12.リーンハルト隊 -逃げる強さ-
あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします。
引き続き、戦闘が続きます。
時は少し遡り、ルイホァは呆然としながら天井を見ていた。
まさかシュウゴが作った爆弾で床が抜けるとは。それに彼が咄嗟に爆弾で自爆に近いことを行う人間とは思わなかった。
音と落ちた衝撃で一瞬意識が飛んだ。
ルイホァは身体を起こして辺りを見渡した。
呑気に寝ている場合ではない。実戦だったら敵にやられて死んでしまう。
向こうに広い空間があり、風の流れが妙だ。
「へぇ〜、数ヶ月の鍛錬でここまでとはねぇ。君はオレと同じ頭脳タイプだと思ってたけど。」
「……。」
セイの腕は刃となり、シュウゴが構える刃と交えていた。
「でもまだまだ。身のこなしは素人だし、スピードも物足りない。判断力と能力のスピードは評価に値するけど、足りない。」
「【鎌鼬】!」
「おわ、」
刀を下に叩きつけ、その勢いで倒れかかった彼の頭を足蹴にルイホァの攻撃を避けた。
「シュウゴ!」
「速く!」
シュウゴのくぐもった声を合図にルイホァはセイに急接近する。
足に集中し、一時的に強化したのだ。そして併せて能力を使うことによりこのスピードを出した。
「速ッ……!」
「【風】!」
至近距離での大突風、セイは勢いよく吹っ飛んだが油断ならない。インク玉が潰れた感じがしなかったからだ。
そして、崩れた壁に打ちつけたはずだが、音が妙に柔らかかった。
ハッとしたルイホァは悲鳴のように叫んだ。
「まさか、シュウゴ!」
「ごめんなさいね! 【地雷】!」
振り向くことが間に合わなかった。
咄嗟に宙を舞い、ルイホァは回避したが、シュウゴは遅れたらしい。足が縺れるように姿勢を崩した。
「んもぉ〜、何でアンタは合流せずに2人を相手にしてるの。」
「いてて、ごめんなさいヤン隊長。助かったよ〜。」
「敬語!」
最悪だ。
ルイホァは宙で頭を抱えたくなった。
恐らくヤンの方は何やらクッションのような物を作り出し、セイを保護。モニカの方は弱いが電流を地に這わせてシュウゴに浴びせたらしく、シュウゴは立ち上がれないらしい。
どうすれば助けられる?
ルイホァが焦りを滲ませたその瞬間だった。
「最大風速で逃げろ!」
「キャ!」
動く右手でモニカに何かスプレーを掛けたらしく、彼女は後退する。それと同時にヤンに向かって何かを投げる。あれば恐らくフラッシュバン。
セイはすぐに跳び上がりルイホァに向かってきていたが、彼女の判断の方が早かった。
「【暴風】!」
「うぁ、」
セイは崩れた姿勢を空中で回転しながら修正して、壁を伝って地面に降りた。
想定以上の速さだったこともあってか、3人はその場を立ち去るルイホァを見送った。
シュウゴの不意打ちもあり、視認するのも遅れたのだ。
「逃げられたわねェ。」
「しくった。」
セイは頬を膨らませながら不満を漏らす。
「うー、臭い。でも、インク玉潰させてもらうわね。ごめんね。」
「はぁ。」
諦めたらしいシュウゴはため息をついてだらんと力を抜いた。
正直踏みつけられた時に打った頭が痛いし、身体もいうことを聞かず、作戦を立てる間もなかったことに内心も打ちのめされていた。
『リーンハルト班1名脱落、残り6名。』
ケイは眉を顰める。
先ほどからエルナからの連絡もない。通信の感じだと恐らくハーマンとヒロタダ、オリヴィアは一緒におり、エルナが単独、ルイホァとシュウゴが一緒だ。しかし、エルナが脱落となるとそのことについて述べるはず。そうなると可能性としてはルイホァかシュウゴだ。
自分はここで格上の相手を打ち破ることに必死になっていていいのか?
自分の力比べは間違い無く楽しい。
でも、怪我をしている場合じゃない。
他の仲間が戦っているのに自分は何も成果をあげないのか?
