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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
2章 還らざる者から紡がれる

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19.還らざる者から紡がれる

※後半少しだけ残酷な描写があります。ご注意ください。

 ルイホァはシンジュク駅攻防戦の後、とあることをハーマンに尋ねた。

 そのことに対して、彼が目を丸くしたことをよく覚えている。


『ねぇ、ハーマンさん、貴方は大切な人を失ったことがある?』

『……どうしてまた?』


 事故現場では、特務隊の戦闘に関わらない隊員が現場の片付けや怪我人の応対を行なっている。それを、彼はタバコをふかしながら見つめていた。

 己は擦り傷のみで特に治療を受けなかったが、ルイホァは突撃した時に様々な器具の破片を掠っており所々血が滲んでいた。

 それをちょうどハーマンが手当てをした後だったのだ。


『シュウゴとケイが救けた3人、助からないかもしれないでしょ? 助けて、救けられなかったとき、当たられるのって2人だから。』


 多くの事例は、命が助からなかった場合、その隊員が責められることが多い。ルイホァはそれを案じていた。

 ハーマンは、幼い彼女がそんな事案を経験または知っていることに驚く。


 エリートコースを経験した彼だからこそ、わかる。

 残酷なことだ。


『確かにそうかもしれねぇな。オレも、喪ったことはあるが、とても責められる気持ちでは無かったな。』

『……。』


 ルイホァは黙って聞く。


『なぜ自分がその場にいなかったのか、もう少しタイミングがずれてくれれば、何でソイツだったのかって。でもな、どうしようもないんだ。』


 彼はため息か、紫煙を噴き出す。


『受け入れ方なんて、人それぞれだ。

 喪った方も、救った方も。だから、周りが支えてやらなきゃ、どっちも潰れる。』


 火を消した彼はルイホァの頭を優しく撫でた。


『ちょっと子ども扱いしないでよ。』

『オレから見ればお前なんて子どもだよ。

 これからお前が想像している以上の痛みなんて幾らでもやってくる。その時、ちゃんと支えてやれるように心を豊かにしておくことだ。』


『……よく分かんない。』


 ルイホァは甘んじて彼の優しさを受けながらも、複雑な気持ちを抱いていた。




「ケイ、お前もう上がれ。」


 キャプテンのリョウヘイから告げられた言葉に顔を顰める。

 シンジュク駅の事件の翌日、彼は多少の擦り傷をこさえたまま部活に顔を出した。コーチもマネージャーも驚いていたが、事情を知る周りのメンツは特に言及することはなかった。


「……何でっすか。怪我はプレーに支障出してませんよね。」

「それ本気で言っているのか? 個人の技術は問題ないかもしれないが、コンビは最悪だぞ。」


 ぐっと押し黙る。

 彼が言っていることに間違いはなく、指摘通りであったからだ。


「ラフプレーに繋がるならチームのためにも、お前のためにも、これ以上参加を許せない。帰れ。」

「……ッス。」


 ケイは言い返すことなく、頭をリョウヘイと、コーチに下げるとそのままロッカールームへ戻って行った。


「言い過ぎじゃないですか? 昨日のことだって、まだ。」


 マネージャーが恐る恐るといった様子でリョウヘイとコーチに告げたが、リョウヘイは少しばかり怒ったような様子で呟く。


「オレは反対した。それに特務隊っていうのはそういうもんなんだろ? ……耐えられないなら辞めてしまえばいい。」

「……新手のツンデレですか?」

「うるさい。」


 マネージャーの指摘に対して、彼は不貞腐れたように言う。


 一方で、ケイはずっと苛立っていた。

 自身の怪我の手当て中、背負っていた男性が死亡判定を受けたことを耳にした。その場におり、共にしていたシュウゴも目を大きく見張ったのを覚えていた。

 薄々気づいていたのだ。

 背中に乗っていた彼の温もりが徐々に消えていくことを。

 2人とも走ったのだ。

 絶望に足が止まりそうになっても、声を掛け合って、地上に出た。

 自分が早く敵を倒していたら? 少しでも早く彼を瓦礫から助けられていたら? オリヴィアのように人を助けられる能力だったら?


