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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
2章 還らざる者から紡がれる

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25.マスメディアは正義か? -姉弟-

 無我夢中だった。

 目一杯足を強化させて蹴り出したら予想以上のスピードが出た。リーンハルトやケイは戦いの時、こんな世界で戦っているのかとまるで夢を見たような感覚だった。


 僕は何をしてたんだっけ。

 ああ、そうだ。

 姉さんの前に立ちはだかって、【無効化】を使った。リーンハルトは自分でどうにかできる。だから、邪魔しないように目の前に全力で【無効化】の壁を張った。

 しかし、気づいた時には視界はブラックアウトしていた。


「……タダ、おい、ヒロタダ!」

「ヒロタダ!」


 はっとヒロタダは目を開く。

 目の前には、涙をポロポロとこぼす姉と、今にも泣きそうなリーンハルトの顔があった。


「あれ、僕……。」

「良かった……。」

「ヒロタダ! 怪我は?! 頭から血が出てるけど大丈夫?!」


 言われて初めて痛みに気づく。

 どうやらずっとリーンハルトが自身の制服で抑えていてくれたらしいことに、上裸の彼を見て知った。


「お姉さん、大丈夫っすよ。額の傷はたぶんメガネの破片で切った傷だからそんなに深くない。

 ヒロタダ、他に痛いところはないか?」

「……ないかな。」


 リーンハルトが身体を起こし、大雑把にペタペタと彼の体に触れる。

 しかし、彼の足こそ真っ赤に腫れていたのだ。


「って、リーンこそ、その足!」

「ああ、2発かすって1発だけもろ被弾したんだよ。幸いちょっと痺れるくらい。大概の毒には耐性もあるし……っわ!」


 ヒロタダが飛びつく。

 ほぼ片脚で支えていたらしいリーンハルトはそのまま尻もちをついた。


「自分を蔑ろにするようなこと言うなよ。」

「……悪い。」


 リーンハルトは一瞬驚いた顔をしたが、ヒロタダの言葉を受けて嬉しそうに笑う。

 きっと痛むのだろう、背中は脂汗でベタベタだった。


「姉さんも無事で良かった。怪我もなくて……。」

「ヒロタダと、リーンハルトくんのお陰よ……。っ、貴方が飛び込んできたと思ったら、倒れて、本当撃たれてもないのに胸が裂けるかと思ったわよ。」


 リーンハルトから離れ、ゆっくりと姉を抱き締める。まさか26歳になって姉とこんな風に抱擁することになるとは予想していなかった。

 そして、出入り口の方からバタバタと騒がしい足音がする。

 敵かと思い、ヒロタダは姉を自分の背後に隠すがリーンハルトはそれを見て、ふと微笑む。


「オレがアイツを凍らせて、最後、制圧完了だって。さっきハーマンから連絡があったぞ。」

「あ、なんだ、良かった……。」


 どうやら足音は特務隊の処理班がやってきた音だったらしい。

 気絶しているローベルトの頭の氷だけ溶かし、能力無効化装置をつける。

 この機械は装着することで新人類の脳波に影響を与え、旧人類と同様のものに一時的に書き換えてしまう優れものである。しかし、いかんせん装着に時間がかかる上、無駄に大きい。


