ルドルフの鼻
【キーワード】
・雪
・栞
・波
ルドルフは不安そうに空を見つめる。彼の輝く赤い鼻も、心做しか薄暗く見えた。
彼は昔、トナカイの群れから虐められていた過去を持っている。夜になると真っ赤に輝く不思議な鼻が、群れを危険に晒すからだ。
夜は獰猛な狼が森を駆け抜け獲物を探す。彼らトナカイにとって、どれだけ息を潜めて隠れられるかということが重要なのだ。
しかし、ルドルフの赤鼻は遠くからでもハッキリと確認することが出来、まるで本に挟んだ栞が次開くべきページを教えてくれるかのように、オオカミたちに存在を伝えてしまうのだ。
だからルドルフは、トナカイの群れから煙たがられていた。完全な邪魔者だ。
しかし、そんな彼に真っ赤な服を着た男が語りかけた。
「暗い夜道は、ピカピカのお前の鼻が役に立つだろう」
ルドルフにとって、初めて生きがいを示された瞬間だった。驚気を隠せない彼は鼻をいつも以上に点滅させた。その鼻に照らされた男は、白髭をルドルフの色に染めながら笑った。
サンタクロースを名乗る彼は、ルドルフにソリ引きの仕事を与え、夜道を安全に走るよう指示した。
空から延々と振り続ける雪や、波のように忙しなく押し寄せてくる風を全身で感じながら、サンタクロースを無事に運ぶ。それが仕事である。
「僕、頑張ります」
目を輝かせそう断言したルドルフだったが、それはもう過去の話。
「そろそろクリスマスだね、パパ、私あのゲームが欲しいな!」
街を行く子供たちは、もうサンタクロースが作ったオモチャを欲してはいなかった。
世界中にオモチャを作る会社や職人が溢れ、それを届けてくれる仕事が生まれていた。そして、いつの間にかサンタクロースは必要とされなくなっていた。
ルドルフは、今夜も主人の帰りを求めて空を見上げる。
人気のない薄暗い森の中、彼の鼻だけが寂しそうに灯り続けていた。
クリスマスが近いので、赤鼻のトナカイを元に書きました。こちらのサイトで更新される頃にはクリスマス、終わってますけどね(笑)