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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
3章 彼女たちは前を向く

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29.新人類の先へ

 プラント襲撃作戦は結果から言えば失敗だった。

 唯一いた職員らしき人間は、セイにワープホールを抑えられたことを知るとすぐに服毒してしまった。

 辛うじて助けたが、現在意識不明の重体だそうだ。


 任務が終わるとちょうど朝日の上っている時間だった。


 改めて集合して情報を共有するということで一時解散となった。

 午後からは同メンバーに加え、テストが終わったらしいシュウゴや参加していなかったカジェタノも集まるらしい。査定以来の大集合だ。


 ヒロタダは短時間の仮眠を済ませると起床した。


 呼び出された会議室に行くとリーンハルトが難しそうな顔をしながら、ヴィリと話している。それを離れた所から、シュウゴとセイが見ていた。



「2人は離れて何してるの?」

「ヒロタダさん。昨日はお疲れ様でした。」

「何かオレらはまだ入っちゃだめーなんていうんだよあの2人。」



 セイはつまらなそうに唇を尖らせながらぶつくさと文句を言っている。シュウゴは大して気にした素振りは見せなかった。

 ヒロタダも2人と雑談を交わしているとどうやら解決したのか、リーンハルトがどうも釈然としない様子のまま3人を呼びにきた。


 会議室の中に入ると、すでに全員が集合しており、支部長であるシノブも確かにそこにいた。相変わらず、穏やかな笑みを浮かべている。



「改めて昨夜の任務お疲れ様。

 集まった情報の解析も、ジノヴァツくんとメルシエさんが済ませてくれているから、改めて報告するよ。それを聞けば、なぜこのメンバーに招集が掛かったのか理解できると思うよ。」



