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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
3章 彼女たちは前を向く

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38.ヨコハマ賭博街 -夜明けは近い-

※残酷な描写、戦闘描写あり!

ご注意ください!

 シュウゴは壁に叩きつけられた。

 訓練の時よりも、トリッキーな動きで撹乱してくる彼に追いつけない。目では見えている、どこにセイが飛び込んできている、それは分かっている。

 でも、身体が反応しないのだ。能力を使うために文字を書いている暇がない。


「遅いんだよ!」

「!」


 手を刃にして振り下ろしてきた攻撃を間一髪避ける。

 ちょうど計算通りのところにセイが来たことを確認して足元を爆発させる。あえて書いた紙を床に捨て置き、トラップとして発動させたのだ。

 以前のシュウゴであれば爆発に巻き込まれたであろうが、身体強化により容易に避けた。


 口の中に血の味が広がる。

 シュウゴはぺっと血を吐いた。


「前のシュウゴならもう終わってたのになぁ〜。ちゃんと新人類の身体になったんだね。」

「身体強化や能力を使って馴染ませたってこと?」

「そうそう、頭いいね〜。」


 セイは、まるで遊んでいるときのように笑うが、決して同じ笑みには見えなかった。


「でも、人質にしようとしていた検体たち逃げちゃったね。残念。」


 ジロリとシュウゴのことを睨みつける。シュウゴは決して目を逸らさず、銃に手をかける。


「……でもさ、何でシュウゴはオレが全身の【変身】を使ってるって気づいたの? 検査とかでもバレなかったのに。」

「別に、最初は少しだけ能力を使ってるような、微妙な違和感があっただけ。それに普通に話している時は何も感じなかった。」

「へぇそうなんだ〜。で、確信はどこで持ったの?」

「別にセイが裏切り者とは思ってなかった。」


 へ? と彼は間抜けな顔をした。

 シュウゴは銃を彼に向けた。


「友だちを信じるのに理由は要るの? それに、もしセイが間違ったことをしたならオレは止める。」

「……オレよりも弱い癖に。」


 シュウゴの発砲をセイは容易に逃げる。

 あれだけ一緒にいたのだからセイも理解していた。シュウゴはただの弾を撃ってきているわけではない。恐らく麻酔銃を使用しているため、擦ればアウトだ。


 セイは低い姿勢でシュウゴの懐に忍び込み、刃に変えた右手を突き上げる。顎が掠ったが、シュウゴはそのままセイの腕を蹴り上げた。思わぬ反撃にセイは一撃食らうが、そのあとの至近距離の銃撃は容易に避ける。