ぐるぐると思考が巡る。
「動きが鈍っているぞ小僧! 【火炎弾】!」
「【黒炎】!」
着地と同時に腕から炎を発してカジェタノの炎と相殺させる。相殺まではできるのだが、どうも上回るまでがいかないのがもどかしい。
それは相手も同じのようで、苛立った表情を浮かべた。
「遅い遅い遅い!」
振るわれた拳を下段へと避ける。
そして、背中の衣類ごと、黒炎により燃やし、相手に攻撃を放つが、カジェタノは驚きつつもあっさりと避けてしまう。
「お前本当にただの学生か?」
「エリートコースには一時期参加させられてたけど。」
「へぇ、じゃあお前が希有なエリートコース中退者か! 何でまた……。」
ピクリと眉を吊り上げる。
ケイには理解できなかった。
エリートコースが全て、というような、選ばれた人間の必ずいく道だという考えが。
「あんなのエリートコースなんかじゃねぇよ。人を傷つけることばかり教えて、人の夢を奪う学校なんて、必要ねぇ!」
「!」
全身から噴き出るような炎。
カジェタノはつい口元を綻ばせる。
やっとこの青年の能力を見た、と。
リーンハルトから彼の潜在能力については聞くことがあった。それに手加減しているのは明らかだった。だから真の実力を、たとえ暴走したとしても見てみたいと、同じ炎使いとして思っていたのだ。
「全力で相手してやる! 【炎波】!」
カジェタノも両手から全力で炎を噴き出し、ケイに放った。その炎は確かに彼を捉えたように感じたのだ。しかし、不意にその気配は消えたのだ。
「……何だ?」
炎を収めるとそこにいたはずの青年はいなくなっていた。代わりに壁には大きな穴が残っていた。
なるほど、挑発に乗ったと見せかけて発揮した能力は防御と後方への壁への攻撃に用いられたのか。しかも気配が一気に消えた辺り、かなりの速度で移動している。
ただの能力に恵まれた青年かと思っていたが存外賢いらしい。
このまま続ければ経験値的にカジェタノの勝利がかなり濃いものであったしジリ貧になるのも目に見えていた。
「面白い奴だ。」
カジェタノは恐らくケイが向かっているであろう方向へ足を向けた。
一方でケイは無傷であったが、怒りをあらわにしていた。
「クソ、クソ、腹立つ!」
ケイはキライだった。
自分の能力も、新人類旧人類という括りも、エリートコースの存在も。
だから怒ったことは真実だ。
でも、信頼している仲間が作戦会議の時に言ったのだ。
『オリヴィアさん、向こうの人たちの能力は知っていますか?』
『ええと、確かパウルさんは【針】の使い手だったと思うわ。あとモニカさんは【雷】使い。ヤンさんは【加工】。他は分からないけど、私たちより経験があることに間違い無いわ。』
『……あと、身のこなし的にセイって人は近接系だと思います。それと、ハーマンさん、オリヴィアさん以外は特になんだけど絶対に少数の状態や1対1の状況にはならないようにすべきですね。』
『勝てそうだったら突っ込んでいいんじゃねっすか?』
ルイホァもケイと同意であったが、シュウゴの言っている意味が分かっていたからか二の句はつがなかった。
『ダメだよ、ケイ。特に君はね。』
『何でっすか?』
ヒロタダが穏やかに告げる。
『だって君は特務隊員である前にスポーツ選手だろう? なら何が何でも怪我をしちゃいけないし、実戦なら少しでも被害の少ない道を選択するんだ。』
『ーーーー、』
この人たちは現場の厳しさを教えてくれるとともに、バスケをする自分を何より尊重してくれているのだ。
だから、ちゃんと役に立ちたい。
改めてそう感じさせられたのだ。
『ケイ、その先にルイホァがいる! それにルイホァは3人に追われてるから注意して! 今ハーマン達が向かってる!』
「了解。エルナさんは?」
不自然に、通信が途切れる。
もしや、彼女にも手が迫っているのでは無いか。
走りながら懐の地図を確認する。
服を燃やしたから地図も燃えたかと思ったがそうでもなかったらしい。
彼女の行きそうな場所を考える。
「いや、誘導されそうなところ、か。」
ない頭を捻ってみせようではないか。
ケイは以前ともにトレーニングをしていた時のシュウゴとオリヴィアの言葉を思い出す。
『オレは袋小路に追い詰める。もしくは大広間。出入口が全て視認できるから。』
『私は前者ね。気づかぬうちにじわじわと。』
確かその時ケイは内心でオリヴィアに脅えたのを強く覚えている。
なら、袋小路はーーーー。
何で何で何で!
