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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
4章 兄と妹

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49.選ばれた人間たち

 通信機にオリヴィアからメッセージが送られてきた。内容は先日協力した検査の結果が出た、といった旨のものだった。

 結果の確認については希望がある者のみと告げられたため、エルナは興味ないとばっさり切り捨てた。

 ケイもはじめはうんうん悩んでいたが部活のない日に合わせるとオリヴィアが告げれば意気揚々と行く決断をした。


 結局のところ、エルナを除いた7人と研究責任を負うヴィリが向かうことになった。


 研究施設は特務隊本部内の特殊なワープホールからしか行けないらしく、特別な許可がない限りその場所も知らされないらしい。

 道を容易に覚えるであろうシュウゴについては本人の意思関係なくハーマンにおんぶされていた。



「はい、到着よ〜。」

「へぇ、ここが。」

「リーンも初めて来たのか?」

「ああ。ベルリンのは行ったことあったけど。基本的には支部長、副支部長、監査局長、研究員しか道を知らされてねーからな。」


 ちゃっかり研究員になっていたオリヴィアをチラ見しながら呟く。

 8人が玄関に辿り着くと白衣を着た女性がやってきた。


「あ、スミちゃん〜。」

「オリヴィアさん、お疲れ様です。」

「……あんなに顔にはっきりと疲労を浮かべた人間初めて見たな。」


 ルイホァがぽつりと呟く。

 スミ、と呼ばれた白衣の女性は黒髪を後ろで三つ編みに結っているが所々毛が出ており、眼鏡の下の瞳には深いクマが刻まれていた。



「ヴィリ監査局長、ご足労いただきありがとうございます。所長室にイチヨウ所長がお待ちです。ご案内します。」

「お願いします。」


 ヴィリが頷いた。

 7人は素直にその2人についていく。エレベーターで地下に降り、複雑な廊下の先に所長室があった。ノックすると入れ、と静かな声が聞こえた。



「失礼します。」

「おお、お前らがあの細胞の持ち主か。まぁ座れ。スミは実験室に帰っていいぞ。」

「家に帰らせてくださいよ……失礼します。」


 ぼやきながら彼女はさっさと出て行った。



「オレはイチヨウ。ジパング研究所所長だ。今回は実験に協力してくれて助かった。じゃあそこの席に順に座って。」

「こちらこそ時間を割いていただきありがとうございます。」


 ヴィリが席についたためそれに倣って皆座る。

 イチヨウは長い髪を団子にしており、白衣はだいぶ汚れている。先ほどの彼女とは違い目は爛々としていた。彼は饒舌に語り出す。


「まさか元ベルリンの副支部長殿と会えるとは思っていなかった。」

「ええ、こちらこ「しかもあの細胞の持ち主がこんな若者ばかりとは思ってもいなかった。さて本題だ。」



 話を遮られたリーンハルトは不服そうに唇を尖らせる。一方で、イチヨウは相変わらず微笑んでいる。だが、目が全く笑っていなかった。



「研究は真実を伝えてくれるが時に嘘も含まれている。それを前提に聞いていただきたいが、今回の内容は残酷なものも含まれるだろう。

 それでも聞きたい者だけここに残れ。」

「……イチヨウさん、お言葉ですがそれなりの覚悟を持ってコイツらは来てます。」



 リーンハルトが告げると、愉快そうに、そうかと呟く。そして淡々と事実を告げ始めた。



「さっそくだが、リーンハルト副支部長殿とケイ・ロペス、シュウゴ・ヒキ……どれだ?」

「ケイはオレっす。」

「シュウゴは私です。」


 2人が手を挙げると、ふむ、と認知したらしい。



「お前たちの細胞は既に変容している。新人類の先に到達できる可能性があるぞ、喜べ。」


「「!!」」


 2人はギョッと目を見開いて顔を見合わせた。

 ケイは少し前のめりに、シュウゴは無表情ながらイチヨウを警戒するように僅かに眉をひそめた。



「リーンハルト殿の細胞を調べて分かったのが、明らかに細胞分裂の速度が速く回数も多いということだ。そこらの人間より回復速度も速く細胞寿命も長い。すなわちは『新人類の先』と言われる強力な能力にも耐えうる身体があるということだ。君たちはまだ未完成であるが、その細胞の比率が高くなっているんだ。」

「じゃあオレらの能力はまだ強くなれるってことか。」

「ああ。」


 イチヨウの言葉にケイは少し興奮しているのか嬉しそうにしている。尊敬しているリーンハルトと同じステージに上がれるチャンスというのは、ケイにとってそれほどの価値であるのだ。

