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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
12章 無効化

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221.失われる家族の繋がり -貴方へ-

戦闘描写があります。ご注意ください。

「オイ、エルナ! おろせって!」

「……。」

「聞いてんのか!」

「本気で降りたいなら降りればいい!」



 何とか現場から離れ、エルナは肩で息をしながらリーンハルトを下ろした。60kg以上ある成人男性を運んだためか息を切らしており、今にも倒れそうだ。

 さすがに彼女を置いていくわけにも行かず、リーンハルトは困り顔で彼女の傍らに立つ。


「アンタは、自分がいないとあの2人が負けちゃうって思うわけ?」

「それは思わねーけど。」

「ならいいのよ。それに、今のアンタはむしろ2人の足を引っ張る。それくらいあたしでも分かる。」

「……手厳しいな。」


 先ほどから部下達の当たりが強く彼は苦笑いするしかない。


「今のアンタがすべきことは気がかりを取っ払って、さっさと2人に合流すること。それにまさか、アンタが思いつかないなんて思わなかったけど。目撃情報の出ているタバートがお母さんのところに来てるかもしれないって思わないの?」


 余裕そうに笑っていたリーンハルトの表情が硬直する。


「『Dirty』の相手はあたし達でもできる。でも、アンタがお母さんと腹を割って話す、それはリーンハルトにしかできないことでしょ?

 アンタが、あたしに教えてくれたことでしょ。逃げるなって。」


 なら、と彼の手を握る。

 ここでエルナはやっと彼の手が酷く震え汗を掻いていることを知った。



「あたし達にもリーンハルトの背中、押させてよ。隣で支えさせてよ。仲間なんでしょ。」



 彼は数度目を瞬かせると、ハッと笑いを漏らしてエルナを真っ直ぐに見据えた。先ほどまでの迷っていた彼とは別人だった。


「……情けねぇな。」

「そんなことない。」

「そうか?」


 リーンハルトはエルナの手を握り返すと、少しばかり強引に施設の方に行き先を変えた。


「母さんに、伝える。今までの気持ち全部。伝わっても伝わらなくても。だからまた逃げようとしたら尻叩いてくれよ。」

「当たり前でしょ。」


 エルナが快諾すると、リーンハルトは微笑んだ。

 そして母親と向き合う緊張感、父親(タバート)と戦う意志を抱えたまま歩みを進めた。














 戦闘はすぐに始まった。

 ケイは目の前の影の男、ディルクと向かい合った。そしてヒロタダは見えない場所から狙撃してくる人を相手取るよう自然と役割が分かれた。

 そもそもの探知はエルナや広範囲に及ぶ攻撃のできるルイホァやトラップを仕掛けられるハーマンの得意分野である。だが、そんなことを言っている場合ではない。

 ヒロタダは自分の早期の対応がケイの戦況を有利に運ぶために必要であることをよく理解していた。


 ヒロタダも無闇矢鱈に訓練を積んでいたわけではない。皆と訓練を重ねていく上で【無効化】の操縦について学びを得ていた。


 まずはイメージ。どんな形にすれば操りやすいか。

 次に出力。シンプルに範囲が大きければそれなりに強力だ。

 最後に濃度。【無効化】をぶつけると能力は消えるのだが、濃度が変わることで僅かに消滅時間に差が生まれる。


 1つ目はシュウゴが、2つ目はルイホァが教えてくれた。

 そして3つ目はオリヴィアが教えてくれたのだ。




『大体の人たちは1つ目、2つ目までで能力の質が変わるけど私たちには濃度も1つの要因となる。色の透明度で考えるとわかりやすいかもしれないわ。私の場合は治療箇所を限ることで治癒速度を格段に向上させる、またはその逆を引き起こす。