エルナは恐怖を抱えつつ走っていた。
1つ、恐らく交戦している情報を拾う限り、フェベという女性が自分のところに向かってきている。
なぜか、エルナの位置を正確に把握して、逃げ道を潰すような追いかけ方をしてくるのだ。
『エルナさん、エルナさん、』
もう一度相手方を把握しようと能力を使うと、不意にケイの声が聞こえてきた。
「何……?」
『オレが助けに行きます。袋小路に入ってください。あとあえて接触して相手の能力を聞き出してもらえると助かります。』
「……袋小路。」
地図を確認するとどうやらこの先は広くも狭くもない部屋があるらしい。
エルナは年下の青年の言うことを信じて、走って移動する。
まもなく、あの穏やかそうな女性がゆっくりと部屋に入ってきた。白髪をお団子にまとめ、その裾の毛をゆらりと揺らす。
「わざとか、わざとではないか、それは判らないけども貴女をやっと追い詰めることができたわね。」
「……やっぱり貴女も感知系の能力ね。」
「ふふ、聞き出そうとしているのは分かるけども稚拙ね。」
稚拙、その言葉を聞きエルナは赤面した。
「しょしょしょ、しょうがないでしょ! でも、情けなくたって何だって、私は退場するわけにはいかないんだから!」
「気概は結構、ですが。」
ドン、と大きな音がする。
床を蹴った音、と認識した時にはすでに目の前に彼女が迫っていた。エルナは床を蹴り後方に下がろうとするが間に合わない、すでに彼女の手の届く範囲だ。
しかし、同時に知っていたのだ。
この距離で十分だ、と。
『エルナさん!』
天井を突き破る高熱。
フェベは見を翻し、寸での所で回避する。エルナは炎の勢いで尻餅をついた。
「この技は……、」
「遅いっすよ!」
咄嗟にインク玉に伸びてきた手を払った。
しかし、それは囮で彼は本気でフェベの頭を狙うような蹴りを放ってきたのだ。
その蹴りをギリギリ回避したが速すぎて頰と何かが切れるような音がした。
「……狙いはインク玉ね。」
そう、その本気はギリギリでよけられるから、という前提のもとで放ったものらしい。三手目で破られたインク玉をみて微笑んだ。
フェベはワープに入りながらも、嬉しそうに微笑む。
「でも、貴方は派手に登場しすぎたわ。」
「……、エルナさん、前にとんで!」
「えっ、」
訳もわからないまま言われるがままに跳ぶと、エルナの身体を強引に手繰り寄せて、ケイは通路に逃げる。
エルナの後方の壁が派手に爆発したのだ。
この技は、恐らく先ほどまで相対していたカジェタノに間違いなかった。
「エルナさん、相手を視認したら逃げてください。」
「えっ、ケイはどうするのよ!」
「時間はあと10分もないっす。たぶん、あの人強いから倒すのは難しいけど、時間を稼ぎます。このままいけば6対4でオレらの勝ちです。」
「……分かった。」
こんな時まで勝ちに貪欲なのだな、とこの場に似つかわないことを考えてしまう。
「青年、勝負だ!」
「行ってください!」
ケイの声と同時に空間は赤と黒の炎に包まれた。
【キャラクター紹介】
セイ・シバサト (10話より)
21歳 168cm
好きなもの:ゲーム、動物園
嫌いなもの:脳筋、温泉
金髪の糸のような猫っ毛を後ろ髪で縛っている。
身長の割に童顔で話し方の影響もあり幼い印象を与えやすいがかなり淡々としている性格。賢くて面白い人が好き。戦略ゲームやパズルが好き。元監査局の人間で情報通なところがある。
カジェタノ・デラオ (10話より)
30歳 172cm
好きなもの:辛いもの、子ども
嫌いなもの:園芸
クリーム色の短髪で剃り込みが耳の上に入っている。猫目で薄い眉になっている。ピアスがたくさんついており、頬に刺青も入っている。
今後指導員となるため修行している。戦闘センスについてはピカイチだが伝える技術に乏しい。自分にも他人にも厳しいタイプ、言葉はやや粗暴であるも根は優しい人間である。
フェベ・ケーレマンス (10話より)
49歳 159cm
好きなもの:茶華道、旅行
嫌いなもの:動物
能力:超視力(いわゆる千里眼)
見かけは70代、白髪の長髪を後頭部で団子に丸めている。腰はぴんしゃんしている。穏やかで決して怒らないが、内に秘めた思いがある。
【こぼれ話:能力について】
セイの能力は【変身】。本人曰く、身体の一部のみを触れたものに変化させることができる。無機物、有機物は問わないらしい。
カジェタノの能力は【炎】。ケイのものと違い、こちらはメジャーなタイプで自身で生み出すこともできれば既存の炎も威力を落とさず操ることができる。