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1.戦場から来た男 -前編-

 今日は厄日だろうか。



 そう内心で呟くのは、ヒロタダ・マツモト。

 26歳男性独身、趣味はちょっとした料理と読書。

 彼はエリア:ジパングの主要ターミナルに位置付けられるトーキョーにあるとある裁判所にて、裁判所事務官として勤めている。


 時代は変遷し、現在地球には国家という概念が無くなった。以前の国をエリア、そして各都市をターミナルとして、国際連合的組織から統率者が派遣されている。

 何より大いに変わったことといえば、人類が進化し、特に進化のない旧人類と、ある特殊な能力に目覚めた新人類に大別されるようになったことであった。


 新人類が生まれたことにより、技術は刷新され、新たな資源も生まれた。そして交通手段は、飛行機からワープホールへ、武器は人類自身へと変化していく。


 そのように人が進化すれば生まれるのは、新人類の犯罪や差別問題である。

 それを解決するために、先程述べた国際連合的組織として、Administrator Association(管理者協会)と言われる組織が再編された。AAは半数の新人類、半数の旧人類で構成されており、今後増えるであろう新人類の管理と新人類による犯罪抑制を目的に活動をしている、実質国際的な政府である。


 併せて、犯罪抑制を目的に、地方政府にそれぞれ作られているサイキック ルーラー(psychic ruler)と呼ばれる超能力を有する新人類のチームが作られていた。

 新人類は能力の危険度や強さによりS、A、B、Cとランクが分けられ、Aはエリートコースへの参加権を手にし、Sはエリートコースへの参加を義務付けられる。

 一般的には、SやAランク、一部BやCランクの者が特務隊という所謂軍隊のようなチームに召集されるのだ。


 ヒロタダは、そのチームの一員として上司であるカツヒコ・カネスエから召集を受けたのだ。

 パリッとしたスーツに身を包み、黒縁のメガネをあげながら緊張感に包まれながらも廊下を進む。


「マツモトくん。この会議室に同じチームの人たちがいるから。」

「分かりました。」


 ヒロタダは部屋の中に入る。

 無駄にだだっ広い部屋に散り散りに人が座っている。触り心地の良さそうな人形のような髪にも関わらずボサボサのまま机に伏せた女性や、そわそわと落ち着かなそうなボブヘアの少女。

 よくよく見ると見知った顔がいたため、彼の元へとヒロタダは近づいた。


「お久しぶりです、ハーマンさん。」

「おお、ヒロタダか。久しぶりだな。」


 スーツをラフに着用している体格の良い彼からは仄かに煙草の薫りがする。

 彼の名前はハーマン・フォースター。

 茶色の短髪であり、鋭い視線を投げつけてくることが多いがよく見ると、垂れ目で優しそうな顔をしている。

 彼は警察官であり、以前関わった事件で面識がある。


「2人は知り合いなのー?」

「わっ、思ったより子ども?!」

「子どもで何が悪いのさ!」


 この緊張感をどのように拭おうか、退屈していたらしい彼女は確かーーー。


「私はソン・ルイホァ。ルイホァが名前だよ! よろしくねー!」


 場に似つかわしくないほどの眩しい笑顔でルイホァは微笑みかける。


「ああ、僕はヒロタダ・マツモト。裁判所事務官として働いてるよ。」

「オレはハーマン・フォースター、一応警察官だ。よろしくな。」

「で、そちらで突っ伏している方は……。」


 ヒロタダが顔を向けると、突っ伏していた女性は声をかけるとのそりと顔を上げた。美しい金色の髪が真っ白な顔にかかりどことなく妖艶だ。


「ああ、ごめんなさいね、当直明けで寝ていたわ。私はオリヴィア・メルシエ。近郊の病院で医師として働いているわ。」

「よろしくー!」

「よろしくお願いします。」



 挨拶をしていると、部屋にノックが響く。

 リュックを背負った女顔の線の細い青年が入ってきた。皆の注目がそちらに向くと彼は小さく会釈した。


「こんにちはー! あなたはケイさん? エルナさん? シュウゴさん?」

「こんにちは、さすがにエルナさんと間違えないでほしいけど。」


 彼はぐいぐいと接近するルイホァに眉1つ動かさず自身が女性であることだけ否定する。さらさらの黒髪を後ろで1つに結んでおり、見かけは長身の女性に見えなくもない。


「オレはシュウゴ・ヒキです。大学生です。」

「「大学生?」」


 シュウゴの言葉に、ハーマンとオリヴィアが怪訝な表情をする。


「何か、今回の招集メンバー若すぎるな……。」

「ええ、正直なところ私も思ったわ。……差し支えなければ、ルイホァちゃん何歳かしら?」

「今年16歳だよ! 一応管理者協会のプログラム通ったから学校は卒業したことになってるよー。」

「若い……。」


 目眩を起こしたかのようによよ、と彼女は頭を抱える。

 しかしながら妙であるのも明らかである。大学生は除き、通常学生が召集されることは滅多にない。


「どういう基準で選んだんでしょうかね。」


 ヒロタダがふと疑問を口にした瞬間だった。



「それは簡単! オレがこのチームならうまくいくって思ったからだ!」



 背後の扉がバァンとけたたましい音を立てて開く。1番近くにいたシュウゴが無表情のまま肩を震わせる。


「よぉ、みんな集まったな! ちなみにエルナとケイは学校があるから来れねーらしい!」

「学生なのか……。」

「いや、ハーマンさん、それより!」


 急に入ってきた薄いピンク髪の青年は満面の笑みで仁王立ちしている。その後方で頭を抱えている自分の上司が見えた。


「自己紹介がまだだったな!