 彼は目線でオリヴィアに指示を送ると彼女は恭しく一礼し、口を開く。

 目元にはクマがあり、必死に解析をした様子が窺える。



「皆さん、新人類と旧人類の相違点、具体的に脳科学の観点から、挙げることはできますか?」

「文献で新人類は大脳辺縁系に特殊なホルモンを生み出す機構があるって読んだことがあります。」



 口を開いたのはシュウゴだ。

 リーンハルト隊は特に驚くことはなかったが、他の面子は意外だったのか少し驚きを滲ませた。



「そうね、その通り。

 ……そのことと、能力に関するデータが見つかりました。」



 オリヴィアは淡々と続ける。



「どうやら、海馬の付近にごく小さな “甲状帯” というものがあるみたいで、そこから私たちは能力を生み出している。

 一般的に自身の体に影響を及ぼすいわゆる内部型は右脳に、その他外部型は左脳に存在するらしいんです。」

「それは画像とかで確認できるのかよ?」

「いいえ、脳波で取れるくらいです。今までの医学では、ノイズ波形と捉える程度ですが。」



 パウルの質問にあっさりと答える。

 現代の医学ではまだ抽出できないレベルにも関わらず、『Dirty』が情報を握っている。

 そのことは嫌な想像を掻き立てるに十分であった。


「そして、『Dirty』は僕たちの知るところより先に進んでいる。」


 ヴィリは感情の読み取れない、鋭い視線を場に注ぐ。

 この場の最年少とは思えないものだった。


「彼らは、新人類のさらにその先に進もうとしている。彼らはキメラ以外にも、能力の第二解放について研究を始めたらしいね。」

「……第二解放。」


 他の者は聞いたことがないと、目を丸くしている。

 リーンハルトの元チームメイトも、ゴーシもだ。

 しかし、リーンハルトとシノブ、ヴィリは既知の知識らしく動じる様子はない。



「……皆さんご存知の通り、僕はキメラで能力が2つあります。」

「「え?」」


 思わぬカミングアウトにヒロタダとシュウゴが惚けた声を溢す。


「でも、それは関係がないようです。僕は、あくまでも2つ。研究報告によると、解放している人間は2人。相手方、七賢人の1人と。」



 この場にいる1人の男を指さす。




「リーンハルトさん、貴方だ。」




 場が静まり返る。

 リーンハルトは、分かっていたのだろうか。

 ヒロタダが肩を叩くと、彼は小さく微笑んだ。



「確かにオレはユーマニティ戦争の最後の決戦の際に今まで感じたことのない能力を発揮しました。ただ、オレは、あの時のことを殆ど覚えていないんです。」

「……ほぉ?」


 不機嫌そうに呟くのはゴーシだ。


「……そして、恐らく第二解放に至っている七賢人とは、タバート・ワイアット。間違いなく、オレの親父です。」


 ユーマニティ戦争に参加していた人たちは気まずそうに視線を落とす。

 しかし、直接的に関わっていない者たちはヒロタダを含め、固まる。


「その時の身体状況については分かりません。ただ、目の前で、タバートに、親友が殺されて、カッとなったことしか覚えてません。

 気づけば、頭痛と吐き気と、貧血症状が出ており、周辺には氷原と、死の臭いしかありませんでした。」



 遺伝的なものが原因なのか、その感情や環境に何か誘因があったのか、定かではない。



「……その解放を行えば特務隊の戦力アップになる。それに、ヴィリのように能力を2つ使える人間が増えれば、こちらも圧倒的な力を手に入れることができるな。」

「ですが、検査を積み重ねないとはっきりと実現可能か言えません。早急な判断は難しいかと思います。」

「実験訓練とかもありだよな。」



 議論が次々と進展していく中、ヒロタダはあることを述べるべきか迷った。

 しかし、ヒロタダが決断する前に隣の青年が震える声で、異論をあげた。



「あの、みなさん。」



 少しばかり緊張しているのか。

 皆の視線が集まる。



「……さっきからヴィリさんの様子気付いてますか? 何で、実験前提でお話しされているんですか?」



 彼の真っ直ぐな視線に、皆口を噤む。

 ヴィリはシュウゴの言葉でやっと自身の顔色に気づいたらしく、はっ、と息を吐いた。


「……そうだね、ヒキくんのいう通りだ。

 この案件については、僕預かりとしよう。昨日の任務のこともあるし、今日はゆっくり休んでね。」


 シノブの声を合わせて、全員が一礼した。 




 ゴーシをのぞいて全員が部屋を出た。

 部屋を出た途端、シュウゴが全体に向けて、あの、と申し訳なさそうに話しかける。


「話の腰を折ってすみませんでした。」

「……ううん、私たちも目の前のことに夢中になり過ぎて配慮ができてなかったわ。シュウゴくんの言うことが正しかったわよ。」


 流石医者というべきか、彼女もシュウゴの言葉で冷静になったのか、眉をハの字にしていた。


「でも、何でシュウゴさんはあんな風に言ってくれたの? 僕、キメラって言ったのに。」

「え、そんなこと気にしてたの?」


 彼は、ヴィリの言葉の意味が心底理解できないらしく怪訝な表情を浮かべていた。

 そしてさも当然かのようにサラッと理由を言ってのけた。



「そんなの、友だちだからでしょ。それにオレが言わなくてもセイが言ったんじゃない?」

「なっ、バッ!」


 そのリアクションは完全に照れ隠しだ。

 他のメンバーの生温かい視線が3人に注がれる。

 セイは居心地が悪かったらしく、慌てて挨拶すると逃げるように走り去ってしまう。


「アタシも当てられちゃったし失礼するわん。良かったわね、ヴィリ。」


 直属の上司のヤンはセイのフォローに入るのだろう、彼はセイを追いかけて行った。

 ふと、ヴィリの方を見てみると彼はポロポロと涙をこぼしており、その場にいた全員はギョッとした。


「オイどーしたよ。」

「そんなに嫌だった? 本当ごめんね?」

「すみません、私たち配慮が足りなくて!」


 パウル、オリヴィア、モニカの順で慌ててヴィリに駆け寄る。上司といえど歳下の彼の涙に話を夢中で進めていたメンバーは罪悪感を抱いたのだろう。

 そっとハーマンがティッシュを渡すと彼は男らしく鼻をかみながら首を横に振った。



「僕自身も、解明には賛成でした……。

 でも、分からないけど、何でだろう。シュウゴさんの言葉を聞いたらホッとしたんです。」



 恐らく言った本人も理解していないだろう、もちろん言われた本人も。その本人はというと、驚きつつもヴィリの背を遠慮がちに摩っていた。

 しかし、周囲の人間はその理由に気づいていたに違いないだろう。皆無言でその光景を見守るに留まった。







 それからヒロタダはリーンハルトとオリヴィア、ハーマンとともにその部屋を後にした。

 シュウゴはというと、わんわん泣き始めたヴィリに離してもらえずその場に留まった。



「はぁー、反省しかないわ。」

「オレもだ。完全に『Dirty』討伐のこと考えてて配慮に欠けた。」


 リーンハルトとオリヴィアは目に見えて落ち込んでおり、同時にため息をついた。



「2人は、ヴィリがガキの頃を知ってるのか。」

「まぁ、研究施設壊した時に保護したのオレだし。

 会った時からぼーっとしてる感じで無欲だったしあまり感情を表に出す方でなかったから今回のも正直驚いた。」

「でも初対面からシュウゴには懐いてたよな。」

「それもそうね。」


 オリヴィアがはて、と首を傾げるが、ハーマンは愉快そうに笑う。


「本能で自分の面倒見てくれそうな奴見つけたんだろ。シュウゴは、またエルナとかケイ、ルイホァとは違ったタイプだが、良くも悪くも正直者だからな。」

「セイもきっとそこが気に入ってるんでしょうね。」



 ヒロタダもハーマンの言わんとしていることは十分に理解できた。

 リーンハルトとオリヴィアは無言で顔を見合わせていた。

 すると突如オリヴィアは何かを思いついたかのようによし! と頰を叩き何かを思いついたようだ。隣にいたリーンハルトはびくりと驚き、彼女をまじまじと見つめていた。



「どうしたよ……。」

「最近の私は余裕がなくて、私らしくないわ。これはね、もう行くしかないわよ!」

「え、どこにですか?」


「そんなの決まってるじゃない!」



 テンションの高低差についていけないリーンハルトとヒロタダは完全に置いてきぼりであった。

 そして彼女はにやりと悪い笑みを浮かべた。



「女性にとってはタダ飯、パーティに決まってるじゃない!」



 ふふんと鼻を鳴らす彼女に2人は相変わらずついていけず、すべてを察したらしいハーマンはため息を深くついた。

【こぼれ話】


 セイとヴィリは、エリートコース時代はヤンの援助で一緒に住んでいましたが、配属先が変わってからは一人暮らしを始めました。

 お互いに程よい距離感を保っていたため、意外と不干渉だったようです。

 仲が悪いわけではなく、ゲームをしたり一緒に勉強や訓練はしていました。


 ちなみにセイは割と問題児でしたが、ヴィリは優等生で治験も断ったことがないそうです。

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