 現状、あなたは広範囲への【無効化】が可能になっていたわね。それの応用よ。』


『なるほど。その濃度を意識的に感知できればーー。』

『そう、貴方は賢いから楽ね。私はフェベさんの件があってから修行し始めて……カジェタノさんを救うまで1年以上制御にかかったけどヒロタダくんはすぐにできるわ。』


 確かにオリヴィアの能力は再生と破壊という正反対の能力を持つため制御が難しい類のものだ。しかし、彼女が1年以上かかったものを自分がそんな易々とできるのか。


『できるわ。』


 考えが読まれたのかとヒロタダが目を見開くと彼女は愉快そうに笑った。


『それにこの技ができたなら、エルナちゃんとドロシーちゃんのように能力の組み合わせではないけど、リーンハルトやケイくんとの能力の相性は抜群に良くなる。』


 なぜなら、と彼女は続けた。











「ケイ!」

「はい!」


 ヒロタダは広範囲、まず半径50mに薄く能力(むこうか)を使う。

 その間、ケイは能力を使えないため、ディルクに一気に接近し、拳を振るう。


「ほぉ、君の能力ごと私の能力も消しますか。果たしてそれがいつまでもつか……。」


 ケイは咄嗟に光る刃を避ける。

 刃の先からは何やら液体が滴っており、素人目にも誤っても触れてはいけないものだと容易に分かる。


「私がなぜ紋付の中でも七賢人に近いと謳われるかをご存知ですか?」

「……ご存じないっすよ。」


「それは、最もターゲットを抹殺することに優れているから。」



 パァン、と発砲音がその場に響いた。



 しかし、銃弾はケイには届かず、ディルクは目を見開く。

 ケイは普段は使わない武器を取り出していた。それはハーマンが扱いを得意とする警棒である。


「ターゲットを殺せる? 殺せることを誇って何になる? オレは易々と殺されるほど呑気に特務隊やってねぇよ。」

「……ほぉ。」


 目の前の青年はいつの間にかハーマンに習ったらしい武器で銃弾を叩き落としたようだ。ディルクは面白いと言わんばかりににやりと笑みを浮かべた。


 一方でヒロタダも【無効化】によるもう1人の見えない敵の居場所を探知した。

 相手は【矢】を操る新人類、先ほどからヒロタダの能力効果範囲の穴を探すように軌道を変えて放ってくる。その分、ヒロタダの【無効化】の濃度を薄めるだけでその人物の場所を特定する手立てになる。


「……見つけた。」



 ヒロタダはその方向に迷いなく走り出す。

 もちろん【矢】を放っていた男は慄く。ヒロタダの能力が【無効化】であることは組織の中で共有されていたことだったが、ここまで広範囲に持続的に発動できることは知らなかった。

