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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
4章 兄と妹

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47.踏んだり蹴ったりな君を祝う

「夏風邪はバカが引くっていうよな。」

「何で今それを言うんだよ。」



 隣の席でくしゃみをするリーンハルトを揶揄うと彼は恨めしげにヒロタダを睨んだ。

 8月も終わりがけあれからリーンハルト班を含むヨコハマ賭博街の討伐に関わった班は1週間の休暇を言い渡された。ケイとシュウゴは自分より数日早く退院していた。ケイに至っては部活も再開しており、シュウゴも卒業研究をこの隙に詰めると意気込んでいた。


 ハーマンは久しぶりに家族サービスだと家に帰っており、ヒロタダも久しぶりに実家に帰り、姉であるユイにも会ってきたらしい。

 オリヴィアは、とある研究のために暫く不在にすると連絡があった。

 エルナとルイホァは、ドロシーとともに生前フェベが好きだったお菓子を墓に添えるため、プチ旅行と称して出かけているそうだ。


 さて、隊員たちが不在としている中、リーンハルトもパウル達と快気祝いとモニカが言って酒を飲んだがそれがよろしくなかった。

 パウルとリーンハルトは気づけば飲み比べをしており潰れた。ヤンはモニカを送って行ったため2人は夜空の下に放置された。

 起きたのは翌朝だ。

 8月といえど、身体は汗で冷え切っており明らかにそれだけが原因と思えない寒気が走った。


 パウルについても同様であり、もちろん共倒れした。だがあの男は半日ですぐに回復しており結果だけ見ればリーンハルトの大敗北である。せっかくの連休を風邪で過ごした。



「それよりリーン、今日の約束忘れてないよな?」

「忘れてねーよ。」



 それは連休も終わりかけのこと。

 珍しくルイホァから全体に向けて『ご飯』へのお誘いがあった。どうやら店を見繕ったのはエルナらしく、大人達がお酒を楽しめ、かつ未成年達も食事を楽しめるような洒落た小料理屋を予約してくれたそうだ。


 あの事件があって以来、リーンハルトはあまり仲間たちと顔を合わせていなかった。

 特にエルナについては、ハーマンやヒロタダ、話に聞けばルイホァに任せきりになってしまったらしく何となく顔を合わせづらかった。


 その話をパウルにしてにやにやされたのが気に食わなくて自棄酒したというのもあるが。あの男は昔から部下の扱いや指導が他の追随を許さないほどに上手いから悔しい。



「リーンハルトさん。」



 ちょいちょいとヴィリが手招きする。

 彼の手には季節に合わないホットレモンが握られており、それをリーンハルトに差し出してきた。

 その理由が分からずリーンハルトが首を傾げる。


「ありがとな。でもなんでオレに?」

「何で、って貴方今日……」


 彼も不思議そうにリーンハルトに尋ね返そうとしたがやはり何でもないと首を横に振った。

 そういえば先日のパウル達との飲み会も同じようなアクションをする輩がいた気がする。


「あー、ありが「あとこの仕事よろしくお願いします。体調悪いのは知ってますけど飲み会後の風邪は自業自得。」

「……はい。」


 礼を述べようとしたがド正論をかまされ、リーンハルトはキュッと口を噤んだ。



「ヒロタダ、今空いてるか?」

「午後からは裁判所の方で仕事だ。任務か?」

「……いや、大したことじゃねーみたいだし1人で行くわ。」

「そうか? ポカするなよ?」

「ああ。」



 リーンハルトは頷くと、すぐ様ワープホールステーションに向かった。










 今回の仕事はトクシマの山間部で『Dirty』の遺構らしきものを見つけたと言う報告だった。前回行ったプラントとは違い、だいぶ昔に廃棄されて場所であるらしくすでに風化の始まっている部分もあった。


 恐らく戦争が行われていた時代のものでなかろうか。


 現地の特務隊員と合同で調査を行うらしく、到着してすぐにリーンハルトは挨拶をした。

 向こうは元副支部長ということで恐縮しているのか、はたまたこの見かけをもってして威嚇してしまっているのか、どこか緊張した様子で挨拶を返してきた。


 そう、このリアクションが普通なのだ。



「……たくさん、人を殺したもんな。」



 タバートと面したとき、フェベを喪った時。

 初めて、『新人類のその先』に到達した時も親友を喪った時だった。あの感覚はとてもでないが言葉にし難い不快なものである。



「リーンハルトさん、どうやら中に生き物の気配はないようです。」

「了解した。トラップには十分注意するように、3班各班でフロア探索。地下や隠し通路、ワープホールが発見された場合は突入せず必ず報告すること。」


「「了解。」」



 その合図を聞いたリーンハルトは小さくくしゃみをした。

 ああ、不便な身体だなぁ、と少し思ってしまう。


 プラントと思われた場所は恐らく自分が戦時中に見たタイプの施設よりも古いものであり、『Dirty』の遺構とは思えなかった。ワープホールの設置痕など見当たらなかった上、キメラを育てた形跡もない。

