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7 蛇足 TS少女がコーヒーを淹れる話

作者の自己満足満載ですが、コーヒー回です。

 朝、譲二(じょうじ)はごそごそと、古いビデオカメラを持ち出してきた。


 朝ごはんを作るミキを()るためだ。紺ブルマ体操服に水色のエプロンという姿で、踏み台の上に乗るミキは(あい)らしかった。

 ちなみに踏み台は長く大きなものに買い換えてある。前のものは、(せま)(あぶ)なげだったからだ。


 今日の朝ごはんは、コーヒーにバタートースト、温野菜とサラミのチーズ焼き、作り置き惣菜(そうざい)たちだ。


 ミキの作戦はこうだ。温野菜をオーブンで作りながら、コーヒーを()れる。

 そしてコーヒーカップとともに、惣菜と取り皿をテーブルに出した後、バタートーストにかかる。

 バタートーストの食べごろは一瞬で過ぎてしまうので、このような組み立てなのだ。


 ◆


 ミキの後姿(うしろすがた)は、白体操服の下からほっそりとした足が()びていて、その間に紺色がちょっとだけ見えるという、チラリズムを大変刺激するものになっている。

 体操服の上のエプロン姿で、愛らしさよりも背徳感(はいとくかん)(まさ)ってしまうのはなぜだろうか。


それはともかく、ミキは今ちょうどコーヒーに取り掛かったところだ。


 「ミキさん、解説もお願いします」

 「うう、ほんとうに()っているのですね…。で、では、これからコーヒーを()れはじめます」

 「すでにポットで浄水器のお水を、900グラム沸騰(ふっとう)させています」

 「あ、ccではなくてグラムなのは、キッチンスケールで水の量を計ったからです。二人分の500ccのコーヒーを淹れていきます」


 ちょうど、ドリップポットの(ふた)がカタカタと沸騰(ふっとう)した合図を出し始める。

 このドリップポットというのは、コーヒードリップをしやすいように、ポットの下から注ぎ口が白鳥の首のように細く伸びているものだ。


 「ポットが沸騰したら、火を止めて冷ましていきます。今日の目標温度は85℃です。まだ温度計を入れません。ふたを取るとどんどん下がりますから。時間(かせ)ぎをして、その間に豆を準備します」


 「豆は冷凍してあるものを18グラム使います。このコーヒーミルに入れながらキッチンスケールで計ります」

 「0に(リセット)してから入れていけばいいので、楽なのです」

 「500ccのコーヒーには大体28グラムのコーヒー豆がいるのですが、破綻(はたん)しないぎりぎりまで減らして18グラムにしました」


 うふふと、ミキがうれしそうだ。どうやらギリギリを(ねら)うことが好きなようだ。覚えておこう。


 「コーヒーミルは、豆を粉にします。ぼくは手動式で分解清掃が楽な、このアウトドア用のものが好きです」

 「本体が金属製なので、()いた粉が静電気で残りにくいですし、セラミック製のミルもすべて水洗いできます」


 ミキによると、コーヒーミルの清掃はとても大事で高い豆も、行き届かないミルで()いてしまうと、味も香りも台無しになってしまうそうだ。ミルに堆積(たいせき)する古い粉はやっかいなものなのだ。


 がりごりとミルで豆を挽いていくミキ。

 細腕なこともあり、体全体を使ってハンドルを回している感じだ。これは大変そうだ。


 「ミキさん、かわりましょう」

 「あ、ありがとうございます。ちょっとうれしいです…」


 ゆらりと寄ってきて、おでこを軽く()り付けてくる。

 ミキのこの仕草(しぐさ)は、本当にあいらしくて困るほどだ。キ…い、いや、自重しなくては。


 見上げた表情を笑顔で崩すと、ミキはポットの方に向き直った。


 「そろそろ、ポットの温度を見るころです。ふたを開けて、温度計をお湯に差し込みます」

 「もし火にかけたまま温度計を入れていると、危ないので気をつけないとです」

 「温度はだんだん下がってきて…いま、ちょうど85℃ですね」


 ミキはポットから温度計を取り出すと、大事そうに()いてからキッチン用具立てに入れた。


 ポットに(ふた)を戻すと、すでに紙フィルターをセットしてあるドリッパーにお湯を回しかける。

 すると、ドリッパーからガラス製サーバーにお湯が落ちていくのが見えた。


 「何も入れない紙フィルターに、お湯を入れるのですね」

 「これ大事なんです。あ、下に落ちたお湯の匂いをみてくださいますか?」

 「…! これは、ちょっと粉っぽいというか、においますね」

 「紙の匂いだと思うのですが、これがコーヒーに入っちゃうのは困るので…」


 そう言いながら落ちたお湯を捨ててから、もう一度サーバーにポットからお湯を入れて洗った。

 これでもう大丈夫です、とミキが笑顔を見せた。表情も良く動いてかわいらしい。


 紙フィルターとドリッパー、ガラス製サーバーとシリコン製の敷物(しきもの)がセットされた。

 ミキはフィルターに()いたコーヒーの粉を入れると、とんとんと軽くならしてからポットで少しお湯を入れる。


 「さいしょにコーヒーを(むら)らします。20秒ぐらいでしょうか」

 「蒸らす意味ですか? 蒸らさないとお湯を入れ始めたときに、コーヒーからガスが出てあばれるから、でしょうか」

 「コーヒーが(あば)れる?」


 20秒が経って、ミキが中心からポットでお湯を注ぎ始める。

 しゅーっとコーヒーがお湯を含んで、まるでハンバーグの色艶(いろつや)(ふく)らんでいった。


 「はい。お湯をゆっくりと入れて、抽出(ちゅうしゅつ)といっしょにろ()をする層を作っていきます」

 「ガスであばれさせたりお湯を乱暴に入れたりしますと、せっかく捕まっている不純物がサーバーに落ちてしまうと思っています」


 「色々な意味があるのですね」


 ミキの頭を()でたくなるが、今は自重しないといけない。ちょっとつらい。

 真剣な表情で、800ccほどはいったポットを(あやつ)っているミキ。華奢(きゃしゃ)な腕ではつらいだろう。


 2分ほどで500ccを淹れると、まだお湯がたっぷりはいったドリッパーを外してしまう。

 すぐに保温用のマグボトルとコーヒーカップを取り出すと、ポットに残ったお湯を入れて暖めた。


 ここでぴったりお湯を使いきったようだ。


 マグボトルのお湯を捨てて、サーバーに入った500ccのコーヒーを慎重に移していく。

 マグボトルがいっぱいになると、ミキはここでふうっと息を()いだ。


 ◆


 「譲二(じょうじ)さん、どうでしたか? これでよかったですか?」

 「はい。ミキさんがとても頑張っていることが良く分かりました。これから3分ほど、ミキさんの時間をいただけませんか?」


 「え? あ、はい…」


 ゆっくりと小さな顔を手のひらでつつんで、互いのくちびるが()れるとミキからも求めてきた。

 ささやくように、あいしています、と伝えると、だいすき、と返ってくる。

 充実感と使命感としあわせが、熱くなった胸の中でぐるぐると追いかけあっているようだ。


 そういえば、職場の同僚(看護師たち)に頼まれた、小さなパートナー(ミキ)のビデオ撮影は、途中からそっぽを向いたままだった。


 まあ、いいかな。ミキともうちょっと、3分たつまでいちゃいちゃしよう。

 そうしよう。


イオンの深いコク オリジナルブレンドレギュラーコーヒー 豆500g(税込537円)がとても良いです。

お付き合いいただき、ありがとうございました。

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