 ずっと、ずっと、胸の中を後悔が渦巻いているのだ。


「よっ。」

「……何でここに?」


 制服に着替え、一般生徒に紛れて校門から出るとボーイッシュな私服に身を包んだルイホァがお菓子を抱えながら立っていた。

 ケイは怪訝な顔をしながら、他の生徒の邪魔にならないところに避けて彼女に尋ねる。


「つーか、オレが部活で遅くなったらどうするつもりだったんだよ。無計画すぎだろ。」


 そんなにきつく言うつもりはないのに、苛立ちに任せて刺々しい言い方になってしまう。ルイホァは困ったように眉をハの字にしながら、うーんと唸っている。


「それも、そうだね。でも、ごめん。

 何となくいてもたってもいられなくて。」

「……。」


 申し訳なさそうにする彼女に毒気を抜かれたケイは、肩の力を抜く。

 仲間に対してこんなにも警戒していたことがバカらしくなったのだ。


「なら、ちょっと付き合えよ。時間あんだろ。」

「うん。もちろん。」


 にぱ、と朗らかに微笑む彼女につられて、ケイも僅かに口元を緩めた。



「あーーーっ!」

「ふははは、ちょろいな!」


 2人がやってきたのはゲームセンター。

 慌てているのは、ルイホァがレースゲームを逆走しており、ケイはダントツの1位を爆走している。

 正直なところ、特務隊から貰える給与を2人とも持て余しており、ゲーセンに使うお金など幾らでもあった。幸い訓練とバスケにそれぞれ夢中なものだからせいぜい食費に消えるのみだ。


「もう1回! もう1回!」

「幾らでもやってやるわ、普段負けっぱなしだからな!」


 大人気なく彼は笑っていた。

 それからリズムゲーム、ダンスゲーム、コインゲーム、ホッケーと次々にこなしていった。ルイホァも元来運動神経がいいため、すぐにマスターしており、特にダンスゲームに関してはすぐにケイを追い抜いた。

 手洗いから戻るとルイホァが悪戦苦闘しながら何かと闘っており、はてと覗き込む。


「ねぇねぇ、ケイ。これどうやるの?」

「あー、UFOキャッチャーか。とってやるよ。」

「ほんと? 私これ欲しい!」


 現場ではあんなにも勇ましい彼女が欲しがるのは柴犬のクッションだ。随分と可愛らしい姿にケイは微笑みながら操作を始める。

 手慣れた手つきで引っ掛けると数百円の出費で柴犬はガラスの向こうからこちら側へやってきた。同級生とやった経験がここで生きるとは、とルイホァの笑顔を見ながらしみじみと思う。


「すごいすごい! ありがとう、大事にするね!」

「……おう。」


 こそばゆいな、と感じながらもケイは照れたように微笑む。


 それから2人は近くのクレープ店でそれぞれ好きなものを購入して、近くの公園のベンチで腰掛ける。日も伸びてきており、子どもたちが無邪気に遊ぶ声が心地よい。


「いやー、急に来たのにこんなにもてなしてもらえるとは思わなかったよ。ありがとう!」

「こっちこそ。キャプテンに体育館追い出されて苛々してたからいい気分転換になったわ。ありがとな。」

「キャプテンってあの人? なんか真面目そうな強そうなガタイの?」

「そうそう。よく覚えてんな。」


 ケイは頷きながらも、乾いた笑みを浮かべた。

 その姿を見たルイホァはクッションをギュッと抱えながら尋ねた。


「……何でそんなに苦しそうに笑うの?」


 ケイが驚いたようにルイホァを見つめる。

 一瞬、彼女の言葉の意味を咀嚼できなかったらしい彼は口をはくはくさせた。


「オレ、そんな顔してたか?」

「うん。」

「……忘れてくれ。」

「忘れられないよ。」


 ルイホァが間髪入れず言うものだから、油断し切っていたらしいケイは泣きそうな顔をした。


「ケイが、あの時泣いていたのも、今も心の中で泣いてるのも知ってるよ。」


 ルイホァは息継ぎをせずに続ける。


「私は、訓練を受けてて、人が死ぬのも、戦いに犠牲がつきものなのも、たくさん見てきた。何なら別れなんてできない人たちも。だから、客観的に今回のもしょうがないし、私たちは精一杯やったと割り切ってる。

