何かあれば参加者も観客も守るのはオレたちの仕事だ。心してかかるぞ。」

「ええ。」

「もちろん。」



 リーンハルトの言葉に静かに頷きながら、3人は3日後の予選に向けて未来を見据えたのであった。

【こぼれ話】


ソン・ジュンシー (59話より)

49歳 186cm

好きなもの:酒、中華料理

嫌いなもの:弱者

ペキン現支部長。黄土色のぽさぽさの長髪を無造作に垂らしており、口周りに髪と同じ色の髭を蓄えている。外面は一見穏やかなおじさんで優しいが身内には厳しい上、言葉の端々には毒が滲む。


ソン・ズーハオ (59話より)

22歳 176cm

好きなもの:愛玩動物、子ども

嫌いなもの:弱い人間

ペキン支部監査局長でルイホァの実兄。黄土色のぽさぽさの髪を後ろでポニーテールにしている。切れ長の鋭い瞳をしている。自分にも他人にも厳しく、人の才能を図ることに優れている。

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