夢見心地
プシュゥ、空気の抜ける音がして、私の世界は現実へと引き戻された。複眼のようなライトが私の顔をカッと照らし、意識を強制的に覚醒させる。
「おはようございます。どうでしたか?」
博士は私の顔を覗き込んで、不安げにそう尋ねた。
「最高でした。まるで私がいたって普通の主婦であるかのような一生を歩むことができました」
「そうですか、それは良かった」
博士はほっと胸を撫で下ろすと、くるりと背を向ける。きっと他にも目覚める人が居るのだろう。
それにしても、本当に素晴らしい体験だった。最近開発された没入体験型ゲームは、魂に直接映像を流し込むことで、まるで現実のように異世界を体験することが出来る。
まるで夢のような世界だ。私はゲームの中で、素敵な恋をし素敵な家庭を築き、息子を育て、最後に戦火に巻き込まれて死んだ。
数十年分の映画を一気に三鷹のような満足感、まさに夢見心地である。
「それで博士、次は何を見せてくれるんですか?」
私は装置から体を起こすと、博士の方を見つめた。彼はたった今、新しく目覚めた人に話しかけている様子だ。
「おはようございます、気分はどうですか?」
「素晴らしい体験が出来ました」
「そうですか。しかし私は言いましたよね。あの世界で殺人をする場合、こちらの世界でそれなりのペナルティがあると」
博士はそう言うと、彼を再び装置に閉じ込めた。
「地獄へ行ってらっしゃい」
あーあ、彼は規約違反をしたらしい。