 オレはリーンハルト・ワイアット! エリア:ドイツ、ターミナル:ベルリンで特務隊副支部長を務めてたぜ。一応この部隊長になる、よろしくな!」


 よろしくー、なんて軽い挨拶をしているのはルイホァだけで、他の4人は完全に固まっており、言葉を発することができなかった。

 そこからチームのリーダーとなるリーンハルトは見かけに反してテキパキと資料を配り、今回のチーム結成および自身が派遣されてきた意義について話し始める。


「さて、時間もねーから駆け足で説明する。今回オレが派遣されてきたのは、反社会組織『Dirty』がジパングでの活動を始めたからだ。」

「『Dirty』……?」

「一学生では聞いたことがないのも無理はないわ。新人類主義を掲げる組織の中でも、特に過激派である国際的な犯罪組織よ。」


 首を傾げるシュウゴに、先程まで寝ていたのが嘘のようにはきはきとオリヴィアが補足を行う。


「最近事件が多いですけど、それが関連しているんですね。」

「そう、そこで何人かが派遣されてきたわけだ。」

「なら、学生や未成年を巻き込むのはやめた方がいいんじゃないか? 情報の機密性の懸念もだが下手したら戦闘行為があるわけだろう?」

「そこは大丈夫だよ。」


 指を立てて否定するのは、この中で最も幼いルイホァだ。彼女は自信満々な笑みを浮かべながら、ハーマンの心配事項について述べていく。


「さっきも言ったけど、私は協会のエリートコース受けてるから情報の扱いや戦闘について専門の訓練を受けてるから、むしろなぁなぁな大人より強いと思うよ?」


 組手する? と血気盛んなようで、ハーマンには後でな、と頭を撫でられ流されていた。


「ああ、オレもエリートコースの出身だが、ルイホァは優秀だから安心してくれ。」

「ならオレはなんで選ばれたんですか? オレ、選ばれてから初めて訓練だとか色々修学させられました。それに能力も別に強くありません。」

「バカ、それは使い方次第だ。お前は強いよ。」


 リーンハルトに肩を叩かれた張本人はどこか居心地が悪そうだった。そして彼は自信満々に残りのメンバーについて私見を述べる。


「エルナも危険度については低いが強力なサポートができるし、ケイは身体能力がかなり高い上、ルイホァの力との相性がいい。ただ……まぁいいや。」


 彼は何かを伏せたが、他のメンバーは特に追及することは無かった。


「あとチームに所属している特典な、訓練場やジムを使えるってこととーーー。」


「ちょっと気になることいいかしら?」

「何だ?」

「出動するのは構わないのだけど、顔が割れるのと仕事中に出るのは避けたいわ。」

「ああ、それはオリヴィアさんと学生組は本職優先でいいぜ。リクルートする時も上司にはそう伝えてある。」

「それでいいんですか?!」


 さすがにヒロタダも驚きを隠せなかった。確かに学生や医師は急に出動することは難しいだろうがそこまで融通をきかせるとチームに入れた意義がなくなるのではないか。

 しかし、それは規定上は可能である。それを理解し、行使する権力を持っているのがこの男、リーンハルトということなのだろう。


「あと顔についてだが、今から配る腕時計を持っていてもらえれば、チームと本部からの連絡、犯罪者データの確認、それと出動中のアイパッチ機能がある。」

「実際にはつけてねーけどつけたように見えるやつか。」


 リーンハルトがそうそう、と頷く。



 そこから他に細かい説明をされ、その場は解散となった。ルイホァは仕事が半休になったらしいハーマンを引きずって訓練室へ、オリヴィアは眠いと言って帰った。学生のシュウゴはまた研究室に戻ると自転車を漕いで帰っていった。


 ヒロタダも戻ろうかと、廊下で待つカツヒコの元へ向かおうとした時だった。

 背後から気配なく急に肩を組まれたものだから、変な声を出してしまった。


「よっ、ヒロタダ! この後ちょっと付き合ってくんね?」

「いや僕仕事が……。」

「いいよ、行ってきなさい。リーンハルトさんは一昨日引っ越してきたばかりですから、色々と生活必需品も整ってないでしょう。それに君、家お隣だからね。」


「え?」


 じゃ、と言って彼は颯爽と去っていった。

 その場に残されたのは、呆然と立ち尽くすヒロタダとニコニコと満面の笑みのリーンハルトだ。




【キャラクター紹介】

リーンハルト・ワイアット

175cm 26歳  AB型

好きなもの:抹茶、ドライブ、筋トレ

嫌いなもの:虫全般、特に蛆

ピンク髪で耳周りツーブロで整えている。襟足は少し長めシルエットはふんわりした感じ。つり目気味だが瞳は大きく茶色。いつもジャージ。腕に大きな傷がある。

基本的にはマイペースで仲間想いであるが、年に似合わぬ冷静な判断力を兼ね備えている。仕事と私生活の分別がかなりしっかりしている男。私生活はおいおい……。

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