53.合同文化祭! -生徒を守れ-
エルナが出演する声劇は盛況だった。
ファンが溢れるわアンコールが起きるわで結局合流はすぐできなそうだった。
「オレらはエルナと合流してから行くからお前らは好きなとこまわってこいよ。」
リーンハルトの一声により、彼とヒロタダはエルナを待つことに、ケイはチームに戻り、3人はシュウゴの妹であるシュリが手伝うカフェに行くことになった。
2人を連れて行くとメニューを興味津々で見ていた。会場である大学の食堂と協同のため普通の文化祭よりメニューが豊富らしい。
「私カレーにする〜!」
「僕うどんにしよ。どう注文するの?」
「こっちの受付。」
目を離すとすぐに迷子になりかける2人を引き連れて列に並ぶと受付には見慣れた顔がいた。
一瞬嬉しそうに目を輝かせたが、スッとお仕事モードの無表情に戻った。
「いらっしゃい、お兄ちゃん、ヴィリさん。えっと……。」
「ルイホァだよ!」
「ルイホァさん。……セイさんは?」
僅かにヴィリが目を見開いたが、冷静に返答した。
「……異動があってね。暫く忙しいみたい。」
「ふーん……。」
恐らく察しのいい妹は薄々気づいているのだろう。それもあって今回文化祭に来るように願いでたのであろうのことも予想できていた。
「お兄ちゃん、帰りは一緒に帰れる?」
「うん、待ってるよ。」
「分かった。約束通り声劇の人のグッズも買ってくれたんだよね。」
「うん。」
正しく言えばエルナにお願いした、ということであるが。それ程にあの人混みに彼は入りたくなかったのだ。
「ヴィリさんもまた遊びにきてくださいね。最近見てなかったから心配してました。」
「……うん、ありがとう。」
引換券を貰い、3人は食事と引き換えに行く。
ちょうど空いていた席に座ると、側の席から「あっ」と声が聞こえた。ルイホァが振り向くとガタイのいいメガネの生真面目そうな男性とセミロングのほんわかした空気を醸し出す女性がいた。
「シュウゴくん、来てたんだね。」
「バイトの方は落ち着いているんだな! せっかくなら君も運営側で来れば良かったのに!」
「オレが行くと思ってるの?」
「思ってないよ!」「思ってない!」
いい笑顔で2人は笑う。
「えと、そちらのお2人は……?」
「……バイトの人。」
「ヴィリです。」
「ルイホァです!」
「オレはチュウジロウ・イトウ、彼女はミホ・カスカベだ。」
「よろしくね。」
頬を赤く染めた彼女は遠慮しがちにも2人に礼儀正しく挨拶した。
「先生も来てるの?」
「午前中にいらっしゃったけどもう帰られたよ。シュウゴくんは来る?」
「うん、行く。」
花が咲いたような笑顔を彼女は浮かべた。
もう分かりやすいのなんの。
ルイホァとヴィリは小声で惚れてる、惚れてる、と呟いていた。生真面目そうなチュウジロウもその2人の言葉にうんうんと腕組みをしながら頷いていた。
「私はご飯食べたら早めにケイのところ行ってくるね! いいとこで見たいし! アップの様子も気になるし。」
「バスケだっけ、彼。」
「そう! 絶対ヴィリさんもハマるよ!」
「ふぅん。」
ヴィリがうどんをすすりながらパンフレットをまじまじと見ていると、ミホと呼ばれた女性が手で自分を仰ぎながら覗き込んできた。
「ヴィリ……さん? はシュウゴくんと一緒に来ます? ウチは子ども向けですけど科学実験の教室をやってるんですよ。」
「科学実験ですか?」
「ああ、もし幼い頃にそういったものに参加したことがないなら興味深いと思うぞ!」
「……お邪魔していいですか?」
「「もちろん!」」
友人2人と交流するヴィリをシュウゴは見守っていた。
食事を終え、ルイホァと別れた後、すぐ近隣の教室に移動すると盛況なようでとてもでないがヴィリは参加できそうになかった。というのも本当に子どもだらけなのだ。
「凄いね。」
「この2人オレと違って説明上手いからね。」
「まぁ君の頭脳には及ばないがな!」
「そうだよ! ヴィリさん、本当に凄いんですよ? 最近他学部の私の勉強範囲も知ってる時があってびっくりしちゃいます。」
聞けば彼女は法学部らしい。恐らく特務隊でヒロタダと話すことが増え、そこから知識を吸収しているのだろう。
そういえば、と彼女が手を叩いた。
「シュウゴくんとヴィリさんは知ってるかな? 今回の文化祭、妙に宗教勧誘が多いんです。」
「宗教勧誘? 毎年ちょこちょこいるよね?」