 しかし、シュウゴは冷静だった。



「……それは『いいこと』なんですか?」

「と、いうと?」


 彼のリアクションを興味深そうに窺う。


「リーンハルトさんの暴走について、様子を聞きました。私が思うに、何らかの条件が整うことで『甲状帯』の血流が増えて新たな能力が発揮されるのではないかと考えています。

 それにリーンハルトさんが能力を発揮した前後を覚えていない、恐らく海馬の粗血による短期記憶障害が引き起こされているんじゃないですか?」


「……驚いた。君、仮説も立ててたのか。聡い子とは聞いていたけどここまでとは。」



 シュウゴの言葉に悩む様子を見せたが、彼はシュウゴから目を逸らさず淡々と告げた。


「概ね君の予想通りだ。精神的興奮や薬剤の使用、何でもいい。血圧と心拍数を上げ、全身の還流を良くし、『甲状帯』の血流量を増やす。それにより『新人類の先』に到達することができる、で間違いない。

 しかし、それには条件があるんだ。

 まず1つ目、身体が十分な変容を済ませていること。これは変容していない新人類が同等のことを行うと脳出血や肉体の崩壊により死ぬことを指している。

 次に2つ目、『甲状帯』の変容には何らかのトリガーが必要である。フェベの身体を解剖して分かったことだ。」



 この場にエルナがいなくてよかった。

 恐らくフェベの性格を踏まえると彼女も合意の上であろうが、とてもでないが彼女に告げられるような内容ではないとヒロタダは思った。


「彼女は自身の【千里眼】の能力を使い、【先見眼】を使うことができていた。だが、彼女の身体の細胞は変容しておらず、体力の消耗が激しい。老化も早かった。

 あくまでも推測だが、彼女は2つ目の条件は満たしていたんだ。はて、何がきっかけだったのか疑問甚だしいな。」

「……そうなんですね。ありがとうございます」


 シュウゴが考え込むような様子で礼を述べた。

 あの、と声をあげたのはルイホァだった。何だかららしくない焦りを滲ませた声だった。


「1つ目の、細胞の変容は何がきっかけで起きるんですか?」

「10代から20代前半の間に適切な負荷で能力発動を行うことだ。だがお前は、いや、他のメンツは皆諦めた方がいい。」

「……どういうことですか?」


 ヒロタダが思わず尋ねた。イチヨウはまるで今日の献立を読み上げるようななんて事のない内容のように淡々と告げた。



「この場にいるヒロタダ、オリヴィア、ハーマン。この3人は年齢的にもう変容すまい。

 この場にはいないがエルナ、そしてお前、ルイホァはそもそも変容する可能性は大幅に低いんだ。」

「……なんで、」


「それはお前が女だからだ。」



 ルイホァは目を見開く。

 不条理、抗えない条件ではないか。


「女性ホルモンの影響だ。該当年齢では子どもを産む準備ないし妊娠の適齢期に入る。子孫を残すため、身体が変容を拒否する可能性がある。実際、過去の研究で能力暴走による身体の損壊が多いのは女性と言われているしな。」


「じゃあ、私は女性だから能力の進化を諦めなきゃならないの?」

「そうだ。」



 ルイホァが急に立ち上がる。

 その反動で椅子が倒れた。彼女の細い肩が震えている。それが異様に細く、小さく感じたのはヒロタダだけではなかっただろう。



「……そんな、理不尽、なら、私はもうずっとあの人に認められないの?」

「ルイホァ、」


 隣に座っていたケイが彼女の肩に手を置こうとしたがその手は振り払われた。

 ケイも驚いていたが、何よりルイホァも驚いていた。そして彼女の頬は濡れていた。


「ごっ、ごめんなさい……、少しだけ席を外させてください。」

「構わないがゲストカードで入れる場所は限られている。迷ったらリーンハルト殿の通信機にかけるといい。」



 ルイホァは一礼すると部屋を出て行ってしまった。

 リーンハルトが向かいのハーマンに視線を送る。彼は特段ショックも受けていないらしく、リーンハルトの視線に気づき、イチヨウに一礼するとルイホァの後を追った。


「なぜ自分は特別だと思っていたのだろうな。オレには疑問でしかない。」

「所長。」


 ヴィリが制すると彼は閉口した。

 そしてシュウゴをはじめ、全体に向けて話し始めた。


「以前僕は能力が2つあるとお伝えしましたよね?」

「ああ、そうだな。」


 リーンハルトが頷くと彼は続けた。


「僕には兄がいました。僕の能力は【重力】、兄の力は【超聴力】です。『Dirty』の研究室で人体実験の結果、兄の『甲状帯』が移植されました。幸い拒絶反応は出ませんでしたが、恐らく僕の身体はそんなに永いものでもない……。」

