52.合同文化祭! -招待-
「ヒロタダ、お疲れ!」
「うん、ありがとうな。」
「今回お手柄だったらしいな!」
ヒロタダが任務から帰るとスーツを着たリーンハルトとヴィリが迎えてくれた。どうやら2人はエリートコースの方の講師を務めていたらしい。
一方でヒロタダの方はというとヤンに引っ張り出されて合同任務を行なっていた。巷で話題になっていた新人類の能力を使ったスリ行為の取り締まりだった。
ヒロタダの【無効化】を使ったところ失敗した犯人が慌て出しあえなく御用となった。
「今回の犯人の動機は、宗教に入れ込みすぎて破産したんだって。」
「胡散臭いやつに騙されたんだなぁ。」
リーンハルトは呆れたように呟いた。
「んも〜、これじゃアタシ要らなかったわよ!」
「それなら僕の代わりに講師で出てほしかった。」
「んまっ、呼ばれるのは光栄なことなのよ!」
目にハイライトがスッと消えた彼の頭をヤンがぽんぽんとしつこく撫でるが彼はされるがままだ。
「ヴィリさんとヤンさんは仲がいいですね。」
「仲がいいっていうか一応元教え子だしねぇ。」
「そう、セイと、ね。」
涼しげな顔で彼は述べるがどこか落ち込んだ様子だった。シュウゴの言う通り、セイの裏切りの尾を引いているのは他の誰でもなくヴィリらしい。
「そういえばアンタ。全然休んでないんでしょ? 時々は休み取りなさいよ。シノブさんも困ってたわよ。」
「休みはとってますよ。……休みの日にやることなくてそれなら仕事してる方がって。」
確かによく見ると彼の目元には20歳とは思えないクマが深く刻まれている。リーンハルトは恐らく気づいていたのであろうが声をかけられなかったらしい。
やはりそういう点ではまだまだ不器用なようだ。
「あっ、ヒロタダ! リーンハルト、それにヴィリさん、ヤンも!」
4人が声のした方を振り向くと、ルイホァとシュウゴが何やらチラシを持ってやってきた。シュウゴはずっと引っ張られていたらしく、慣れないペースで移動していたため些か疲れているようだった。
「どうしたのよ、ルイホァ。」
「ふふーん、実はこれに誘おうと思って! よければヤンとヴィリさんも一緒に行こうよ!」
「「「合同文化祭?」」」
チラシを見た3人は声を揃えた。
唯一その存在を知っていたヒロタダは懐かしさを覚えつつも3人に説明する。
「合同文化祭っていうのは、トーキョー近郊の大学が持ち回りで主催する文化祭で、サークルや高校が有志で参加する大きなイベントなんだよ。」
「そうそう! それにエルナが声劇に、ケイがエキシビジョンマッチに出るんだって! あとシュウゴの妹さんも喫茶店のお手伝いに出てるんだって。だから行かないかなーって。」
「シュウゴは友だちと行かないのか?」
ヒロタダが尋ねるとシュウゴは淡々と答えた。
「友人や研究室の同期は手伝いに参加したり恋人と行くそうです。有志の方はあのヨコハマ街での任務で入院してた時に参加予定集めていたそうです。」
「ちなみに予定確認できたら参加するつもりだったの?」
「しない。準備が面倒だし人混みもそんなに好きじゃない。」
「なのに見には行くの?」
純粋に疑問だったらしいヴィリとヤンは首を傾げた。先日のオキナワでの件を聞いていたヒロタダとリーンハルトは薄々気づいていた。
「……妹に冷戦決められていたんですが、文化祭に遊びに来たら許すと言われまして。」
「はぁ。」
「ぷっ、なぁにアンタ。随分可愛い感じなのね。」
意味がわからず呆けるヴィリと微笑ましいエピソードに肩を震わせるヤンに、居心地悪そうに彼は顔を逸らした。
「それで1人で行くの気まずくてケイ誘ったらエキシビジョンあるからって断られて私と行くってなったの!」
「……揶揄われるなら最初からヴィリ誘えばよかったって後悔してる。」
逃さないように彼の腕を取りながら生き生きと語るルイホァと遠い目をしたシュウゴを見比べてヤンはケラケラとおかしそうに腹を抱えて笑っている。
「それにリーンハルトも行ったことないでしょ? ヒロタダは遠慮されそうだけどリーンハルトと一緒だったら来てくれるかなって。ハーマンとオリヴィアは用があって来れないって言うし。」
「あー、なるほどな。」
オリヴィアは元からであるが、確かに最近はハーマンはどこか落ち着かないというか忙しなくしている印象がある。
「オレは特に任務なければ行くぜ!」
「なら、僕も行くよ。」
リーンハルトとヒロタダが了承するとルイホァは嬉しそうに頷いた。しかしヴィリは気難しそうに悩んでいた。
「ごめん、僕は……。」
「いいじゃない、行ってきなさいよ。社会見学だと思って。」
「へ?」
「別にアンタ仕事溜め込むタイプじゃないし有給使えるでしょ。休める時に休まないと。当日の業務はアタシが代わるし。」
「う、でも僕、家でロクに眠れないから寝坊するかもしれないですし。」
あまりにもヤンに言われるものだからいよいよ吐くしかなかったのだろう。肩を竦めながら呟く。
彼の業務は大概変則的なため多少のルーズさは問題ないらしい。
「ならオレの家泊まる? 前日はシュカも友だちの家泊まるっていってたし。」
「……いいの?」
「うん。ただオレ料理とかはキッチンに立つなって言われてるくらいからっきしだから手作り料理とかは期待しないでもらえると助かる。」
平然と言っているがキッチンに立つなと言われるレベルということはかなり悲惨な腕前なのだろう。リーンハルトも大概であったが彼は努力すればどうにかなるレベルだった。
