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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
3章 彼女たちは前を向く

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37.ヨコハマ賭博街の闇 -疎雨-

「さて、まず貴女に問うわ。名は?」

「エルナ・ライシャワーよ。」

「歳は?」

「18歳、今年19歳になるわ。」

「若いのね。」


 彼女は表情1つ変えずに呟く。

 正面に座るルリを、エルナは観察する。

 身丈はおそらく自分と同じ程度、しかしながら不健康な細身であり肌は白い。黒髪をツインテールに縛っており、目元は化粧で隠してあるが濃いクマがあるようだ。そして、このやりとりに随分と慣れているようであり、動揺する様子や隙は一切ない。


「貴女は何歳?」

「25歳。動画の投稿主をしているわ。でも貴女、私と同じくらいの歳かと思ってた。」

「それは老けてるって意味?」


 エルナが問うとルリはおかしそうに笑う。

 なぜこの空気で笑えるのか、エルナには理解できなかった。


「違うわよ。貴女がこんな状況にも関わらず落ち着いているから。特務隊に入って長いの?」

「この4月からよ。というか、私が特務隊であること見抜いていたのね。どうして?」


 ルリは感心した様にほう、と息をつく。

 そして愉快そうに口角を釣り上げた。


「あなたたちの中に裏切り者がいたからだよ。セイ、って言ったかな、あの男の子。」

「は?」


 エルナの頭によぎるのは、彼と一緒に東海屋へ潜入した仲間の顔だった。


「ちょっと、冗談言わないでよ。」

「冗談じゃないよ。ふふ、一緒にいた子、死んでるかもね。」


 ルリの言葉に間違いはない。嘘をついていたら、彼女が作り出したこの部屋で、傍らに倒れた嬢のように胸を貫かれているはずだ。

 通信機の録音装置のみ起動させ、ふぅ、と一息つく。


「……アンタら『Dirty』はこの街に資金を集めに来たの?」

「そうだよ。他にも、エルナみたいな有能な子をスカウトするように、とも言われているわ。殆どいなかったけどね。貴女はどう? 『Dirty』に入らない?」

「全力で拒否するわ。あたし、今までアンタ達が起こしてきた事件見てきたけど、一般人を殺してまで新人類が優位に立つことに意味があるとは思えない。」

「殺される可能性もあるのによく堂々と言うね。」


 ますます気に入った、と彼女は言う。

 全く以って嬉しくない褒め言葉だ。


「でも、特務隊も大概なのよ。戦後世間に責められて急に今みたいな体制になったんだもの。昔は隊員の人権なんてなかった。」

「アンタも戦争に?」

「いいえ、父が殺されたのよ。仲間に、『Dirty』から逃げるときに踏み台にされたの。エルナはこれを聞いても特務隊は正義だと言える?」


 ルリは椅子にもたれかかると背伸びをしながらのんびりと語る。


「私が5歳の時、父は戦争に呼び出された。10歳の時に母の元に父が亡くなった知らせが来た。そして能力に覚醒した私は戦争に招集された。」

「15歳で……?」

「そうだよ。そして、それを聞いた母は、自殺した。父と同じ目に遭うくらいなら見たくないと。」


 戦争でそんな風に奪われる命もあるのかとエルナは内心動揺した。


「せめて『Dirty』にいる父親の仇を取ろうと決心したけどそんなの無駄だった。旧人類の同僚が、父を壁にして逃げたとまるで武勇伝のように語ったのよ。だから、この【liar dead room】で殺した。バカなのよ、命の危機に晒された途端、人って嘘をつくのよ。だから、そんな愚かな特務隊を、旧人類を根絶やしにしようとしているの。問題ある?」


 エルナは息を呑む。

 先日の、ワープホールステーションの事件のことを思い出す。

 もう何が正しいのか、分からなくなってきているのが本音だった。


『オレはお前の夢を応援するし、守るよ。』


 でも、彼の言葉は、疑いたくなかった。


「何が正義かは分からない。そんな出来事があったなら、その人のこと軽蔑する。でも、あたしはまず、仲間の、リーンハルトの言葉を信じたい。」


 それを聞いたルリは目を丸くした。

 正直怖かった上、特務隊の立場上このような発言は許されないだろう。しかし、エルナはこのことに関しては、全てのことを考慮しても、彼女に嘘をつきたくないと思ったのだ。

 彼女は、ふと目を伏せて、先程の人を殺した時の表情からは想像できないような穏やかな笑みを浮かべた。


「エルナは素敵な人と出会ったんだね。目がキラキラしてる。」

「……?」

「クリエイターはやっぱりキラキラしてないと。」


 彼女は羨ましそうに笑う。


「今は特務隊から逃げて動画投稿してるけど、結局アンチとか、自分に都合の悪い人は悪いことしか言わないんだよ。でも分かってるんだろうね、私の目がキラキラしてないこと。魅力的じゃないこと。」

