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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
3章 彼女たちは前を向く

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36.ヨコハマ賭博街の闇 -鬼雨-

※残酷な描写、戦闘描写あり!

ご注意ください!

「リーン! 避けろ!」


 ヒロタダの警告に咄嗟に氷を張り、直撃を避ける。

 しかし、彼は勢いよく瓦礫の山に叩きつけられた。

 正直なところ、直撃さえ免れれば最低限よかった。このキメラに関してはそれに尽きる。


「クソ、僕の能力も効かないなんて……、何なんですかアイツは? ご存知なんですよね?」

「ええ、もちろん。」


 ふと横にいたフェベに尋ね、ヒロタダは驚いた。

 あの穏やかなフェベが燃えるような憎しみの炎を瞳に宿して、あの化け物を睨み付けているではないか。

 その気迫に一気にヒロタダ頭が冷えた。


「あの化け物はね、ヒュドラというのよ。毒のある水蛇に、微生物の一種ヒドラの遺伝子を組み込んだものよ。」


 そして彼女は普段の穏やかな表情からは想像できないほどの殺気を放ちながら驚くべきことを告げたのだ。


「あのユーマニティ戦争にも存在し、私の娘を食った化け物よ……!」

「戦争で……?」


 彼女が今抱く感情の正体を知り、フェベのリアクションに納得はいったが、なぜユーマニティ戦争で使用されたキメラがここに存在するのか、その理由は全くわからなかった。


「フェベさん、オレ達はリーンハルトさんの援護をすればいいですかね?!」

「いえ、恐らく邪魔になるわ。もしくは毒を食らってオリヴィアさんの仕事を増やすことになるかもしれないわ。」


 彼女は同じくここに配属されたモニカ班の同僚に告げる。


「貴方まだ動けるなら被害者の回収に回って。私たちはリーンハルトさんが本気で戦える現場を作ってあげることが1番の仕事よ。

 あの人はモニカ隊長と同じよう、いやそれ以上の実力を持っているのだから。」

「了解です!」

「ドロシー、戦況は?」


 いつでも通信が繋がる彼女に指示を仰ぐ。


『モニカ隊長、ハーマン、ルイホァはじめRock'ns cafe では賭博街管理者の男およびムカデのキメラとの交戦が開始。避難状況6割。隊員も一部負傷あり。東海屋は潜入した2名と連絡取れず、ヴィリ局長が数隊を率いて現場に急行。本部にはヤン隊一部残留。

 LIARS CAGE の戦況が最も酷い。隊員1名および一般人2名行方不明。恐らく紋付きと接触。ヒュドラ毒による被害者は特務隊員含め38名。重軽傷者含めば80名。血清を取り寄せてるけどそれ以上被害は増やさないでほしい。』


「なら尚更一般隊員は近づけるな! ヒロタダとフェベだけでいい!」


 リーンハルトの声が聞こえた時、毒々しい色の水弾がこちらに飛んできた。


「【無効化】!」

「……ッ、」


 咄嗟に自分より前に出たフェベにかかる前に水弾は消え去った。

 見たところ、これはキメラが持っていた能力によるものらしく、他の自身らにあたらなかったものを見ると瓦礫が溶けている。


「確か水弾は溶解させる毒、皮膚毒は接触により人体に麻痺や呼吸困難を引き起こすものだったわね。」

『そう、過去のデータにもそう書かれてる。』

「とりあえず距離をとるわ。私たちは現状リーンハルトさんの足手まといよ。」

「う、はい。」


 フェベに引かれて水蛇の頭部が届かない範囲まで一度退く。

 一般隊員では1本でも押され気味なのに、リーンハルトは全て回避しきっている。しかも動きの精度は徐々に上がっているようにさえ見える。


「凄いです。でも、」

「そうね、急所はつけていないわね。恐らくーー。」


 リーンハルトが集中し切れない理由、それは十中八九エルナだ。彼女が紋付に攫われたことが彼の思考をほんの僅かに鈍らせているのだろう。


「なら、僕たちでエルナを救出しますか?」

「無理よ。彼女は今異次元にいる。その空間が分かれば貴方の【無効化】で壊せるけど、私の【千里眼】でも細かい位置までは分からない。ルイホァさんの風やリーンハルトさんの霧のように広域索敵能力が必要よ。」


