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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
3章 彼女たちは前を向く

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39.そして朝日を見ることはなかった

戦闘および残酷な描写があります。

ご注意ください。

 腰を抜かしたエルナの方にはフェベが駆け寄ってきた。

 エルナは一瞬で消えたリーンハルトの方を見ており、気づくのが遅れた。


「エルナさん! 良かった、生きてて。」

「フェベ……、うぅ。」


 優しく抱きしめられた温もりにエルナはほろほろと涙を零す。


「早く後ろにさがりましょう。ここにいたら彼らの足手まといになるわ。」

「……っ、うん。でもあたし、腰抜けちゃって、」

「肩を貸すわ。」


 しかし、フェベも縺れそうになっており、エルナを引き上げることができない。そこに、女性を1人運び終えたヒロタダが駆け寄ってきた。


「フェベさん、無理なさらないでください。やっぱりさっきの能力で……。」

「いいのよ。私にできることをやっただけよ。」

「能力で……?」


 エルナが心配そうな顔をすると、フェベは申し訳なさそうに微笑んだ。

 しかしそんな呑気なやりとりをしている場合でなかった。

 ヒロタダのすぐ後ろに目にも止まらぬ勢いでリーンハルトが吹き飛ばされてきたのだ。しかし、彼はすぐに起きると再びタバートに向かっていく。


「あのヒュドラ如きに手間取ったのか? 鈍ったな。」


 その言葉を受けた瞬間、リーンハルトの速度が上がり、氷の刃がタバートの頬をかする。


「アンタも喋ってる暇あるのかよ? 歳とったなァ、おっさん。」

「口だけは達者だな!」


 タバートが指を噛み切るとそこから血の刃が不規則な動きをしてリーンハルトに襲いかかる。

 タバートはひゃは、と不気味に笑った。


「確かに動きは鈍っていないな。むしろ速くなってる。……そうかそうか。」


 急に動きを止めたタバートにリーンハルトも警戒して少しばかり距離をとり構え直す。彼はそれを全く気にせず、4人を逡巡し、薄気味悪く笑うばかりだ。


「何がおかしいんだよオッサン。」

「いや、おかしいさ。」


 ゆっくりと顔を上げてリーンハルトを見遣る。


「お前はあの時だって仲間を失った時の方が強かった。なのに、何故生かして守ろうとしている? そうだ、後ろの奴らがお前の強さを奪っているんだ。」

「何言ってやがんだ、頭沸いてんのかよ。」


 そう言いつつも、この男が次にやろうとしていることはすぐに予測できた。

 なぜならあの戦争の時だって同じことをしたのだから。


「みんな逃げろ!」


 リーンハルトは間髪入れずタバートに接近した。3人も彼の切迫した声を聞いて慌てて立ち上がり、出口に向かう。

 しかし、タバートの技の発動の方が早かった。


「【生命の血樹】。」


 タバートから滴る血が不規則に、木の枝のように伸びていく。

 リーンハルトはこの技を知っていたため避けていくが、とてもヒロタダ達の方に迎えそうにはない。


「【無効化】!」


 ヒロタダが能力を発揮することで何とか侵食は防いでいたが、どんどん枝の速度が上がっていく。ヒロタダが消耗するより先に、リーンハルトが食われる可能性の方が高かった。


 また、オレは大切な人をこの男に奪われなければならないのか。

 頭が沸騰していくような感覚だった。


 一方でヒロタダも必死に全体に能力を出すが、あまりにも攻撃の手が多すぎて3人を守る範囲ギリギリまでしか、無効化は発揮されなかった。

 基本的に彼は一撃に1回、という形でしか能力を使わなかったため、これ程速い攻撃に対し持続的に守るということはしたことがなかった。


「ヒロタダ! 頑張って!」

「ああ!」

「……。」


 フェベは劣勢であるリーンハルトとヒロタダを交互に見る。

 何とか逃げながら距離をとることができたため、ヒロタダが一瞬能力を解いた。


「リーンは……?」

「辛うじて大丈夫みたいよ。」

「……助けないと!」


 さすがにヒュドラの時とは違い、手負いの彼は明らかに押されていた。

 ヒロタダとエルナがリーンハルトの方を見たその時だった。タバートが見計ったかのように2人に向けて大樹の枝を突き刺そうと腕を振るったのだ。初めて七賢人と相対する2人にはその攻撃は速すぎた。


