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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
3章 彼女たちは前を向く

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43.インハイパニック -無能の協力者-

※戦闘描写あり、ご注意ください!

「挙動が大きすぎる!」


 背に肘打ちを喰らい、ケイは呻き声を上げる。

 彼の身体から離れた瞬間にケイは地面に叩きつけられた。しかし、すぐに普段の炎を背から出すと彼は距離を取った。


 とりあえず救助をする3人からは離した。

 身のこなしを見る当たり自分が一瞬でも倒れたり気を失ったりすればすぐに向こうに向かってしまうだろう。

 ここの天井は吹き抜けになっており、幸い人質もいないようだ。


「人質や足手まとい共から、距離をとったか。ガキのくせにいい判断だ。」

「いうほどアンタ歳取ってないだろ。オッサンぶるなよ。まだ走れそうな歳じゃねぇか。」

「はっ、たわ言を。」


 挑発に乗ってくれれば動きが単純化すると思ったが、相手はその辺の経験は豊富らしい。

 ケイは周囲の闇に紛れて燃やしていた炎の揺れを感知して、不思議な力を避ける。


 能力が今のところ全く分からない。

 先ほどから吹き飛ばされていることに変わりはないのだが、ルイホァのように風を使っているわけでもなさそうだ。かといってハーマンのように糸で操るということでもない。


「ちょこまかと鬱陶しい奴だな!」

「銃?!」


 義足の方の靴を脱ぐと足の指から銃撃が放たれる。

 万が一後方のことを考える。


「【赤炎】!」


 普通の炎で銃弾を燃やすとその場で暴発し、弾が粉々に弾け飛ぶ。多少の擦り傷はもう仕方ない。

 この煙に乗じて一気に接近する。

 ケイは重心を落として蹴りを入れ、回避したところで義足に触れ一気に手を熱くする。だが膝から何やら催涙剤のようなものが噴き出て、右顔にかかる。

 痛いが、目を閉じたらダメだ。

 もちろん死角から拳が飛んできて蹌踉めく。同時に再び見えない力でとばされた。


「……ッテェ。」

「それで終わりか?」


 一気に接近され、再び謎の力で壁に押しつけられる。全身が圧迫され肺が潰れそうだった。このままでは死ぬと本能的に思ったケイは全身から黒炎を噴き出す。

 それを見ると、ハンフリーは後方へ跳んだ。


「助かった……、ゲホ、」


 ケイはとにかく大きく息を吸い、肺に酸素を取り込む。

 他の人と戦った時のことを思い出せ。

 みんなが何を見ているか。


 まず能力についてだ。ハンフリーの見えない力は今のところ上下でなく前後左右方向のものしかない。そして、その力は必ずハンフリーを中心に発生している。先ほど移動する時、自分が懐にいたときは能力を使ってこなかった。

 次に義足についてだ。熱を加えた感じ、アレはどうにかなる。しかし、催涙剤、銃弾と仕込みが多い。

 加えて本人の身体強化と確実にケイを殺しに来る動線を描いてくるのが厄介だった。


 自分が相手より優れていること。

 僅かにリーチが長いことと恐らく最高速度はこちらの方が速いこと、そして攻撃範囲が広いことだ。

 能力については1対1になった現状では従来と変わらない上、ヒロタダのような能力自体を打ち消せるわけではない。


 今までの一連の動きを思い出すと、ふとある共通点に気づく。


「そういえば、アイツ回避するのって必ず。」


 もう1つ。

 あれだけ攻撃を受けているにもかかわらず致命的な攻撃は銃と圧迫によるものしかなかった。


「……不確定要素はもう知らねーぞ。」

「考え事とは余裕だな!」


 火が揺らぐ。

 気づけば目の前にハンフリーがおり、オリヴィアのように拳を構えている。頭の中で殴られると思った時には体がすでに避けていた。

 しかし今の接近で確信になった。おそらくハンフリーは義足の仕込み武器を除き近接用の武器を持っていない。


 全ての回避が間一髪、もしくはかする。

 せめて能力がはっきり分かれば。


「ケイくん! その人の能力は【斥力】だよ!」


 コノミの声がケイの耳に届く。

 最近物理の先生が雑学か何かで話していた覚えがあった。斥力とは互いに反発し合う力であり、ケイを吹き飛ばす時には機転を自分に、回避する時には起点を相手にしていたということだ。