 こういう時、【無効化】なぞという能力に腹が立つ。


「それにあのヒュドラの首、たぶん最初は9本あったけど10本になってますよね?」

「切断した頸から2本再生したのね。それにあの感じ、接近しすぎると空気毒にやられるわ。」


 え、とリーンハルトを見やる。

 彼は先ほどから口を開かず、息を止めたまま戦っているらしい。時折距離を置いて大きく呼吸している様子が見受けられる。


「あれって範囲は狭そうですね。」

「そうね、さっき私たちがいた範囲までは少なくとも。」


 ヒュドラの動きは速く、息を止めるというハンデを背負ったリーンハルトは直接接触することは免れているものの、時折氷越しに打撃を受けている様子が見受けられる。

 しかもあの蛇、リーンハルトに対してはほとんど水弾を使わないものだからヒロタダには出番がない。


 ふと、ヒュドラというワードについて己の雑学を思い出す。


「フェベさん、もしかしたらいい解決策があったかもしれません。ただリーンには負担になるかもしれませんが……。」

「何かしら?」


 ヒロタダが作戦を伝えると、フェベは成る程、と納得するように頷いた。



 リーンハルトは口から血を吐き出した。

 先ほどからどうしてもエルナの行方について注意が向いてしまい、反応が遅れることがあった。


 氷越しの叩きつけを3回食らっており一瞬脳震盪を起こしたため、少しばかり判断が鈍るような感覚があった。幸い溶解性の水弾はほぼ避け切っていたがジリ貧になるのは目に見えていた。


 かつて戦争で目撃された情報より、動きは段違いに速い。

 あの時も、多くの仲間や、弱っていたチームメイト、すなわちフェベの娘がこの攻撃で殺された。しかし、それでも討伐できなかったのだ。

 彼女らが負わせた傷により退避させることはできたが、あくまでもそれだけだ。


「クッソ……!」


 エルナには戦闘に関わらせる気はなかった。修行の様子を見ていて、彼女はほぼ戦闘の才能は無いことは分かっていたからだ。

 なのに、独りにしてしまった。

 焦りが判断を鈍らせる。せめてもう少しだけ、ほんの数秒だけでも動きが先に分かれば。


『リーン!』


 突然の通信にリーンハルトは僅かに肩を揺らす。

 応答する余裕はないため、大きめに呼気を行う。それを了ととったらしいヒロタダは続ける。


『今からフェベさんが頭部の動きについて指示を出す! 絶対守れ!』


 彼女の能力は【千里眼】。

 その先にもう1つ能力があると聞いている。しかし、その能力を使うと代償もあるらしいではないか。

 だが、目の前に娘の仇がいる。

 その気持ちを推し量れば、答えは簡単だ。


「頼む!」


 通信機の向こうから切り替わる音がした。


『リーンハルトさんより、方向指示! 5時上方より! 4.5秒後10時側方より!』


 後方からの頭部の打撃を避け、5時方向から来る頭部に【氷柱】を刺す。

 切ると頭部は再生してしまう。なら動きを止めるしかない。


「……あと8本と本体!」

『5時再起、上方より!』


 先ほど避けた頭部が再びリーンハルトに向かってこようとするが、彼は無駄な動きをせず叩きつけられていた状態の頭に氷を突き刺し、そのまま上方に延長する。

 そこからさらに力を込めて本体へ徐々に氷の浸食を進めていく。一度距離を取って大きく呼吸をする。


『11時より水弾、9時4時より頭部襲来!』


 三方向、リーンハルトは水弾に対しては氷の壁を張り、4時の頭部は避け、9時の頭部には氷の槍を投げつける。リーンハルトは身を翻した勢いで氷を足に纏わせて踵落としをくらわせる。

