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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
4章 兄と妹

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57.決意

「悪いな。時間貰って。」

「別に構わねーよ。ハーマンからの呼び出しって滅多にないことだしな。」



 ヒロタダとリーンハルトは珍しいことにハーマンに呼び出されており、彼の車でトーキョーの中心部から離れた地域に向かっていた。

 リーンハルトは既に行き先に薄々勘付いているようであったがヒロタダは全く以て予想がついていなかった。



「あの、話の腰を折って申し訳ないんですが今どこに向かっているんですか?」

「墓地だよ。」



 ぼち、と聞き返す。

 なぜ改めてと思ったがやめた。車の中にする煙草の香りで十分に彼が思い悩んで選んだ選択であることなど容易に理解できたからだ。



「お前ら車酔いしないならこの書類に目を通してもらっていいか。」

「……これ、どこで。」



 最初の数文を読んだだけでリーンハルトの表情が剣呑なものへと変わる。



「報告の必要性は感じていたんだが、どうも決心がつかなかったんだ。すまん。これは研究所に行ったときにニヨウから渡された。」

「……個人宛なら確かに報告の義務はねぇよ。あのクソジジィ、ルイホァだけじゃなくてハーマンにもちょっかい出してるのかよ。」



 後輩がいないことをいいことに舌打ちをして悪態づいている。リーンハルトは流し見するとすぐにヒロタダに書類を渡した。



「ジジィ、って見かけは子どもだったぞ?」

「でも人造人間らしいですよ。イチヨウさん曰く。」

「そうなのか。」

「そうそう、加えてアイツが生まれたのは43年前。ハーマンより9歳上だからな。」

「……それは驚いた。」



 ミラー越しの彼の細い目が見開かれたのだから言葉に嘘はないのだろう。

 ヒロタダは2人の会話を聴きながらリストに目を通す。タイトルは。



「……『戦死者の生存報告』?」






 内容はざっと読み解くとこうだ。

 ユーマニティ戦争を経て、各地で多くの暴動やテロが発生した。それはもちろんジパングも例外ではない。

 多くの地域では戦死者が敵味方問わず出ており、近年になってやっとその身元がほぼ明らかとなったらしい。



「……少し、昔話を聞いてくれるか。」



 ゆったりと話す彼に2人は頷きながら彼の言葉に耳を傾けた。





ーーーーーーーーーーーーーーーー


 オレの生まれはナゴヤだった。しかし、その街並みは学生時代に研修で行くまで見たことはなかった。


 両親の顔は知らない。曰く、オレの能力は父親譲りらしい。父は真面目な警察官だったらしく、家を空けることが多かったそうだ。

 母はそんな父に愛想を尽かして幼かったオレを置いて夜の街を遊び歩いていたそうだ。たまたま取り締まった時に浮気の現場に遭遇、離婚したそうだ。


 その頃、父は特務隊への勧誘を受けており、それを機会にオレをサイタマの孤児院へ預けて自分は戦禍の中に身を投じたそうだ。結局帰らぬ人となったが、正直なところ喪った実感さえもなかった。


 確か5歳の時だっただろうか。

 ルーク・オッターバーンという少年と出会ったのは。

 彼はオレと同じで両親が離婚、父を喪い同じ孤児院へ来たらしい。オレはその頃から無口で可愛げのない子どもだったが父親を喪ったことなど微塵も感じさせないほど明るい奴だった。

 なぜかオレ達はすぐに意気投合して孤児院の悪ガキって言われて何やかんやと可愛がられていた。


 7歳の時、妻のサクラが入ってきた。確かネグレクトだったか、今の笑顔なんて嘘のように憔悴しきっていた。ルークは積極的にサクラに話しかけていたけどオレはとんでもない、菓子を分けてやったり本を譲るくらいしかできなかったな。

 でも少しずつ笑顔を見せてくれるようになって、気づけばいつだって3人でいるようになった。今思えばその時からサクラの花みたいな笑顔に惚れてたのかもな。オレも、アイツも。


