230.追憶 -伝説の班-
残酷な描写があります。ご注意ください。
あの日の任務は滞りなく終わった。それからというもの、その周辺での『Dirty』の活動は弱まっていったため、やはり七賢人は大きな力を持っていたことが窺われた。
エメリッヒは自身の能力に巻き込んでしまった班員に初めて頭を下げた。今までそんな行動を見せなかったため支部中で噂になった。
親しき仲にも礼儀あり、彼はオレに対しても頭を下げた。
「本当にごめんな。オレ、リーンの言葉聞いて目が覚めた。」
「オレこそあんな場所で説教なんか始めて悪かった。」
「いや、リーンは副班長として当然のことをしただけだろ! 確かに、特務隊員全員がオレ達みたいな戦うことに特化した人間じゃないもんな。
今思えばオレだって、パウルとかあと今回一緒になったオリヴィアさんみたいなことができるわけじゃないもんな。」
何でこんな簡単なことに気づかなかったんだろう、と彼は照れ臭そうに笑った。
たとえ親しい仲とは言えど過ちをすぐに正し、非を認めることができるのは美徳だと思ったが、フィリップ曰くオレだからできたそうだ。
ただ彼は翌日、回復したオレに頼み事をしてきたのだ。
「あのさ、オレの妙な能力、他の人には一切言わないでもらっていいかな。」
「何で? 伝えた方が作戦も立てやすいだろ?」
「でもあの能力、副作用があるんだよ。色々調べたんだけど、たぶん水中毒みたいな症状だと思う。」
彼は悩んだ様子で呟く。
「もしさ、新人類の進化に関わることならオレは前線を離れて研究施設なり病院なり行くことになるじゃん? それは嫌なんだよなぁ。」
「万が一それでエメリッヒの身体に異常があったらどうすんだよ?」
「それは大丈夫。昨日一応治療の時に検査受けたけど異常ないって。」
今では細胞の変異で確認ができることが分かっているが、それが判明したのはユーマニティ戦争に一区切りついた後の話だったため、現状では明らかになっていない。
オレは腑に落ちないと思いながらも、戦争に区切りがついたら自分から報告するという彼の言葉を信じることにした。
「分かった。約束は守る……けどもし異常があったらすぐにウルツさんとかフィリップに言うからな。もしくは他のお前を怒れる奴ら!」
「パウルもゾエもオリヴィアさんも面倒くさいから嫌だ!」
戦いの時には見られないような青い顔で即否定をした彼にオレはつい噴き出した。
以降の任務では、オリヴィアだけは欠員補充が済みすぐに抜けたもののフィリップ班は案外上手くいきそうだった。実績はエメリッヒの自信にもつながったのだろう。
確かに守りはしないが、以前のような蔑ろにする様子はなくなったため、訓練室で遠巻きに見守っていた隊員達も彼に歩み寄るようになった。
時は流れ、オレとエメリッヒは19歳となった。
戦争は終わる気配を見せず激化する一方、様々な地域でも交戦が見られるようになっていた。あの呑気そうなエリア:ジパングでも忙しいらしい、縁が続いていたハーマンに聞いた。
『Dirty』は規模を大きくしており、七賢人が台頭していることやそこに下部組織が作られ、他の新人類優位主義を掲げる組織が合流しているようだった。
しかし、特務隊も『Dirty』に弄ばれているわけではない。各地で『Dirty』の隠れ家を把握して確実に潰していった。
ただ一方でこの時、特務隊員として、新人類の人々が隊に招集されたり冤罪による特務隊員の粛清が入り、風当たりが強いのも事実だった。
そのため管理者協会は戦争を終えることを急いだ。
隊員達にもフラストレーションが溜まっていることに気づいたからだ。
「でっかくなったなリーンハルト。」
「ウルツさん、ご無沙汰してます。」
「敬語も一端に使えるようになって。」
ここ数年でやっと成長期が来たオレはかなり身長が伸びていた。しかしウルツさんにとってはいつまで経ってもオレはガキらしく頭をぽんぽんと叩かれた。
