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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
3章 彼女たちは前を向く

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28.始まりと喪失

※戦闘描写あり!注意!


 セイとハーマンはドアを蹴り破ると、それぞれ拳銃と警棒を片手に進んでいく。

 人間の気配はない。


 彼らは全力で部屋を抜けていく。


 セイは迷わず事前調査で発見された地下への出入り口を蹴破る。ハーマンは2階へと駆け上がり、屋上への鍵を銃で撃ち壊す。どうやら上階には人の気配、いや生き物の気配はなかった。

 そして、ワープホールの設置跡を見つけ、内心で舌打ちをする。おそらくここに肝心な人間たちはいない。


 一方で、セイの開いた通路には足跡を消した痕跡がある。彼は身体強化を行いながら、ヤンの作製した靴を使用してトントンと天井を伝って走っていく。

 正直なところ、同じ人とは思えなかった。



「リーンハルト。」

「ああ。」



 2人はその言葉だけで次の行動に移る。

 リーンハルトとモニカ、能力の相性がいい2人はセイに続いて侵入していく。ついでサポート系の3人が続き、しんがりをハーマンが務める。

 ハーマンは小さく通信機に囁いた。もちろん離れた所に位置した、ヴィリの率いる監査局へ、だ。



「リーンハルトさん、モニカさん、呼吸音が聞こえる。」

「ああ。」

「……ヒト、では無さそうですね。」



 この3人は夜目が利く方だ。

 ゆっくりと呼吸をする。

 3人とも足音なく奥へと侵入していく。


 シンジュクでの事件の時に見つけた研究室と似た様相だ。リーンハルトは辺りを見回しながらそう思う。


 あの時は年端もいかない少年が保管されていた。恐らく彼もキメラになる予定、はたまたすでになっており、人を犠牲にするという思考以外を持てていなかったのか。



「……懐かしいね、この感じ。オレらが収容されていた時と同じだ。」

「無駄口叩くな。」

「はいはい。」



 セイはからりと笑う。

 部屋の奥から唸り声が聞こえる。

 1、2、3……、数え切れない数がいる。

 3人ともそちらに集中する。



「セイ!」

「はい!」



 部屋の奥から金属音が聞こえた。

 恐らく1人、人間がいる。その人間の始末は、セイに任せて2人は戦闘に移る。

 リーンハルトは一気に水を押し流し、モニカは片脚をその水に突っ込むと、身体から放電した。部屋の奥からは獣の断末魔が響き渡り、次々とこちらに向けて走ってくる足音もしてきた。