リーンハルトとルイホァも彼の思わぬ弱点に自身の耳を疑ったらしく顔を見合わせている。
「別に大丈夫だよ。その、初めて友だちの家泊まるから嬉しい……わぷ!」
「持ち合わせてないはずの母性が……。」
「可愛いでしょこの子。」
ヤンとリーンハルトに可愛がられるヴィリはキョトンと戸惑っている。
「じゃあまた連絡します。リーンハルトさん達は当日会場で待ち合わせで。」
「オッケー。頼むな。」
大学に行くらしいシュウゴは軽く会釈するとその場から駆けて行った。
当日、幸い事件は起こらず、リーンハルトとヒロタダは無事文化祭に行くことができた。
集合場所にはショーパンとシンプルなTシャツとやや大きめのジャージを羽織るルイホァが何やら知らない男性に絡まれていた。
「……ナンパじゃん。」
「ナンパだ。」
ハッとした2人がルイホァの元へ向かおうとしたがそれより先に現れたのは見覚えのある長身だった。見守っていたところ、彼が何かを見せて顎でしゃくると男達はすごすごと去って行った。
「ケイじゃん。」
「うわ、びっくりした!」
背後を見るといつの間にかシュウゴとヴィリが来ていた。ヒロタダの驚いた声で2人も気づいたらしく、こちらへ寄ってきた。
「何すか、面白がってみてたなら助けてくださいよ。」
「いやちょうど来たところだったんだよ。お前エキシビジョンマッチは?」
「午後からなんで午前はエルナさんのステージの方行こうかなって。」
「ふーん……リーンハルト隊は本当に仲良いね。」
ヴィリは少し驚いたような、感心したような声で呟く。
「こんなもんじゃないんすか?」
「いや、もう少しビジネスライクというか、上下関係がもう少しあるっていうか……。まぁ、リーンハルトさんの人柄なのかな。」
「褒め言葉?」
「うん。」
嬉しそうに口元をゆるませる。こういう時は大概分かりやすい男だ。
「でもヴィリさんも来たんすね。なんか本部だと話しにくかったからちょっと嬉しいかも。」
「そう?」
「はい。ヴィリさんって歳近いのに公私しっかりしててピリピリしてるから。まぁだからこそ部下に慕われるのかもしれませんけど。」
ケイが照れ臭そうに笑うとヴィリも少し照れたのかシュウゴの裾をキュッと握りしめた。彼は気づいているのか気づいていないのかパンフレットをじっと見つめて口を開いた。
「エルナのステージ行ってその後、大学の友人の方に行ってもいいですか?」
「おお、エルナのステージ以降は自由行動でもう1回合流してからケイの試合観に行く感じでいいだろ。」
「そうだな。」
「解散したらヴィリはオレと一緒に行こう。」
「うん。」
彼はコクリと素直に頷いた。
エルナはふぅ、と息を吐く。
オーディションで受かったサブキャラではあるが貴重な仕事、その延長として声劇を大学から依頼された。
実際に人前でアテレコするのは初めてであるため緊張する。
「あ、いたいた。エルナ!」
「ひっ、リーンハルト?! なんでここにアンタがいるのよ?!」
「ひっ、て失礼だな。」
「もしかしてルイホァ内緒にしてたのか?」
傍らからヒロタダも現れたため、状況がわかった。しかし、ルイホァがそういった気を利かせてくるとは思わなかった。
大方、オキナワなどで好きに着せ替え人形にしたことに対する抵抗であろう、エルナは後で機嫌を取ろうと反省した。
「もういいわよ。オリヴィアとかハーマンも来てるわけ?」
「その2人は来てないよ。ヴィリは来てる。」
「ヴィリが?! わ……なんか変に緊張してきた。」
「なんで?」
ヒロタダが尋ねると彼女は珍しく緊張した様子で呟いた。
「アレよ。仕事の人にスッピンでゴミ捨てしてるところ見られた感じ。」
「意味わからん。」
「あ〜、僕は少しわかるかも。」
リーンハルトには持ち合わせていない感覚らしく不思議そうにしていた。
要は私生活で気の緩んでいるところを見られるのが照れくさいということだ。
「というか誘った本人達は?」
「なんか物珍しくてあちこち寄り道してるよ。」
「ルイホァとケイ?」
「いや、ルイホァとヴィリ。」
「えぇ……? 何かあまり想像できないんだけど。」
するとちょうど話題の渦中にいた人物達が、食べ物やら戦利品を持って戻ってきた。
「いや、何でアンタ木刀持ってるのよ。」
「ああ、エルナ。凄いね文化祭、くじ引きで木刀貰えるとは思わなかった。」
「体捌きが本格的すぎるわよ。」
「僕、1番扱うの得意なの刀だし。能力の相性は悪いけど。」
「ふぅん?」
緊張するとか言っていた割に、普通に話しているため正直なところ拍子抜けであった。
「ルイホァは何当てたんだ?」
「お菓子セット!」
「へぇ、アンタはまともなの当てたんだ。あ、あたしそろそろ本番だから。また後でね。」
「はーい。」
「がんばってね。」
ヴィリにそう言われたのが意外だったのか、エルナは目を丸くしたが頷くと手をヒラヒラとしながら去って行った。
「あまり話したことなかったけどいい子だね。」
「だろ? オレの人選すげーだろ。」
「はいはい。」
嬉しそうに笑うリーンハルトを適当に流しつつも楽しそうに笑っていた。
「良かったな、元気出たみたいで。」
「はい、楽しんでるようで良かったです。」
ヒロタダの言葉にシュウゴは素直に頷いた。
【こぼれ話】
ヴィリはエリートコース時代から長刀を得意としています。気に入っている理由の1つは峰打ちができることです。




