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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
3章 彼女たちは前を向く

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40.雨は止まない

 ヴィリの攻撃を、男とセイはギリギリで避けた。

 男は不意に現れた気配に僅かに眉を潜め再度回避動作に移る。そこにはオリヴィアが地面を叩き割った跡があり、避けなければどうなっていたか、肝が冷えた。


「援軍ですね。どうやら、タバートさんの方も完了したようです。」

「そうか、肉体を得られなかったのは残念だが、援軍も来た。これで失礼しよう。」

「待て! この裏切り者!」


 オリヴィアはその男に対して怒鳴る。

 しかし男は意に介していないようで、軽やかに笑うと手を振りながらセイとともにワープホールに入った。


「さようなら、検体たち。また会う日まで。」


 そう言うと、空間の割れ目は消滅してしまう。

 オリヴィアとヴィリは舌打ちをするが、冷静なヤンはオリヴィアを呼ぶ。


「アンタらそっち構ってる場合じゃないわよ! シュウゴ、このままじゃ失血で死ぬわ!」

「ッ、シュウゴくん!」


 オリヴィアはすぐさま彼の元に駆け寄る。

 肋骨と、腕の骨が折れており、頭部や腕からの出血も止まっていない。

 オリヴィアはすぐ様能力で応急処置に当たる。


 ヴィリは横目でシュウゴを気にしつつも、辺りを見渡す。データの回収はまた後ほどでいいだろう。敵の気配は感じられなかった。そのように判断すると、シュウゴに駆け寄った。

 一方で、ヤンは処置をオリヴィアに任せて連絡を取る。


「こちらヤン。そう、全戦局終了ね。被害者数出して、そう、……そう。」

「どうしたの?」


 ヴィリが尋ねると、ヤンは沈鬱な表情で告げた。


「フェベが、亡くなったそうよ。」

「「!!」」


 2人は目を丸くして固まった。

 戦は、終わったのだ。




 その日の夕方には、賭博街のことはニュースになった。死者は一般人1名、特務隊員3名、重軽傷者は数多、元より違法賭博や人身売買などの法律違反も行われていたため、警察も介入し、大騒動となった。

 そのため、ハーマンは応急処置をしてすぐ現場の確認に駆り出されていた。もちろん『Dirty』の息がかかった賭博街責任者は裁判にかけられた。

 そしてどこから流出したのか百足の化け物の写真などもメディアから発信されていた。ヴィリとヤンはそちらの後始末に追われており完全にてんてこまいだ。

 特に重傷だったのはリーンハルトとシュウゴだった。しかし2人ともオリヴィアの処置により、また元来の新人類特有の回復力により命に別状はなかった。

 2人の部屋にはルイホァ、ヒロタダ、エルナが来ていた。誰も口を開くことはなかった。


「……あれ、」


 リーンハルトが目を覚ましたのはその日の夕方だった。彼については骨折と打撲、全身の凍傷が目立ったが驚異的な回復能力を見せた。

 リーンハルトが目覚めたことに気づくと3人は慌てて駆け寄る。


「リーン、良かった……。」

「オレ、何日寝てた?」

「半日程度だよ。」

「そうか……。」


 リーンハルトは隣のベッドですやすや眠るシュウゴを見遣る。

 彼が秘密裏に裏切り者の調査をヴィリに頼まれていたことは薄々勘付いていた。だが、不幸にも裏切り者は彼の友人であった。辛い役目をさせてしまったと悔いが残る。


 そんなことを考えているうちに忙しなく医者や看護師がやってきて問診を行う。ぼうっとしながらも応対していると、隣に寝ていた彼の上半身が急に起き上がる。側にいたエルナとルイホァはびくりと肩を揺らした。


「……セイ、」

「起きたか?」


 リーンハルトの言葉にハッと彼は顔を向けるがどうやら傷が痛んだのか顔を顰めた。

 シュウゴを諫めるようにルイホァがゆっくりベッドを起こし寄りかかるように促すと彼は自分の状況に気づいたのか大人しく従った。

 彼も同様に問診を簡単に受けるとぐったりとベッドに臥せながらぽつぽつ話し始めた。


「あの、リーンハルトさん。」

「何だ?」

「……オレが、裏切り者のセイに2回助けられたって言ったら怒りますか?」


 彼の言葉に4人は驚いたように顔をそれぞれ見合わせる。シュウゴは悔しそうに、泣くのを我慢しているかのように絞り出す。


「オレ、たぶん七賢人の1人に会いました。あの人の動き、全然わからなくて、怖くて、動けなくて。セイがオレの事蹴り飛ばしてなかったら確実に殺されてました。……セイは、たぶんそれを分かってたのに、わざわざオレを蹴り飛ばしたんです。あんなにボロボロにされたのに、友だちを信じたいって言ったら馬鹿だって言いますか?」

