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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
2章 還らざる者から紡がれる

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21. 人が幸せになる理由

※軽い戦闘描写があります

「エルナ。」

「あっ、シュウゴ。アンタ、元気そうね。」

「ん。心配かけたね。」


 廊下で出会した彼は、いつもの無表情を貼り付けたままエルナの方にやってきた。梅雨も間近、エルナの長い亜麻色の髪はあっちこっち向いているのに彼の髪は相変わらず真っ直ぐだ。

 最初の研修の時は面倒そうな男がチームメイトになるものだと思っていたが、案外彼はまともな人間だったなぁ、と思考を巡らせているとマイペースに青年は口を開く。


「エルナはリーンハルトさんを探してるの?」

「なっ、なんでアイツなんかを?!」


 ついパチンと手を出してしまう。


 実際、図星であったのだ。

 先日の事件があってから、もっと広範囲をもっと精密に感知できるようになりたいと彼女は願った。

 しかし、1人での修行は限界があったため、再びフェベに修行をつけてもらえるよう、リーンハルトに了承を得にきたのだ。

 無意味に叩かれたことが不服らしい彼は少しばかりぶすくれていたが、照れ隠しと理解しており抗議を諦めたようだ。


「……まぁ別に誰でもいいけど。仕事の方は?」

「順調よ。この前はオーディションも通ってモブ役だけど役ももらえたのよ。」

「そっか、良かったね。ちなみにリーンハルトさんは訓練室にいるよ。」


 それだけを言い残すと、彼は2撃目を食らわないようさっさと退散してしまう。荷物を見た感じ、この後大学に向かうのだろう。彼も忙しそうだとエルナは感心した。


 ひょっこりと顔を出すと、リーンハルトは真剣な顔で他の隊員と組手をしている。

 1対3であるにも関わらずリーンハルトには余裕があるように見えた。さすがだなぁと思い、惚けて見ていると急に背後に気配がやってきた。


『何してるの?』

「ふあっ!」


 振り向くと、査定の時に相見えたドロシーがパソコンを首から下げて立っていた。


「ちょちょちょっと、ね! リーンハルトに用があったのよ。」

『ふーん、もう少しで組手は終わるよ。』


 尋ねたにも関わらず彼女は興味なさげにエルナの隣に腰掛けた。

 彼女の意図が分からず無言で戸惑っていると、ドロシーが不意に口を開いた。


『……どうして、エルナは特務隊に入ったの?』

「どうして、って……。召集されたから、だけど。」

『辞めたいって思わない訳?』


 何となく言葉の端々に刺を感じたがぐっと堪えた。なぜ深く関わっていない彼女にそのように言われなければならないのかと思いつつも答える。


「正直訓練も、人が傷つくのを見るのも嫌だけど。でも、あたしの能力で誰かを救えるって、リーンハルトが教えてくれたから、私はその期待に応えたいだけ。」

『随分と楽観的なんだね。あ、リーンハルト訓練終わったみたいだよ。』


 言い返そうとしたが、彼の訓練が終わったということに釣られてこちらに向かってくるリーンハルトに気を取られた。

 しかし次の瞬間にはすでに彼女は席を外してしまっていた。


「悪かったな、待たせて! 誰かといたのか?」

「いや、その、この前の査定の時にいたドロシーって子と。」

「ドロシー? ああ……。」


 意味ありげな間をとったが彼は特に言及することなく話を続ける。


「で、本題は?」

「また訓練をフェベにつけてほしくて。」

「ああ、そうなのか。たぶん別の訓練室にいるから行ってみるか。」


 共に戦闘訓練を行なっていた面子に挨拶を交えると、タオルと上着を持ってこちらに駆け寄ってきた。

 そういえば彼はなぜ特務隊にいるのだろうか。


「リーンハルト、差し支えなければ教えてほしいんだけど。」

「何だ?」


「どうして、リーンハルトは特務隊にいるの?」


 彼が目を見開いた。

 聞いてはいけないことであったろうか、やっぱりいいと断りを入れようとしたが、僅差でリーンハルトの返答の方が速かった。


「オレはガキの頃、紛争地帯の村に住んでてな。両親は生きてるんだけど……、まぁ色々あって特務隊の、ウルツさんに拾われたのがきっかけかな。毎日、人が死ぬのを見て、自分も戦って傷ついて、仲間もいたけど亡くなった人も多い。だから、オレはその戦争の中核にいた『Dirty』を潰すためにここにいる。オレと同じ人間を作らないため、終わらないものを終わらせるため。」

