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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
4章 兄と妹

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56.合同文化祭! -一瞬の邂逅-

 シュウゴはあてもなく、いや勘に任せて走っていた。

 向かった先は会場となっている大学でも殆ど使用されていないらしい立ち入り禁止の校舎だった。研究棟というものは大概施錠されているものであり、特にこういった文化祭などの外部の人間が出入りするイベントだと厳重に警備されていることが多い。


 それにも関わらず扉が開いている。まるで自分を招いているかのようだ。


 シュウゴは小さく研究棟の名前を読み上げると扉を開き、施設内に入る。

 施設内からはすでに職員は逃げているのか人の気配がしない。ふと異臭がした方を見ると薬品棚がこれでもかと言わんばかりに破壊されていた。

 一応遠目で薬品の種類をざっと見たが、大して有毒なものは無さそうだった。なぜ壊したのだろうと疑問を抱いたが、とあるものを見つけてすぐに納得した。


 屋上へ向かうと、予想通り、かつて相見えた男が悠々とその場に立っていた。



「待っていたよ。シュウゴくん。」



 以前のように竦むことはないシュウゴに男はおや、と不思議そうにする。しかし、表情を一切変えることのないシュウゴのリアクションが満足だったのか、彼は笑った。



「名を名乗っていなかったね。私はアドルフ……やれやれ気が早いことだ。」



 シュウゴはすでに作り出していた銃を構えアドルフに銃口を向けた。

 しかし、アドルフは戯けたように笑いながら手を挙げてみせる。



「何、私は君たちと争いに来たわけではない。何なら会うつもりもなかった。」

「ならどうしてここにいる?」

「……哀れな人間たちを見に来ただけさ。」


 完全に舐めているのか、ゆるりと視線を屋上から混沌とする大学構内へと落とした。


「今回は宗教の勧誘と称して様々な人間にある薬を打ち込んだ。」

「ある薬?」

「君も興味があるだろう。とある能力を混ぜ込んだ薬さ。今までの戦いで副属性的に能力を含んだ武器を見たことがあるだろう?」


 確かにリーンハルトが初めて紋付と戦ったときなど、能力を含んだ銃弾があったと聞いている。


「なら今回は洗脳系の能力を含んだ薬の治験とでも言いたいわけですか?」

「ご明察。しかし、自我を失うなど大した結果ではなかったが。……中には薬を使わずとも宗教の話に乗ってきた愚か者もいたそうだ。今回連れてきた駒のように、何かに陶酔しなければ生きていけないとは愚かなものだ。」



 ふと初老に差し掛かった男は微笑んだ。

 別の場所で出会っていれば決して疑うことはなかったであろう、柔和な笑みだ。



「改めて申し出よう。君はこちら側につかないか?」

「社会を敵に回して、メリットが理解できない。」

「何、今は理解されていないだけだ。いつかは人間共は気づく。正しいことをしているのが我らだと。」

「勝てば官軍負ければ賊軍ってところ?」

「そうだ。」


 ゆっくりと近づいてくるアドルフに身構える。



「私たちの下につけば好きな研究を好きなだけできる。進化もできるだろう。そしていずれはーー。」



 パァン、と発砲音が鳴り響く。

 咄嗟にアドルフは退いた。



「それでも、オレが1番大切なのはこの平凡な日常。つまり、答えはノーだよ。それにね。」



 シュウゴはアドルフの前に薬品が入っていたガラス片を放る。それを見たアドルフはふっと笑った。


「なぜ気づいた? 棟内は薬品臭が漂っていたはずだ。」

「この独特の臭い、既に地下鉄でのテロ事件で経験済みなんだよ。」


 それはシンジュクのテロ事件で使用された催眠剤。鼻から吸気することで取り込む、思考や発動性を奪う効果を持つものだ。

 シュウゴは自身の言葉が終わる前にアドルフへ発砲する。というのも彼がすでにこちらに向かって高速で接近してきていたからだ。

 見た目とは違い、速度はリーンハルト並み、目は追いつくが身体がどうしても遅れてしまう。


 しかし、アドルフは急に動きを止めた。


 空から垂直に青年が刀を突き立てて落下してきたからだ。

 刀はアドルフの指輪と指をかするにとどまる。しかしシュウゴは迷わずアドルフに向けて銃を撃ち、文字を床に書く。

 アドルフの足元からはワイヤーが飛び出すがアドルフの足に触れた途端それは粉々に砕け散った。回避するアドルフにはヴィリの高速の剣劇が襲いかかるが、アドルフが触れた刀はあっさりと折れた。