 加えてリーンハルト班の中で近接の戦闘を不得意とする人間とも聞いていたため不意の接近に能力を暴発させる。


 この男、紋付ではなくただの組織員であるため戦闘経験は浅かった。

 そんな人間が、急に敵が情報と違う動きをしたら柔軟な対応ができるわけなかった。


「うっわああああ!」

「逃げるな!」


 言っても無駄だと思ったが、つい口に出てしまったのだ。

 男はパニックになって銃を乱射してきた。一撃は眼鏡に、もう1発は腹に当たったがヒロタダも同時に引金を引いていた。

 男の足に銃撃は当たり膝を折った。地面に手足をつきながらヒロタダに視線をやった。


 当たったはずなのになぜ平然と動いているのだと。


 昂った感情は能力の暴発を招く。

 しかし、ヒロタダの前では無意味だ。



「【無効化】!」



 男の身の回りに浮かんだ矢は一瞬で消失した。

 今まで全方向に放っていた能力を一極集中したのだ。ヒロタダ自身も驚く速度で沈静化されたのだ。


「……なん、」

「遅い!」


 ヒロタダは身体強化を使うと一瞬で背後に回り、男を締め上げた。彼はうめき声をあげると意識を失い、身体を弛緩させた。

 ヒロタダはため息とともに一度男を地面に寝かせると壊れた眼鏡をスペアに変え、防弾チョッキの傷を確認する。


 普段、優れた隊員達に揉まれているのだ。班の中では戦闘が苦手な部類でも、他の隊員より場数は踏んでいる。

 ヒロタダが拘束具を手にするとちょうど炎の柱が見えた。






 数分前。

 ケイは、ヒロタダの新しい技を知っていた。

 だからこそ、ずっと能力を使っていた。かつてだったら、肉弾戦を伴いながら持続的に微弱な炎を出し続けることはできなかったかもしれない。

 しかし、リーンハルトお墨付きの天才は、リーンハルトの助言1つ、ヒロタダの提案1つで可能となった。




 そして彼は直近に敗北を喫していた。

 その相手はシュウゴだった。リハビリ明けにプールの浮島で戦ったのだが、彼の能力は凄まじかった。

 アドルフとの戦いを経て彼の身体は明らかに変化を見せていた。


『クッソ、シュウゴさんその能力の発動速度反則じゃないっすか!』

『反則じゃないよ。それにケイならすぐできる。イメージとのすり合わせが足りてないだけだから。』


 彼は加えてヒロタダからケイがその技術を持っているということを聞いたなどと言う。少しばかり考える様子を見せるとある練習方法を提案してきたのだ。

 それはあまりにもシンプルで簡単なもの。


 だが、ケイの能力の精密さを上げるにはもってこいだった。


 ちなみにその直後シュウゴはプールに吹き飛ばされて呆然としながら浮かんでいたところ他の隊員に溺れたと勘違いされてちょっとした騒ぎになったそうだ。




 ケイは視界の端でヒロタダがもう1人の男の場所を特定して向かう姿を捉えていた。

 もう少し、もう少し。

 皮膚からチリ、と火が溢れる。


「【炎柱】!」

「……【影飲み】!」


 ケイの方が速かった。

 恐らく影に飲み込まれるものであったが、ケイの炎により影の向きは変わる。そのまま、ケイは【黒炎狼】を発動する。


「【影手】!」


 目の前に立ちはだかる赤い炎のせいで飲み込む技は使えない。そのため、影から立体物を生み出す作戦に変えたらしい。


 だが、ケイには無駄だ。

 彼の炎もまた能力を焼き尽くす。

 生み出された狼は次々とその手を引きちぎるように噛み捨てる。



 知らない、知らない。



 確かに筆頭の息子はバケモノみたいな人間だと聞いていた。他にも覚醒した人間は2人いると聞いていた。

 1人はアドルフ様を討ったキレ者だと聞いた。

 だから、筆頭に頼まれた『新人類の先』に行った人間を殺すなら腑抜けた息子か未だ七賢人を倒せていないこの青年だと思っていた。


 だが、それは間違いだ。


 この青年は七賢人を倒せていないわけではない。たまたま出会してないから、倒していなかっただけなのだ。

 この男は3人の中でも、最も能力に長けた男だ。



「焼き尽くせ、【黒炎狼】!」



 生命を持たないはずの炎の狼がまるで遠吠えをするかのように天を仰いだ後、一気に加速してディルクに襲いかかる。

 ディルクには奥の手があった。大丈夫だと信じ込んでいたが、ケイはさらに上を行く。


「お前が自分の影で自分を守ってること、見抜いてねーと思ったか!」

「……ッ、」


 自分の身に纏っていた【影】の鎧が焼かれた。

 そして目の前には獣。

 『Dirty』は何てバケモノを目覚めさせてしまったのか。


 そう思った時にはもう遅い。腹部にケイの蹴りが既に入っており、急な嘔気に加え意識が遠のく。

 ディルクは呆気なく膝を折った。ケイはそれを見て鼻を鳴らした。



「ケイ、終わったのか! ケガは?」

「ありませんよ。ヒロタダさんの【無効化】の切り替えのタイミング最高でした。」

「ほ〜、にしても無傷か。……すごいな。」

「この前のシュウゴさんとの練習のおかげっすよ!」


 そんな風にあっさりと言えてしまうセンスにヒロタダは頼もしく思いつつ、口元を緩めながら倒した男を地面に寝かせて、引き渡すべく現地隊員に連絡を入れた。


【こぼれ話】

 ケイの炎に狼のイメージが使われやすいのは彼が幼い頃身近に狼がいたからです。

 新人類のように狼は能力を発現した経緯があるため、エリートコースの授業のために狼が飼われていました。その子がたまたま【炎】使いであり、幼い彼はリタイアする前に仲良くしていたため無意識のうちにその子をイメージするそうです。

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