「避けろォ!」


 リーンハルトの悲鳴に反応できたのはフェベだけだった。

 その場に鮮血が飛び散り、身体が床に投げ出される。無情にも抜かれた大樹の枝はその者の命を奪ったことを確信したのか、みるみる小さくしぼんでいく。


 リーンハルトは息を飲んだ。

 それと同時だった。

 目の前の人間への殺意しか抱けなくなり、視界が真っ暗になったのだ。


 あの時と同じように。


「フェベ! 嫌だ、フェベ……!」

「フェベさん、僕たちを庇って……。」


 目の前の彼女の四肢は震えており、貫かれた傷からは血が止まらない。

 肺も貫通したのだろうか、ごろごろと水泡のような音もする。


「り……」


 ヒロタダがリーンハルトを呼ぼうと彼を振り返った時だった。

 先ほどのヒュドラとの戦いとは比べものにならない程の冷気が彼より放たれている。自身のことさえも容赦なく冷やしており、先ほどまであったテーブルや椅子も氷の造形と化している。


 獣のような唸り声に、白い吐息ーー。

 いつもの彼とは違う何者かがそこに居座っているようにしか見えなかった。冷気の進行を抑えようと【無効化】を発揮するが追いつかない。


「エルナ、フェベさんを連れて逃げるぞ!」

「う、リーンハルトは?」

「今のアイツはいつもと違う! 僕たちのことなんて見えてない! とにかく逃げるぞ!」


 ヒロタダはフェベを横抱きにし、エルナは必死に衣類で彼女の傷を縛る。

 その行動を起こしたあたりだろうか。とても人が鳴らすようなものとは思えない踏み込みの音が背後からした。


「これが……もしかして新人類のその先、」


 こんなものがさらなる進化と言うならば残酷すぎるではないか、ヒロタダはその言葉を呑み込んだ。


 リーンハルトの猛攻が始まる。

 タバートの攻撃は当たっていた。しかし、一切止まることなく一気にタバートに接近に彼に水の渦をぶつける。

 それはノーモーションで凍り始める。

 タバートは全身の細胞を振動させ、溶かそうと試みるが、その間に全身を氷の刺で纏ったリーンハルトが捨身で襲いかかって来る。


 まるで5年前のような高揚感に胸が躍る。


「もっとだ、もっと全力でオレを殺す気で来い。」

「……!」


 ギンと、普段は穏やかな茶色の瞳が激しい憎悪を映し出すように真っ赤に染まる。

 リーンハルトから放たれた氷の刺を己の血液から作り出した剣で叩き落とす。鋭い爪を携えたリーンハルトは刺に混ざりながら弾丸のように跳んでくる。右肩口を切るが痛みを感じていないのか、タバートの腹部を迷わず抉った。


