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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
4章 兄と妹

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50.研究所の少年

「そういえばシュウゴ、君はなかなかに賢い人間と聞いているが。」

「……自己申告すると思いますか?」

「しないな! ハハッ!」


 イチヨウは愉快そうに笑った。

 手慣れた様子で画面を切り替えると何やらバカにならないほどの文面をモニターいっぱいに映し出した。それを見たオリヴィアからは今まで貼り付けていた笑顔がボロリと崩れたのが見て取れた。


「イチヨウさん? 何のつもりですか?」

「何、謎を解くための協力を依頼してるだけだ。オレ達でも解けなかった謎、視点が違うところからであれば解けるかもしれないだろう。」

「これは一体?」


 リーンハルトが尋ねると彼は飄々と答える。



「お前もよく知る、シモンの遺した研究内容と日記の一部だよ。」

「シモンの?」



 リーンハルトは席を立ったが、ハッとしたように周りを見つめる。オリヴィアとふと目が合うと、彼女は険しい表情ながらもゆっくりと頷いた。



「悪いな、置いてきぼりで。シモンは戦争の時のオレと同じ班だった男で、オリヴィアの元婚約者だ。」

「……故人よ。」


 ヒロタダは目を丸くし、ヴィリも面識があったのか僅かに眉をひそめるばかりだ。しかしシュウゴはジッとその遺構を見つめていたが首を横に振った。

 皆はシュウゴが文面の意味を理解できなかったのかと思ったのだが、彼は驚くべきことを言ったのだ。


「シモンさんは結構お茶目な方なんですか?」

「……は?」


 その言葉に呆けていたのはイチヨウだった。初めて虚を突かれたような反応だった。

 弾かれたようにシュウゴに迫るのはオリヴィアだった。



「読めたの?」

「読め……でも、オレの口からは言いにくいです。暗号で『他言無用』って書いてあるんですよ。」



 他の者もマジマジとそれを見つめるがシュウゴがどこからそんな文章を見つけたのか全く見当がつかなかった。どのように読んでも日常の些細なことや研究内容の簡単な進捗状況、それに対する期待しか書かれてないように見えたのだ。

 イチヨウはシュウゴの様子を見て、ふむと考えた様子を見せた。


「ヴィリ、シュウゴにIDを与えてもいいか?」

「研究者にするってこと?」

「いや、特殊なIDを設定してシモンの日記の閲覧だけ許可しようと考えている。漏洩を防ぐためお前の部屋のパソコンのみで、だ。仲良しだろ?」

「仲良し……。」


 少し照れ臭そうにしながらも、完全に私情を交えた意見にヴィリは悩む。仲良しだからという理由で自身の機密情報盛り沢山の部屋に入れてもいいものなのだろうか、と。

 規律に厳しいゴーシには怒られそうだ。

 悶々と考えているとイチヨウはいいことを思いついたと言わんばかりに手を叩いた。


「なら直接シノブと掛け合おう!」

「えぇ……。」

「というか、ヴィリってシュウゴに監査局の任務にやらせてただろ。局員権限で普通に入れないのか?」


「いいのか?」

「何がですか?」

「自分の預かり知らぬ場所で何かが決められてること。」

「別に。」


 シュウゴにヒロタダが尋ねたが本人はどこふかぬ風、興味もないようだ。時々彼の図太さに舌を巻かれる。

 リーンハルトの一言はどうやら彼らにとっては目から鱗だったらしく、それで解決するらしい。イチヨウは生き生きとIDの取得手続きに入っていた。



「あの、シュウゴくん。」

「はい。」


 オリヴィアが気まずそうにシュウゴに問いかけた。



「その、もし、内容が分かったら、教えてほしいのよ。」

「……、でもこの文章には、」


 シュウゴはオリヴィアと目が合うと口を閉ざしてしまった。そして、視線を逸らすと考えさせてください、と小さく呟いた。


「別件で聞きたいんですけど、オレを襲った七賢人の人。オレのことを新しい身体に、とか言ってたんですけどその人のことや研究については特務隊は把握してるんですか。」

「あの男はアドルフ・モリス。元特務隊研究員よ。私も一緒に働いていて、シモンの上司だったわ。……自分の有能さを自覚していて自信家、研究に誤りはないと確信していたし裏付ける力も持っていた。故に永遠の命を欲していたわ。」


