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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
4章 兄と妹

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48.兄と弟

「ねぇ〜、リーンハルト。組み手の相手して〜。」

「珍しいな。月曜ってケイもいるだろ?」

「リーン、ケイだって友だちと遊んだりデートしたりとかあるだろう。」

「いや、アイツはまだ野原を走り回ってる方が楽しい歳頃だろ。」

「犬?」

「ちょっと〜、聞いてる〜?」



 デスクワークが終わり、訓練場に向かったリーンハルトと裁判所からやってきたヒロタダは既に何名かの隊員を吹き飛ばした後らしいルイホァに捕まった。

 エルナとシュウゴは学校でこの時間はいないことが多く、オリヴィアとハーマンは仕事らしい。

 奇数週の月曜はいつもケイがいるはずだが、珍しく今日は姿が見えなかった。



「組手はもちろんやるからな。何ならヒロタダと2人がかりでもいいぞ。」

「舐められてるよ。ボコボコにしよう。」

「……でもいないのはやっぱり不思議だな。事故とかに遭ってなければいいけど。ルイホァは何か聞いてないの?」

「私用の通信機で連絡したけど今日は用事あるって素っ気なかったな〜。」


 通信機の画面を見せてもらうが確かにケイにしては素っ気ない。ルイホァやケイからのメッセージは見るからに元気ですと言わんばかりの文面が常である。


「まぁ事故に遭ってないならいいよ。リーンをボコボコにするのが先決だ。」

「ほー、言うようになったな?」


 リーンハルトは準備運動をしながら鼻で笑う。

 実際ヒロタダは今のところ、誰と組んでもリーンハルトとの組手は圧倒的に敗北しているのだ。ちなみに今までリーンハルトに勝ったのはケイとルイホァ、シュウゴとハーマンのコンビだった。



「お、やってんな! オレも混ぜてくれ!」

「わ、パウルさん!」


 勢いよく扉が開いたと思いきや、パウルが面白いものを見つけたと言わんばかりにせかせかとやってきた。

 それから改めて組み分けをし直し、リーンハルトとヒロタダ、ルイホァとパウルが組むことになった。結果からいえばルイホァ達の勝利だ。

 地が強いのはあったが、何よりパウルがルイホァの動きの癖をよく見切っていたのだ。その後ヒロタダも肉弾戦について、パウルに指導してもらったが要領を得ており非常に分かりやすい講義だった。


 いつの間にかリーンハルトとルイホァも組手を始めており、2人は勝手に休憩に入った。


「凄いですね、パウルさん。リーンハルトやヤンさん、モニカさんにも教わったことがありますがとても分かりやすいです。」

「ああ、オレ講師やってたしな。」

「講師ですか?」


 おうよ、と得意げに話す。


「オレは隊員を育てるためすぐにターミナル:ペキンとブエノスアイレスに派遣されたんだよ。まぁ、実はと言うとそこでアイツの兄貴の先生をちょっくらやってたんだけどな。」


 パウルの視線の先にはルイホァがいた。

 彼女の兄、無邪気そうな青年の印象だが、苦笑するパウルの言葉を聞いて印象は一変した。


「ルイホァにお兄さんが……。」

「アイツらはなァ、自分の父親に師事を受けてたんだよ。兄貴は自分にも他人にも厳しいタイプで強さで上下関係を決めるような、まぁ理性的だけども獣みたいな奴なんだよ。

 当時の講師がアイツに負けたみたいでそれで特務隊入隊までオレが面倒見てたわけ。でも、新人戦でヴィリに負けた時のアイツはめちゃくちゃ悔しがってたから笑ったわ。」


 その光景を思い出したのか愉快そうに笑っている。根本はやはり兄妹なのだろうか。


「こっちに来てるって知った時からマジでリーンハルトが誘ったのかよって驚いたけどな。動き見てやっぱり兄妹なんだなぁ、って思ったよ。ま、顔も能力も知らなかったけどな。」

「お兄さんから何も聞いてなかったんですか?」

「アイツ自分のこと一切語らなかったしよ。つーか、お前もルイホァに兄貴がいるの知らなかったのか。」



 不思議そうに首を傾げるパウルの言葉にハッとする。確かに彼女の性格を踏まえるとそこまで優秀な兄なら尊敬している、などと言って教えてくれそうだ。しかし、この期間一切存在にすら触れなかったということは。


