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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
3章 彼女たちは前を向く

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33.ヨコハマ賭博街の闇 -暮夜-

 潜入から2日目。

 ヤンからは、ターゲットに接近が可能であったらして良いと許可が降りた。

 夜の帳が降りてきて、街が闇に包まれていく。


「そろそろ逢引行ってきなさいな。」

「はい。」


 早々に味方にしやすい女性の付き人になれたのは運が良かった。

 しかし、シュウゴは少々困り事があった。

 完全にセイと業務を引き離されてしまい、彼が何をしているか全く把握できていなかったことだ。


 せっかく売り頭が生かしてくれた機会だと思い、ヴィリに連絡をとる。


『はい、どうしたの?』

「こちらシュウ、地下の調査開始の許可をいただきたい。」

『……分かった。以前した約束は覚えているね。』

「もちろん。」


 かつて、自宅で彼とした契約。

 それを思い返しながらシュウゴは頷いた。

 通信を切ると、預かった鍵が使用できる場所に向かう。




 モニカは鬱々としていた。

 昨日オリヴィアに色々とアドバイスを貰ったが全く活かすことができていなかった。彼女はのらりくらりと男の誘いを回避して、決して個別対応に入らなかった。


 しかし自分はなんだ。

 夜になってすぐ様、個室に連れ込まれているではないか。

 碌に恋愛もしたことがないにも関わらず、何が楽しくてこんな部屋に居なければならないのか。

 彼女は客を待ちながら絶望していた。


「はっ、いけないですね。しっかりしないと。」


 やんわり自身の頬を数度叩いた。

 失礼、と偉そうな男が入ってきた。

 モニカは笑顔を保ちつつも、背筋が凍るのを自覚する。


 なぜなら、目の前にいる男こそ、まさにこの賭博街を仕切ると噂されている名を持つ男なのだ。まさかこんな早々に出会えるとは、と思う。


「君が新人のニカちゃんか〜。会いたかったよ。」


 ああ、気持ち悪い。反吐が出そうだ。

 笑顔を貼り付けながら、顔に痣をこさえ影のようにゆらゆらと揺れる男に返事をする。

 しかし、彼は驚くべき言葉を放つ。


「どうして特務隊を辞めて、こんなお仕事についたのかなあ?」

「……。」


 なぜ自身が特務隊であることを知っているのか。

 気持ち悪い手つきで自身の肩を寄せる。


「なんで知ってるのか、って顔だね。モニカ・クルーズさん。噂通りの美人だ。僕はオリヴィアさんより君の方が好みだなぁ。さて、本題さ。」


「不老不死、には興味はないか?」


 モニカには彼の言っている意味が分からなかった。

 この男は平然と、自身の沈黙を了ととったらしくベラベラと話し始めた。


「僕の名前はトリスタン。ここらで働くような美しい女性たちに永遠の命を与えようと研究をしている。」

「……それはどのようにして与えるのですか?」

「簡単だ。それは2つ。」


 彼は得意げに指を立てる。


「1つ目は、若い人間とのキメラとなる。2つ目は、とある血清を入れる。」

「とある、血清?」

「そう、でも詳しくは君が新しい命を欲してかーー。」


 トリスタンの腹部で何かが光った。


 それと同時にモニカが小さく『モニカ班、解除』と口にした。

 部屋が光に包まれ、窓から雷が放たれる。


「……お前、僕の研究に同意したわけではないのか?」

「いつ私がそんなことを言いましたか?」


 元来タレ眉である彼女はそれを釣り上げ、憤りを隠さないまま、ドレスの裾を破る。

 もちろん下にはハーフパンツを履いている。


「それにね、私は今与えられている命を全うするので精一杯なんです。永遠の命なんてクソくらえ、ですよ。」

「ほぉ……。」


 男の背からは、ぬらりとムカデのような尾が出現した。

 それはモニカは見たことがあるものだった。

 そう、あの戦場で。

 モニカは3階から地上に降りても涼しい顔を浮かべる男を見下した。




「もう交戦に入ったのか?!」


 バタバタとキッチンを速歩きしながら予想より早い交戦合図にヒロタダは戸惑う。


「ほらアンタ! 早く働きな!」