「……なら、戦争が終わったらリーンハルトは幸せになれるの?」


 無意識に出た言葉に慌てて彼女は口を閉ざした。先ほどからなぜ自分は彼の地雷を踏み抜いているのだろうと、安直さが嫌になる。

 しかし、リーンハルトは予想に反して、笑顔を見せた。


「オレは今でも十分だけど。本当の意味で戦争が終わったら、どうだろうな。考えたことなかった。」


 それほどまでに夢中になって特務隊の仕事に向き合う彼はどれだけ壮絶な理由をもってここにいるのだろうか。自身が救える数なんてちっぽけでこの男の期待に応えるなどといった理由はもしや浅はかな者ではないかと思ってしまう。

 話しているうちにフェベが鍛錬を積んでいる部屋に辿り着いた。

 扉をノックすると、柔和な笑みを浮かべたフェベがどうぞと中に招く。


「熱心ね、また来てくれて嬉しいわ。」

「はい……。」


 何となくキレのない返事をするエルナにリーンハルトもフェベも違和感を覚える。2人は話していたがエルナの耳には入ってこなかった。

 その時、通信機から3人の元に任務の連絡が入った。


「ワープホールでのテロ未遂、か。オレ隠密苦手なんだけどな。」

「まぁ連絡が来たってことは貴方が望ましいってことなんだから行きましょう。」

「はいよ。エルナもいくぞ。」

「あ、うん。」


 それから3人は制服に身を包み、アイパッチを装着して公共のワープホールステーションにやってきた。

 ここは一般の人間が、各地各エリアに行くための、所謂空港のような所であり、切符を買えば誰でも利用できる。

 そこに爆発物や危険物を持ち込むテロリストは定期的に現れるため、今回のように特務隊の人間が呼ばれることは少なくない。


「実はゲートでの持ち物検査で対象が3名引っ掛かったのですが、1名を尋問している間に2名に逃げられまして。」

「そんな易々と逃すなんて何してるんですか。」


 呆れたように正論で切り裂くリーンハルトに職員の男性は弱った顔をする。


「どうやら1人は【透過】、1人は【誘惑】の能力の持ち主だったらしく残った1人が誘惑している間に残りの2人が逃げたそうなんです。」

「……まぁ厄介な能力に間違いはないが、少しシステムも見直しが必要だな。」

「それで、私とフェベの能力で追跡するってわけね。」


 男性はしおしおとお願いしますと頭を下げる。

 フェベが【千里眼】により追跡を行うためリーンハルトとともに犯人の特徴を聞く傍ら、エルナは彼らが触れた場所に同じように触れて能力を発動する。


 彼らの記憶が流れてくる。

 男の1人は毒々しい色をしたボールのようなものを持っていた。


『アイツらの仇をとるには特務隊にテロを仕掛けるしかねぇ。幸い協力も爆弾も得られた。』

『でも1番打撃が与えられるところはどこだ?』

『特務隊が困るのは一般市民が死ぬことだろ。幸いこのエリアの人間共は平和ボケしてやがる。最近はエリア:アメリカ方面が旅行に人気らしいからそこを狙おう。』


「リーンハルト、フェベ! たぶんアメリカ行きのステーションにいるわ! テロに使用するのは紫の、ボールみたいな爆弾みたいなやつ!」

「……最新式の封入型弾ね。」


 封入型弾、フェベが放った聞き覚えのない単語にエルナが首を傾げるとリーンハルトが説明を加えた。


「爆弾といえば爆弾なんだが、小型の割に威力も相当、それに加えて人の能力を記憶できるんだ。」

「能力の記憶?」

「例えばこの爆弾を組み立て時に、ケイが炎を込めておけば爆発した時に黒い炎を噴く。ルイホァ風をこめておけば爆発と同時にかまいたちが出現、て感じだな。」