 12歳、オレ達はほぼ同時に能力を発現させた。


 その登録とともにオレとルークはエリートコースへの参加を勧められた。ランクはAだった。



「オレは参加しようと思うんだ。お前は?」

「……オレもだ。人を救えるような、仕事。警察に勤めたい。」



 父親と同じ職業を志したオレの言葉にルークはただでさえまんまるな目をさらに大きく見開いた。溢れるぞ、なんて言ったら溢れねぇよ、と笑われたのを今でも覚えている。



「……もう、男の子っていつも勝手に決めちゃうわよね。人がランクBなのも気にしないで。」

「……すまん。」

「いいわよ。ハーマンが不器用なほど優しくて、ルークが誰よりも真っ直ぐなこと、私知ってるもの。」



 でも時々は遊びに帰ってきてよね、なんて唇を尖らせていた。

 オレ達は17歳でエリートコースを修了、ルイホァみたいな延長による特務隊勤務でなく警察学校へ入学した。10ヶ月の課程を履修し、いざ入職してみれば暫くぶりに会ったサクラも警察事務として入職しているものだから3人で顔を見合わせて笑った覚えがある。

 口には出さないが、今思えばその頃が1番笑ってたかもしれない。


 20歳の時、オレ達は刑事課に配属されると同時に特務隊の班にも組み込まれることになった。



「サクラ、オレ、刑事課に異動になった。それに特務隊にも選定された。」

「また、私の知らないところで2人して戦うのね。本当、男の子ってずるい。」

「ずるい、ついでに頼んでもいいか?」


 サクラの手をとったオレを不思議そうに見つめてきた。正直なところ試験なんて比ではないくらいに緊張した。



「……オレの帰りを、待っていてくれないか。結婚を前提に付き合ってほしい。」



 何も返事をしてくれないことに不安を覚え、顔を見上げると彼女ははらはらと涙を流していた。泣き顔さえも綺麗、なんてのは惚れているせいだろうか。

 でも、何よりも美しかったのは間違いない。



「……ずっとその言葉を待ってたのに、遅いわよ。」

「……すまん。」

「ふふ、ハーマンったらそればかりね。」



 それからルークに報告へ行った。

 お人好しもいいところ、アイツはオレ達よりも号泣して喜んでくれた。



「その、悪かったな。」

「何が?」

「……お前も、惚れてただろ。」

「ああ、そんなこと?」


 そんなこと、とオレが壊れたロボットのように反復するとルークは愉快そうに笑った。


「そんなのだいぶガキの頃の話だよ。両想いなの、とっくに知ってたっつーの。大切にしてやれよ。」

「おう。」

「にしても、やっと2人なー! ぐふふ、オレも幸せだわ!」

「もう、気持ち悪い笑い方しないでよっ!」



 幸せだったな。あの時は本当に。



 それから3年後、23歳の時にジパングの暴動は少しばかり落ち着きを見せてきたためオレ達は入籍して式をあげた。ルークが号泣し、孤児院の院長もボロ泣きで挨拶にならなかったのをよく覚えている。

 オレが27歳の頃、サクラは妊娠した。それとほぼ同時期だ。戦争が再度激化したのは。

 確か、終戦間際の1、2年だっただろうか。


 オレ達はジパングだけでなく各国にも派遣されることが多くなり、妊娠してから殆どサクラとも顔を合わせることができなくなっていた。


 確か当時派遣されていたのはエリア:マレーシアだったか。

 その焦りとストレスでオレは現場で危うく大怪我をしそうになった。ルークと当時の監査局長のお陰で大事には至らなかったが、こちらに派遣してきたばかりのヴィリにやけに心配されて情けなかった。