「で、本題は?」
「そう、本題な。班の再編についてだ。」
「再編?」
「ああ、本部長のシノブさんからの直々の命令だ。明後日顔合わせをするから会議室に来るように。」
「了解。」
通信機に送られてきた資料を確認してオレは頷いた。
どうやらウルツさんを隊長とした班のようだ。オレとエメリッヒ、フィリップの兄であるパウルも一緒だ。彼が副班長であるらしいが頭のキレを考えると当然だろう。そのまま他の班員の情報も目を通す。
1人目はモニカ・クルーズ。エリートコースの時に少しだけ顔を合わせたことがあった。わざわざ別支部から呼び戻すらしい。強力な【雷】を操る技術を持っているそうだ。
2人目はゾエ・ケーレマンス。確かオレと同じで初期研修のみトーキョー支部に行き、そのあとは別支部で戦っていたはず。こちらもまたエリートコースの時に顔を見たことがあった。
3人目はヤン・バーデ。兼業組では有名な人物で確か化粧品メーカーに勤める後方支援部の人間だ。噂によると独特な話し方をするそうだが詳しくは知らない。
4人目はシモン・スコグルンド。オリヴィアと婚約したと風の噂で聞いた。100人中100人が天才と認める奇人だそうだ。怪我の治療の時に何度か世話になったことがあった。
「また個性的なメンバーっすね。」
「お前も大概だぞ。そして不思議なことにシモンとエメリッヒ以外は全員同じことを言った。」
どうやら思考が同じであるらしい。オレが顔を顰めたのを見てウルツさんは笑っていた。
「どうしてこの班編成にしたか分かるか。」
「いえ全く。」
「潔いな。」
ウルツさんは苦笑いをしつつも続けた。
「私はこの戦争に一区切りつけるのにふさわしい最強のメンバーだと思ったからだ。たとえ犠牲を払ってでもこの戦争は終わらせなければならない。そうだろう?」
「当たり前じゃないですか。」
「……それができる、メンバーだ。」
ウルツさんはこの班を最強と位置付けるために選択した。その一員に組み込まれていることにオレは無意識に口角を上げながら喜んだ。
「期待しているぞ。」
「もちろん。」
それから数日後。
オレ達の初任務にして鬼神部隊と呼ばれる所以となった出来事である。オレ達はその日が初顔合わせとなった。
「やぁやぁ、ヤンさんお久しぶりです。まさか同じ班になれるとは!」
呑気にオリヴィアに案内されてやってきた方向音痴らしいシモンは部屋に入ってきた途端、一目散にヤンのもとへ歩み寄った。それを興味深そうにパウルが話しかける。
「あんら、生意気なアンタも一緒な訳?」
「何だお前ら知り合いかぁ?」
「そ〜だよ〜。昔ちょっとねぇ。」
「ちょっとねぇ、じゃないわよ!」
シモンはマイペースに笑うと次にオレ達に興味を示した。
「リーンハルトくんも久しぶり! 君はこの人たちと違ってあんまり怪我してこないから安心だよ〜。でも、一手に強い奴相手にして怪我してくるから戦い方気をつけてね!」
「一気に言うなよ……。」
シモンの語り口は何となく思考を見透かされているようでオレは少し苦手だった。それに賢いが故に情報を一気に詰め込んでくるからキャパオーバーしそうな時もある。
オレの横でエメリッヒがうんうんと頷きながら口添えをした。
「っしょ? リーンは強いんすけど無茶しすぎるところがあるっていうか〜?」
「お前が言うな。」
無茶の代表格に言われるとは心外である。
シモンは愉快そうに笑うと、気配を感じさせない独特な雰囲気を纏ったままふらりとヤンの方へ戻って行った。
ウルツさんがそこに合流するとパウルが頷き、淡々と任務の説明を始めた。
今回の任務は、『Dirty』の拠点の1つの襲撃である。噂によるとそこでは下部組織の『集い』が行われるらしく、結束を固めるために何やら集会をするらしい。
そんな手間のかかることをしているから潰されるのにと内心で思いつつも必要以上の言及はしない。