「……そうなの、」


 シュウゴの瞳が揺れる。

 勿論、ケイもだ。リーンハルトとオリヴィアは知っていたのだろうか。ヒロタダはとてもでないがヴィリをを見ていられなかった。



「ねぇ、シュウゴさん、ケイ。君たちは『新人類の先』に行きたいの?」

「……それは、」


 先ほどまで喜んでいたケイは吃る。



「僕は2つの能力を同時に使おうとすると酷く頭痛がするんだ。まるで悲鳴のような、ね。限界を超えるのは痛くて辛いことだよ。僕は、そんな目に遭う必要はないと思う。」

「……オレは興味だけでいえばぜひ超えてほしいけどなぁ。」

「所長。」


 オリヴィアに怒られ、軽くすまんすまんと思ってもいないであろう謝罪をした。













「ルイホァ。」

「……良かった、来てくれたのがハーマンで。」



 廊下の先で、涙を拭うルイホァを見つけた。彼女はずっとグスグスと鼻をすすっているようだ。


「私、ずっと家族に認められたくて、たくさん事件を解決して、強くなりたいって思ってた。努力すれば叶うって信じてたんだ。

 でも、したくもない結婚とか妊娠とか、女性だからなんて理由で駄目にされるなんて嫌だ……。」

「そうだな、理不尽だな。」


 ハーマンが言うと彼女はコクリと頷いた。



「ただな、能力の進化が強くなる全てだと思うなよ。現段階での能力が全てってわけではないし、そこに頼り過ぎれば必ず別の部分で弱点が生まれる。」



 ルイホァはハーマンの言う当たり前のことにハッとさせられた。なぜ自分は今まで通りであることに不安を覚えているのか。

 結果はどうであれ受け入れると決めてこの場に来た上、努力することには変わりない。



「……ハーマンは男で良かったなって思ったことある?」

「オレは目つきが悪いからな。女だったら可愛げがなかったろう。」

「プッ、じゃあ逆に女が良かったなぁってことは?」


 ハーマンはううん、と悩む様子を見せたが、すぐに何か思いついたのか眠そうな目を見開いた。


「嫁さんが妊娠の時につわりとかでしんどそうな時だな。代わってやれれば、って何度でも思った。」

「……優しいね、ハーマンは。」

「そうか?」



 さすがはこの男、噂通りの愛妻家だ。

 健全な夫婦関係にルイホァは顔を綻ばせていると、何となく照れ臭そうなハーマンはルイホァの頭をわしわし撫でながら言った。


「まぁお前もまだエリートコース修了まで2年半あるんだ。その間に今後どうするかなんてゆっくり考えればいい。たくさん任務に出て、たくさん遊んで、たくさん勉強するといい。」

「そうだね、ハーマンお父さんみたい。」

「二児の父親だ。あとケイにちゃんと謝れよ。払われてショック受けてたから。」

「うん。」



 素直に意見を聞き入れる彼女は目を腫らしながらも笑顔を浮かべた。まだ思うことなど幾らでもあるだろうに強い子だった。

 さて、とハーマンが踵を返して戻ろうとした時だった。



「「!!」」



 背後に突如少年が現れたのだ。ずっとその方向を見ていたはずのルイホァも全く気づかなかったようで驚愕していた。

 少年はにこにこと笑みを浮かべながら手招きをする。


 何故か逆らい難い圧力を感じる。躊躇う2人に痺れを切らしたのか少年はゆっくりと口を開いた。



「僕はニヨウ、今から僕の研究室(あそびば)に連れてってあげるよ。おいで。」



 何故だろうか、得体の知れない人物の誘いが異様に魅惑的に感じるのは。

 ハーマンの制止も叶わず、ルイホァは少年を追って走り出した。

【こぼれ話:キャラクター紹介】


イチヨウ (49話より)

45歳 170cm

好きなもの:研究、興味深い被験体

嫌いなもの:科学的証明がなされないもの

ジパング研究所所長。ややマッドサイエンティストな性格をしており合理主義者。紫かかった髪を団子にしている。医学の知識に長けておりオリヴィアとは旧知の関係だそう。

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