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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
3章 彼女たちは前を向く

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31.不器用な愛情をオレは知っている

「リーンハルトさん、少しいいですか?」

「おー、いいぞー。」



 ジャージを着たシュウゴがリーンハルトとハーマンに近づいてくる。

 テストが終わり、大学院試験も終わったそうで、再びメキメキと武器やら何やらの知識をつけ始めている。加えて、先日の新人類の脳の話を聞いてからそちらについても書籍や論文を読んでいるのをよく見る。


「お前は熱心だな。相変わらず。」

「そうですか?」

「ああ、頑張るっつーのは才能だからな。」


 ハーマンにわしわしと頭を撫でられるとどことなく、落ち着かなそうであるが嬉しそうにしている。


「というかお前これだけ来ててテストとか大丈夫だったのか?」

「講義聞いてるんで大丈夫です。」

「オレも子どもにそう言ってもらいたいもんだな。」

「はー、オレもエリートコースいた時座学あったけどめちゃくちゃ苦だったわ。」


 あ、とリーンハルトは何かを思い出したかのように呟き申し訳なさそうにシュウゴに尋ねる。


「今更なんだけどよ、オレ未だシュウゴのご両親に挨拶できてないんだけど連絡こないか? 確か親父さんは創薬の分野で権威持ってる人だよな。」

「なら母さんに聞けばいいんじゃないのか?」

「母はいませんよ。だいぶ昔に離婚しているので。」

「そうなのか?」


 リーンハルトは既知の内容であったが、ハーマンは知らなかったため驚いたように聞き返した。

 しかし、シュウゴは全く悲壮感もなく平然と言ってのけた。


「あ、別にオレは悲しくはないですよ。両親が納得した上での離婚ですし、父も母もそれぞれ好きなことやってオレにも好きなことさせてくれます。

 母とはごく稀に連絡とってますし。」

「いい子だけどもう少し抵抗してくれっていう親心……。」


 頭を抱えるハーマンを見てリーンハルトは呆れた顔をしていた。


「ただ、妹はやっぱり違うみたいです。父は基本不干渉ですし、母は自分を捨てたと思っているみたいなので。

 でもーー。」



 シュウゴが言葉を紡ごうとした時、訓練室の扉が勢いよく開く。

 訓練室内にいた隊員は、ぎょっとしてそちらに視線が集まった。その騒音の主はヴィリであり、彼は表情が全く変わらないまでもあわあわと挙動不審な状態で3人に近づいてきた。