 深く掘り下げない方が良さそうだ、とヒロタダが嘆息をついているとパウルも既に察していたのか苦笑い気味だ。



「まぁ色々あるわな。年上から見ればあの可愛くない感じが唆られるし、懐いたら懐いたで可愛いんだがな。」

「パウルさんはお兄さんなんですか?」

「ああ、……流行り病で亡くなったけどな。クッソ生意気だったが可愛かったぞ!」


 僅かな間に何か伏せたように感じたが、追及すべきことでもないだろう。ヒロタダは触れなかった。

 それにルイホァのことも気にかかる。

 ヒロタダが思考の海に入ろうとしかけた時、こちらにルイホァが軽々と吹っ飛ばされてきた。ヒロタダは驚いて動けなかったが、パウルがあっさりと受け止めた。


「オーイ、吹っ飛ばしすぎだろ。」

「悪い! ルイホァもヒロタダも大丈夫か?!」

「大丈夫だよ! むしろ手を抜かれる方が困る! パウルもありがと!」


 ヒョイと体勢を整えると彼女は立った。


「そろそろ組み合わせも変えるか。」

「オレはまたタッグマッチでもいいぜ。今度はヒロタダと組むわ。」


 練習の成果を見せるぞ、と彼はいちいちモチベーションが上がるような言葉をくれる。ヒロタダも気合を入れ直すと休憩を終えて立ち上がった。









 訓練を終えたのはすでに日も沈みかかっている頃だった。パウルの提案でバイキング形式のレストランに行くことになった。

 レストランではパウルがぼそぼそと自身の部下に関する愚痴を呟いていた。要約するとパウルのことを尊敬しており距離を置かれてしまうことが寂しいらしい。だる絡みされるリーンハルトはどんどん表情が死んでいた。

 ヒロタダとルイホァは彼を犠牲に料理をおかわりしに席を外した。


「パウルさんも大変そうだよね。」

「パウル教えるの上手だから威厳もバッチリ出ちゃうんだろうね。こういうところではただのダメな大人って感じなのにね。」


 ひょいひょいとバランスよく料理を持っていく彼女は辛辣だった。自分もそう言われないようにしようと背中を丸くしていると急に背後から衝撃に襲われた。

 大したものではなかったため踏み止まったが、その反動でぶつかってきた少年が後ろにとんでしまったらしい。


 料理を盛った皿をルイホァに渡して少年を立たせる。



「ごめんね、怪我なかったか?」

「……ぶつかってごめんなさい。」


「オイ、レストランで走るなって言ったろ! すみませんでし……うぇ、ヒロタダさん?!」



 長身な男が近寄ってきたと思いきや見覚えのある顔で2人とも目を丸くした。もちろん、その正体であるケイも驚いた表情を浮かべていた。



「あ、お姉さん見たことある! ケイの彼女の1人だな?!」

「バカ言ってんじゃねーよ! ……エルナさんとシュウゴさんはいないっすよね?」

「いないけど。もしかして4人で撮った写真見せたの?」

「んん〜、まぁ。そしたらオレが3人彼女いるってコイツ思い込んだみたいで。マセガキになっちまってな。」



 はぁ、と溜息をつく。

 確かにあの2人は今の発言を聞いたら機嫌を損ねそうだ。

 どうやら今日はケイの家族が来ているらしく、食事をとって解散する予定だったそうだ。4人で料理をとり、席に戻ると案外すぐ近くだったらしく、リーンハルトとパウルもケイの存在に気づき、向こうの家族もこちらの存在に気づいたらしい。


 せかせかとケイによく似た母親が近寄ってきた。


「リーンハルトさんお久しぶりねぇ! 元気にしてた?」

「ご無沙汰しています。先日は息子さんに怪我をさせてしまい「いいのよぉ! このバカの実力不足が原因なんだから、やると決めたらやれって教えてるんだけどねぇ!」


 被せ気味に弾丸トークをする母親に苦笑いするリーンハルトだったが、ケイの父親がそれを剥がすと一礼する。


「リーンハルトくん、久しいな。君自身も元気そうでよかった。」

「はい、ありがとうございます。」

「リーンハルトさん、父さんらと顔見知りすか?」

「バカねぇ、アンタが入隊決めてからわざわざ挨拶に来てくれたのよぉ!」


 背中をバチンと叩かれてケイはうっと小さく漏らした。少々むせたが、照れる上司の顔を見たらそんな小さなことなどどうでも良かった。



「それよりも可愛いお嬢さん、この後ディナーなてどうかな?」

「いやこれディナーだろ!」

「なら私もリーンハルトくんとご一緒しちゃおうかしら!」

「人の上司誑かすな!」


「アンタたちいい加減にしろ!」


 いつの間にかケイの父親そっくりな青年が両親の首根っこを掴み、ルイホァとリーンラルトから引き剥がした。

 両親らとリーンハルトの間に立つと、彼はジッとリーンハルトを睨みつけた。



「オイ、アンタがリーンハルトか。話がある。表に出ろ。」

「……分かった。」


 盛ってきた皿を完食したらしいリーンハルトは素直に席を立った。


「ちょ、兄貴待って!」

「喧嘩かな? 姉ちゃん行こうぜ!」

「えぇ、私食べてるんだけど?!」


 話を無視して食事を摂っていたルイホァの手を弟が引いて外に出てしまう。パウルはのんびりとケイの両親や妹と話している。


「お前も野次馬ってきたらどうだ? オレは素敵なご両親と嬢ちゃんと席とっておくからよ。あの2人じゃリーンハルトの手綱握れないだろ。」

「すみません!」



 野次馬、という言葉は聞かなかったことにして、ヒロタダもレストランの外に出た。訝しげな顔をする店員に頭を下げながら外に出ると、すぐ近くの広場に目立つピンク頭と長身がいた。