 能力次第ではかなりの被害になる可能性がある。

 想像して青くなるエルナにフェベが安心させるような穏やかな声で告げた。


「でも無敵な武器ではないのよ。

 起動には10分かかる上、正しい分解の仕方をすれば何事もないガラクタに過ぎないわ。」

「幸いオレとフェベ、どっちも分解できるから問題ない。なら、アメリカ行きのステーションで特徴に沿った人間を、フェベの【千里眼】で探すぞ。」


 2人はリーンハルトの指示に従い、場所を移動した。移動する合間に彼は職員に指示を飛ばし、相手を警戒させない程度に配備していく。


「凄いわよね、彼、若いのに。……特務隊でなくても生きる道はあるのに。」


 勿体無いと呟く。

 確かに先ほどの会話を思い出すと彼はただ他の道を知らないようにも思えた。しかし、エルナが思うところははっきりと口にできないが、異なるものであった。


「さて、そろそろね。」


 現場に近づくとフェベは能力を発動させた。

 すぐに彼女は顔を上げてリーンハルトに耳打ちした。通信機に向かって警備員の招集を掛けると、すぐさま彼は男2人に向かっていった。

 男たちはギリギリまでリーンハルトの存在に気づかなかったが、その姿を認めると脱兎の如く逃げ出した。


「逃すかよ!」


 リーンハルトはリミッターを外し一気に加速すると肘鉄一撃を頚部に的確に入れた。


「フェベ!」

「あっちよ!」


 フェベはリーンハルトがのした男を組み敷くともう1人の男が向かった先を指差す。彼も追い詰められたことはすぐに分かったらしく躊躇いがちに爆弾を振りかざす。


 だが、エルナには分かっていた。

 リーンハルトが目視できた時点で、躊躇っていたら遅いのだと。


 彼女の見立て通り、リーンハルトが放った氷は男を捕らえる。あたりからは一般人の悲鳴があがったが、そこは警備員や駅員がうまく捌いてくれた。

 リーンハルトに爆弾を没収され組み伏せられている男はまさに八つ当たりと言わんばかりに暴言を吐く。


「クソ! クソ! 何でお前みたいな男が特務隊にいやがる! いいよな、お前は特務隊に入れただけで人を傷つけ放題、大義名分の元人を殺せるもんな!」


 その言葉にリーンハルトは眉をひそめる。

 彼は決して私利私欲のために人を殺めたことはなかったが、殺めた経験は否定できないものだったからだ。


「貴方、自分を棚に上げて何を言っているのか分かっているの? 思い違いも甚だしいわ。」

「うるさい! オレたちの親友は冤罪で特務隊員に殺された! でも戦争中だったから有耶無耶にされたんだよ! そんなクソみたいな奴らが幸せになんかなれると思うなよ!」


 その言葉に、リーンハルトだけでなくフェベも一瞬動きを止めた。

 唯一動いたのはエルナだった。

 彼女は躊躇なく男の頬を引っ叩いたのだ。


「何し「いい加減にして!」


 エルナの顔を見た男は言葉を失う。

 彼女の大きな瞳からはボロボロと涙がとめどなく溢れているのだ。


「確かに貴方達は大切な人を失って悲しいと思うし、その特務隊員は許せない!

 でも、その当事者でもないリーンハルトを貶めるのは筋違いだし、何も関係ない人を爆弾で殺す理由が正当化されるわけがないじゃない!」


 エルナの言葉に返すことができなかったらしい彼は悔しそうに下唇を噛む。


「アンタが同じことを繰り返すなら、私たちが何度でも止める。喪った友人と同じように、リーンハルトにも、私にも、アンタにも幸せになる権利は幾らでもある。アンタが奪うっていうなら私がリーンハルトを幸せにしてみせるんだから。」


