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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
2章 還らざる者から紡がれる
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16.call out

「クッソクッソクッソ!」

「……ケイ、顔ヤバイわよ。」


 食堂の傍らでケイが地団駄を踏んでいた。

 彼は試合が終わり、今日はオフのため訓練場に顔を出していた。カジェタノに訓練を積んでもらっていたが、肉弾戦は及ばず、いいようにあしらわれたらしい。

 一方で、エルナはフェベに能力のコントロールについて指導してもらっていた。


 そのまま2人は地方の任務に行ってしまったらしいが、他の面々も同様なようだ。


「絶対今年以内にぶっ飛ばしてやるあのオッサン。言ってることは的確だけど、挑発が本当に腹立つ。まぁモニカさんは持ち上げられすぎてこしょばゆいからそれはそれなんすけどね!」

「でも、アンタ本当に食べるわね。」


 ああ、とケイは頷く。


「オリヴィアさんがやるみたいな肉体強化? やるとよく分かんないけどめちゃくちゃ腹が減るんすよ。

 制御については全く問題ないから試合の時うっかり、てのはないんすけど出力の方がムラがあって……。その分無駄にエネルギー消費してるらしいっす。」


「ふーん、シュウゴとかも同じ感じなのかな?」

「何が。」


 2人は急に現れたシュウゴとルイホァにぎょっと驚き顔を向けた。

 ルイホァは大量であるが、シュウゴは成人男性にしては少し多いであろうという程度の量だ。


「シュウゴも肉体強化? みたいなのしてるんでしょ? この前のセイって人言ってたじゃない。」

「大雑把に言うとそうけど、厳密には違うらしい。」


「「?」」


 ケイとエルナは顔を見合わせた。

 ルイホァがいただきますと挨拶をするとそのまま説明を補う。


「あの肉体強化って、新人類の中でも向き不向きがあるんだよ。

 リーンハルトやオリヴィア、ケイはたぶん旧人類よりも筋繊維の密度や骨密度が高いから爆発的な能力を出せるんだ。

 でもシュウゴとかセイは記憶とか情報処理、記憶とか脳内の強化ができるんだと思う。だからシュウゴは肉体強化っていうよりも脳から出す命令の数を増やすことである程度はスピードアップはできるんだよ。」


「やり過ぎると怪我するらしい。」


 冷静に告げているが、骨折や筋断裂などの危険を孕んでいるということだろう。


「あとこれはオレもよく分からないんだけど、オレは目がいいらしい。」

「目? 動体視力が凄いってことっすか?」


 シュウゴはサラダを咀嚼しながら首を横に振った。


「普通の人の倍の速度で倍の情報量が拾えるらしいよ。普通の人はそれでパンクするんだけど、オレの場合は幸いそうでない。理解しているけど、自覚はできてない感じかな。」

「ふーん?」


 2人は互いに別ベクトルの強さを持つらしく、あまり理解ができないようだ。


「あたしはそういう強化はできる気しないや。」

「でも、エルナは他の人たちより能力の効果範囲の伸び代が凄いし。ヒロタダと一緒でまた特殊だから、まずは自衛できれば十分だよ!」

「できてないから嘆いてるのよ〜!」


 ルイホァの肩を揺さぶる。


「ルイホァは何が得意なの? 何でもできるイメージがあるけど。」

「えっ、そんなじゃないよ!」


 慌てて手を横に振る。

 少しばかり目を伏せながら、ルイホァは笑顔で答える。


「私は特筆したものはないよ。他の人より肉体強化はできるけどケイたちほどじゃない。情報処理もできるけどシュウゴほどじゃない。能力の範囲も広いけど、エルナほどじゃない。器用貧乏、ってこと。」

