35.ヨコハマ賭博街の闇 -電海-
※残酷な描写、戦闘描写あり!
ご注意ください!
「ハーマンさん!」
「大丈夫だ。ウチのは強いぞ。」
「それは知ってますけど! どうします、このムカデ!」
モニカが某電気鼠のように全身を発光させて、ムカデ達の動きを止める。そして、止まっているうちにムカデを一纏めにしてしまう。
巨大ムカデも、尾から上をぶるぶると震わせて毒肢を2人に向けて叩きつけてくる。ひょいと2人は大きく跳び避けたが、地面がえぐれているあたり、避けないと即死は免れないだろう。
「……このムカデはキメラか。なら、ムカデと一緒になっている生き物が分かればどうにかなるかもしれないな。もしくは、この群体の指令系統を壊すか、だな。」
「やっぱりこの大ムカデが本体でしょうか?!」
「さぁな。だが、大概ムカデっつーのは頭が弱点だ。もしくは洗剤とか熱湯って言うよな。」
「じゃあ頭をやりましょう!」
モニカの全身から再び発光が行われる。
ぐっと踏み込み、手に持った【雷槍】を、槍投げの要領で頭に投げつける。
さながら陸上選手のような迫力だ。
ドン、と突き刺さった音ともにムカデからあり得ないほどの悲鳴が聞こえ、胴を悶えさせる。
もちろんこのサイズのムカデが暴れているのだ。辺りの建物は崩壊し、地面にはヒビが入る。
「キャッ、」
「うお、」
2人とも辛うじて避けたが地鳴りはとてつもなく、バランスを崩し掛けた。
そして、ムカデの厄介なところは頭部を潰してもすぐに息絶えるわけではないということだ。
もちろん胴以下は縦横無尽に動き、先程傷ついた場所から小さなムカデが出てくる。
「【蜘蛛糸】!」
「キャアアアア!」
女性に襲いかかるムカデを建物に貼り付け、その女性を抱えて特務隊員の方に走る。
「総員、構えろ!」
「火炎放射器……!」
旧人類らしい特務隊員達が火炎放射器をムカデにかける。
歩脚の一部は燃えるが、しかし圧倒的な火力不足だ。
モニカはとある懸念事項が頭の中にありながらも、この手しかないのではないかと考える。
本来ならばここに炎と風の力を持つケイとルイホァ、または大量の可燃物質を生み出せるであろうシュウゴがいるべきであろう。
「ハーマンさん! 絹糸は出せますか? あと特務隊の皆さんはありったけの油を! そして戦闘員の皆さんは小さい個体を殲滅する準備をしてください!」
「出せる。オレはその後粘度の高い糸で一纏めにすればいいな?」
「はい!」
さすがに物分かりの良い人物が1人いるとかなり助かる。
モニカは高台に上り自身の体内に高い電圧を生み出す。
彼女の方からは圧を感じる。
かつてリーンハルトが山火事を消化した時のように、天候までも影響してしまうほどの強い力だ。元より出ていた雨雲からゴロゴロと雷が走る前駆のような音が聞こえてくる。
ハーマンは残された時間でありったけの絹糸と、粘度の高い糸をムカデ達に張り巡らせる。特務隊員達もモニカの指示通りムカデに油を掛けていく。
雨雲からの音がより激しくなってきた時、モニカが両腕を大きく掲げた。
「総員退避!」
ハーマンの指示を守り、隊員達は一気に掃けた。
それとほぼ同時にモニカは両腕を振り下ろした。
「【落雷】!」
彼女の合図とともにムカデに向かって稲妻が落ちた。雷鳴とともに目も開けられないほどの発光があたりを包む。
直撃が避けられなかった。さすがに機能停止したこととハーマン達が張った糸に発火したこともあり、巨体は勢いよく地面に倒れる。
これを見てリーンハルトの元同隊だった人間達はつくづく化け物揃いだと感じてしまう。
まさか自然の摂理さえ凌駕してしまうとは。
さすがのモニカも一気に使いすぎたのか、建物の上で鼻を抑えた。
「【蜘蛛糸】!」
感心しているばかりでない。
分離しかけた個体たちをハーマンは残らずまとめ上げる。さすがに追いつかないかと思いきやモニカの攻撃が十分に効果を成しており、再生が追いつかなかったらしい。
ハーマンは容易にムカデを拘束した。
だが、ムカデたちも少しばかり暴れたが、最後の一絞りだったらしい力はすぐに尽きた。
「モニカ、大丈夫か?」
「大丈夫です……。さすがに天候が味方についてくれてもあの規模の雷は厳しいですね。リーンハルトさんみたいに覚醒できれば、こんな被害も生まずに、」
この危うげな瞳、ハーマンは自身の隊長で見たことがあった。
「そうもうまくいくもんじゃないだろ。やれることをやらないとな。」
「……そうですね。」
ハーマンの手を借りて立ち上がるが、さすがに大量の鼻血に伴い目眩がした。モニカの足元は覚束ない。
早く部下の元に行かなければと思いつつぼんやりする頭をどうにか起こし、まずはこの場の取り仕切りと逃した男の追跡をせねばと隊長は前を向いた。
「しつこいガキだな。」