 シュウゴは目を見開いた。イチヨウも知っている人間なのか淡々と述べていく。



「特務隊施設で得た研究成果を『Dirty』をはじめとする新人類優位主義を掲げる者共に資金やデータの横流しを行っていた。

 キメラの発明者であり、ヴィリをはじめとしたさらに強い新人類の開発、己の不老不死について研究をしていた。そして、オレのことを半人造人間に、完全なる人造人間である我が弟の製作者だ。」


「……信じられない。」



 あまりにも多くの研究に寄与している存在があることか、はたまたその人物が敵側にいることか、はっきりとは言えないが、ヒロタダは感嘆を漏らす。

 そしてヴィリだけでなく、平然と笑っている目の前の男までもが研究成果などと言ってしまうものだから何とも言えない気持ちになる。



「何だ、同情か? それなら飽きている。オレはオレ自身の身体を使って研究ができるんだ。これ程に便利なことはないからな、あの男には感謝している。」

「それは、弟さんに対してもっすか?」


 ケイが尋ねるとイチヨウは不気味に微笑んだ。



「血縁ではあるが、そんな情はとうの昔に捨てたよ。」



 ケイは顔を真っ赤にしたが、引き留めたのは意外にもヒロタダだった。

 リーンハルト達は静かにその場を見守るのみ。


「……書類上はそうだとしても、貴方がそう思い込んでいても、弟という関係を名付けたら、もう戻れませんよ。兄弟は、そういうものです。」


 たくさんの事件を、裁判を見てきてヒロタダは知っていた。一度誤ってでも家族と名付けてしまった関係は容易に切り捨てることができないということ。

 イチヨウは僅かに顔を顰めたがすぐに平然としてみせた。


「それは研究者と法の番人との、考え方の違いだ。」

「……そうかもしれませんね。」


 2人が睨み合っていると空気を読んでか読まずかリーンハルトの通信機が鳴った。















 遡ること数十分前、ルイホァとハーマンは少年に連れられて彼の私室に来ていた。



「オレ達をここに連れてきて何をしたいんだ?」

「まぁまぁ。僕だってずーっとこの研究室に閉じ込められてて暇なんだよ。」


 ケラケラと愉快に笑うその姿は誰かに似ているような。ふと、ルイホァはそれに思い当たった。


「……もしかして、君はイチヨウの息子?」

「……ハズレ。弟だよ。僕はニヨウ。」


 弟? それにしては若すぎる。

 ふふ、とルイホァとハーマンの考えを読み取ったのかニヨウは微笑みを崩さない。


「まぁ、僕は完全な人造人間。ただ元イチヨウの弟であり厳密には兄弟でない関係だから。」

「……つまりは?」

「どっちにしろ家族ってことなんじゃないか?」


 ハーマンの言葉に虚を突かれたように一瞬だけ固まったが、2人はそれに一切気づかなかった。

 ごそごそと机を漁り、書類を1枚だけ差し出した。それはルイホァではなくハーマンへのものだった。


「……これは?」

「見てみた方が早いよ。」


 ルイホァは書類を確認するハーマンをじっと見つめていた。

 書類を流し読みしていた彼の目は、信じられないものを目にしているかのように驚きを映し出した。僅かに逸らしたものの、再度読み直しているようで内容を受け入れたようだ。


 冷静沈着な彼からはあまり想像のできない反応で、ルイホァもその書類に興味が唆られた。



「……お前、これ本当なのか?」

「本当だよ。いつか君らは巡り合う。ま、誰が巡り合うかは分からないけど。丁寧に写真だって貼ってあるでしょ?」

「……そうだな。」

「おっと、ここは禁煙だよ?」


 無意識だったのか、胸ポケットの煙草に手が掛かったことに気付かなかったらしいハーマンはニヨウの言葉に従って手を下ろした。


「悪い。」

「別に構わないよ! そうだ、ルイホァ。」


 呼ばれて振り向くと少年の無邪気な瞳が目の前にあった。



「君は永遠の命に興味はないの?」



 ルイホァの背筋を寒気が走る。

 ヨコハマ賭博街でも、敵方が同じ事を尋ねてきた光景がフラッシュバックする。


「興味ないよ。」