 目の前の男はコノミに視線を向けた。

 ほんの一瞬だった。

 ケイにとっては自身の仮定が1つ正解だということを示しており、それが喉から手が出るほどに欲していた男の隙だった。

 ハンフリーの腕を掴み一瞬で技を発動させる。


「【黒炎業火】!」


 火炎の渦を身にまとい高速で回転させる。

 黒と赤まじりの炎だから、彼にも効くが自身にもダメージになる。

 ハンフリーは初めて呻き声をあげた。


「侮るなよクソガキが!」

「!」


 みるみる焦げる己の身など顧みず、自身の膝から仕込み刀を出し、ケイの鳩尾に向かって蹴り上げる。咄嗟に身をよじるが、腹部に確実に刺さった。


 痛い痛い痛い

 でもここで引いたら友人を、守るべき人たちを守れない。もう目の前で冷たくなる人を見るなんて嫌だ


 ケイはグッと踏み止まるが、僅かに緩んだ握りにハンフリーはすぐに気づき、身を翻した彼はケイの拘束から逃れ、【斥力】を伴った蹴りをケイに放った。


「ケイくん!」

「目障りだ、女!」


 吹き飛んだケイに一瞬目をとられたがすぐに自身に向けられた殺気にコノミはすくむ。しかし、彼女を殺すことは、己に絡みついてきた人間により阻まれた。


「コイツ、いつの間に?!」

「ケイ! 早く立て!」


 どうやらケイの攻撃に気を取られ接近に気づかなかったらしい。【保護色】により自身の姿を隠したカイトがまとわりつく。


「ケイ・ロペス! 早くしろ!」


 それに乗じてエーミルも俊足を活かして接近する。

 拘束するというよりは纏わりつくという方が正しく、【斥力】は使えない。


「このクソガキど……。」


 彼は一瞬エーミルの背中を見てほんの少しだけ動きを止めた。

 だが、何かを振り切るように、忘れるように、2人を振り払った。


「お前らは殺す!」


 視界の端に最もこの場で厄介な男を捉えた

 ーーはずだった。


 ケイを叩きつけたであろう場所に人影はなく、瓦礫が散らばるのみだ。

 動揺したが、すぐに熱気を感じ上方を見上げた。先程と同様に全身に炎を纏い天井を蹴る男の姿が見えた。

 避けようとしたが、先程ケイの炎で不具合を生じたらしい義足ががくりとバランスを崩す。ハンフリーは迷わず天井に向けて手を上げた。


「【斥力】!」

「【黒炎業火】!」


 頭の中がガンガンと熱い。

 まるで自身の脳が焼かれているようだ。

 しかし視界も思考も能力のキレも全てが最高だ。

 自身の重さも重力もその調子の良さも全てを味方にする。


「すげぇ……。」

「……ケイくん。」


 エーミルに引きずられながらコノミとともに撤退したカイトはぽつりと呟く。

 一方でハンフリーはいよいよ増していくケイの力に押されながら忌々しげに舌打ちをした。


 こんなガキに負けてしまうのか、と。

 赦されない。

 紋付となった己のプライドも、かつて奪われた選手としてのプライドも。ここで負けてしまっては、能力や環境を言い訳にした自分の弱さを認めてしまうことになるではないか。


 この場で思考がクリアなのはケイだけではなかった。

 ハンフリーは義足に力が入ることを確認すると、能力の対象を切り替えてケイの猛攻を回避した。もちろん、彼の勢いだ。

 地面に轟音を響かせながら落下した。

 あの勢いで落ちたならば無事では済まないだろう。周りに広がる土煙の中目を凝らしてケイの姿を捉えようとした。


 しかし、今回はハンフリーの思惑通りには行かなかった。

 しっかりと両脚で着地した彼はすでに自身の懐に忍び込んでおり、赤い炎を纏った回し蹴りで義足を関節からへし折ったのだ。


