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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
2章 還らざる者から紡がれる
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17.地下鉄攻防戦 -青年組-

※戦闘描写あり!

 ケイは静かに呼吸する。

 気づけば目の前の光景が変わっていた。

 何が起きたのか、恐らくワープのような、足下に模様が現れた瞬間別のところに飛ばされたのだ。


 あたりを見回すと、地下鉄の車両が転がっている。

 中からは呻き声が聞こえる。


「もしかしてここに……?」


 地下鉄の中に足を入れる。妙な臭いがする。

 その時、気配が突如自身の本能を刺激した。


「「ッ!」」


 横から突如銃口を構えられたため、ケイも炎を出そうと手を向けた。


「あ、シュウゴさん。」

「……ケイ?」


 彼は所々に擦り傷をこさえていた。


「今日の君の昼ごはんは?」

「カツ丼定食2人前、アンタは?」

「ナポリタンの大盛りとコーヒー。本物だね。」

「そっすね。」


 2人は逸れた時は必ず何らかの本人確認をするように、とハーマンから言われていたため素直に実行した。


「何か妙な臭いがしますよね。」

「臭い? ……オレはよく分からないな。」


 はて、自身の気のせいなのか。

 ケイは首を傾げながらもそのまま車両の中を進むと、2両目の車内はひしゃげており、潰されている人もいた。


「……ッ、大丈夫か?」


 恐らくもう手遅れ、しかしケイは持てる力でひしゃげたところを上げようとする。

 見たところざっと先見隊のメンバーも含め40名ほどであろうか。

 軽症のものはすでに1両目に集まっており、辛うじて生きている人は2両目に残ったままになっている。


「ジャッキスタンド作るから、これ使って。」

「分かりました。」


 シュウゴが作り出したジャッキスタンドを使い、何とか引きずり出す。

 3名のうち2名はかろうじて意識があったが、1名は意識もないようだ。

 ケイも、シュウゴも僅かに顔を顰める。


「あっ、人だ! 助けてください!」


 1両目で震えていた男性が堰が切れたように叫ぶ。

 しかし、他の軽症者はすでに一通り騒ぎ終えたのか表情からは絶望が漂っていた。


「特務隊の者です。みなさん、ゆっくりで構いません。車両の外に出て近くの人で固まっていてください。」


 車両から出ると、数名は急に話し出す。

 なぜ急に、とケイは思う一方で、シュウゴが冷静に指示を出す。


「申し訳ありませんが、軽症の方は重症の方に手を貸していただけますか? もし医療関係の方がいれば止血だけお願いします。」

「わ、分かりました!」


 妙だ、とケイは感じる。

 車両に乗っていた時はあれ程に生気のない目をしていたのに降りたら突如水を得た魚のように皆動き出した。子どもに至っては突如啜り泣き始めたくらいだ。


 乗客たちを見ていると、シュウゴが少しだけ肩を叩く。彼が指差す方向を見て、ああなるほどと違和感の正体に気づく。

 ある指文字をしながら比較的軽症の最初に口を開いた男性に向かっていった。


「申し訳ありませんが、状況を教えていただけますか?」

「ええ、とはいえ私も気づいたらここにいたので、あまり詳しいことは分からないのですが。」

「どうやってここにきました?」

「足下に模様が現れたんです。そしたらここに……。」


「それはおかしいですね。」


 え、と男は瞬きする。


「今回は車両ごとここに飛ばされているから貴方単体の足下に模様は現れないでしょう。それに貴方、なぜ車両にいたのにあんなにも元気だったのですか?」


「元気って、そりゃ、私は他の人より怪我をしていないですし……。新人類なので、妙な術にもかからないんですよ。」

「確かに車内はおそらく嗅覚を利用した催眠が施されていた。でもウチの勘がいい奴が辛うじてわかるくらいのものでした。」


 特に呼吸を乱すことなく淡々と述べるシュウゴに、男は嫌な汗を掻き始める。


「貴方はさっきから迂闊すぎる。それに先ほどから懐で触れているもの、何ですか。」


 殺意のやり取りは一瞬である。

 突かれたナイフの手をほぼノールックで叩き、刃先を逸らす。それと同時に、ケイが飛び出す。