ヴィリからすれば、最近その話題は耳に入ったばかりだ。確か悪徳宗教にはまった青年が能力を使ってスリを重ねる、ヒロタダが解決したばかりの事件だ。
職業柄気になってしまうヴィリに代わってシュウゴが尋ねた。
「何か危害を加えてくることが?」
「そういうわけじゃないんだけど、今年の勧誘はとてもしつこいらしくてね。」
「……。」
「そうなんだ、ミホも気をつけてね。」
「やや、私みたいな地味子になんか話しかけないよ!」
あわあわと手を横に振る。
シュウゴは何言ってんだ、という顔をしていたが圧倒的にこの2人は言葉が足りないように思った。
鈍くはないヴィリが呆れて見ていた時だった。
教室中の電気が一斉に消えた。
小さく悲鳴が上がったが、幸い昼間だったため大してパニックにはならなかった。
しかし、ヴィリは手元にあった木刀を持つとすぐさま廊下の窓に向かい、それを開けると外を見上げそのまま投擲したのだ。
シュウゴとミホも驚きつつも廊下に出た。
「ど、どうしたのヴィリさん?!」
「シュウゴ!」
「!」
シュウゴは咄嗟にミホを抱えて教室側に飛び退いた。ヴィリは木刀で窓を破り、そちらに身を出した。
何やら龍の尾のようなものが、廊下を鋭く抉ったのだ。その場にいたら一溜りもなかっただろう。
ミホは顔を赤くしたが、すぐに真っ青になった。
「ヴィリ、」
「キメラだね。」
彼は通信機に小さく呟く。
シュウゴもすぐに能力解放がされたことに気付く。ヴィリは仕込んでいた機械を操作すると空間から長刀を取り出した。
「シュウゴ、各所の避難誘導と元凶の調査。」
『ヴィリ、何があった?』
通信機からリーンハルトの声がした。
「キメラ出現、特務隊関連者はすぐさま一般人の誘導および元凶の殲滅にあたれ。能力解放は監査局長により許可する。」
突如仕事モードになった彼は瞬時にアイパッチを装着すると、窓の外へ飛び出した。
「だと、さっさとやるぞ。」
「ヴィリさんの方はいいのか?!」
「アイツはよっぽどオレより効率的に動く。心配ない、あの歳で監査局長についてるんだしな。」
そうか、今日の様子があまりにも年相応でそのことをヒロタダはすっかり失念していた。
「それより、こっちはどうするのよ?!」
「……敵、じゃねぇから面倒だな。」
そう、リーンハルト達3人を襲っているのは唯の生徒だ。
しかし、目には生気が感じられずどうやら洗脳されているらしいことがうかがえる。その証拠にヒロタダの【無効化】により無力化が可能なのだ。
「ただの洗脳だったらあたしの【共感】でどうにかなるはず、でもヒロタダの能力でしかどうにもならないってことは、誰かの能力による洗脳よね?!」
「ああ! しかし一般人が標的になってっからオレはどうしようもねーぞ!」
さすがに本気を出せないらしいリーンハルトは危害を加えてこようとする人たちを捉えては投げ捉えては投げを繰り返している。
「なら、今回は僕がやる。」
「頼んだ!」
ヒロタダは手を広げる。
ヨコハマでのことがあってから修行を重ねたのだ。
「【無効化】!」
リーンハルトやエルナ、一般人に襲い掛かっていた人たちの身体がぐらりと傾く。
あの時は叶わなかった【無効化】を持続的かつ広範囲に出す技だ。【針】を使うパウルのアドバイスにより最近完成した技だった。
「上出来!」
「リーンハルト!」
エルナの声に咄嗟に反応し、飛びかかってきた男に肘鉄を喰らわせた。
どうやら洗脳されている一般学生に混ざって『Dirty』の人間も混ざっているらしい。
「うぅ……ここは、」
「よし、意識あるな! 一般の方、動けなさそうな方がいたら一緒に避難をしてください!」
「お願いします!」
ヒロタダは辺りに能力を発揮し、洗脳の解除を。
残りの2人が必死に避難誘導をする。
今回はどうやら戦闘の中心に行くことは難しそうだ。
「頼んだぞ、シュウゴ、ルイホァ、ケイ、ヴィリ……!」
余計な考えを振り払い、リーンハルトは目の前のパニックを収めることに注意を戻した。
【キャラクター紹介】
ミホ・カスカベ (53話より)
旧人類 21歳
シュウゴと同い年、法学部4年。セミロングワンカール入れた茶髪。シュウゴとは1年の時にクラスが同じだった。引っ込み思案であるが真っ直ぐな性格。
チュウジロウ・イトウ
旧人類 22歳
緩やかな七三分けに眼鏡。理学部4年。シュウゴの友人。お節介で不器用なほどに猪突猛進型。頭脳明晰であり決まりにも厳しいが案外柔軟に対応してくれる。




