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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
2章 還らざる者から紡がれる
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18.地下鉄攻防戦 -経験者組-

※戦闘および残酷な描写があります!注意!

 かの化け物は自身を失敗作だと言った。

 かの化け物のことを、ある男は失敗作だと罵った。


 成功作は、もうこの手から溢れてしまったのだと嘆いている。


 なぜ私はここにいるのか。

 なぜオレはここにいるのか。


 何も分からない。

 ただ苦しかった。


 2人の、いや3人の心がぐちゃぐちゃになって、想いも、苦しみも、嘆きも、全てが一緒になってしまったのだから。



「【氷雨】!」

「【鎌鼬】!」

「【蜘蛛糸】。」


 リーンハルトが飛び交う触手を無数の氷柱で撃ち抜いたり、ハーマンが糸で拘束したものをルイホァが確実に切り裂く。


「奥にいるぞ。」


 ハーマンが走りながら言う。

 臭いの正体は、この化け物だった。うじゃうじゃと触手を生やしており、この広い空間には、ランダムにワープホールが生じている。


「【鋼鉄糸】!」


 ハーマンが容赦なく化け物の頸のような所を切断した。しかし、化け物の呻き声はやまない。


「……ェ」

「は?」


 聞こえた声にリーンハルトが顔をしかめた。

 しかし、それがきっかけか、急に呪詛のように化け物が叫び始めた。


「ニクイニクイニクイニクイ! なぜアイツはフツウノ人間ノヨウに生きてイルノカ! ドウして、私は生キテはいけないのよ!」

「!」


 リーンハルトの動きが一瞬止まる。しかし、それを救ったのはルイホァで、ほぼ体当たりに近い状態で彼を突き飛ばした。

 リーンハルトがいた場所の地面は触手で抉られている。


「悪い!」

「いいよ!」


 ルイホァも反射で声を出してしまったのだろう。そこに飛んできた触手の追撃を風で払う。

 前線ではハーマンがうまく触手をいなしながら、急所らしき所を薙ぎ倒している。


「……ねぇ、リーンハルト気づいた?」

「ああ。アレ1人じゃねぇな。」


 ルイホァが頷く。


「恐らく、2、いや3人いたろ。遠くに、1人。たぶんケイとシュウゴとやり合ってる。」

「私もそう思う。今ハーマンが上手くやってくれてるからそっちに注意を向けている間、私が風を纏って突っ込む。もし倒しきれなかったら絶対どこかに核があるからそれを突いて!」