「【黒炎】!」


 蹲み込んだシュウゴの真上を通過して見事に敵に当たったと思われた。


「ケイ!」


 その声1つで全てを察した。ケイは足の筋力を上げ、乗客の前に立つ。


「【炎壁】!」


 キャア、と後方から悲鳴が聞こえたが決して攻撃が貫通したわけではないらしい。

 敵が退いたのが見えた。


「ごめん、姿勢崩せればよかったね。」

「いや、オレが遅れました。シュウゴさんが言った通り車内に変なお香? みたいなのありましたよ。」


 シュウゴが乗客たちを背に、ケイに駆け寄ってきた。2人は目の前の異形に顔を歪める。人ではあるが、手元をヘドロのように流動体にしているようだ。


「小童どもがこけにしやがって……!」

「……ケイ、時間稼ぎ頼める? 今いるところまで誘導して。」

「攻守一手、てことすか?」

「そうだね。」

「上等っすよ!」


 ヘドロ男は目を見張る。

 なぜなら気づけば目の前にすでにケイがいるのだ。

 頭部を回し蹴りされたが、泥のような感触が足をとらえるばかりで何も攻撃が効かない。

 炎で体を燃やしてしまおうと火を放つも、即時的には効いていないようでぬるりと逃げてしまう。


「乗客を食ってやる!」

「させねぇよ!」


 再び炎の壁を作り出し、庇うがぬるりと抜けてしまう。ヘドロの手が女性に手を伸ばすが、遠くから狙撃音がする。


「【黒炎爪】!」


 身体を捻りながら炎を纏った手でヘドロ男を弾く。


「逃げろ!」

「はいぃ!」


 女性は腰を抜かしながらも何とか逃げる。


「【泥爆弾】!」

「はぁ?!」


 両手から泥団子のようなものを放ってきた。1つは目の前に放たれ、ケイは避けたが、もう一方は女性の方に放たれた。

 しかし、シュウゴが見事に片手で撃ち落とした。もちろん彼の腕にぶつかった衝撃で爆発はしたが。

 ケイはそれでシュウゴの準備は終わったことを察した。


「許さねぇ! 【黒炎】!」

「そんな単純な攻撃が当たるわけねぇだろ!」


 チラリ、と男がどこに移動するかを確認する。

 完全に炎が効かないわけではない。だが、熱いとか痛いと感じるまでにラグがあるのと物理攻撃が効かないだけ。だから炎の攻撃は確実に避ける。

 それを理解していたからこそ、ケイは徹底して炎で相手を誘導した。


「シュウゴさん!」

「【具現化(エンボディ)】。」


 言われた通りの場所にヘドロ男が達した瞬間、ヘドロ男の上から白い粉が山のように降り注いだ。


「こんな粉……!」

「効かないんすか?!」


 ヘドロ男が粉を振り払おうと立ち上がろうとした瞬間だった。膝ががくりと折れ、全身に力が入らないように倒れ込む。


「ぁ……ぁ……お前、何をした!」

「……貴方の身体からはほのかにアンモニア臭がした。まさに正真正銘のヘドロ。それならヘドロの処理と同じ、石灰を準備すればと思ったけど。正解みたいだね。」

「クソ、クソ……!」


 シュウゴに呼ばれて、彼が作り出した袋に石灰ごと男を詰めて拘束する。

 その2人に先程助けた女性が声をかける。


「特務隊さーん! あちらに地下鉄の非常口みたいなものがあるみたいです。」

「……なるほど、ここって地下鉄の車両倉庫なんすね。」

「今頃気づいたの?」

「いや知らないっすもん!」


 ふーん、と興味なさそうにしながら、台車を作り出し、男を乗せる。

 ふとケイは倒れている男性に駆け寄る。


「この人も連れてかねーと。」

「意識ないけど、脈はある。」

「オレが背負います!」


 すでに背負っているでないか、という言葉は飲み込む。

 脈を確認するために触れた手を下ろす。彼の体はまるで力など入らないかのように弛緩しているのが、自身の無力さを増幅させる。


「どうしたんすか?」

「……いや、」

「とにかく、まだ生きてます。早く行きましょう!」


 知ってから知らずだろうか。

 ケイのその言葉がシュウゴを奮い立たせるには十分だった。

 彼はジッと臭いの元を睨みつけた後、無言で頷くと台車を押しながら活発な彼の背を追いかけ始めた。

【こぼれ話】


 シュウゴは一度見たものは大概覚えることができます。勉学に関すれば暗記は1発で可能です。

 でも興味がないとちゃんと忘れます。

 あとリズムゲームとかは譜面は覚えられるもリズム感が一切ないので苦手です。

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