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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
3章 彼女たちは前を向く

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45.悲報と

「えぇー?! 何でケイも入院するの?!」



 賭博街での事件が終わった翌日、病院へ行くと同室にまさかのケイも入院することにルイホァは人目も憚らず驚嘆の声を上げてしまった。

 たまたま転院してきたところを出会し、居心地悪そうに苦笑いするケイはよたよたとしながらも入室した。勿論シュウゴや見舞いにたまたま来たハーマンも驚いた顔をしていた。

 しかし、パウルから報告を受けていたリーンハルトは傷ついた己の身体など顧みず、廊下側のシュウゴのベッドに寄りかかりながら目を吊り上げていた。



「……お前は何でバスケの大会に行ってそんな火傷だらけ怪我だらけの身体で帰ってくんだよ!」

「いやしょうがないじゃないっすか……。紋付き? っていうのにたまたま出会して応援が間に合わなかったんすよ……。」


 ちゃんと応援は呼びましたよ、と口元をもごもごさせながら呟く彼にため息をつく。しかしながら、あれだけ怪我をするなと言われていたにも関わらず、傷だらけで帰ってきたことはやはり気まずかったらしい。

 自分より身長が高いのに小さくなる猫背のケイの頭にリーンハルトは手を置き、抱き締めた。



「でもよく犠牲者を出さずに敵方の幹部を倒した。本当……。」



 生きて帰ってきてくれてよかった、という震えた小さな声がケイの耳に届いた。喪うことの恐怖、他人でもあれだけのものだったのだ。戦争を生き抜いた彼の心中は計り知れないだろう。

 動かせる手でリーンハルトを抱き返す。傷に触れてしまったのか呻き声が聞こえたがケイはあまり気にせず続けた。



「オレはそう簡単に死にませんよ。『Dirty』の奴にも夢を託されたんすから。アンタが大往生するまで現役っすよ!」

「……そりゃたくましいこって。」


 2人は顔を見合わせるとふと笑い合った。

 ケイはベッドに入り、リーンハルトとシュウゴ、ハーマン、ルイホァがそこに集まる形になった。見舞品を取り分けるハーマンはそれにしても、とリーンハルトとシュウゴの姿を見た。



「リーンハルトは前回が特殊だっただけで相変わらず、って感じだが。シュウゴ、お前も大概化け物じみた回復力だな。シンジュクでの事件の時は気にならなかったが、お前昨日の朝まで意識不明の重体だったろ。」

「は?! そんな重傷だったのにもう立って歩いてるんすか?! 元気お化け……。」

「ケイに言われたくない。」


 ジト目でケイを見るとシュウゴは自身の手を見つめながら何かを思い出すような表情をしていた。



「……セイが言ってたんだよ。オレが能力に、新人類の身体に馴染んできたって。言われてみれば前ほど身体強化も意識せずにできるようになった気がしてね。何か関係あるのかもね。」

「へー。」



 ケイは呑気に頷いていたが他の3人は僅かに顔を顰めた。セイ、という名前を聞いてケイは手を叩き、真剣な表情になった。



「そういえば今回の任務って、その死者も出たんすよね? 事の顛末もオレ聞いてないし教えてもらえるとーー。」



 皆の表情にアレ? と首を傾げた。

 何か自分はまずいことを言ってしまったのだろうか、と。


「……オレの口から説明させてもらう。病院にいたお前らより詳細を知ってるからな。いいな、リーンハルト。」

「ああ。」

「え、何かあったんすか。」







 ハーマンは淡々とヨコハマ賭博街で発生した事件について説明していく。

 3班に分かれて、ルイホァが賭博街の管理人を捉えたこと、ムカデとヒュドラのキメラがそれぞれ現れ、被害が甚大であること、紋付きが現れエルナが相対したこと、七賢人が2人現れたこと。

 そして。



「フェベさんが亡くなって、セイさんが裏切り者って……。」


 泣くでなくケイは悔しそうに下唇を噛む。

 やっとリーンハルトの悲痛な言葉の真意を理解した。そして気まずそうにシュウゴを見遣った。


「その、シュウゴさんは大丈夫なんすか?セイさんと仲良かったっすよね……つか戦闘もして、」

「正直セイのことはそんなにショックでないかな。セイがオレを蹴り飛ばさなかったら七賢人の1人にオレは殺されてたと思うし、それにセイが話してた過去についてちょっと気になることがあったから。