「……それはそれですげーな。努力してるもんなぁ、オレも早く追いつきてーわ。」

「あたし達と違って熟練度があるから無理でしょ。」


 ケイとエルナがぎゃいぎゃい騒いでいたが、ルイホァはその2人を見て黙っていた。シュウゴがルイホァを覗き込む。


「どうしたの?」

「いや、努力してるって、今。私、全然なのに……。」

「そんなわけないでしょ。査定の時はオレが足引っ張っちゃったし。それにルイホァが頑張ってなかったら大方の人類は怠慢だよ。」

「えぇ、なにそれ。」


 シュウゴの大袈裟な言い回しに笑ってしまう。


「うん、元気出た! ありがと! もっと食べて強くならないとね!」

「……お腹壊さないでね。」


 彼は、一緒に持ってきたコーヒーをすすりながら、大盛りのパスタに手をつける。




「リーンハルト、お前聞いたか?」

「何をだ?」


 晴れてデスクが隣となったパウルが尋ねる。

 他の面々は現在、遠方での任務にあたっており、フロアにはパウルとリーンハルトしかいなかった。


「『Dirty』の最近の研究よ。」

「無理矢理、肉体強化や脳活性化を引き出す薬の話か。」

「それは昔から言われてたろ。あの研究所襲撃事件の時点から、データも奪われたしよ。

 それじゃなくてワープホールの悪用もな。」

「ワープホールの悪用? 同じような能力を持った奴が迎合したってことか?」


 いやいや、とパウルは彼は手を横に振る。


「何かもっと厄介な奴で空間を創り出すことができる奴らしい。まぁまだガキらしく制御できてねーみたいだが。」

「ガキでも戦いに顔出してるってことはそういうことだから。居場所が分かれば討伐保護対象になるな。」


「だが厄介だろうよ。

 幹部は相変わらず7人、能力は一部の奴が分かってても尻尾が掴めねぇ。しかも最近はその薬でバカみたいに強い試験体が出てきてる。戦争の時と比べ物にならないキメラもな。この前だってどれだけの被害を被ったか。」


 先日パウルも班員を率いて戦いに向かった。

 その際には幸い死者は出なかったが、班員のほとんどは重軽症を負ったのだ。


「……情報の動き方、向こうの把握の仕方的に間違いなく特務隊にいるだろうな、裏切り者。」

「そのためにいるんだろ、監査局が。」


 リーンハルトはペットボトルの蓋を開けて煽る。しかし、パウルは意に反して愉快そうな顔をした。


「でもあのヴィリさんよぉ、おたくのシュウゴと同い年くらいだろ? あからさまに気に入ってたよな。セイもだけど。」

「あーな、シュウゴは嫌がってはないみたいだけど間に挟まれるのは迷惑らしい。今日は話早々に切り上げてルイホァについて回ってたよ。」

「何だそれ! ヒヨコみたいで微笑ましいじゃねぇか!」


 パウルは腹を抱えて笑っていた。

 確かに出会った時はいちいちリアクションが薄くて心配だったが懐いてくると起伏が小さいだけで案外分かりやすいものだ。


「あ、リーン、こんな所にいたのか。」

「おお、ヒロタダ。元気そうだな。この前のデートのお土産ありがとうな!」

「デート言わないでください!」


 パウルは悪いと言いつつも全く反省している様子が見受けられなかった。


「あら、お気に入りのヒロタダくんしか見えていないのかしら? ねぇ、ハーマンさん?」

「別にいいだろ。」


 珍しくオリヴィアとハーマンもやって来たようだ。

 どうやら2人とも仕事が落ち着いているらしく顔を出せたそうだ。


「つれないわねぇ。今日は査定以来のリーンハルト班集合よ。せっかくだから手合わせでもしたいじゃない。」

「ストレス溜まってんのか。」


 リーンハルトが尋ねたが彼女は意味深に微笑みを浮かべるばかり、大方職場か恋愛で何か気に障ることがあったのだろう。

 オリヴィアが口を開こうとした時だった。


 その場にいる4人の、食堂にいる4人のコントロールウォッチからアラートが鳴り響く。


 初めての、緊急召集であった。




 リーンハルト班はすぐに服を着替え、現場に移動した。

 現場はシンジュク駅の地下。

 警察や消防が出動しているが、辺りは阿鼻叫喚、都会のど真ん中とは思えない砂塵が舞っていた。

 コンクリートにはヒビが入っていた。


「お疲れ様です! 地下に化け物がいるんです!」

「化け物? もう少し詳細をお願いできますか。」

「タコみたいな触手が電車を飲み込んだんです! それから1・2両目が消えてしまって、化け物がいるんです!」


 すでに先見部隊は向かったそうだが、音信不通らしい。


「出入り口でヒロタダとエルナは待機。

 エルナは5分毎または通信があったらにオレらの位置探索を行うこと、誰か感知できなくなったらすぐに連絡。それ以外はヒロタダが無効化を使って守れ。オリヴィアとシュウゴは2人のサポートと負傷者の治療。」