 しかし、明らかに新人類より生態を調べていたという証拠品はあった。リーンハルトは医学の知識には明るくないため、詳細は把握できなかったがエリートコースを受講していた時代の知識には当てはまらなかったため、見立ては間違い無いだろう。


 一通り調査を終え、各班からの報告を聞いても特に違和感はない。



「今回は不発だな。一応土地と建物の持ち主を照会、前歴リストも含めて背景の調査を頼む。」

「了解しました!」


 でも、と隊員の1人はぼやく。


「最近プラントらしき施設の検挙が増えた分空振りも多くなってますね。リーンハルトさん達以外にも指令可能な隊員が増えるといいのですが……。」

「そんな言っても始まんねーよ。」

「……そうですよね。」



 戦争の時の功労者は今は殆どが前線に出ない支部長などについている。

 現場については確実に教育が施されているが実際に見ていない者達と比べると、圧倒的にリーンハルト達のセンサーは優秀らしい。


 後処理を現地の隊員に任せ、その地域の筆頭に報告を終えるとリーンハルトは帰路に着く。

 今から帰ればシャワーを浴びるのもなんとか間に合うだろう。


 今回は戦ってもいないのに、いや正しく言うとヨコハマの時から何となく自分の周りに血の臭いがまとわりついているような気がして仕方がないのだ。



「……参ってんな。」



 戦争の後も同じだった。

 成長していない己に自嘲しつつリーンハルトは帰路についた。









 結局数分遅れて会場には着いた。

 先ほどから鬼のように通信機が鳴っているのだ。ヒロタダはリーンハルトが仕事であることを知っているはずなのに何をしているんだと悪態づく。



「悪い、遅くな……、」


「「「誕生日おめでとー!」」」



 個室の扉を開くと、エルナとルイホァ、ケイがクラッカーを鳴らした。

 リーンハルトは驚いて固まっていたが、背後から時差で1発食らい、情けない悲鳴をあげた。その正体はシュウゴであり呆れたような目をリーンハルトに向けていた。


「何でお前背後……。」

「リーンハルトさんが遅れるって言うから手洗いに行ってました。それより言うことないんですか?」



 シュウゴが指差す方向を見ると、折り紙で作った輪っかに無駄に達筆な『happy birthday』の文字。そしてテーブルには料理を始め久しぶりに見るホールケーキが鎮座していた。

 ルイホァとケイは自信ありげな表情で胸を張っている。


「飾り付けはオレとルイホァ、ケーキはシュウゴさん、店の予約はハーマンさんがしたんだぜ!」

「そうそう、パウルが教えてくれたんだよ! リーンハルトの誕生日が今日だって!」


 飲み会のパウル達の様子や、本部でヴィリが言いかけた言葉の正体がやっと分かった。

 で、と2人はその後ろでもじもじしていたエルナを前に突き出した。顔を赤くして抗議するが若者2人には無駄らしい。観念したエルナは下を俯きながらリーンハルトの前に小さな箱を突き出した。