 何より、お互い生きてるし。」

「……そっすね。」

「余程ヴィリの方が心配だよ。」



 真っ直ぐと現実を受け止めている彼にケイは目を細める。あの事件で自分と同じ程に傷ついていたにも関わらず、すでに事件を俯瞰的に見る能力を養っている。

 元来の性格を踏まえても、歳上であることや自分より冷静であることを思い知らされる。



「じゃあエルナさんとか、ドロシーさんは? フェベさんのこと、その、」

「……私、エルナには連絡したけど完全に空元気って感じだった。今日もお見舞い誘ったけど学校だから、って。」


 ねえ、と涙を溜めたルイホァはリーンハルトに詰め寄った。



「エルナ、特務隊を辞めないよね?」



 ルイホァの不安は少なからず心のどこかで全員が持ち合わせていたものだった。そして、その答えを持ち合わせている者はこの場にはいなかった。


 沈黙が流れる中、控えめなノックが部屋に響く。ハーマンが返事をすると扉が開いた。

 目元にげっそりとクマを携えたヴィリと比較的元気なオリヴィアだ。



「あ、オリヴィアさん、ヴィリ、さん? 無事で良かったっす。」

「そのままお返しするわ。最初名前見た時ひっくり返るかと思ったわよ。本当に頑張ったわね。」



 ベッドにいるケイの頭を優しく撫でる。素直な称賛にケイはくすぐったそうにする。

 他の仲間の表情を見て空気を読んだらしいオリヴィアは困ったように微笑む。リーンハルトはそれを察して尋ねた。



「オリヴィアが来たってことは何かオレたちの怪我に関することか?」

「お見舞いの可能性は考えないの? まぁ、リーンハルトの言う通りだけどね。」


 ハイ、とオリヴィアはこの場にいる全員に棒のような検査用具を渡してきた。


「何これ?」


 涙を拭いたルイホァはオリヴィアに尋ねた。


「口内粘膜の採取に使う道具よ。今回のリーンハルトの第二解放や2人の回復力の向上は目を見張るものがあるわ。だからとある研究者に依頼して確認することになったのよ。」

「これは僕が責任者になってるよ。『Dirty』も力をつけてきてるから僕たちも知識をつけないとね。」


 使い方を知っているらしいシュウゴとハーマンはさっさと採取を終える。それを見ていた3人は真似をして採取をした。

 次いでヴィリが淡々と5人に告げた。



「フェベさん達、亡くなった特務隊員のことなんだけど、葬式が明後日行われる。入院している3人はともかく3人は可能な限り参加してくださいね。」

「もちろん。」

「ええ。」

「……うん。」

「喪主はドロシーで、取り仕切りはモニカさんの予定。」

「何でドロシーさんが喪主なんすか?」


 純粋に疑問に思ったケイがヴィリに質問する。


「彼女はファミリーネームこそ変えてないけど、一応フェベさんと養子縁組になっているんだよ。」

「へぇ、だから仲良かったんだな。」



 決して口数の多くない彼女の姿が目に浮かんだのかケイは僅かに目を細めた。

 そんな会話をする傍らで険しい顔をしたヴィリはふらふらとシュウゴの隣の椅子に腰を下ろしてゆっくりと寄りかかる。彼の目元にはクマが広がっており眉間にも皺が寄っている。

 シュウゴは何も諫めることもせずそのまま寄りかからせていた。



「……ヴィリ、セイの扱いはどうすんだ?」


 リーンハルトは躊躇いなく尋ねる。

 戦争で経験を積んだ中では裏切りもあったのだろう。彼はその点非情だ。



「人を殺したか殺してないかは知らないけど、このままいけば特務隊法に沿った断罪です。二重スパイとか、余程特務隊の利益になることをすれば執行猶予は与えられるけど、どうかな。」


 彼はかなり疲れているようでため息をついた。



「僕、セイの【変身】、薄々気付いてたけどぬかったな……。」

「そんなの家族みたいに思ってたら疑いたくないのが当たり前じゃない?」

「それが許されないのがヴィリの立場なんだよ。」


 リーンハルトが苦々しげに言うと、ヴィリはうなずく。

 誰が口を出せるわけではない、しかしハーマンが席を立つとヴィリの頭を優しく撫でた。彼は慣れない感覚に目を見開いたが、ハーマンはそれさえも想定内だったのかふと笑みを零す。


「だが、今は友だちの横で昼寝するガキだろう。ゆっくりしていけばいいんじゃないか?」

「……、」



 ハーマンの言葉にヴィリは惚ける。

 ルイホァが何かを思いついたようにシュウゴに囁くと彼は素直に頷いてヴィリに寄りかかった。


「オレも横に寄り掛かるところがないとしんどいなー。」

「……棒読みだよね。」


 そう言いつつも小さく聞こえるしゃくりにシュウゴは安堵しつつ体重をかけ返した。

 その様子を笑顔で見守るケイとルイホァ、オリヴィアを尻目にハーマンは短く挨拶をすると廊下に出る。



「ハーマン。」

「どうした?」

「……その、フォローありがとうな。」

「そんな偉いことはしていないが。」


 いや、とリーンハルトはゆるゆると首を横に振った。


「いつもオレは事実を突き出すばかりで配慮が全くならない。今回に関してはクソ親父と会ってからどうもダメだ。」

「……まぁ分かっててもどうしようもないことくらいあるだろう。オレから見ればお前だって若者だからな。」


 ぐっと悔しそうにリーンハルトが下唇を噛むのを見つめてハーマンは笑う。



「オレだってまだ踏ん切りがついてないこともある。お前にそう易々とされると立つ瀬がない。」

「そっか。」

「あと、エルナのことだが。」


 リーンハルトはぴくりと眉を顰めた。

 昨日から連絡をしているが、何となく素っ気なく避けられている気がするのだ。フェベのこともあると考えていたが、ヒロタダが連絡をした時は比較的柔らかかったそうで理由がわからなかったのだ。


「そっちもオレとヒロタダでフォロー入る。お前はあの3人のこと配慮してやれ。」

「……分かってるのか。」


 その問いの意味はおそらく2人の間でしか伝わらなかっただろう。


「ああ、おそらくケイとシュウゴはそう言うことだろ。で、ルイホァはーー。」



 リーンハルトは目を伏せた。

 それがある種の肯定であった。


 それから数日後、フェベ達の葬式が執り行われた。



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