「永遠の肉体を手に入れれば、新人類の先に行くことなど容易で君の家族もすぐに認めてくれるのに?」



 グラリと決意が揺らぐ。

 ふと、ルイホァの頭の中を家族の言葉が横切る。



『お前は選ばれた人間だ。責務を全うするため新人類の誰よりも優れ、上に行け。』

父上(バーバ)の期待にも応えられないのか愚図め。才能がないならば特務隊など辞めろ。』


「それでも。」



 そんな歪んだ考えなど振り切ってしまえ。

 ルイホァは首を横に振り、絞り出すようにニヨウに向けて言葉を放つ。ニヨウはにこにことその行く末を楽しそうに見守るばかりだ。


「私は、永遠の命なんて要らない。今できる事をしっかりやる。その未来が、どうなっていようとも。」

「……そっかぁ。つまんないの。」

「つまんない?」


 ルイホァが険しい顔をした。

 その怒気を孕んだ返答にハーマンはやっと意識がこちらを向いたのか、小さくオイ、と声をかけた。しかし怒り心頭らしいルイホァの耳には届いていないようだ。


「だってそうでしょ。つまんない。進化をしないものほどつまんないものはないよ。」

「なら永遠の命だって進化しないものだよ! ……もういい、あなたと話してると不愉快。失礼するね!」

「バイバーイ。」


 彼女は扉を勢いよく開けると足音を立てながらズカズカと退出していった。それを意に介さず、ニヨウは手を振って見送った。



「この書類は貰っていいのか?」

「どうぞ。ハーマンも帰るんでしょ。」

「ああ、だが1つだけ言っておく。若い奴らの進化は早いぞ。すぐにオレ達ができなかった事をやってのけちまう。」


 じゃあな、と零すとハーマンもルイホァと同様に部屋から出て行った。部屋の出先で通信機をつけてとりあえずの居場所をリーンハルトに連絡した。



「ふーん、やっぱり老いる人間は面白いね。見ててゾクゾクしちゃう。」



 からりと思っているのか思っていないのか判断しにくいトーンで少年は呟いた。













 玄関口で待っていると、憤慨したルイホァが戻ってきたため一同は驚いていた。大方事情を察しているらしいイチヨウは笑っていたが、彼女の神経を逆撫でするだけであった。



「ニヨウに会ったか?」

「会ったよ! 失礼しちゃう!」

「やはり地雷を踏み抜いたか。学習しないな。」


 残念そうに呟いたが代わりに謝るなどの肉親の情は一切ないらしい。そのことも気に食わなかったが、ルイホァの考えはリーンハルトには読まれているようで拳骨とともに苦言を呈した。


「つーか自分で飛び出しておいて、それに関して謝罪はないのか。研究機密だってある施設なんだ。」

「う、……それは、ごめんなさい。」

「ああ、別に構わん。」


 素直に謝るとイチヨウは懐かしそうに笑いながら手を振った。


「お前みたいに素直に人の言葉を聞き入れ謝罪することができることはある種の美徳だ。オレの弟にも見習ってほしいものだな。」

「……人の感性を持ち合わせているんですね。」

「嫌味かメガネよ?」


 ヒロタダも腹の奥で思っていた事を口にしてしまい、否定しつつすみません、と小さく謝る。



「リーンハルト、お前達の活躍はめざましい。今後も朗報を期待している。」

「ありがとうございます、とだけ。」



 リーンハルトがそう言うと彼は踵を返し、さっさと研究所の中へ戻って行った。

 その時の彼の言った期待が果たして厳密にはどのような意味を含んでいたが今までとは違い、純粋な言葉が載っているように感じたことは間違いなかった。

【こぼれ話:キャラクター紹介】


ニヨウ (49話より)

⁇歳 157cm

好きなもの:人間、生物図鑑

嫌いなもの:考古学、古着など人が使ったもの

14歳相当の見た目でなんとなく幼い。イチヨウと同じ髪色でポニーテールに纏めている。

イチヨウの義弟で人造人間。常に人懐っこい笑顔を浮かべているが時折確信をつくような不気味な様子を見せる。

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