表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
3章 彼女たちは前を向く

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/292

41.インハイパニック -束の間-

 先日の賭博街の事件が終結する少し前の話。

 ここからは隊の新人、ケイ・ロペスの話を語ろう。

 大概彼も運がいいのか悪いのか、エンカウントを果たしてしまう男だった。


「ケイ! 起きろ。」

「んぁ……。」


 ケイは珍しく布団からさっと起きられるず、同級生のカイト・マカベに揺すられる。


「ケイが気を抜いて寝てんの珍しいな。寝ても覚めてもバスケとか訓練! とか言ってんのに。」

「いや流石に疲れたんだよ……。ほっとんどスタメンだったんだぞ。」

「任務の方がキツいんじゃねーの?」

「また種類が違う。」


 人懐っこく笑うカイトと会話を交えているうちに徐々に目が覚めてきた。ケイはのそのそと緩慢に身体を起こすと大欠伸をした。


 昨日の大会は3位入賞だった。

 個人としては、エリア大会選抜チームの代表選手に選ばれたが、チームとしてエリア大会に出られないのはどうも悔しい。また冬に大きい大会があるが、3年生の多くは引退する上、キャプテンは恐らく同級生のしっかり者に委ねられるだろう。例えば今起こしてくれたカイトとか。


 部員は3〜4人部屋を割り当てられており、ケイはキャプテンのリョウヘイと同じくスタメンのカイトと同じ部屋であった。カイトは入学した時から同じクラスで互いに高め合う親友だった。

 ふと洗面所から顔を出したリョウヘイが尋ねた。


「そういえば宿が一緒の陸上部の結果聞いたか?」

「……いや、聞くわけないじゃないっすか。」


 そのまま帰る準備をするリョウヘイを尻目に、入れ違いに顔を洗いながら悪態ついたケイは答えた。その様子にリョウヘイは苦笑いした。

 別にリョウヘイにこのような態度をとっているわけではない。ケイには理由があった。


「出たな、ケイ・ロペス!」


 朝食のためにホールに行くと同じ高校の人に指をさされた。ケイは横目でチラリと見たが無視を決め込んだ。

 青年はあーだこーだと文句を言っているが向こうのキャプテンに諫められたらしい。拳骨を落とされていた。

 あまりにも素っ気ない態度にリョウヘイは心配したのかケイの顔を覗き込んできた。


「オイ、さすがに無視は……。というか誰だ?」

「陸上部のエーミル・コッホって奴です。同じベルリンからの留学生っすよ。あんの野郎、オレが特務隊に入ってから特に鬱陶しくてストレスになるんすよ。」

「……そうなのか? オレが締めようか?」

「いや、先輩が締めたらちょっと……。」


 腕が鳴るぜと言わんばかりの先輩を止める。

 この人は旧人類と思えないほどの筋力である。


「キャプテン、ケイくん、カイトくん! おはようございます!」

「ああ、おはよう。」

「はよ。」

「はよっすー!」


 3人が挨拶を返すと、マネージャーであるコノミ・タゼは嬉しそうに微笑んだ。


「今日の観光なんですけど、昔のジパングの美術品やアナログなものが見られる美術館、市場や武家屋敷街に行こうって計画でいいですか? 最初自由行動だったんですけどみんな行きたいっていうからみんなで行こうかなって。」

「そうだな。」


 約30人がぞろぞろと動くことになるが逸れるよりはマシだろうとリョウヘイは判断したらしく頷いた。ケイもあまりジパングの観光地を満喫したことがなかったため、楽しみではあった。


「今だと期間限定で旧人類時代のジパング地図原本があるらしいですよ。」

「ああ、何かコピーとは見え方が違うらしいよな!」


 ケイは美術品や歴史については明るくなかったためコノミとカイトの話半分聞き流していた。

 というのも、賭博街の調査を行なうと言った仲間たちの安否がどうも心配になり何となく落ち着かなかった。




「また会ったな! ケイ・ロペス!」

「……。」


 美術館についた途端再び陸上部の面々に出会った。エーミルはしつこく、オイとかなんとか言っていたが、ケイは一言も話さなかった。

 傍らにいた同級生とコノミははらはらしたようにケイを見つめていたが、ケイは今までにない程無表情にコノミ達に告げた。


「敷地内にはいるんで帰るときに連絡ください。」

「え、あ、うん?」

「オイ待てよ!」


 ケイは無言で猛ダッシュを決め込む。陸上部には無駄かもしれない。身体強化を使ってもいいだろうかと柄にもないことを考える。

 何故かエーミルは自分を追ってくる。

 さすがにケイも苛つき、足を止めて彼を睨みつけた。


「やっと諦めたか! オレ様の結果を聞け!」

「んなもん知るか!」

「今回の棒高跳びで3位だ! エリア大会出場権を取ったぞ!」

「そうかよおめでとう! 終わりならさっさとどっかいけ!」


 敵意剥き出しのケイにはエーミルは自慢げにしていた表情を崩し、短髪の猫っ毛をさらにぼさぼさにするかのように頭を掻き毟る。


「……お前は?」

「団体3位、個人でエリア選抜だよ。」

「……そうか!」

「お前何なの?」

「ちょっと〜!」


 コノミとカイトが慌てて駆け寄ってくる。

 ケイとエーミルはおさげを揺らす彼女の方に気づき、顔をむけた。


「コノミ、カイト、観光は?」

「さすがにケイくん放っておけないでしょ……。」

「別にいいのに。」

「オイ、彼女か?! いいご身分だな!」

「違うわ! うるせーなお前は!」


 普段見せないピリピリした感じにコノミはびっくりして肩を震わせた。カイトは慣れているようで頭を抱えるばかりだ。

 ふんすと鼻を鳴らすエーミルを尻目に3人はこそこそと話す。


「ケイくん、あたり強すぎじゃない?」

「最初にあたり強かったのはエーミルだよ。留学が決まった時からちょっといろいろあったんだよ。」


 2人が出会ったのは1年半前だ。

 ケイはエリートコースをリタイアして10歳の時からずっとバスケをやってきた。スポーツをするにあたってエリートコース義務レベルの能力を持っていることは常に暴走の懸念がついて回り、ケイからすれば厄介な事この上なかった。