 何かが壊れるような嫌な音がしたが、そのまま4本目の頭を凍らせた。視界の端で、氷の槍により5本目も討伐したことを確認する。


 その時だった。

 本体の頭部が、恐ろしいほどの慟哭をあげたのだ。

 思わず息を吸いそうになり、咄嗟に口を塞いだ。

 しかし、本体は叫び声を上げながら本体の背から何やら色のついた煙を噴き出したのだ。


『それを吸っちゃダメ! すぐに広がるわ! 総員退避!』

「フェベさん!」


 ヒロタダは叫びながらその場にいた全員に呼びかけた彼女を支える。彼女はどうやら鼻から血を出しており、気のせいか顔色や口唇が白い。

 通信機の向こうでその声はリーンハルトにも伝わっていた。

 恐らくここから逃げようとしても煙の速度的に間に合わない。そして自分が逃げれば多くの人間が犠牲になる。


 あの時の戦争と、同じことを繰り返すのか?


「そんなこと、させねぇよ! 【水原氷化】!」


 リーンハルトの技を見た者は何人いただろうか。

 ヒロタダは目の前まで迫ってきた美しい氷原に目を見張る。一帯が水に包まれたと思いきや次の瞬間には氷原と化していたのだ。音も、何も、聞こえない。


 リーンハルトは氷原の中央で血を流していた。

 広範囲の攻撃はやはり負担がかかる。

 己ごと凍った化け物ヒュドラに視線を向ける。どうやら完全に動きは止まっているようで、毒の散布はもう収まっているようだ。


「はぁ、……ヒロタダ、フェベ、無事か? 悪い、全然制御できなかった。」

『こっちは誰も被害ない! フェベさんから、本体の頸を切って伝言だ。今からそっちに向かっていいか?』

「ああ、頼む。制御しきれなかった分、オレも氷漬けになってる。」


 通信機で驚きながらも慌ててこちらに向かう音がした。

 リーンハルトは凍っていない方の手で氷を作ると本体の細い頸をあっさりと切断した。幸いそこからも毒の散布はなく、生命維持が困難になったらしいキメラの肉体は氷の中で徐々に黒化していった。


「リーンハルト!」

「ヒロタダ、無事でよかった……。」

「1番怪我してるのお前だよバカ!」


 フェベもヒロタダに肩を借りながらリーンハルトの方へやってきた。

 ヒロタダはすぐさまリーンハルトの身体の凍った箇所を解除していく。リーンハルトかありがとう、と小さく礼を言ったことを確認するとフェベが慌てて口を開く。


「リーンハルトさん、まだ能力は使えるわね?」

「当たり前だ。どうすればいい?」

「僕にも何かできることはありませんか?」


 フェベに食い気味でリーンハルトとヒロタダが尋ねる。


「私の【千里眼】でもはっきりと場所は分からないわ。でも範囲は分かる。広範囲の索敵は可能ね?」

「ああ。」

「そして異空間を見つけたらヒロタダさんの能力で破るわ。いいわね?」

「はい!」


 リーンハルトはふぅ、と一息つくと手を横に広げる。

 先ほどからぱらぱらと降り出した雨を利用し、彼の周りを冷気が纏い、雪の結晶のようなものが周辺に漂う。

 その範囲は徐々に広がり、拡散していく。


 するとフェベはある空間を指差した。


「あそこよ!」

「はい! 【無効化】!」

「エルナ!」


 ヒロタダの能力が発揮されると、見事に空間は割れていく。

 それと同時にリーンハルトは空間に足を踏み入れたが、目の前には驚くべき人物がいたのだ。

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