「……熱烈な言葉ね。」


 フェベの茶々入れにエルナは自身の言葉が恥ずかしくなり顔を真っ赤にする。

 男を捕らえているリーンハルトは惚けていたが、はっとして男に語りかける。


「起訴できるかは分からねぇけど、もしそれが事実ならその隊員には処分が下されるはずだ。それはオレが掛け合う。そこからはアンタ次第だ。武力じゃなくて言葉で戦え。」


 穏やかに語りかけるリーンハルトの言葉が止めになったのか、男も号泣しながら項垂れていた。




 それからの事後処理は警察に任された。

 今回は怪我人が出なかったことに安堵する。

 リーンハルトが警察に引き継いでいる間、フェベと待合席で飲み物を飲みながら待っていた。


「お手柄だったわね、エルナさん。」

「私はそんな、何もしてないわよ。」

「いいえ、貴方は犯人の心を救ったわ。」


 湯気の出る紅茶は季節に似合わないがどこか心地の良いものであった。


「幸せになっていい、ってなかなか言えることでないし、言われると嬉しいものよ。」

「そういうもの?」

「ええ、リーンハルトさんも嬉しかったと思うわ。」

「やめてよ〜。」


 先ほどの羞恥が再び湧き上がり、顔が紅潮する。

 その様子を微笑ましげに彼女は見つめる。

 そして、ゆっくりと語り始める。


「知ってるかもしれないけど、私の娘はかつて特務隊でリーンハルトさんと同じ班に所属していたわ。でも、ユーマニティ戦争最後の決戦で亡くなった。『Dirty』が作り出した化け物達によって、殺されてね。」


 彼女は血が滲むほどに拳を強く握り込む。

 つまりはリーンハルトも仲間を喪った、ということだ。

 エルナには掛ける言葉が見つからなかった。


「私は、あの子に幸せになってほしかった。あの子を喪って、私の時は止まってしまった。その化け物を殺すためだけに、私は特務隊に所属して、毎日を過ごしていたわ。」


 でもね、と続ける。


「戦争が終わった後からみんな変わってない、けど変わりはじめている。

 そんな姿を見て、私はどうすればいいのか分からなくなることがあるの。……ねぇ、エルナさん。」

「うん。」


 エルナはそっと彼女の手をとる。

 優しく、彼女はエルナを見つめてくる。


「私は、いつか幸せになれるかしら。」


 エルナは大きく、ゆっくりと頷いた。


「なれるわ。

 復讐をやめて、なんてことは言えないけど。

 誰にだって幸せになる権利はあるもの。フェベがいいなら、私がいっぱい今時の楽しいこと教えてあげるんだから。」

「私、おばさん通り越して、能力の作用でお婆さんなのよ。ついていけるかしら。」

「そんなの関係ないでしょ!」


 憤るエルナに、フェベは笑うと頷いた。


「そうね、もう少し若作り頑張ろうかしら。」

「もう! そういうこと言わないでよ!」

「おー、待たせたな。」


 リーンハルトは途中から2人のやりとりを聞いていたのか機嫌良さそうに顔を出した。


 既に時間は夕刻を回っていたため、訓練は後日となり、その日は解散となったが、リーンハルトがエルナを捕まえて送ると言い出した。

 正直気疲れしていたためその申し出はありがたかった。


「アンタ、バイク乗るの。」

「オレの愛車! この前ヒロタダとも出かけたぜ。」


 ほら、と渡されたヘルメットを受け取り着用する。

 彼の指示に従い、後部座席に腰をかける。


「なぁ、エルナ。今日はありがとな。」

「へ?」

「お前の言葉、すげー嬉しかった。」


 へにゃりと無防備に笑う初めて見る種類の笑顔に一気に頰が熱くなる。

 別に、と可愛くない返事をすると、それを見越していたのかリーンハルトはいつもの豪快な笑い方をしながらエンジンをかけた。


「……幸せになる権利は誰にでもある、か。」


 ポツリとこぼした言葉はエンジンの音にかき消され、決して誰かに届くことはなく消え去った。

【こぼれ話:能力について】


 フェベの能力は【千里眼】です。

 ある一定の距離までもしくは触れことのあるものの場所や周辺状況を見通すことができます。

 もう1つ効果がありますが、その能力を使うことにより老化スピードが上がるという弱点があります。



【こぼれ話:フェベの過去】


 彼女はかつてより特務隊に所属しており結婚して一時期は引退していました。

 その後母と同じように特務隊に所属した娘を戦争に送り出しましたが、彼女は戦死しました。その際とある事情から遺体が帰ってくることはありませんでした。

 それがきっかけで旦那とうまくいかなくなり離婚、彼女は特務隊に復帰しました。


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