「作戦は一昨日伝達した通り、突入はD隊形、以降の隊形変更はシモンに任せる。私またはパウルの指示には緊急時だと思ってくれ。」
「「「了解。」」」
全員が頷くとウルツさんは手早く情報を共有していく。今、思えばこのウルツさんの方法がオレ達元班員の報告および指示手段になっているあたり、俺たちにとっては、いわゆるしっくりくるものになっていたのだろう。
「にしても君らと組まされるとはねぇ。」
「オレら破壊力高いし仕方ないじゃないっすか。それにウルツさんとエメリッヒの親和性は高い。音の能力はーー。」
「そういうことじゃなくてねぇ。」
作戦通りの場所についたオレはゾエと組まされていた。オレが言っていたことはどうやら的外れだったらしく素直に尋ねるとゾエはわざと不貞腐れたような表情を使った。
「君と組まされるってことは、私が君についていけるって思われてるってことでしょ? 期待が大きすぎるのよ。」
「アンタこの前単独でラボ潰してたくせによく言いますね。」
ゾエは面倒見のいい姉御肌であり、天才ではなかったがかなりの努力家、その辺の人間が易々と勝てるような人物ではない。軽薄を装ってみるも、恐らくこの班で1番真面目だったと思う。
彼女はその真面目な性格もあってか、その年のエリートコースの修了試験は主席だった上、研修も優秀、実績も十分。
ある意味でオレ達とは真逆だったとも思う。
結構心配性だったから、実際に自信がなかったのかもしれない。そんな心配する必要ない実力なのに。
「ま、憂いても仕方ないわね。」
「そっすよ。相性最高のあの2人が先陣切るんすから。」
『作戦開始まで、3分。』
2人は無駄口をやめた。
そして四肢全てに意識を巡らせ、いつでも飛び出せるように構えた。
『【診断】結果、施設はいわゆる鉄筋コンクリート、地下室あり、人数は767名、キメラ142体。新人類、旧人類混合組織。予定通りで問題ないと思います。』
シモンから連絡が入る。
彼の【診断】はエルナの【共感】に似た探知もできた。ただ、シモンに関しては正直なところ能力の全容は明かしてなかったと思うから、実際のところどんな能力だったか分からない。
『先行隊、ヤン、パウル、工作完了。』
『モニカ、シモン、待機。』
「リーンハルト、ゾエ、待機。」
『ウルツ、エメリッヒ、待機。』
『突入まで10秒前。』
カウントとともに全員が呼吸を合わせた。
ゼロ。
その言葉とともに一気に全員が動き出す。
先陣のエメリッヒは施設地面を砂と化し、それをウルツさんが一気に操る。善人も悪人も関係ない、その場にいる者全てを捉える。
そこから脱出した者を仕留めるのはオレ達の仕事だ。
「【氷像化】!」
「【共鳴音波】!」
逃げ出した人たちをオレが凍らせて、ゾエは氷に音を伝導させて気絶させる。
『掌握! 退避済み!』
その言葉とともにオレはその場に【集中豪雨】を一部に降らせる。
それと同時に、モニカが施設に向けて雷を落とす。水の染みた土壌に、ヤンが立てた避雷針がモニカの雷を導く。ヤンが準備した絶縁体の地点に移動して雷を凌いだ。
『確実に残党を狩れ!』
ウルツさんの指示で個々が動き出す。
オレも氷で刃を作り出して動く標的達を捕らえる。
どれくらい制圧したのだろう。
心が摩耗していくのを感じられなくなるほどに奪ったのではないか。同時にこの惨劇に耐えられたのはこの班にどれだけいたのか。
少なくともオレは削られた。
この事案は後にオレ達の班が伝説と呼ばれるに至る任務だった。
結果として人数は約700名、キメラ142体全てを討伐または生捕りするに至った。それは過去最高の成果だと言われたが、果たして成果と言っていいのか。
この疑問をオレは口に出すことができないまま、戦争の区切りへと向かうことになるのであった。
本章は1日おき更新になるかと思います!
最終章は毎日更新する予定です!
よろしくお願いします(о´∀`о)