「「「了解。」」」


「でも何で5分毎?」


 ヒロタダが尋ねると、リーンハルトはううんと唸る。


「1・2両目だけ消えたってのが気になる。空間系の能力かもしれねぇから遠隔でお前らが引っ張られる可能性もあるだろ。」

「なるほどね。」

「あとは4人で討伐だ。最悪逸れても2人組は崩すな。オレとハーマン、ルイホァとケイで行く。非常時は近くにいる2人組になれ。」


「「「了解」」」


 リーンハルトの先導で3人は入っていく。

 後方からエルナ達もついていく。

 宣言通り、改札前で止まり、シュウゴとオリヴィアがけが人を出口に誘導していく。


 残りのメンツは改札を跨ぎ、地下鉄のホームへ降りていく。

 強い刺激臭と腐臭の混ざった臭いにケイはつい顔をしかめる。他の3人が平然としているため決して口にはしないが、日常を普通に送っていたら絶対に出会わない光景であろう。


 改めて特務隊の業務を思い知らされる。


「人、いねぇな。」


 3人以外の気配がしない。

 地下鉄が生気を失った生き物のように倒れている。

 車内には血が所々ついており、確かに先ほどの目撃者の証言通り1・2両目がない。


「前に乗ってた人たちはどこに行ったんだろう。」

「……気配はないが。」

「エルナさんに探索してもらった方がいいんじゃないっすか?」


 確かにケイの言う通りだった。

 リーンハルトは通信機を点ける。


「こちらリーンハルト、エルナ、車両の探索を頼む。」

『了解。』


 通信がきたため、ヒロタダが一時的に無効化を解く。そして、エルナが床に手をつく。


 静かな水面をイメージする。


 フェベは言っていた。

 人の気配は、水面が静かであればあるほど感知しやすく、人が多いほど乱れるものだと。


「いた、リーンハルト! 今いるところからイイダバシの方に……、」

「エルナ!」


 は、とエルナは息を呑む。

 気づいた時にはシュウゴに突き飛ばされており、床に身を投げていた。

 床に妙な紋様が現れたと思えば、次の瞬間にはシュウゴの姿が消えていたのだ。

 他にも同じような模様が人々の足下に生じていたが、ヒロタダが無効化をすぐに使ったため、それ以上の被害はなかった。


「どうした?!」

「ん?」


 エルナに言われた通り、イイダバシ方向へと進んでいた時、悲鳴が聞こえた。

 リーンハルトが尋ねた瞬間だった。


「どうしたんすか?」


 呑気に聞いてきたケイの足下にも、シュウゴの足下に現れた紋様が出現し、次の瞬間には彼は消えていた。

 リーンハルト以外の2人の足下にも現れたが、ルイホァが咄嗟に風を使い、自身を浮かせ、ハーマンは糸を使い回避する。


「何今の?! ケイはどこいったの?!」

『リーン、すまん! 上もシュウゴが消えた! 他は無事だけど1回退避する!』

「そうしろ! 地上からエルナの能力が使えるか確認してくれ! ハーマン、ルイホァ、行くぞ!」


 2人は頷くと、すぐに走り出す。

 常時移動など、風や糸を使えば容易なものであった。無事であれと、リーンハルトたちはこの奥にいる化物に向かった。

【こぼれ話】


 肉体強化が得意なのはリーンハルト、オリヴィア、ケイです。

 記憶など脳機能を上げるのが得意なのがシュウゴです。

 ハーマンとルイホァはオールマイティにできます。


 ヒロタダとエルナはいずれもそんなに得意ではありません。

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