 当時のケイにとっては何よりもコンプレックスであり、触れられたくない部分でもあった。それを無遠慮に突いてきたのがこの男エーミルであった。


『オイお前も留学生か!』

『ああ。そっちも?』

『陸上でな!』


 初めて出会ったのは留学生説明会だった。

 たまたま隣の席で声をかけてきたのだ。

 緊張していたケイは話しかけられた事で少し油断しており、自身のプロフィールを表にしたままだった。


『オレ様はエーミル・コッホだ! そっちのお前はケイ・ロペス……、ん、エリートコースリタイア……?』


 慌てて紙を裏返したが、もう遅かった。

 ケイは頭に血が上る思いだった。


『……お前、新人類なのにスポーツ留学なんかやっているのか。』


 その後のことは殆ど覚えていない。

 せっかく早くきた説明会会場を飛び出してしまった。あの時のエーミルの言葉の続きは今でも聞きたくないものだ。開始時間ギリギリに戻り、説明を聞いた。


 その後日、自身と同じ高校の陸上部に彼がいると聞いて正直心底嫌だった。

 ところがどうだ。何かと絡んでくるのだ。

 最初は素っ気なく返していたが徐々に勉強や部活の成績やらの自慢になった。当時はケイもチームのメンバーと折り合いが悪く、何となく焦りを感じていたため彼の言葉は不愉快であった。

 とある日、体育館の前までついてきた男に、堪忍袋の尾が切れて怒鳴った。


『入賞しただの点数良かっただのうっせーよ! 凄いねおめでとう! こっちはただバスケをやりたいだけなのにチームの連携うまくいかなくて焦ってる上お前に構われて鬱陶しいことこの上ないんだよ!』


 それを聞いていた先輩とカイトが噴き出したのを今でもよく覚えている。

 確かそこからエーミルの自慢は落ち着き、先輩とも面白い奴だと打ち解けられた。


 だが最近になってその鬱陶しさが再開された。

 恐らく特務隊に入ったあたりからであろう。

 流石のケイも1年経っていれば多少は大人になっていた。しかし、彼は再びケイの地雷を踏んだのだ。


『特務隊なんかロクな奴がいない! そんなことにうつつを抜かして、いつか大怪我してバスケできなくなってもしらないぞ! オレ様はその間に陸上王への道を駆け上がるがな!』


 確かそれはシンジュクの事件の直後。大怪我どころか人の死を目の辺りにしたばかりの頃だった。


『……どうとでも言えよ。お前に関係ないだろ。ちなみにウチの上司と同僚はお前と比べ物にならないくらいできた人たちで優しいよ。本当に黙れ。』


 その静かな様子は下手に殴り合いになるよりも恐ろしかったとのちにカイトが語った。

 それからというもの自慢は減っていたのだが、大会が終わった途端これだ。


 このエピソードを知るカイトはかいつまんでコノミに説明すると彼女は明らかに表情を曇らせた。

 何やら口をもごもごさせる彼にカイトが仕方なさそうに助け舟を出す。


「エーミル、お前何がしたいわけ? 結局陸上部の奴らとも逸れてるし。ケイと話したいことがあるなら自慢とか悪口なしで話せよ。」

「う、それはだな……。」


 何だ気持ち悪い、という言葉はすんでのところで飲み込んだ。

 カイトに背中の皮を抓られていたからだ。


「その、あの、ケイにな……。」


 3人で紡がれる言葉を待っている時だった。

 ケイは突如、体験したことのある嫌な感覚に囚われた。


「逃げ……!」


 下を見たが真っ暗な、大きな穴に吸い込まれるような感覚に襲われる。咄嗟に近くにいた2人を抱え、足から炎を出し、エーミルをも回収した。

 しかし、周辺に足場はなく、4人は自由落下していく。


「……んだよ、コレ!」

「キャアアアア!」

「はぁ?!」


「エーミル、カイト! コノミを抱えてオレの腰に抱きつけ! 着地する!」


 恐らくヨコハマでの任務の影響か。

 朝から能力の制限が切れていたことを幸いとケイはふんだんに力を発揮する。


「【黒炎柱】!」


 頼む、無事着地させてくれとケイは祈りながら全力で炎を発したのであった。

【キャラクター紹介】


リョウヘイ・コバ (7話より)

旧人類 18歳 186cm

高校3年生、ケイが2年生の時のチームのキャプテン。旧人類であるが前のキャプテンが新人類の優秀な人だったこともあり差別をしない高校生らしからぬ厳格な性格。


コノミ・タゼ (41話より)

旧人類 17歳 160cm

高校2年生、同い年のマネージャー。明るい性格でしっかり者のため大会後旅行などの計画を任される。現在はケイとカイトと同じクラス。


カイト・マカベ (41話より)

新人類 183cm

ケイの世代のキャプテン。笑い上戸だがめちゃくちゃ人当たりがいい。入部当初からケイを気にかけていた親友。現在はケイとコノミと同じクラス。


エーミル・コッホ (41話より)

旧人類 16歳 174cm

高校2年生。金髪で猫っ毛。茶色の瞳をしており、黙っていれば整っている。口は粗暴であるが真っ直ぐで嘘がつけない性格、ベルリンから留学してきたケイの昔馴染み。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