「えぇ、もう少しでおめでたなの?! 何でこんな所で戦ってるのさ!」

「いえ、任務なんで……。」

「そんなのいいよ! 家族の近くにいてあげなよ! ねぇ、ヴィリ、ルーク?」

「……はぁ。」

「そっすよね!」


「いや、でも……。」



 当時の同じ班だった奴らに不本意ながら大袈裟に説教を受けた上、監査局長直々に殴られながら指令を出されたオレはすごすご帰ることとなった。



「悪いな、ルーク。仕事を投げ出して。」

「いや、お前の仕事はサクラの近くにいることだろ! バカじゃねーの?! やっと上の人が指摘してくれたからオレも清々したわ!」

「だが任務……。」

「ここの戦況は落ち着いてきてあと数日で制圧できるって言ってたろ! 仲間に任せてお前は帰れ! 土産話をしてやる。」

「……戦争の土産話なんかいらん。子どもを見にきてくれ。」


「当たり前だろ。親友たちの子どもを抱くまで死ねないに決まってる。」




 それが、ルークと交わした最後の言葉だった。



 急いで病院へ行くと、ちょうど産気づいたところだったらしく、あの温厚なサクラに怒鳴られながら指示通り従ったり理不尽に怒られたりしつつも何とかシオリが生まれた。

 彼女はオレが帰ってくるまではずっと痛みに耐えていたそうだが、オレの姿を認めた途端騒ぎ出したらしい。病院の人に苦しそうだったんで良かったです、などと笑われた。


 オレはサクラに勧められて生まれて2日後、本部へ戻った。自分の班が帰ってきた、というのもあった。



「ハーマン、奥さんと子供は?」

「任務抜けてすみません。無事生まれました。」


 班員はワッと盛り上がった。

 でも、いない。いの一番に伝えたかった相手が。

 なぜ、どうして、と最悪の事態をオレは想像できなかった、いやしたくなかった。


「ハーマン、」


 後方の廊下から現れた監査局長の言葉に肩を震わせる。



「……ルークが亡くなった。紋付の相手と遭遇、敵もろとも海に落ちた。敵の安否も、ルークの安否も確認できなかった。すまない。」

「あ、んたの、謝る、ことじゃ……。」


 いつだって死がすぐそばにある事は覚悟していたはずだ。その上で、生き残る決意も。



「これ、ロッカーに入っていた。君の娘さんにあげたかったのだろう。受け取ってもらえると助かる。」



 それは1枚の栞。

 娘の名前をシオリにする、と言ったからだろうか。

 オレはそれを握りしめ、ぽろぽろと流涙した。涙を拭う気力さえもなかった。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



「それからはサクラと子どもに寄り添えるよう、戦後は総務課に異動してサイタマから通ってたんだよ。今は寮に泊まることもあるがな。」

「そう……なんですね。アレ? でも、リーンが勧誘に行ったんですよね?」


 隣に座るピンク頭を見つめると彼も遠くを見つめながら渋々といった様子でポツポツと話し出した。



「まぁ、ハーマンについてはエリートコース修了者だったし現場の経験も十分、かつ昔からの知り合いだ。ジパングの地理や事件についても詳しい。おまけに後輩の指導成績も十分って聞いたら誘いたくもなるだろ。それにヴィリやゴーシも一押しだったしな。