「オレの名前はクラウス・ロペス、22歳。ベルリンの企業に勤めている。よろしくな!」

「リーンハルト・ワイアットだ。よろしく。」

「さて本題だが、よくもオレの可愛い弟をボロボロにしてくれたな!」

「いや、リーンハルトさんがしたわけじゃねぇよバカ兄貴! オレがそうするって選んだんだ!」

「うるさいバカ!」


 正面のリーンハルトは困り顔だった。リーンハルトと話すというよりはただの兄弟喧嘩の仲介役になっているようなものだ。


「お前は幸い暴走したことがないからいいかもしれないが、恋に燃えた母さんや妹が能力暴走させた時、本当に冷や冷やしたんだ! お前は平和な日常を送ってればいいのに、何で自ら危険な場所や独りになる場所に行っちまうんだよ!」


「どういうことだ?」

「クラ兄ちゃんはケイ兄ちゃんのむしゃしゅぎょうやお仕事反対だったんだって。オレもバスケしたいから反対されると困っちゃうんだよなー。」



 ルイホァの脚にべったりな弟が呟く。

 話から推察するに、ケイと妹は母譲りの能力らしく2人は暴走をさせたことがあるらしい。そして、ケイが差別されやすいスポーツの世界や危険な特務隊の世界に飛び込むことに最後まで反対していたようだ。

 先ほどのレストランでの様子を見ると両親は放任主義らしく3人掛かりで押し切られたのだろう。


 兄の威厳は何処へやらクラウスは地面に項垂れ、泣き叫ぶ。



「ケイは兄ちゃんがどれだけ心配してるか分かってないんだろ! オレだってお前の夢をやっと応援してやれるかと思ったら仕事も始めてよぅ、兄ちゃん胃に穴が空きそうだ!」

「……悪かったよ。でもこれだってオレに必要なことだしバスケの世界に行くにも役に立つんだ。今度は怪我しないから。」

「したら、兄ちゃんがお前の枕元で子守唄歌うからな……!」

「反対はしないのか……。」


 大泣きする男がケイに抱きつく姿は滑稽だった。先程までの威圧感はどこへ行ってしまったのだろうか。


「お前も最大限努力してケイを守れよォ……!」

「いいっすから。」

「なら怪我しないようにしっかり訓練だな。任せな。」


 リーンハルトの言葉を聞いてケイは微笑む。クラウスはリーンハルトに拳を振るっているが痛くも痒くもないらしく微動だにしない。



「なーんだ、喧嘩すると思ったのに! オレ先に戻るー!」



 飽きたらしい少年はルイホァをパッと離すとレストランへ向かって駆け出した。ヒロタダも余計な心配だったと踵を返した。

 しかしルイホァが微動だにせず3人をじっと見つめていたのが気になった。



「……いいなぁ、ああいう(グァグァ)。」

「ルイホァ?」


 彼女はハッとしたように振り返り何でもないと笑顔をみせた。彼女にしては珍しい貼り付けた笑みだ。


「早く戻ろー、ご飯冷めちゃっただろうなぁ。」

「あぁ、そうだな……。」



 とてもではないが理由を聞ける雰囲気ではなかった。

 必要があればいつか自ずと話してくれるだろうとヒロタダは諦め、ルイホァに倣ってレストランへ戻った。


 ちなみにレストランに戻ればケイの両親とパウルは妹さんそっちのけで酒を開け始めており、戻ってきた3人にこっぴどく怒られたのはまた別の話。


【キャラクター紹介】


クラウス・ロペス (48話より)

新人類 22歳 178cm

ベルリンの企業に勤めている会社員。父親似、母妹がかつて能力を暴走させたことがあったため弟妹に対して過保護である。



【こぼれ話:ヒロタダの印象】


→リーンハルト 気のおけない友人かつ頼りになる上司。オンオフの切り替えがしっかりいる点は尊敬している。

→エルナ 一生懸命でいい子、能力のポジション的に仲間意識がある。私生活の方などは応援している。

→ハーマン カッコいい人、こんな大人になりたいと思っている。最近組み手が優しくない。

→オリヴィア 仕事のできるお姉さん。美人で酔った時に絡まれるとドギマギする。

→シュウゴ 頭のキレが凄い人。時々年相応に悩んでいる様子を見ると安心する。

→ルイホァ 可愛い妹分、癒し。健やかに育ってほしいと思っている。前から組み手が優しくない。

→ケイ 可愛い弟分、癒し。人との距離感や彼の中の常識が自分と似ているため楽。

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