 確かに、この地下鉄の線路の広さを踏まえると、ルイホァの作戦が最も合理的である。

 リーンハルトは了承した。


「リーンハルト、行くよ! 【暴風】!」


 模擬演習の時よりも、強く洗練された風。

 この短期間でここまで技を磨き上げたか。

 リーンハルトは場に似合わない感想をつい抱いてしまった。


 ハーマンはすぐに天井に張り付いて避ける。

 風の塊は化け物に突っ込み、その身体を粉々に砕いていく。

 リーンハルトは目を細めて注目するが、心臓のような、急所は見られない。


「……ッ、」


 一瞬勢いは止まったものの、ルイホァは持ち直してその追撃を止めない。

 しかし、ベテラン2人からすればその一踏ん張りで十分だった。

 2人にはそれぞれ、化け物の頸らしきものと臓が目視できていたからだ。


「【鋼糸】!」

「【氷柱】。」


 ハーマンが鋼鉄の糸で頸を切り、リーンハルトは氷柱を作り出し、臓に向けて投げつけた。それは見事に貫き、血が溢れ、空間には断末魔が広がる。


「やった?」

「……。」


 断末魔が止む頃には、化け物はすでに動かなくなっていた。

 しかし妙だった。

 空間全体が何者かに監視されているような、絶えない気配を感じるのだ。ハーマンも同様、ルイホァも違和感は拭えないようであった。

 間違いなく目の前のタコのような化け物は息をしていない。


「……、もしかして。」


 リーンハルトはふと天井を見上げた。

 そして、不意に壁に向かって氷を打ちつけた。2人は何をしているのか理解できなかったが、次の瞬間、空間中が断末魔の叫びに包まれ、全てを理解した。


「ア゛ア゛ア゛ァァァァァァ!!!」


 耳をつん裂くような悲鳴。

 本来なら戦闘中許されるようなことではないのだが、ルイホァは強い不快感につい耳を塞いだ。


「ハーマン、ルイホァ! 退避して残った乗客を待避させろ! それとヒロタダ!」

『シュウゴとケイは無事だ! 先頭2両の人たちもあわせて避難してる!』


 さすがというべきか、欲しい情報を的確にくれる。

 この短期間でよくぞここまで順応してくれたと自身の部下を誇らしく思う。


「【無効化】はもう大丈夫だ! で、エルナは可能であればオレの近くにいるヒトを感知、知らせてくれ! あと2人になるべく早く退避するよう伝えろ!」

「リーンハルトは?」

「オレはこのまま進む。ハーマン、ルイホァ、あと頼んだ。」

「……了解した。」

「気をつけてね!」


 2人はあっさりと踵を返して、きた道を戻る。そして、リーンハルトは恐らく嫌な予感がするであろう方向に駆け出す。

 戦争で飽きるほど味わった生死を分ける勘を頼りに進むのだ。




「……何だ、ここ。」


 エルナの指示に従い、奥へ進んだ。

 普通の地下鉄の造りではあり得ないところから通路が逸れており、その道沿いに進んだらポッカリとあいた広い空間に出た。

 “ヒト”の気配はほとんど感じられず、ゴポゴポと無機質な水泡音が響いている。

 この気配、リーンハルトは経験があった。


「……あの時と、似ている。」


 戦争中に見たことがある、とある研究室によく似ている。

 まさか、ここに研究の根城を構えているわけではないだろう。リーンハルトはすぐに分室であると判断した。


 今までの犠牲者の亡骸を尻目に奥に進むと、ホルマリンだろうか特殊な溶液に浸された年端のない少年を見つけた。

 リーンハルトが機械に触れると、少年が不意に目を覚ます。


『……君は?』

「リーンハルト・ワイアット。知っている情報を言ってくれ。」

『あの人によく似た顔とファミリーネームだ。

 僕は何も話さないよ。だって目覚めたってことは死んじゃうもん。』


 ああ、またあの男達は。

 リーンハルトは下唇を強く噛む。


『でも死ぬまでの暇潰しにはいいかな。何を知りたいの?』

「……ここを使っていたのは『Dirty』だな。しかも七賢人の。」

『断定形なんだ? なら隠しても無駄かもね。そうだよ。こんな使い捨ての部屋が沢山あるんだ。各国各地にね。ヨコハマなんかにもあるんじゃない? 他にも主要ターミナルに、ね。君の班には研究員達がいるようだけど、まぁ無駄だよ。』


 想像より既に広域に展開しているらしい。

 加えて少年はリーンハルトの仲間の情報を知っているとマウントをとってきた。

 リーンハルトは内心穏やかでなかった。この研究室に来たのがオリヴィアや、せめてシュウゴならば分かることがあるかもしれないのに、と。

 思わぬところではぁ、とため息が溢れた。


『どうしたの?』

「何もねぇよ。それと最後に、」


 ええ、もう最後? と愉快そうに笑う。

 しかし、その笑みはリーンハルトの問いにより一瞬で消え去る。


「タバート・ワイアットを知っているな?」

『……ッ、どうして七賢人筆頭の名を、』


 筆頭、つまりは七賢人最強ということだ。

 恐らく七賢人は『Dirty』の中でも強者もしくは強能力を有する幹部のようなものだろう。


「十分だ。じゃあな。」

『待て、もう少しここに!』

「ふざけるなよ。骸に成り果て己が欲望に命を賭す奴と共にすることなんてありえねぇ。」


 リーンハルトは切り捨てた。

 そう、年端のない少年の姿は幻。

 部屋に入った時点ではそう見えたことに間違いはない。


 しかし、リーンハルトの仲間は優秀だった。


 ヒロタダが無効化により、その姿をただの亡骸と認識させ、エルナがこの部屋の消失を知らせてくれた。

 彼は部屋ごとリーンハルトを消滅させることが目的だったが故に、真実を語ったのだろう。


『待って! 待てよ!!』


 リーンハルトは一切の聞く耳を持たず部屋から飛び出して、本来存在する空間まで走り去る。

 戦ではこの言葉に耳を貸すことが命取りということを思い知らされていたから、彼はあっさりと部屋から出ることが叶った。


『ちょっと、リーンハルト無事なの?!』

『リーン?!』


 空間から出ると先程まで蚊の鳴くような音量だった無線が怒号を届ける。



「あー、2人のおかげで助かったよ。サンキュな。」

『無事なら応答しなさいよこのおバカ!』

「……悪かった。」



 かなり心配をかけてしまったのだろう。

 彼女は涙声だ。


 2人がいることを信じていたからあそこまで進めたのに、と彼は笑いながら直接のお叱りを受けるために地上への道へ戻った。

【こぼれ話】


 この世界の交通機関の普及率は、ワープホール>地下鉄、空鉄>車両(特殊免許要) です。

 リーンハルト、ヒロタダ、ハーマンは特殊車両免許を取得済みです。

 シュウゴはペーパーです。

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