「……これ、ヒロタダとオリヴィアと一緒に選んだのよ。フォトフレーム。」

「フォトフレーム?」

「リーンの部屋、殺風景だろ。」

「まぁそうだけども。」



 殺風景といえばその通りであるが、それならば他にも選択肢はあったはず。リーンハルトは無意識的に写真などの『残る物』は部屋に置かなかった。

 それをヒロタダは薄々勘付いていた。

 不思議そうに首を捻るリーンハルトにエルナはぽつぽつと理由を話し出した。



「ヒロタダの言うこともあるけど。アンタがジパングに来て少しでも楽しい、とか、嬉しい、とか感じられたことを残してほしいって思ったのよ。

 リーンハルトの事情は分からないけどまだ26……いや27だけど若いのに時々遠くの人みたいに感じるから。」

「……そ、なのか。」



 実際戦争に出て血生臭いところで生きてきた自分は彼女達と同じと言って良いのだろうか。

 するとオリヴィアがぽんと肩を叩く。


「確かに私たちは戦争の中で生きてきたけど今は今よ。ちゃんと切り替えも大切よ。

 それに貴方はいつまでも人の生死を大切に考えられる人だから、そんなに距離を置かないであげてね。この子達にとっては貴方は初めての、かけがえの無い班長さんなのよ。」


 自分と同様過去に囚われながらも、今を必死に生きるオリヴィアの言葉には何よりの重みを感じた。


「リーンハルト、しんどい時はオレ達も巻き込め。年長者だからその面倒くらい見てやる。」

「そうそう。リーンは肝心なところで隠し事をするからな。もういい加減分かってきたよ。」


 ハーマンとヒロタダにも頭や背を軽く叩かれる。

 こんな自分についてきてくれる仲間がいることにじんと冷え切っていた心が温かくなる。



「……ありがとな。オレ、お前らと会えて本当に良かったわ。これからもよろしくな。あと、プレゼントもサンキュな。」

「じゃ、早速ご飯!」

「メシ!」

「お酒も飲みましょう〜!」


 礼を言うリーンハルトの背をぐいぐいと3人が押しながら席につく。

 リーンハルトもプレゼントをしまいながら大人しく連れて行かれた席に座る。










 誕生日会も後半になると静かになってきた。

 満腹になったらしいルイホァと明日はオフで気が抜けているケイは部屋の隅で一緒に丸くなって寝ていた。2人の肩にはそれぞれオリヴィアとシュウゴのカーディガンやパーカーが掛けられていた。

 ハーマンとオリヴィア、シュウゴ、ヒロタダは何やら日本酒を空けはじめた。オリヴィアは顔を真っ赤にしており、ヒロタダに絡み酒をしている。それを無視しながらもシュウゴはハーマンと何やら話している。思っていたより、セイのことを後ろ向きに捉えていない彼に安堵しつつ、手洗いから戻ってきたリーンハルトは眩しそうに目を細めた。



「おかえり。」

「おう、ただいま。」


 隅っこの方で通信機を触っていたエルナの隣に自然と腰を下ろす。彼女は通信機を切ってリーンハルトを覗き込んだ。


「……今日は楽しかった?」

「ああ、久しぶりに。この前パウル達の飲んだ時は、っくしゅ! 酔い潰れて路上に放置されてたからな。」

「本当にアンタら駄目な大人ね。」


 エルナの言う通り、返す言葉が無かった。

 苦笑いするリーンハルトをじっと見つめながらエルナはほんの僅かに頬を染める。改めて気持ちを自覚すると酷くきらきらして見える。

 酔っているのかリーンハルトは俯き気味にポツポツと話す。



「あんまりフォローしてやれなくて悪かったな。正直、エルナが特務隊辞めるって言い出さないか不安だった。」

「辞めないわよ。フェベに託されたし、アンタ達のこと。」

「そうなのか?」

「……それより、アンタだってその、実の父親と戦ったし、」


 ああ、とリーンハルトは目を細めた。何かを思い出すかのような遠くの日を見つめていた。


「今はあんなでもオレが子どもの頃は親子3人、貧しいなりに幸せにやってたんだよ。俺の容姿が母さんそっくりらしくてな、可愛がられてた思う。

 でもなぁ、ある日を境にあんなになっちまって、親友も守れなくて、時々嫌になるよ。」


 普段は絶対に言わないような弱音を吐く彼をエルナはじっと見つめる。自分なんかより余程特務隊を辞めてしまいそうではないかと、脆く壊れてしまいそうな感じだった。

 しかし、そんな彼があまりにもらしくなくてエルナはつい行動に出てしまった。



「あんまりウジウジするんじゃないわよ!」

「ウッ!」


 背をぱちん、と叩くとリーンハルトは呻き声をあげた。


「少なくとも、あたしはアンタの下について良かったって思ってるし、あのタバート? って奴が来た時、アンタが助けに来てくれて嬉しかったわよ。」

「……そうか。」

「他の人だってそう思にゃっ!」


 横から急に飛び出てきたベロベロのオリヴィアとヒロタダに押されてエルナはリーンハルトの肩に激突する。酔っているが微動だにしないあたりさすがはリーンハルトといったところか。