「……言わねぇよ。」


 リーンハルトが目を細めながら言う。

 涙を堪えるように俯く彼の頭を代わりと言わんばかりにルイホァが優しく撫でる。


「あたしだって、あのタバートって男を目の前にした時、足が震えて何もできなかった。私が避けられたら、フェベは死なずに済んだ。あのルリって女の人だって、もしかしたら死なずに済んだかもしれないのに。もっと私が強ければ……。」

「フェベさんが……?」


 そこで、フェベのことを初めて知ったシュウゴは、先日のシンジュク駅での事件を思い出したのだろう。

 エルナの表情の理由を理解した。


「それに、こんな時に、好きなんて気付きたくなかった。」


 ポツリと呟いたエルナの言葉は背を向けていたリーンハルトとヒロタダには届かず、シュウゴとルイホァは顔を上げて鳩が豆鉄砲を食らったような反応を見せた。

 しかし、これ程にタイミングの悪いものは無いだろう。2人とも何も言えなかった。

 沈黙が空気を支配する中、ヒロタダが恐る恐る口を開く。


「あの、仕事の話しても大丈夫か?」

「……うん。」


 エルナの言葉で冷静さを取り戻したのか、エルナを撫でるシュウゴとルイホァは頷いた。


「……今回、七賢人が2人わざわざ来たってことはかなりの収穫があったんだよな?」

「そうだな。今それはヴィリとヤン達がやってくれてると思うから、報告待ちだな。それにオレ自身も、たぶんこの前話した第二解放、それを今回した、と思う。」

「思う?」


 ルイホァが尋ねると涙を拭い終えたらしい顔を上げたエルナが頷いた。


「だってあの時のアンタ、おかしかったわよ。……獣みたいだった。」

「理性もなく、記憶もないってことですか?」

「ああ。ぷっつり途切れてて、気づいたらエルナに止められてたな。本当に助かった。」

「……別に。」


 エルナはフェベのこともありやり切れないのか俯きながら頷いた。

 すると病み上がりとは思えないくらいシュウゴが流暢に話し始めた。


「脳血流や血圧とかの問題かもしれませんね。この前話していた能力の起源とされる “甲状帯” 、その近くにある海馬は虚血に脆弱と言われています。」

「よく覚えてるな。」

「興味深かったので。」


 ヒロタダの言葉にシュウゴは頷く。

 現代社会では、新人類か旧人類か調べるために脳波をとることがある。能力を発揮している時、特殊な脳波がとれると世間では知られている。


「なら、その研究者に聞いてみるか……。ふぁ。」


 珍しくリーンハルトが大欠伸をした。

 その様子を見てヒロタダはさて、と立ち上がった。


「もう遅いし、2人とも送る。リーンとシュウゴはしっかり休め。妹さんには連絡したから。」

「すみません……。」


 申し訳なさそうにシュウゴは謝った。そう言いつつも彼はうとうとと目蓋が落ちかけていたからやはり疲労はあったのだろう。

 退室した3人を見送り、リーンハルトは寝返りをする。

 もう殆ど寝ている部下の顔を見て嘆息をついた。回復の速度が自分と同等の彼に、ある可能性を抱かざるを得なかったのだ。



 ヒロタダは夜の帳がおりた街を自動車で走っていた。

 後部座席の少女たちは目元が赤く、泣き疲れたように寄り添って眠っている。

 ヒロタダもまた、目の前で仲間が亡くなり、動揺はしていた。そして今回、同隊の2人もあそこまで傷ついた様子を見せられて、自身の無力さを痛感させられた。


「……強く、ならなきゃな。」


 きっとエルナは今壁にぶつかっているのだろう。

 自分も、彼女も、もっと強くならなければいけないのだろう。

 ヒロタダは改めて決意する。


 ちなみに、この事件の裏で、とある事件が発生したことを知らされるのはまた翌日の話である。

※甲状帯は実在しないものです。

海馬については実物と概ね変わりない働きを担っています。旧人類の場合は、ですが。

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