「シュウゴさん、よかった、いて。」

「何かありましたか?」

「君の妹さんとお父さんが来てるよ。」


「「はい?」」



 当の本人は目を点にしており、なぜかリーンハルトとハーマンが聞き返してしまった。










「あ、いた。お兄ちゃん。」

「シュウゴ〜! 超待ってた!」

「おお、シュウゴ。久しぶりだな。これ土産だ。」

「え、ありがとう。」



 無表情が3人揃っている。

 父親はむすっとしており、妹は少しタレ眉でホワーとしているタイプのようだが明らかに怒っている。

 セイがどうやら止めていたらしく、彼はタジタジだ。



「えっと、父のショウジ・ヒキと妹のシュカ・ヒキです。」

「貴方がリーンハルトさんですね。息子が世話になってます。ショウジ・ヒキと申します。」

「ご丁寧にありがとうございます。リーンハルト・ワイアットです。」

「私は副隊長のハーマン・フォースターです。」

「これは失礼。」


 自然な感じでハーマンに挨拶してきたものだから、一瞬皆人違いをスルーしそうになった。


「よければ会議室の方に移動しませんか? ここでは何ですし。」

「分かりました。」

「シュカは……。」

「私はこの人と同じ部屋に行かない。待ってる。」

「でもここに1人でいるのは……。」



 シュウゴが困ったような表情をすると、ヴィリとセイがこそこそと話して何やら挙手してきた。



「オレが一緒にいる!」

「僕も。」

「この2人といる。」


「……ごめん、お願いしていい?」


 シュウゴが頼むと、セイは面白そうだと言わんばかりに頷き、ヴィリは嬉しそうに頷く。












「最近はどうだ?」

「……大学院進学決まったよ。あと、学会も発表した。シュカも元気。」

「そうか。」


 シーン、と場の空気が凍る。

 シュウゴは特に気にした様子もなく、リーンハルトやハーマンに茶を進めてくる。


「というか、今日はシュカのこと話に来たんでしょ。それとオレが特務隊に入る許可したこともシュカに責められて……。」

「そうだな。」

「妹さんに?」


 彼はうん、と頷き、面倒くさそうに席を立った。


「やっぱりシュカと直接話しなよ父さん。呼んでくるから。」




 彼はあっさりと席を立って3人をその場に置いていく。リーンハルトとハーマンはどうしてくれようかと目で会話をするが話題は生まれない。

 しかし、目の前の彼はゆっくりと口を開いた。


「正直息子が席を立ってくれて助かった。」


 リーンハルトは内心で全く助かってないと呟く。しかし、その言葉でハーマンは少しばかり彼の意図するところが理解できた。


「……リーンハルトよ、たぶんシュウゴの特務隊での話を聞きたいだけだと思うぞ。」

「おっしゃる通り。」



 リーンハルトはその意図をやっと理解できた。

 ふっ、と小さく笑うと、彼はまるでシュウゴと同じように首を傾げた。



「シュウゴくんはよくやってくれてますよ。もう我々の隊には欠かせない存在です。」

「……詳しく聞かせていただけますか。」



 ああ、無表情なりにも深い愛情があるのだな、とリーンハルトはつい破顔してしまった。













「貴方達は前に自宅に来た方々ですよね。ゲーム置いて行ったのは……。」

「あ、それオレ。」


 シュウゴとよく似たジト目がセイを捉える。

 髪も兄と同じようにさらさらで瞳が少し大きく垂れているくらいの差で、兄妹の血は争えないなぁと笑う。


「シュウゴさんは、僕らの話を家でするの?」

「しますよ。……今まであまり兄の友人の話は聞いたことがなかったので驚きました。」

「へぇ、どんな話? 聞きたい!」


 シュカは思い返すかのように少し上の方を見た。



「最初は、同僚と上司が突撃してきたって話でした。」



 急遽突撃してしまった2人に罪悪感がないわけではなかった。しかし、シュカは話している時の兄の姿を思い返したのか優しく微笑んだ。



「でも、とても苦しかったけど助けてくれたと。何やかんや一緒にいるのが楽しいって、みんなの役に立ちたいって言ってました。

 同じ班の人のことも、頼りになる先輩やいい子に恵まれたって嬉しそうに話してます。……でも、だから心配だし嫌なんですよ。」


 彼女は目を伏せる。

 持て余している手を組んだり解いたりと落ち着きなく動いていた。

 それを察したセイが尋ねた。



「何が心配なの?」

「だって、役に立ちたいってことはもっと危ない所に行くってことじゃないですか。それに、殆ど家にもいないし。寂しいです。」



 震える彼女にどう声を掛けようかとセイが考えあぐねているとヴィリが淡々と口を開いた。



「……シュウゴは、もう特務隊にいてくれなきゃ困る人材。だから、譲れない。」

「おま、」

「それに頑張り屋さんだし、優しいし、今までの特務隊にはいない感じの人だから、僕は凄く好き。だから、お兄さんは絶対に死なせない。」


 ヴィリの真っ直ぐな言葉にシュカはきょとんと彼の瞳を真っ直ぐに見つめる。



「……ま、シュカちゃんの言う通りだけども。でもシュウゴなら言えば分かってくれるよ。それに父ちゃんも、そうじゃない?」

「父は……。」



 セイがシュカの頭を優しく撫でる。

 彼女の頬は薄く染まり、驚いた様子を見せた。



「大丈夫だって! だってあんな頼りになる兄ちゃんがいるんでしょ。それにシュカちゃんだって何となくシュウゴに似てる気がするから、やると決めたらやれる子な気がする!」

「……そうですか?」

「うん。な、ヴィリ。」


 彼もこくこく頷く。

 シュカにとっては兄に似ているという言葉は、ひどくくすぐったく嬉しい言葉であった。



「ちょっと、人の妹に何してるの。」

「のわっ! 急に出てこないでくれる?!」

「あれ、お兄ちゃん? ……あの人は?」

「たぶんリーンハルトさん達にオレの仕事の様子でも聞いてるんじゃない。」


 毛程も興味なさそうに言う彼にセイは苦笑する。

 しかし、シュウゴもどこか嬉しそうな、気が緩んだ雰囲気を纏っていた。



「あの人、頭いいのに異常に不器用だから。シュカのことも本当は聞きたいんだと思うよ。まぁ、急に言っても無理だろうから、結婚までに頑張ればいいんじゃない。」

「だいぶふわっとした目標期間だね。」


 ヴィリが口元に手を当ててくつくつ笑う。

 いやー? とセイは意地悪そうに笑う。


「案外早いかもしれないよー? シュウゴが鈍いだけで実は「は?」

「ちょっと食い気味で襟掴まないでくれる?」



 シュウゴはどうやら無自覚でシスコンの気もあるらしい。

 見事に地雷を踏み抜いた彼が詰め寄られている様子を見てシュカはついに噴き出した。



「いいな、お兄ちゃん。楽しそう。」

「……楽しそう? なら今度シュカさんも遊ぼう。」

「いいんですか?」



 やんややんやと揉める2人を尻目にシュカとヴィリは笑い合う。












 会議室に向かうと、どうやら3人もちょうど話の区切りだったらしく、ショウジは席を立ったところであった。



「突然押しかけて悪かったな。私はもう帰る。この後、講演会があるのでな。」

「ふうん。忙しいところありがとうね。」

「……シュカも、」


 彼は言いかけて口を噤む。

 シュカの背をシュウゴが軽く押し、セイもつんつんと肩を突く。彼女は2人の顔を見ながらももごもごと話す。



「わ、ワープホールステーションまで見送る。」

「……。」


 呆けているショウジの背をハーマンがとんとんと押す。その傍らでリーンハルトも頷いている。小さく、頼むと呟くとシュカも頷き、この場にいる4人に会釈すると2人は会議室を後にした。




「正直顔合わせたときはどんな親父さんかと思ったけどいい親父さんだな。」

「ええ、本当に不器用なだけでいい父なんですよ。絵本代わりに息子に薬学書読ませる親ですけど。」



その話を聞いていたセイは傍らでぶは! と吹き出す。リーンハルトも口を抑えて肩を震わせていた。

 ハーマンは、いまいちその光景が想像できなかったのか眉を顰めていると、シュウゴは苦笑しながら言った。



「……大丈夫です、オレはその愛情を理解していますから。」



 彼の穏やかな表情に、4人も口元を緩めたのであった。

【キャラクター紹介】


ショウジ・ヒキ

新人類 54歳 176cm

大学の理学部教授。職人肌のところがあり研究一辺倒、無口。子供の教育には基本的に手が出せないくらい不器用。2人には好きなことをやってくれればいいと思っている。


シュカ・ヒキ

新人類 18歳 156cm

栄養学部1年生。性格は基本的にシュウゴと似ているが数割増し感情表現は豊か。何も考えないと料理をし、何か考えていても料理をする。兄が大学で上京する際に一緒に着いてきてトーキョーの高校に進学している。

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