「そんな言い方しないで!」


 今度はエルナが机を叩く番だった。

 しかし、何故こんなにも怒鳴ったのか、自身でも分からず辿々しくも、真っ直ぐと告げた。


「アンタの動画、いっぱい再生されてるんでしょ。それは善悪置いといてアンタに興味があるのは間違いないわよ。アンタの考えは1ミリも理解できないけど。……私は今後、声優になりたいって思ってる。数字を出すことは良くも悪くも難しいことよ。それを成したことを蔑ろにするのは、同じ発信する者としては許せないわね。」


 それにね、と告げる。


「『Dirty』のやり方はやっぱり間違ってると思う。でも、アンタらの宣戦布告の動画に需要があるというなら世間はその考え方に何らかの考えを持ってるってこと。特務隊だって今のままじゃいられない。

 でも『Dirty』のやることは私たちが必ず止める。」


「そんなの、エルナ1人でできるわけないでしょ。」

「……そうね。」


 でも、とにっと笑った。

 仲間のことを想えば、震えなんて簡単に止まるんだ。


「1人じゃない、みんなでやればできる。私は演技で、みんなはスポーツで、研究で、医学で人を救う。そして発信できるのはクリエイターの特権。だから私は世界が変わるように、人が当たり前に幸せになれる世界を願って、最後までやり抜くわ。」


「……敵わない、って初めて思った。」


 嬉しそうに笑うルリは、残り時間を見やる。

 どうやら彼女は誠実に自分に向き合い、決して嘘はつかなそうだ。

 汚いやり方で殺すのは意に反する。

 なら、少しだけ意地悪をしてやろうとほくそ笑む。


「エルナにそんなふうに言わせる言葉をあげたリーンハルトって人? その人のこと、好きなんだね。幸せにしたいくらい。」


「……は、好き?」

「そうそう。」


 自覚が無かったのか。

 みるみる顔を赤くするエルナを見て、ルリもそこで初めて気づいた。


「ぷっ、あははは!」

「笑わないで! というか、アンタはここから出て出頭してもらう! ……人を殺したって事実は変わらないんだから。」

「は? そんな嘘つきに価値を見出すの?」


 急に彼女を纏う空気が冷たくなる。

 しかし、エルナは物怖じしなかった。

 空気が張り詰める中、急に椅子の拘束が取れた。

 それと同時にエルナは臆さずにルリの手をとろうと立ち上がるが彼女は容易に避けて背後にワープホールを作り出す。


「待ちなさい!」

「……エルナはゲームに勝った。だから殺さない。私はこのままいなくなる。楽しかったよ。」

「そんなの許されるわけないでしょ! 何もしていない人の命を奪ったんだから!」


 彼女の言葉はどこまでもまっすぐだ。

 ルリがため息をついて反論しようとした時だった。



 胸を赤い槍が貫いていた。



 出血はしていないけど、確実に心臓と肺を貫かれた。

 ヒューヒューと空気が漏れる音がする。

 エルナは何もしておらず、どうやらルリの背後を見ているらしい。

 ルリも視線を自身の背後に向けた。


「いつまで遊んでるんだ……? なァ、紋付のルリ・キョウタニよォ?」

「し、七賢人……、タバート様。」


 エルナの喉がひゅっと鳴る。

 聞き間違えでなければ彼女は七賢人と言った。『Dirty』の中の最高幹部ではないか。


 タバート、と呼ばれた男の視線がこちらを向く。


 全身から汗が噴き出て膝が笑い始める。

 ひと睨みされただけでこんなにも圧されてしまうのか。


「特務隊の女か……。能力は確か【共感】だったな。この女同様死体で持ち帰るか。」


 あ、殺される。


 シンプルにそうとしか思えなかった。

 目の前のルリは恐らく生きているが、殆ど事切れているようなものだ。目が虚になっている。

 本当にさっきまで笑っていたのだろうか。

 それよりも保身だ。

 頭ではわかっているにもかかわらず足が縛られたように動かない。


「ふん、気を失わないだけマシだ。死ね。」


 男の手から赤いものが飛び出してきたのは辛うじて見えた。気づけば目をギュッと閉じていた。


「エルナ!」

「!」


 懐かしい声と同時に、誰かに無理矢理運ばれた感覚。

 そして自分がいた場所がひどくえぐれていること、誰かの腕の中にいることが理解できた。


「遅くなった、頑張ったな。」

「リーンハルト……。」


 目から涙が溢れかける。

 ああ、私はこの人が好きなのか。

 自覚と共に、安堵が心の中に広がる。


 リーンハルトは笑顔で彼女の頭を撫でるとそっと自身の背にエルナを庇う。先程の気絶した嬢の方にはヒロタダが向かってくれたようで、いよいよ腰が抜けた。

 しかし、リーンハルトは真っ直ぐに敵を見据えており、タバートと呼ばれた男は楽しそうに微笑んだ。そして、リーンハルトにふと微笑みかけたのだ。


「久しぶりだなァ。バカ息子。いい加減目は覚めたか?」

「その言葉、そっくり返すぜクソ親父!」


 タバートはルリを投げ捨て、リーンハルトも地面が割れるほどに強く踏み込んだ。

【キャラクター紹介】


タバート・ワイアット (18話より)

54歳 180cm

血液のような深紅の髪をしており好戦的な鋭い表情をしている。リーンハルトの実の父親で七賢人筆頭を務めている。

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