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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
2章 還らざる者から紡がれる
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15.帰る家

「ッあ〜。」


 ヒロタダはベッドから半身落ちた状態で起床した。

 査定翌日、休暇を貰い、ヒロタダは休みであった。彼は疲れているほど寝相が悪くなるタイプでまさに今日の状態を示している。


 初めて、能力を正面から認められ、評価された。

 その事実は彼にとって何より嬉しいことであったし、自分を見つけてくれたリーンハルトには感謝の念しかなかった。


 そう、押しかけがなければ、それだけで終わったのだ。


 扉をどんどんどんどんと連打する音が聞こえる。この騒がしさは恐らく隣に住む彼以外あり得ないだろう。

 渋々身体を起こし、ボサボサのままインターホンで顔を確認し、予想が間違ってなかったことを再認識する。

 扉を開けると、昨日の疲れは何処へやら、満面の笑みのリーンハルトがよっと片手を上げていた。


「はよ! 今日って予定あるか?」

「おはよう。あったら寝てない。」

「それなら良かった! 暇してるから観光行かねーか?」

「観光?」


 ヒロタダは首を傾げた。


「昨日の飲み会あったろ? そん時にパウルとかモニカに言われたんだよ。ジパングは遊園地も広々とした自然もあるよってな! オレはよく分かんねーけど興味出たから知ってそうな奴を、って思ってな!」