「グッ……、オレも本気を、」


 リーンハルトと同様、己の能力を発揮しようという時だった。



「タバートさん、いつまで遊んでいるんですか? 被験体の回収はまだ?」


 リーンハルトの攻撃を避けて後方に跳ぶと、いつの間にかルリの身体を俵担ぎにした男が立っていた。


「チッ……いいところだったのによォ。」

「目的が違うでしょう? ほら、早く帰りますよ。無駄なことをする必要はありません。それに。」


 タバートを呼んだ男はちらりとリーンハルトを一瞥した。


「あんな化け物、放っておけば死にます。帰りますよ。」

「……チィ、分かったよ。」


 名残惜しそうに息子を見つめるが、男の指示に従い、ワープホールの内側に退避した。


「……少年少女、そして老婆、我が息子よ。またいつか、オレはお前達を殺しにいく。まっていろ。」


 それだけを残すと、3人は霧のように消えてしまった。

 しかし、ヒロタダとエルナはそれどころではない。敵を見失ったリーンハルトが獣のように次の標的を探しているのだ。


「リーンハルトを止めないと、凍傷で死ぬ……!」

「あたしが行く!」

「いや、僕が、」

「待ちなさ、い。」


 虫の呼吸のような、フェベの声に振り向く。

 彼女は2人が無事なことを認めると穏やかに微笑んだ。


「……エルナさん、ヒロタダさん、私の言うとおりにして、」

「……ッ、うん!」


 エルナは彼女の言葉を聞くと、とあるルートに沿って走り出す。

 それに気づいたリーンハルトは自身の周囲を凍らせていくが、ヒロタダの【無効化】により無害な水と化していく。

 エルナは、フェベが言った通りリーンハルトの懐に近づけた。そして、冷え切った彼に迷わず抱きついたのだ。


「お願い、リーンハルト! 目を覚まして! 敵はもういないのよ!」

「……ぅ、」


 小さく呻く彼をさらに強く抱きしめる。

 エルナの体も次第に冷えて、凍っていく。


「……お願い。」


 エルナが小さく呟いた時だった。

 突如辺りの氷原は進行をやめ、砕け散った。リーンハルトの膝が折れ、エルナにのしかかるように倒れ込んだ。


「……エルナ、無事か。」

「無事よ、バカ! それよりアンタは……!」

「なんとか。めっちゃくちゃ肩痛い。」


 エルナは抱きしめていた己の腕を解くと血がついていたことに驚く。

 しかし、リーンハルトは鼻血を出しており。もはや立っていることも苦しいらしく、らしくもなくエルナの肩に寄りかかっている。


「リーンハルト、フェベが……!」

「ぁ、救護班、」

「もう呼んだ! とりあえずここから出るぞ!」


 ヒロタダがフェベを、リーンハルトはエルナに支えられながら何とか外に出る。

 空間から外に出ると騒がしく特務隊の人たちの声が遠くから聞こえた。


「……エルナ、さ、」

「もう話さないで! 傷に響く!」

「いい、の、私、もう……。」

「バカ言わないでよ! 私が今時の楽しいこと教えるって言ったでしょ!」


 涙ながらに怒鳴るエルナを見て、彼女は微笑んだ。

 リーンハルトの力を借りて己の復讐は果たした。そして、次世代の大切な子達を守ることができた。久しぶりに幸福の味を感じた気がしたのだ。

 フェベが満足げに笑うとリーンハルトも力なく傍らに座り込み声をかける。


「復讐、終わったからって死ぬのは無しだぞ、生きろよ……!」

「も、いいの、私、あなた達との時間が、幸せだった。できれば、あなたにも、幸せに。娘の分まで、」

「ふざけんなよ!」

「救護班こっちです!」


 ヒロタダが手を大きく振ると何名か職員が走ってくる。


「エルナ、ドロ、とみんなと仲良く…………幸せ……。りー、…………。あとはーーーー。」


 最期の言葉をエルナにしか聞こえないような声で囁くとエルナを撫でていた手がだらりと地面に落ちた。


「やだ、フェベやだ! 死なないでよ! そんな言葉最期なんて許さない!」


 彼女はフェベの傷を押さえながら泣き叫ぶ。

 リーンハルトもボロボロと涙を零す。


 ゆっくりと、朝日が登る。

 その優しい陽が照らした彼女の表情は残酷なまでに美しく穏やかであった。

【こぼれ話】


 フェベの趣味は旅行です。

 かつては古墳や墓など閑散とした場所を見に行くことが多かったそうですが、最近は賑やかな場所も楽しかったそうです。

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