「何つー馬鹿力……!」


 蹌踉めいたのを見逃さずケイは追撃を加える。

 自身の想いを全て載せて。


「終わりだ! オレ達の夢を邪魔すんじゃねぇ!」


 自身の皮膚が焼け爛れることなど関係ない。

 ケイの持てる力を以って全力の火炎を拳に纏い、加速したパンチを目の前の男に放つ。拳を通じて嫌な感触が伝わる。

 叩きつけられたハンフリーに彼は迷わず跨ぐ。


 すでにハンフリーに意識はなかった。意識を飛ばそうとする身体を無理やり叩き起こしながらもケイは声をあげた。


「3人誰か! 先見隊の人の荷物漁って拘束具持ってきてくれ!」


 ケイの言葉を聞いて3人は、歓喜に震えた。

 勝利し、命の危機は去ったのだと。

 コノミとカイトは腰を砕いてへたりこみ、エーミルは先見隊の人が持っている荷物を一通り持ってハンフリーの元に駆け寄って行った。



 ハンフリーが目を覚ます前に、震える手で何とか拘束をつけることは成し遂げた。義足も申し訳ないが熱切断させてもらい戦力は確実に削らせてもらった。

 やっとケイは一息つくことができ、全身の痛みを感じ始める。腹部の出血が酷いためカイトとエーミルに頼み上着で圧迫してもらった。


「すげぇよ、ケイ! 本当にケイのおかげだよ!」

「ありがとう! うぅ……助けがきたら絶対病院だよ!」

「あぁ、2人もありがとう。2人がこの人の注意をそらしてくれなかったらたぶん勝てなかった。」


 カイトとコノミは素直にわんわんと泣いていたが、エーミルは気まずそうにケイを見つめるだけだ。


「……お前は、特務隊員としても立派にやってるんだな。」

「証明になったかよ?」


 そのように尋ねるとエーミルはふと口元を緩めた。


「フン、オレのライバルならこれくらいで当然だな。怪我をしてるあたりまだまだだが。」

「何目線だよ。」


 先ほどの激励を聞いた後では彼の憎まれ口もかわいいものだ。

 ケイはふと微笑む。



 その刹那、少し離れた場所の天井が破られ、不意に入ってきた太陽の光に4人は目を細める。3人はやっときた救助隊だと安堵した。

 素直に安堵できればよかった。


 1人を除いては。


「【黒炎】!」


 4人の目の前に不意に黒い炎の壁が立ちはだかる。

 駆け寄ろうとしたエーミルをはじめ3人は腰を抜かした。


「は?! え、味方だろ!」

「違う! 動くな!」


 ケイは火傷やら打撲やらを負って完全に休止モードに入りかけていた身体を無理やり起こす。

 最悪だ。


 最初はケイも特務隊の味方だと思った。

 というのも一切の殺気を感じなかったからだ。

 だが、その希望は一瞬で砕かれた。


「誰だお前!」

「……初対面の相手にそれは失礼じゃーん?」


 軽薄な声と不快な虫の羽音が聞こえる。

 ケイの炎に照らされた男は歪に微笑む。


 ケイは大きく息を吐く。


 理由は簡単だ。

 男の額には大きな『D』の文字が刻まれていたからだ。

【キャラクター紹介】


ハンフリー・アーキン (42話より)

24歳 178cm

元陸上選手で義足を装着している。刈り上げにしており鋭い目つき、顔に傷をこさえている。



【こぼれ話】


 ケイが斥力の話を思い出していますが、彼は授業を真面目に聞いているだけで、元来勉強はあまり好きではありません。そのため詳しい原理については理解しておらず何となく解釈しながら戦っていました。

 

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