「【重力波!】」

「!」

「ヴィリ、避けて!」


 床に叩きつけられる前にシュウゴが見事に撃ち抜くと液体が床に散布され溶けて何やら煙が出る。


「……ここでは準備が足りないか。」

「また逃げるのか!」



 ヴィリが思い切り折れた刀をアドルフに向けて投擲する。しかし、その剣は妙な音を立てて柄になった状態で放られた。



「お前と遊ぶのは楽しそうだが、時間が足りん。また今度だ。」

「必ず殺してやる! 人の家族を奪う研究なんかしてる奴にシュウゴも、セイも奪わせない!」

「……愚かな、いずれも自ら私の手に落ちるというのに。」



 シュウゴくん、と静かにドス黒い何かを含む声が名を呼ぶ。シュウゴは決して目を逸らさないが無感情であった。



「また会おう。その時は君が私に堕ちるか、私が君に殺される時だ。」



 シュウゴは返事をしなかった。

 ヴィリが能力を使おうとしたときにはその場にアドルフの姿は見えなくなっていた。











「シュウゴ、無事だったか!」

「ああ、リーンハルトさん。そちらも無事そうで。またあの七賢人に会いましたよ。」

「ほぉ〜、そうか。ってまた?! お前何でそんな落ち着いてんの?!」

「2回目ですし。」

「そういう問題じゃねぇだろ! 本当に怪我ないか?!」


 リーンハルトに身体をペタペタ触られているが、心配性の上司のことは理解しているため好きなようにさせている。



「ルイホァ、ケイお手柄だったな。」

「うん! 初めて訓練でやってた私が炎操るやつできたんだよ!」

「アレは凄かったな!」


 興奮しながら話す2人の言葉をヒロタダがうんうんと丁寧に聞いている。

 ふと、駆けつけた特務隊員に何やら指示を飛ばすヴィリの方を見ると彼は疲れ切った表情をしていた。


「ヴィリさんは仕事落ち着きましたか。」

「ああ、はい。報告書は後日でいいそうです。僕が書いてお、」


 言いかけたところでリーンハルトからパシッとデコピンが額に入った。

 あれだけ戦って無傷のヴィリの額に赤い痣ができる。彼は何が起きたか分からなかったらしく目を丸くしてリーンハルトを見つめた。



「報告書はオレがやっておくからお前はあっちと合流してきな。」

「へ、」


 シュウゴが手招きしてくるため、そちらへ素直に駆け寄ると彼に手を引かれる。ついていくと離れた場所に一般生徒が、つまりシュウゴの妹であるシュカや友人のミホやチュウジロウが待っていた。

 3人は2人の姿を認めると、顔を上げて駆け寄ってきた。


「良かった! 2人とも無事で!」


 チュウジロウの大声にヴィリはあからさまにびくりと驚いた顔をする。シュウゴの方にはシュカが飛びついていた。


「良かったお兄ちゃん……。」

「シュカに怒られるから気をつけたよ。」

「うん……。」


 抱きつく妹を撫でながら、涙目で見つめるミホに笑顔を見せる。彼女は心配そうにしていた顔から明らかに顔を真っ赤にして照れた顔を見せた。


「ミホもありがとう。オレを行かせてくれて。」

「ううん、びっくりしたけど。シュウゴくんなら大丈夫って信じてたよ。」


 シュウゴはその言葉を聞いて嬉しそうに笑う。ヴィリも何となくその光景を見て肩の力が抜けた。



「そういえば先程ミホくんとシュカくんと話していたんだが、君たちの怪我が無ければシュウゴくんの家で打ち上げをしようと話していたんだがどうだ?」

「どうだって選択肢ないんでしょ。」

「まぁな!」


 腕を組みながら誇らしげに言うチュウジロウにシュウゴはやれやれと首を横に振る。彼の胸に顔を埋めていたシュカがヴィリの方に顔を向けた。


「ということでヴィリさんも強制参加です。怪我ありませんよね?」

「僕も?」

「勿論です。だって今日会って、私たち友だちでしょう?」



 きょとんとしたヴィリに嫌だった?! とミホが焦り出すが、他の3人は何となく分かっていた。



「いえ、僕も行きます。」

「そう? 良かったぁ、あ、御免なさい、敬語!」

「そういうの、大丈夫です。僕、シュウゴの1つ下なんで気にしないでください。」

「えっ、歳下なの?! 落ち着いてるから見えなかったわ……。」

「そうだな。」



 3人に囲まれてあわあわしているヴィリを尻目に遠くで見守っていたリーンハルト達の方にシュウゴが駆け寄る。


「すみません、本部に寄らず帰っても問題ないですか?」

「大丈夫だ。ヴィリを休ませないとオレがヤンに怒られる。」


 シュウゴは一礼すると、4人の元に戻って行った。



「文化祭は中止になったけど楽しめそうで良かったな〜。」

「七賢人にまた会ったっていうのは予想外だったけどな。」

「それは、そうだな。」


 リーンハルトは重々しくため息をついた。

 そんな彼の裾をねぇねぇとエルナが引く。振り向くとどこかぎこちない様子で話すケイとルイホァの姿が目に入った。



「何だ、あの空気。」

「でしょでしょ? 特にケイが変よね。2人きりになった途端あれよ。」

「……何かあったのかな。」



 3人とも首を捻っていたが、今のところ疑問は解決しそうにないらしい。リーンハルトが早々に諦めたことでこの場での解決は果たされることはなかった。

【こぼれ話:ケイの印象】


→リーンハルト 全幅の信頼を寄せる師であり上司である。時々自分を蔑ろにする点は心底嫌。頼りにしてるし頼りにしてほしい。

→ヒロタダ 制度のことなどすぐに教えてくれる頼りになるお兄さん。勉強も教えてくれるため頼りにしている。

→エルナ 歳の近い仲間。流行りのことや恋愛話、学校のことなど色々気軽に話せる人。

→ハーマン かっこいいお父さん。体捌きなど武術の基礎を丁寧に教えてくれる姿勢など見習いたいなぁと思う。

→オリヴィア 距離が近いためドギマギする、できれば離れてほしい。戦いの時はかっこいいため大人の女性ってよく分からないなぁと思っている。

→シュウゴ 頭がいいと聞いていたので身構えていたが年相応に可愛がってくれるので懐いている、話していてとても新鮮。

→ルイホァ 親友、訓練では負け越しているがいつか勝ち越すと意気込んでいるライバル。時々女の子ということを意識してしまい焦る。


とても思春期の男の子。



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