 でも、ケイが泣いたのを見てから、ずっと胸が痛むんだ。仕方ないことって分かってても悲しいんだ。」


 ケイが泣いた時、その場に合流したルイホァやエルナも泣いた。シュウゴが立ち尽くしているのを見てからますます涙は溢れた。

 しかし、彼女自身は何で自分が泣いているのか理解していなかったのだ。


「きっと、ケイとシュウゴが悲しかったから、私も悲しかったんだ。でも、それを必死に隠そうとしてる今のケイの方が見てて辛いよ。」

「そ、」


 ケイが何かを言いかけた時だった。

 彼の通信機から、仕事用の通知が鳴る。どうやらリーンハルトからであるようだ。

 通話を始めると、申し訳なさそうに挨拶をする彼の声がきこえた。


『あー、悪い部活中。今いいか?』


「大丈夫っす。」

「リーンハルト?」


 お? と彼は不思議そうに声を出したが、ルイホァの声にそうかそうかと勝手に納得すると話を続けた。


『……今から、可能であればでいいんだが、亡くなった人の家族がお前らに会いたいって言ってんだ。無理しなくていい。どうする?』


 ケイは固まった。

 迷っているように見えた。

 ルイホァは彼の震える手を握ると声をかけた。


「会ってもいい、会わなくてもいい。後悔ないように、自分が思う道を選べば大丈夫。私はケイの味方だよ。」

「……リーンハルトさん、」


 ルイホァの言葉に頷くと彼は返答した。




「あ、シュウゴさん。」

「……ルイホァもいるの。」


 すでにリーンハルトとシュウゴが部屋の前で待っていた。というのも、さすがに制服は問題であったため、特務隊の戦闘服に着替えてきたのだ。

 アイパッチをつけ素顔がわからないようにしていたが、リーンハルトは複雑そうに微笑む。


「逆恨みの類ではないから安心しな。話したいこと、ゆっくり話せるといいな。」

「……そんなの。」


 シュウゴは目を伏せてしまう。

 2人がリーンハルトに続いて入ると、そこには亡くなった男性の妻と娘、その両親らしき人物が待っていた。全員が揃って会釈をする。


「お待たせしました。こちらの2名が現場に居合わせた者です。ご主人が亡くなられたこと、改めてお悔やみ申し上げます。」


 2人は倣って頭を下げる。


「こんな若い子たちが前線に……?」


 母親か妻か、どちらかが驚嘆の声を漏らす。

 彼女たちの、こんな表情できれば見たくなかったとケイは下唇を噛む。


「オレがもっと強かったら、早く助けられたら、旦那さんは。ごめんなさい、ごめんなさい……。」


 泣くな

 1番苦しいのはこの人たちだ。


 ケイは血が滲むほどに手を強く握るが、その手をすくうように、何か暖かいものがそれを包んだ。

 驚いたケイが顔を上げると男性の妻が笑顔で彼の手を握っていた。


「それ以上謝らないで。私たちはあなた達を責めるためにここにきたわけじゃない。お礼を言いにきたのよ。」

「でも、オレ、あの人を助けられてない……です。」


 ふるふると彼女はゆっくり首を横に振った。


「貴方たちが居なかったら、私たちは彼の顔を見ることさえも叶わなかったかもしれない。勿論、たくさん思うところはあるけど、そちらの男の人の怪我も、貴方の言葉からも、必死だったことはわかる。私たちは、貴方たちに救われたのよ。」


 ありがとう、と改めて家族たちが告げてくる。

 ふと、ルイホァの『別れなんてできない人たちも』という言葉がリフレインする。

 ああ、自分は彼女たちを救えたのか。別れができない世の中で、彼女たちに最期の時を渡すことができたのだろうか。

 ケイはその言葉に救われた気がした。

 もう駄目だった。涙腺が決壊して、滝のように涙が溢れてくる。


「ありがとう、どうか私たちのような人を少しでも減らせるようこれからも頑張ってね。」

「……ッ、ありが、ございま…す。」


 自分は優しい人たちに恵まれている。

 そして、この人たちを守りたい、もっと強くなりたい。新人類も旧人類も関係ない。こうして気持ちを分かち合えるのだ。


 ケイの嗚咽ともらい泣きをした家族たちの声は部屋中に響いていた。


「……シュウゴ、大丈夫かな。何かボーッとしたまま帰っちゃったけど。」

「うーんどうだろうな。オレはルイホァに言われた通り泣いたらスッキリしたけど。」


 ケイは真っ赤な目のまま鼻をかんでいる。

 ルイホァは柴犬をふわふわさせながらその横に佇んでいた。というのも、もう少し待つようにとリーンハルトとヒロタダに言われたのだ。


「ごめんね、待たせて。」

「いえ。でも何ですか渡したいものって。」

「これだよ。」


 ヒロタダが渡したものは1通の手紙だった。


「オレ宛?」

「いや、特務隊宛だけど、ケイが持ってるのがいいかなって。」


 ふーん、と手紙を開いた彼は、目を丸くした。

 それをルイホァが横から覗き込む。

 彼が言葉を失った理由はすぐに分かった。

 彼はまた静かにポロポロと涙をこぼす。それを後からやってきたリーンハルトが見守っていた。


「今回のことは、確かに悔しい結果だった。

 でもお前らはオレたちじゃできない判断をして、救われなかったかもしれない命を救ったんだ。反省は大事だ。ただ、誇れることをしっかり誇ることは財産だ。励めよ。」

「……ッ、はい。」


 恐らくケイはこの事件を一生忘れないだろう。

 そしてこの財産が再び誰かを救うことになることは、今の彼には知らぬことなのだ。

【こぼれ話】


 ケイはほぼ毎日部活があります。

 テスト前は自主練、大会明け翌日はオフ日になっています。

 ちなみにテストの結果は、割合いいですが、決して勉強ができるわけではないので、大概同じクラスの子や先輩に怒られながら必死に詰め込んでいます。

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