 そう、あの査定の後、飲み会があったのだ。

 未成年組やフェベは帰っていたが、その他のメンバーは打ち上げに行った。

 ハーマンやカジェタノ、ヒロタダはしっぽりという感じで飲んでいたが途中からオリヴィアは暴走し、モニカは泣き上戸と化し、場は一時騒然とした。

 シュウゴもいたが、ヤンやセイに絡まれすぎて途中から無の境地に達していた様子を覚えている。


「別にいいけど、飲み会は大丈夫だったのか?」

「ああ、シュウゴからは返信あったよ。オリヴィアは……まぁ、モニカと肩組んで帰ったから大丈夫だろ。」


 本当であろうか、遠い目をしている。


「お前も二日酔いキツいだろ。今日はオレのバイクで行こうぜ。」

「バイク持ってきてるのか?」

「おー、向こうにいた時からの愛車。」


 準備して待ってるな、と言うと彼は部屋から出て行った。さて、ヒロタダも行くと言ったからには準備を始めるより他ない。

 初めて乗るバイクに実は心を躍らせていたが、彼を調子づけないためになるべく隠そうと、決めた。


「ここって……。」

「テーマパークだろ?」


 バイクで30分ほど走らせるととあるマスコットキャラで有名なテーマパークに着いた。

 テーマパーク自体は問題ない。いや、やはり問題ある。


「こういうとこってもっと大人数とか、デートとか、家族と来るようなところだろ!」

「そうなのか?」


 彼は不思議そうに首を傾げた。


「ヒロタダは来たことあんのか?」

「いや、まぁ……。」

「デートで?」

「デッ?!」


 面白いおもちゃを見つけたようににやりと悪い笑みを浮かべた。


「そういえばヒロタダの込み入った話は聞いたことねーから、ちょっとくらい聞きてーな?」

「嫌だよ!」

「……プッ。」


 リーンハルトは肩を震わせて笑っている。


「まぁ、デートは置いておいていいじゃねーか。オレ、こういうところ初めて来たし、案内してくれよ!」

「はぁ……もう、来たものは仕方ないけど、リーンこそ僕とでいいわけ? エルナとかルイホァとか若い女の子の方が楽しいんじゃないのか?」


 チケットを購入しながら尋ねるとああ、と思い付いたかのようにいう。


「その2人とでも楽しいと思うけど、ヒロタダとでも楽しいだろ!」

「……。」


 絆されてたまるものか。

 ヒロタダは口を噤みながら内心で強く決意した。


 結果から言えば、リーンハルトとのテーマパークはかなり楽しかった。

 お菓子については、この男、昨日の飲み会疲れを感じさせない程の大食漢であり、恐らく制覇は容易であったろう。

 本人曰く、能力をたくさん使うことや身体能力強化を行うことはかなりエネルギーを要するらしい。確かにルイホァやケイ、意外にもオリヴィアはよく食べる。


 そして、テーマパークのアトラクションについては、これなんだあれなんだと子どものように逐一尋ねており、ずっとニコニコしながら楽しんでいた。

 アトラクションについても知っている限りの見所を伝えると素直に感心されるものだからヒロタダとしても気分は良かった。


「本当にこういうところ来たことないんだな。」


「おー、エリートコース卒業してから21歳まで第2大陸で起きてたユーマニティ戦争に参加してたからな。それからも調査だとか戦後処理だとかでばたばたしてたんだよ。その後はベルリン支部の副部長になってたし、昨年は『Dirty』対策でジパングへの赴任も決まってたしなぁ。」


 ーユーマニティ戦争。

 それは新人類の反抗とも呼ばれるAAと新人類主義者の50年にも渡る永き戦争の名称である。

 終戦したのはここ5年の話であり、記憶にも新しい。


 本人はなんて事のないように言うが、自分が高校生活を楽しんでいる間、過酷と呼ばれるエリートコースを修了し、休みなく戦場に繰り出されていたのだ。


 ヒロタダはあることを想い、口にする。


「なぁ、リーン。」

「ん?」


 ヒロタダが呼びかけると彼は咥えたストローをガジガジ噛みながら返事をした。


「これから、沢山苦しいことも、悲しいこともある。でも、僕たちは班員であり、友だちであり、こうやってなんて事のないことを楽しめる間柄だっていうのを忘れないで欲しい。」