 ウチは若いのが多くなる予定だったしどうしても引き込みたかったんだよ。」


「フッ、オレは別に断らなかったんだがな? 律儀に奥さんにもご了承いただきたい! ってオレにわざわざ挨拶に来てよ。」



 なぜか気まずそうにしているリーンハルトと愉快そうに笑いながら断ったけどもと言うハーマンは対照的な表情をしていた。



「オレがたぶん少しばかり躊躇っていたのはリーンハルトにも、サクラにもお見通しだったんだろうな。サクラに殴られたよ。」

「え、殴……?」

「こんな真摯に頼んでくる相手にそんなぼんやりした返事をするな、ってよ。それにオレは現場の方がいきいきしているそうだ。」

「それは、確かに。」



 思いの外、すんなり納得した2人は不思議そうな顔をした。だが、ヒロタダの言葉を聞いてすぐに納得した。



「だって、ハーマンさんタバコの量減ったでしょう?」

「……そういえばそうだ。」



 自分でも気づいていなかったらしい。ヒロタダは案外ずぼらな彼の管理能力に噴き出した。









 ハーマンに連れて来られたのは特務隊専有の墓地だ。身寄りがなかったり特殊な能力を持っており亡骸の保管に難がある人たちの葬儀がここで行われる。


 そこには見覚えのある女性がいた。



「サクラさん。」

「待ってたわ。3人とも。」

「アレ、シオリとリツキは?」

「孤児院のお父さんに預けてきたわ。大事な話があるからってハーマンが呼ぶんだもの。」



 何となく察しているのだろう。彼女は悲しげな笑顔を浮かべた。

 ハーマンはリーンハルトに視線を送ると、リーンハルトは語ることを許した。



「……ルークが、生きているそうだ。『Dirty』の紋付として。」



 リーンハルトは予想していたのだろう、表情を変える事はなかった。ヒロタダは静かに目を見開いた。

 サクラは真っ直ぐとハーマンを見据えていたが、目にはみるみる涙が溜まり、話が終わることには顔を手で覆っていた。



「……ルークが、生きていたのね。」

「ああ。だが、何の理由か分からないが今は無意味に人を傷つける組織の人間だ。」

「うん……、うん、分かっているわ。でも、良かった……。」

「、そう、だな。」



 ハーマンの頼りになる背中が初めて小さく見えた。

 ヒロタダは見守ることしかできなかった。しかし、リーンハルトは臆することなく尋ねた。



「で、それだけのためにオレらをここに呼んだわけじゃねーだろ? それにヒロタダっつう証人まで連れてきたんだ。」

「もちろんだ。色々と、考えたんだ。」



 彼は真っ直ぐにリーンハルトを見据えた。

 リーンハルト班の、長と副長として向き合っている。




「もしルークと出会うことがあればオレは恐らく副班長としての責務を果たせないだろう。だが、お前はそれを許さない。班員をいたずらに危険に晒すことを嫌うからな。」

「分かってるじゃねえか。で?」


「その上で頼みたい。ルークのことはオレで決着をつけさせてください。」



 頭を下げる彼をリーンハルトは無情に見つめる。

 己の因縁や、ハーマンなりの友を想う気持ち、そして班の利益を鑑みているのだろう。



「……軽率な判断はできない。場合によってはお前が命令違反ということで罰する可能性だってある。そして、命を失うリスクもな。」


「……!」



 サクラが目を見開く。

 しかし、リーンハルトはハーマンの肩を掴み、淡々と告げた。



「その覚悟があるなら、オレに即断即決させる程の力を、班員が任せると言ってくれるほどの力をみせろ。そして、戦績を上げれば、誰も文句は言わない。オレも含めてな。

 まぁ、オレがその場にいたら、バカみたいに心配はするがとりあえず信じて任せる。頼んだぞ、副班長。」


「……ありがとうございます。」



 ハーマンはグッと下唇を噛むと再度頭を下げた。

 リーンハルトは気にするなよ、と言うが恐らく許可は出したくないのだろう。彼も、彼の家族もリーンハルトの守りたいものなのだ。



「ヒロタダくん、夫を、よろしくね。」

「……はい。まぁ僕が足を引っ張るばかりですけど。」



 ふと柔らかく笑う彼女の笑顔に、ハーマンの笑顔を見た気がした。

 きっとその友人のルークという人も同じように笑う人なのだろうと思うと、ヒロタダの胸にはつんとした痛みが走った。

【キャラクター紹介】


サクラ・フォースター

新人類 34歳

おっちょこちょいだが底抜けのポジティブ、天然。ミスしないのは仕事の時のみ。ハーマンとの間にはシオリ、リツキという娘息子がいる。



【こぼれ話:ハーマンの印象】


→リーンハルト 歳下なのにしっかりした上司と感心しており同時に信頼している。時々危なっかしいため心配している。

→ヒロタダ 昔から顔を知っているしっかり者の青年。もう少し遊べばいいのにと思う反面変わらずいてくれとも思う。

→エルナ 思春期の女の子だから扱いがよく分からない。しかし上手くいっているのでとりあえずそのままいこうと思っている。

→オリヴィア 遠慮なく雑談できる相手。ハメの外し方も理解できないわけではないのであまり気にしていない。

→シュウゴ 頭がよく聡いため話しやすい。案外面倒見がいいため若者の引率を任せがちになる。

→ルイホァ 真面目な子だと思っている。我が子のように可愛がっているが家族のことを思うと少しだけ不安。

→ケイ スポーツと特務隊の両立をしており心から応援している。時々ご飯に連れて行ったり食べ物をついあげたりしてしまう。


みんなのお父さんのようです。

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