 彼は数日前の自分の姿を戒めつつ2人に大丈夫かと声をかける。

 目の据わった2人がギンと睨み付けるものだから流石に少し慄いた。



「リーンハルト班は素晴らしいわよ! 福利厚生、パーティ参加自由! 飲み会あり!」

「そうだぁ! 本職もちゃんとやらせてくれる! おまけに隊長は強い! もー僕は情けなくて情けなくて。」

「お前ら酔いすぎだ。だが、もっと褒めてやれ。自己評価の低い班長さんをな。」

「なっ……!」


 酒のせいか照れているせいか、顔を真っ赤にしてエルナを壁にするリーンハルトを、ハーマンの許可を皮切りにあーだこーだと褒めちぎる。

 このバカ騒ぎに目を覚ましたらしいルイホァとケイも身体を起こす。


「何の騒ぎっすか……酒臭。」

「リーンハルトを褒めてお礼を言う会よ! ほら、2人も!」

「リーンハルトは強い! 手合わせしてて楽しいしバイクに乗せて送ってくれる! 優しいよね!」

「素面のやつが言うとアレだからやめろ!」

「……オレもリーンハルトさんの強くて仲間想いなところ尊敬してますよ。まぁもうちょっとそれを自分に向けてほしいんすけど。」

「「わかるー!」」



 酔っ払い2人がケイを指差す。

 ドギマギしていたエルナがふと個室の外に視線を向けると、会計をしてきてくれたらしいシュウゴは面倒臭そうに個室を覗き込んでいた。彼もエルナの視線に気づいたようだ。

 助けを求めようとした時、彼は一切表情を変えることなく小さく口を動かした。


 役得、と。



「〜〜ッ、シュウゴ!」


 助ける気0の彼に皆の視線が集まる。

 数名が飛びかかろうとしたがハーマンがむんず、と首根っこを掴む。



「ほれお前ら、もう解散にするぞ。オレはケイとルイホァを送るから。他は自力で帰れ。」

「じゃあオレは家隣だしヒロタダ送るわ。」


 ハーマンは己の気遣いが無駄になったことを嘆きながらシュウゴに目線を送る。彼は興味がないらしくため息をついた。


「エルナは方向一緒だしオレが送るよ。」

「ねぇ、シュウゴくん。私も方向一緒なんだけどなー?」


 嫌ですごめんなさいという顔をしてハーマンを見つめるが首を横に振る。


「もう少し飲ませて気絶させていいですか?」

「駄目だ。」

「もういいわよ、一緒に送りましょ。」

「……。」


 エルナの大人の対応に、彼も渋々諦めたらしく了承した。











「ん……。何だここ?」

「何だここじゃねーよ。」


 ヒロタダが目を覚ますと真横からリーンハルトの声がした。どうやら自身は背負われているらしいことに気づく。


「うわ、悪い。今日の主役なのに。」

「自覚あるなら自分で歩け。自業自得といえどこっちは病み上がりなんだからよ。」


 彼の背から下されるとわざわざ水を買ってくれたのか手渡された。正直途中から記憶がない上、同い年の同僚に易々と背負われてしまったのは複雑な気分だ。


「……もう少し鍛えるか。」

「何を分かったことを。」


 リーンハルトの言葉がぐさりと刺さる。

 蹌踉めくヒロタダを見て愉快そうに笑っていた。



「今日はありがとな。思いの外みんな立ち直ってたし、つーかオレが1番遅かったくらいだったことも分かったし楽しかったわ。」

「なら、良かった。」

「今日のフォトフレーム、使いたいから協力してくれよな。振り返ってみるとオレ本部に働き詰めで全然友だちいねーし。」

「僕らが協力したら今と変わらなくないか?」

「……それもそうだな。いや、でもお前らがいいな。」



 悩んだのは数瞬だ。

 どこか、ずっとピリピリしていた彼の穏やかな笑顔を久しぶりに見て、それだけで十分だとヒロタダも微笑み返した。

【こぼれ話:リーンハルトの印象】


 現時点でのリーンハルトが隊員に対する印象です。


→ヒロタダ 同い年、いい奴。法律関係はあまり詳しくないので交渉とかで助かる。能力が羨ましい。

→エルナ かわいい、歌が上手い。最近ツンケンが増して少し寂しい。

→ハーマン 頼りになる副隊長。困ったときは1番に相談できる相手。

→オリヴィア 腐れ縁、臨機応変さは純粋に尊敬している。酒呑みの時はあまり触れたくない、怖い。

→シュウゴ しっかり者、色々任せられる。時々言う生意気がかわいい。

→ルイホァ かわいい、努力家で仕事もできる。特務隊に全振りしすぎて将来が少し心配。

→ケイ かわいい、戦闘センスが抜群で少し羨ましい。バスケを応援している。



 戦争の時は歳上に囲まれていたので、後輩や歳下がめちゃくちゃかわいいらしいです。


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