「いや、ちょ、ママ待って!」

「やだわ、何て低い声!」


 いーやー! 不審者ー! とホールに聞こえる程の声でママが叫ぶものだからホールのウェイターや嬢もなんだなんだと物見客のようにキッチンを覗き込む。


「……何やってんだか。」

「ちょっとあなた達、こっちは上客なんだから早く見送りしてくれる?」

「あ、申し訳ありません!」


 一方でエルナは他の嬢数名と一緒に客の見送りをしていた。


 エルナがついた客は物珍しい客で、年齢はエルナより少し上くらいの女性でどうやら動画投稿主、という仕事をしているらしい。

 昔から巷では一般人が自分のチャンネルを持ち、多種多様の動画を投稿することが流行っているが、それは今でも続いている。


 同じ声優業をやる知人も確かチャンネルを立ち上げてサポーターがどうとか騒いでいた。


 エルナは無情にもヒロタダは切り捨てようと頭の片隅に彼の存在を追いやり、目の前の上客へ他の嬢とともに頭を下げる。

右隣にいた嬢が口を開く。


「本日もありがとうございました。またいらしてください。」


 その言葉を聞いた目の前の女性は、目を見開く。

 帰路につこうとしていた彼女は踵を返して、その嬢の前に立った。


「その言葉、本気で言ってる?」

「え? えぇ、もちろん。」


 その女性から放たれる圧に嬢が半歩ほど退いた瞬間だった。

 彼女が口角を吊り上げたと同時だった。


「嘘つき。」

「「「え、」」」


 その瞬間だった。

 エルナを含む、3人の姿がその場から女性とともに消えたのだ。


「ヒロがこんななら一緒にきたエルも悪い奴ね! もう! ポコスカにしてあげるわ! ちょっとぉ、みんなエルはどこ?!」


 ママが怒り心頭でホールに顔を出して辺りを見回す。

 ママの片手には一撃決められたヒロタダが無抵抗でぶら下がっていた。

 皆、ママの言葉に従ってホールにいるはずのエルナを探すが姿は見当たらない。


 同僚たちもそれに気づき辺りを見渡す。

 もちろんそこでヒロタダも気づいてママの腕から解放された。


「そういえば、ハナミとユッコもいないわ?」

「へ、そう言えばあの3人同じお客様の接客をしていたわね。……お客様もいないわ。」


 ホールがしん、と白けた時だった。


「元気な奴は全員跳べェ!!」


 リーンハルトと怒鳴り声が響く。

 もちろん、予備動作もなく、そんな声に反応できるのはヒロタダのみ。

 彼は近くにいたママを抱え込み、跳んだ。

 それと同時に床が揺れ、抉れた。


 地面を抉った正体は、恐らく大蛇だ。


「い、一体何が……? みんなぁ!」

「ママ、危ない!」


 振り下ろされる蛇の尾に【無効化】を放つ。

 しかし、尾は消えない。

 ヒロタダの動きは困惑で止まる。しかし、それを横から救ったのはフェベだ。


「アレは能力じゃないわ! 走って逃げて!」

「ハイ!」

「オリヴィア! 救助に回れ!」

『了解!』


 ヒロタダは呆然とするママを抱え込み、足場の悪い瓦礫の海を走る。

 押し潰されている彼らを通信機で連絡を受けたオリヴィアを始め、特務隊の支援員達が次々と人を救助していく。

 一方でリーンハルトは黙々と大蛇の尾を氷や水で叩き落としていく。

 あまりにも彼は相手の手の内を知っていたことに疑問を抱きながらもヒロタダは人を救う。


 救助された人の中で蛇に触れた人々はその部分から腐食したように変色していた。


「救助員、【ヒュドラ】の解毒剤を使用! 毒に侵されていない人間は至急搬送! 解毒次第、私の方へ!」

「「ハッ!」」


 オリヴィアにとっても、見たことのある状態だった。

 戦で、たくさん見た。

 だからこそ、同じ轍を踏まないとかつて堅く誓ったのだ。


「ヒロタダくん、エルナさんは?」

「さっき、上客の人を見送ってから姿が見えないんです!」


「……、【千里眼】!」


 ハッとフェベが息を呑む。

 そして交戦中のリーンハルトに向けて叫ぶ。


「エルナさんは紋付と交戦中よ!」


 リーンハルトの喉がヒュッとなった。

 ほぼ戦闘力のない彼女が紋付と。

 最悪の思考が彼の頭を巡る。


「リーン! 避けろ!」


 ハッと横から襲ってきた尾に彼は息が止まった。

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