「お疲れ様でした、リーンハルト隊長、ヒロタダ殿! 処置を行いますので移動しますが、動けますか?」

「僕が連れて行きます。」

「ああ、ヒロタダに肩借りるんで、他の怪我人の方と人質の人を頼みます。」


 処理班の隊員は了解しましたと言うと一礼して、倒れているアナウンス席の男性を運び出す準備に移った。


「リーンハルトくん、今回は本当にありがとうございました。そして先日の非礼を謝らせてください。」

「も、いっすよ。今後はうちの班員に詰め寄らないでくださいね。」

「ええ、約束するわ。」


 ユイは頷く。


「あと今回の事件について、なんだけどーー。」


 ユイが紡いだ言葉にリーンハルトは驚いたような顔をした。

 しかし、彼女の言葉が余程嬉しかったのか、すぐに破顔し、首肯した。




『ついに、国際的テロ組織『Dirty』が我がエリアのテレビ局に襲来しましたが、無事特務隊員の活躍により軽傷者56名で済み、犠牲者は出ませんでした。』

『私もあの場に居合わせましたが情けないことに気絶をしてしまい……、いやぁ情けない。』


 アナウンサーの男性の言葉に出演者は笑う。

 ヒロタダとルイホァ、ハーマンは休憩室にあるテレビを見ながら、そういえばこの男の人は姉の横で倒れていた人か、と呑気に見ていた。


「……犠牲者が出てないとはいえ、特務隊の戦闘員があそこまで追い詰められるとはね。そんなに強かったのかな。」

「前線には、戦争の時に使われたらしい化け物がいたらしいからな。恐らく実力的に失敗作だろうが……。それにリーンハルトが、銃撃受けた方が驚いた。」

「人質も居ましたし、それに能力的に触れられたらアウトだったんです。

 あの状況で逆にあの怪我だけで済んでよかったです。」


 今までの『Dirty』の人間に比べて明らかに身体能力強化の速度が早かった上、能力もえげつないものだった。


「それを上回る奴が少なくとも7人はいる。しかも同等の敵も10人程度。……もっと強くならなきゃね。」


 ルイホァの言葉にヒロタダもハーマンも頷く。

 そこへ空気を読んでいるのか読んでいないのか、ひょこひょこ動くリーンハルトが呑気に入ってきた。


「よぉ〜。昨日は休めたか? お、ちょうどニュースやってるな!」

「リーンハルト! 怪我は大丈夫なの?」

「ああ、痺れの方はとれてんだけど傷がまだ完全に塞がってなくてな。

 でも、ケイやシュウゴ、エルナもすげー頑張ってくれてたし、オリヴィアや2人の活躍もさすがって感じだったな! オレも鼻が高いわ!」


 リーンハルトの素直な賛辞に、ルイホァは嬉しそうに頭を撫でられていた。

 ハーマンが椅子を出すと、礼を述べながら座りテレビに視線を戻す。


『ユイさんも昨日は人質として現場にいたそうですね。どんな特務隊員が、どのようにして助けてくれたのかお話を伺いたいですね。』


 また、とルイホァは不快そうにしかめ面を浮かべた。

 しかし、リーンハルトは穏やかな表情で見ており、ハーマンは不思議そうにしながらもテレビに視線を戻す。


『特務隊員に関しては、個人情報の保護のため詳細にはお話しできませんが、2人の隊員の方に救われました。1人は果敢に敵に向かい、1人は冷静に人質の救助を、そして私たちを助けてくれました。』

『ほう、見事なチームワークだったんですね。』


 ええ、とユイは嬉しそうに頷く。

 もっと余計なことを話すと想像していたらしいルイホァは吃驚しているらしく、ぽかんと口を半開きにしていた。


『近年では、新人類旧人類の括る方や、特務隊のやり方を嫌う人もいらっしゃいます。私もその1人でした。でも、特務隊員の1人が気絶してしまった時、自分の怪我なんて顧みずその隊員を泣きながら心配する方を見て、彼らも私たちと変わらない温かい心を持つ1人の人間なんだと思いました。私たちも、何かできることをしっかり発信していきたいですね。彼らが、平和な世界を守れるように。』

「……泣いたのか。」


 ハーマンがポツリと言うとリーンハルトはバッと顔を逸らした。

 恐らくテレビの先でここにきていないメンバーも同じことを思っていたのだろう。

 悪い顔をしたルイホァがリーンハルトの脇腹を突きながらにやにや笑う。


「リーンハルト、ヒロタダが心配すぎて泣いちゃったんだ〜。」

「うっせぇな! ああ、ちょっとだけ泣いたよ! 余裕なくて何が起きたか見てなかったんだよ!」


 首まで真っ赤にした彼は恨みがましくそこまで言うなっつったのにとぶつくさ呟いていた。

 彼からすれば個人情報を言いふらされるよりも困ることなのかもしれない。


「ふは、リーンハルト、僕が死んだと思って泣いてくれたんだな。」

「だって頭から血出してただろ! つーかメガネの破片であんな派手に血を噴き出してんじゃねーよ!」

「理不尽すぎるだろ!」


 リーンハルトの大人気ない八つ当たりにヒロタダとルイホァは爆笑しており、ハーマンも顔を逸らして肩を震わせている。

 リーンハルトは不貞腐れながらも開き直ったように呟く。


「……お前ら誰がそうなったってオレは心配して大人気なく泣くからな。だから無事でいろよ。」


 笑いをやめた3人は顔を見合わせた。

 そしてヒロタダとルイホァはリーンハルトに飛びかかり、ハーマンは歳下の上司の頭をわしわしと撫でる。


「「「了解!」」」

【こぼれ話】


 能力発動の際に技名を言う時と言わない時がありますが、基本的には言わない方が難しいと言われています。言葉にするとイメージしやすく未完成の場合は技を成功させやすいと言われています。

 一方で、頭に明確なイメージがある人の場合は言わない方が集中できるということも判明しています。


 シンプルにかっこいいから、というモチベーションに基づいた人もいます。



【こぼれ話:ローベルトについて】


 彼はかつてモデルとして働いていました。

 しかし、メディアに事実無根の不倫をでっち上げられ、家族を失いました。

 その時に勧誘を受け、人を傷つける快感や有言実行に基づく凄惨な事件を引き起こす『Dirty』に惹かれて入りました。

 戦争後期に参加しており、特務隊とも一部顔見知りです。


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