「…….なんだ、急に。」


 不思議そうにしていたが、彼は顔を綻ばせると、わかった、と小さく頷いた。


「ほんっとーに分かってるのか?」

「分かってるって!」


 怪しいな、と思いつつ彼に詰め寄ると、リーンハルトはケタケタ笑いながらそう言った。

 疑わしげに彼を睨んでいると不意に後方から聞き覚えのある声がした。


「何してんだお前ら。」


「あれ、ハーマン?」

「えっ、ハーマンさ」


 ぴしり、と音がしただろう。

 ハーマンがいることも予想外ではあったが、何より無愛想な彼の頭の上に愉快なカチューシャがのっていることに2人は戸惑った。


「ハーマンこそ頭に耳がのってんぞ。」

「いや、これはだな。」


 珍しく少し照れたように答えようとした時、ハーマンの腰の高さに勢いよく子どもが飛びついてきた。


「パパ、誰とお話ししてるの〜?」

「ん? 職場の人だよ。」

「パパのおともだち?」

「パパ?」


 ヒロタダは内心混乱していた。

 既婚者とは知っていたが、こんなに大きな娘さんがいるとは知らなかった。

 リーンハルトは知っていたようで、微笑ましげに見ていた。


「家族で遊びに来てんだな。」

「ご名答。シオリ、挨拶しな。」


「シオリ・フォースター、6歳です!」

「リーンハルト・ワイアット、26歳です!」


「知能が同レベル……?」

「ツッコミに容赦がねぇな。」


 何の波長が合ったのだろう、2人はキャッキャと喜びながら手を合わせている。


「お前手馴れてんだな。」

「前にエルナと迷子の母さんを探したことがあるんだよ。そん時をキッカケに、な。」

「へぇ、で、何で2人で来てんだ?」

「遊びに来たんですよ。リーンが来たことないって言うから。」

「……ほぉ。」


 どうやら詳細を考えることを放棄したらしい。


「お兄ちゃんの髪の毛はママとお揃いだねぇ。」

「ママもピンク頭なのか?」

「ううん? ママは茶色。でもサクラちゃんって言うんだよ!」


 そこまで言ってしまえば、リーンハルトの髪が桜色であると言いたかったことが容易に推測できた。

 しゃがみ込むリーンハルトによじよじと登り、気づけば肩車の状態になっているものだから、ハーマンが小さく謝る。


「パパ〜、もー、2人で置いてかないで〜。」


 のんびりとした女性の声がハーマンにかけられる。小さな男の子を抱えながら慌ててハーマンを追ってきたらしく、肩で息をしている。


「あっ、お知り合いの方?」

「一応上司だ。」

「あら、じゃああなたがリーンハルトくんね。」


 ふぅ、と息をつくと娘によく似た笑顔を浮かべる。


「ご無沙汰してます。ハーマンさんの同僚のリーンハルトです。こっちは……。」

「あなたは特徴的にヒロタダくんかしら?」

「えっ、ご存知なんですか?」


 ヒロタダが驚いた顔をすると、彼女は首肯した。


「パパが職場の方のお話してくれるからね。私はハーマンの妻、サクラと言います。」

「あっ、よろしくお願いします。」


 朗らかに微笑む彼女は、ひどく綺麗だった。

 まるで世の中の汚れを知らないような。


「こっちは息子のリツキです。さっきまでぐずってたんだけど疲れて眠っちゃったのよね。」


 彼女の腕の中でぐっすりと眠る息子はハーマンにそっくりで穏やかな寝顔で眠っていた。




「ハーマンさん、奥さんだけでなくお子さんもいたんですね。」

「まぁな。確かにお前らには言ってなかったな。悪い。」


 リーンハルトがシオリと遊んでおり、サクラは愛おしげにリツキの髪に触れている。


「この人、今は警察の寮で単身赴任してるから分からないわよね。こう見えて子煩悩だから、夜遅くに帰ってきてっていうのが寂しくて仕方ないって。」

「いつオレがそれを言った?」

「顔に書いてあるわ。」


 2人の間に流れる穏やかな空気は確かに何年もかけて作ってきたであろうかけがえのないもののように、他人のヒロタダでさえ感じた。


「……素敵ですね。」

「ええ、とても幸せよ。あの人もいればきっともっとーーー。」

「サクラ。」


 はっとサクラは何かに気づいたような表情になった。ぎこちない表情でごめんなさい、と謝った。


「マーマー! こっち来てー!」

「はぁい。ちょっとリツキのこと見てて。」

「ああ。」


 息子をハーマンに預けるとサクラはシオリとリーンハルトの方へ向かった。


「ハーマンさん、今のって。」

「いたんだよ、オレたちには親友が。娘はアイツの命日に生まれたんだ。」


 大きなため息を吐いて、彼は空を仰ぐ。

 サクラとは違って、不器用ながらも愛おしげに息子の髪を梳く。


「オレが、特務隊に入ったのも、刑事課から逃げたのも、全部。」

「んぅ、ぱぱ……。」


 息子と目が合い、はっとハーマンは顔を上げた。


「悪い、妙な話をしたな。お前らもせっかく2人きりで出かけてるし邪魔したな。」

「いや、その言い方悪意を感じます。」


 ハーマンは小さく、ククッと笑った。

 そんな2人とリーンハルトの通信機に通知が飛んできた。


「通知だな。」

「僕とリーンで行きます。ハーマンさんは家族と一緒にいてあげてください。」


 え、と彼は小さく呟いた。

 いつの間にか傍らまで来ていたリーンハルトも頷く。


「そだな。今日は班長命令、ハーマンは休日を楽しむこと。アンタは他のメンツが出られない時、全部出てくれてたろ?」

「……まぁ、」


 そうだったのか。

 ヒロタダもそれなりに出ていたが、やはりハーマンとリーンハルトの量は多いらしい。


「家族との時間も、大切にしろよ。」

「……恩に着る。」


 リーンハルトの一押しがトドメになったらしい、彼は複雑そうな顔をしていたが、どこか嬉しそうであった。


「リンリン行っちゃうのー?」

「おー、悪いな! オレこのお兄ちゃんとお出かけだから。」

「ふーん? また遊んでね! 約束!」


 立てられた小指に彼は一瞬固まったが、優しげに微笑むと、2人で指切りをしていた。

 通信機の方にはルイホァとシュウゴ、珍しくケイが出動すると連絡がきていた。


「さて、じゃあ行くか!」

「ああ。」


 過去に彼らに何があったかは分からない。

 しかしこの幸せな時間がずっと続くよう、ヒロタダは願わずにはいられなかった。

【こぼれ話】


 リーンハルトの愛車はB◯Wのロードスターがイメージです。

 この世界では18歳から免許が取得可能(17歳でも可能ですが保護者同伴の義務あり)ですが、17歳で大型二輪と普通車の免許をとっておりウルツを乗せ回しています。

 運転は安定していますが、駐車はすこぶる大雑把です。

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