 今度はシュウゴがセイの懐に潜る。


「【具現化】!」

「っと!」


 まさかの靴を突き抜けて刃が出てきたのだ。まるで靴の仕込みナイフではないか。しかも、セイのように顔ではなく彼は確実に回し蹴りでアキレス腱を狙ってきた。

 セイはジャンプして避けたが、上半身をバネのように使ってドロップキックをかましてくるのだ。

 思わぬ肉弾戦にセイは顔面に蹴りを食らった。

 しかし、そこで踏みとどまり、指をつたのようにしてシュウゴを絡めとろうとする。すんでのところで避けたが、次いだ拳は反応できず再び吹き飛ばされた。


「まさかこんな武闘派になってるとは。ケイあたりに習ったの? 動きがよく似て……」


 バチン、と金具が外れた音がした。

 咄嗟に音の鳴った方から風を切る音がした。

 視認より先に回避をすると矢がその場に刺さっていた。

 これは時差式のトラップ、自分が入る前にこさえたのだろうか、セイは次々と避けたが、急に後ろから首に腕を回される。


「なっ……!」

「絶対ッ、落とす……!」


 シュウゴの厄介なところは一挙一動に殺気が全くないところだ。そのため、戦場を生きてきたセイには気配が読みにくいように感じられた。

 セイはシュウゴの腕を掴み必死にもがくが、ここぞとばかりにシュウゴは筋力を上げ、腕で首を絞めてくる。

 このままでは落とされる、とセイは初めて危機感を抱いた。


「……ッ、へん、げっ!」


 飛びそうな意識の最中で肩の一部からナイフを突き出す。

 わずかに腕の力が緩んだところを見計らい、背後にいた彼を組み伏せた。

 どうやらちょうど締まっていた腕に当たったようで彼の左手が震えていた。

 2人はすぐに動き出す。シュウゴは空いた右手で銃をとり、セイは右手を刃に変化させた。


 互いの額に銃口と、切っ先を向けている状態で場は膠着した。


「……セイ、オレは引き金を引きたくない。」

「ならオレに刺されなよ。今オレたちがいるのはそういうところなんだよ!」


 シュウゴは悔しそうに下唇を噛んだ。


「どうして『Dirty』にいる? あの時、セイはうちで孤児としてAAに保護されて、特務隊に入って世界を平和にって話してたはずだ。」

「……聞いてたの? 悪趣味ー。」


 セイがシュウゴの疑問に答える時、今までにないほどに怒りを露わにしており、シュウゴもさすがに怯んでしまう。


「お前は知らないんだろう。オレの両親は特務隊の支援を行なっていたにも関わらず、特務隊の奴らに殺されたんだ。」


 目の前にある刃が震える。


「オレは特務隊に連れてかれて、研究所で何度も何度も能力実験をされて、身も心もボロボロになってたんだ。気付いたら、ウルツに保護されてたよ。『安心しろ、もう大丈夫だ。』なんて、何で自分の親を奪ってオレを殺しかけた組織のやつに言われなきゃならないんだよ!」


 セイは激昂した。

 冷静さを欠いているように見えた。


「本当はアイツを殺そうとした! でもアイツの強さは容易に分かったよ。オレじゃ殺されるって。でも、特務隊を潰したかった! そのためなら『Dirty』でもなんでも利用する!」

「……おかしい。」


 は? とセイが憎々しげにシュウゴを睨みつけた。


「特務隊の研究所からどうしてウルツさんがわざわざセイを助け出すの? 戦時中、特務隊で違法な研究が行われていたとして、そんな世論が離れるようなことをする? しかもそこにいた子どもなんか持ち帰って。」

「そんなの知るわけないでしょ。」

「いや、知るべきだ。」


 シュウゴの言いたいことは理解していた。

 しかし、何故か頭が知ることを拒否するのだ。


「うざいよほんと。君のことは友だちとして結構好きだったんだけど、それ以上口応えするなら……。」



 はっと2人は横から現れた気配に顔を上げた。

 シュウゴは銃口をセイからそちらに向けたがその隙をつかれて鳩尾に蹴りを入れられ、後方に吹き飛んだ。

 数瞬遅れてシュウゴがいたところが粉々に分解されていたことにセイは気づく。


「……早いお出ましですね、センセ?」

「お前が遅いんだ。」


 シュウゴは壁にもたれながら腹をさする。

 完全に油断しており見事に急所に入った。吐き気もする。

 声がした方を見ると、細身のスーツを着た男性がステッキを持って優雅に立っていた。装飾品をごちゃごちゃとつけており、闘うような格好ではないが、その男のひと睨みで体がすくんだのが分かった。

 呼吸が浅くなるのがわかる。先ほどから手の震えが止まらなかった。


 ふと男の手を見ると『D』の文字が刻まれているのが分かった。


「……もしかして、七賢人?」

「おやおや、怯えながらもいい観察眼を発揮するね。」


 そのように答えるということは正解だと言われているようなものだった。

 逃げなきゃ、と思うのだが、脚がもつれて動けない。

 シュウゴを見つめた男は何かを吟味するかのようにマジマジと見る。


「ふむ、体格はそれなりだが、頭脳判断能力も優れており、見目もよい。私の新しい身体として持ち帰るか?」


 その言葉を聞いた時、シュウゴは己の目を疑った。

 何故この男は自分の目の前にいるのか?

 手から目眩し用の武器を作り出した瞬間、横から強烈な衝撃が襲う。

 どうやら再びセイに派手に蹴り飛ばされたらしい。


「こんな雑魚が、先生の肉体に相応しいとお考えで?」

「相変わらず手厳しいな。なら、さっさと始末するか。」


 遠のく意識の中で、もう駄目だなと諦めた時だった。


「「シュウゴ!」」


 よく聞いた自分より年下の上司と今回の作戦のリーダーだ。

 そこで初めて震えが止まり、自身が恐怖を感じていたことを自覚した。


「セイ、お前!」

「ちょっと、アンタボロボロじゃない! それにアンタは戦争の時の、七賢人ね。」

「おや、懐かしい顔ぶれだな。」


 しかし、ヴィリは男に話すことを許さない。

 セイが目を見開き、反応に遅れた。


「お前と話すことはない! 【重力変化】!」


 地下を潰す勢いの能力が発揮されたのを最後に、シュウゴはゆっくりと目を閉じた。

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