「ハーマン、逃すな!」

「ああ。」



 彼は手慣れた手つきで粘着性の強い糸を発し、次々と獣を捕らえる。

 さらに漏れたものは見事にヤンが作り出した粘着性の強い床に貼り付けられており、獣たちは踠いている。



「じゃあ、ヒロタダ。やってみなさい。」

「はい。」


 キメラが、もし能力でつくられたものであればヒロタダの能力により何らかの変化が出るはず、そのように予測していた。

 しかしヒロタダが、キメラの体の一部に【無効化】を発揮しても特に変化は見られなかった。



「……効果なし、か。」

「分かっただけでも成果よん。」



 ヤンの言葉にリーンハルトは頷いた。

 作戦ではリーンハルトとモニカが始末し切れなかったキメラをハーマンが捉え、オリヴィアの能力により命を断つという手筈であった。

 しかし、一向に動かない彼女に気づき、ヒロタダは彼女を見やる。



「オリヴィアさん?」

「ッ、ごめんなさい。」



 ヒロタダの言葉に反応して彼女も駆け出す。

 先程から彼女は妙だ。その気配はどうやらリーンハルトにも伝わったようで、彼もこちらを横目で確認しながら進行していく。








 一方で、セイは1人奥に進んでいた。

 身軽な彼にとっては造作もないこと。

 先程までしていた人の気配はどうやら別の場所に行ってしまったようだ。

 隠し通路でも使用しているのか、セイがたまたま近道を通ってしまったのか、それを知るべきは今でない。



「ワープホール……。」


 セイは後方を確認する。

 どうやら他の隊員も振り切ってしまったようだ。


「……本当、忌々しくなっちゃうよねー。」


 専用の機器を繋いで行き先の確認をする。

 どうやらヨコハマに繋がっていたらしいが、つい最近切断されたようだ。

 かわいそうに、ここに最後残った職員はこれを希望にしていたのだろうが、見捨てられたのだ。

 役に立たなければ見捨てられる、どんな世の中もそんなものだ、とセイはため息をつく。


 そして、横に並ぶ失敗作たちを見る。

 幸い、ヒトはいないらしいが。



「……。」



 セイは何も言わずに機器の操作を始めた。









 リーンハルト達は、出入口のキメラを殲滅すると、人の気配がする方に向かっていた。



「んもぅ、セイったらさっさと1人で行っちゃって……。相変わらずギリギリのことしてるんだからっ!」

「多いんですか?」

「結構ね。でも確実に手柄持ち帰ってくるから他の班員も強く言えないのよ。」

「……言っていいと思うがなぁ。」



 ヤンの愚痴にパウルが呆れたように言う。

 確かに査定の感じを見ていてもそうだろう。


 最も後方を走っていたオリヴィアにふと目を向けると、彼女は何やら途中の部屋を見つめていた。ヒロタダは報告しようとしたが、ヤンとパウルがすでに離れていたため、とりあえずオリヴィアに合流した。



「どうしたんですか?」

「……、ちょっと付き合ってくれるかしら。」

「え、ちょ、ま、」



 ヒロタダの抗弁も叶わず彼女は別の通路に走っていく。

 彼女が向かった先は、壁。

 何だろうと思っていると彼女は肘鉄であっさり壁を破った。



「……隠し部屋?」

「ヒロタダくん、」



 その一言で十分だった。

 ヒロタダはできる範囲の【無効化】を行った。

 案の定、天井にカメレオンのように張り付く、ギョロ目の小柄な男がいた。いや、人と呼んでいいのだろうか、まるで異形だ。


 彼の口から放たれた鋭い舌を、オリヴィアはあっさりと避け、少しばかり沈み込むと天井に向かって跳び上がった。

 カメレオン男はすぐに避けるが、それ以上にオリヴィアが速かった。再度天井を蹴ると、そのまま着地と同時にカメレオン男を踏みつけた。


 空間に嫌な音が響く。


 カメレオン男は苦しそうに呼吸を繰り返すと次第に動きは弱々しくなり、最終的に動かなくなった。

 あたりに生物の気配はしない。

 リーンハルト達の位置も随分遠いようだ。



「オリヴィアさん、どうしてここに?」

「どうして、って言われても。勘よ。」



 彼女は手慣れた手つきで機器を操作する。

 まだ電源は生きているようで、彼女は持参したチップを挿入し、データを保存していく。



「……使い、慣れてるんですね。」

「勿論。私は昔特務隊の研究所にいて、それでリーンハルトたちと出会ったんだもの。」



 彼女は作業を終える。

 データの移行を待つ間、目を伏せて呟くように語る。



「私の始まりも、こんな所で。私の大切な人を喪ったのも、こんな所よ。」

「大切な人……?」

「ええ、婚約者よ。」



 婚約者?

 大きい声で聞き返しそうになったがすんでのところで飲み込む。



「……当時、リーンハルトと同じウルツさんの班に所属していた男性と、戦争が終わったら結婚しようって話をしていたのよ。

 でも、終戦間際に殺された。味方だと思っていた研究者と、キメラの母体となる血液を持つ男に嵌められて。」



 ぐっと彼女が強く拳を握りしめる。


 オリヴィアが、今回の戦いに、仕事をおしてまで参加した理由が分かった気がした。

 彼女は恐らく、その婚約者の仇を討とうとしている。



「忌々しいわ。特務隊の研究体系も、『Dirty』の研究所も、きっと全てあの男たちが……。」



 ぴこん、と画面からデータ移行完了の音がする。

 彼女は、ヒロタダに背を向けた状態で顔を拭うと、普段と変わりない笑みを浮かべて振り返る。



「ごめんなさい、関係ない話して。単独行動なんかして、リーンハルトに怒られてしまうわね。」

「……いえ、またいつか、話してください。仲間じゃないですか。」



 彼女は目を見開き、泣きそうな表情を浮かべたが、そのまま返事をするかのように微笑んだ。



【こぼれ話】


 オリヴィアは神経内科を専門としていますが、AAの研究所に入職するにあたって基本的に内科は概ね履修しています。

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