「あなたが止まるまで追いかけるよ!」
ルイホァは【鎌鼬】を連続で放つ。トリスタンは建物や瓦礫を上手く使いながら躱していく。決して若くはないが俊敏な男だと顔にしわを寄せた。
あまり距離を離され、現場から遠ざかると一般人を巻き込む可能性があり、また見失う確率もぐっと上がる。
ルイホァは彼の逃げ先に風の壁を生み出す。
先ほどから天候が怪しくなってきており、深夜を回った闇がさらに深くなっているようだ。
トリスタンはおっと、と足を止める。
「先回りされたか。」
「大人しく往生して。」
「ふん、往生するのは貴様の仲間かもな。」
一瞬だけ背後の轟音に注意を傾ける。
しかし、先ほどから雷鳴も聞こえている辺りモニカの存在は確実であり、彼女の実力ならキメラなど倒してくれるだろう、とルイホァはそれ以上の思考をやめる。
「それよりも、お前は永遠の命に興味はないか?」
「はあ? 何言ってるのおじさん。」
あまりにも刺々しい言い方にトリスタンは苛立ちながらも話を続けた。
「お前もまだまだガキだがあと数年経てば美しくなるだろうよ。その時に今の若さを残しておきたくないか?」
「今このタイミングで言って信じてもらえると思ってるならおじさん、大分残念だね。【暴風】!」
聞く耳を持たないらしいルイホァにトリスタンは苦笑いを浮かべつつも彼も能力を発揮した。ルイホァはトリスタンの足元に何らかの変化が生じたことはすぐに理解した。
しかし、次の瞬間彼は自分の側方への移動が完了しており、地面を大胆に抉り、【泥】を投げつけてきていたのだ。
直感的にぶつかってはいけないことは分かっていた。
だが、彼女は大技を打った後であり、風を使いつつも数瞬の遅れが生じたことは否定できなかった。
飛び散った泥が足元に当たり、爆発したのだ。
少しばかり体勢を崩したが、しょっちゅう宙に浮いている彼女にとって立て直すことは造作もないことだった。
「ほう、いい機転の持ち主だ! でも僕の【泥爆弾】の猛攻に耐えられるかな!」
恐らく腕の強化を行なっている。
ぶんぶんと振り回して次々と爆弾を放っていく。
宙に浮いたルイホァは時に風で押し返そうとしたが切断により少しでもかかると爆発してしまった。瞬時に回避に全てを集中させるが、防戦一方だ。
「雨の臭いもする……。はやく決着をつけないとこっちが不利になる!」
ルイホァは基本的に攻撃は最大の防御なり、を信条に戦う方が得意であるため、現状はあまり望ましくない状況だった。
何か打開策を、と考えている時、ふと訓練の時に交えた会話を思い出した。
『ルイホァとかリーンハルトさんはいっすよねー。天候とか環境でバフかかるんすもん。オレはデバフばっかな気がします。』
『ケイがそう言うの珍しいな?』
『この前シュウゴさんに初めて負けたんすよ! そん時にまさかの消炎剤でのフルボッコで……。』
ケイは肩を竦めた。
『でも、オレらもデバフあんぞ。例えば砂漠とか。』
『ジパングはトットリくらいですよね?! ルイホァはあんの?』
『うーん、あまりないかも?』
『だけどよ、有利にするの難しいよな。オレは水があればある程いいけど、ルイホァは気圧のこととか考えなきゃいけないし。……まぁ難しいことは他の面子に聞いてくれ。』
確かそこでリーンハルトは先輩の責務を放棄した。
その後、オリヴィアやシュウゴの博識組に聞くと2人はルイホァを置いて熱く語り出した。その時に天気の話もしていた筈だ。
今みたいな、積乱雲が立ち込めるような、まるで台風が来ているような荒々しい天気の時。
風はどのように吹く?
ルイホァは泥爆弾を避け、一度地面に足をつける。
「諦めたか?! でももう遅い、お前は殺す!」
「……風は上や横から吹くばかりじゃないよね。」
得意げに微笑んだ彼女は地を這うように自身の能力を辺りに張り巡らせる。
「なんだこの風、どこから……?」
「台風前の、【上昇気流】に気をつけてね、おじさん!」
そう言った瞬間、彼の身体は宙に浮く。
苦し紛れの【泥爆弾】は幸い直撃はしなかったが、足元に当たり、脛あたりがちりつくように痛かった。
「クソ! なんだこれ!」
「お終いだ! 【鎌鼬】!」
急所は避けたが、身体の至る場所を切られ出血する。加えてルイホァが【上昇気流】を解除して、体勢が崩れたトリスタンは地面に叩きつけられた。
「小娘だと思って舐めてるからこうなるんだよ。」
ルイホァは手早く拘束具をつけて連絡をする。
しかし、黒幕らしき男を捕まえたにも関わらず、返答が返ってきたのはハーマン達のみで、他の隊からの応答は聞こえなかった。
【こぼれ話:能力について】
モニカの能力は【雷】です。
リーンハルトの能力と似ており、雷を発することや自然発生の雷を操る力があります。神経伝達も操れるそうですがかなり繊細でモニカは苦手なようです。




