美香とルシオ
【キーワード】
・人間の闇
・一つの真実
・過去
美香は、ベッドに蹲ったままケータイを開いた。そこに映し出されているのは、元恋人のルシオと肩を並べて笑う自分の姿。いつまでも過去に縋りついている一人ぼっちの美香。そんな彼女を、まるで嘲笑うかのように幸せそうな写真だった。
美香がルシオと付き合ったのはちょうど今から二年前だった。美香が通う大学のサークルに、OBとして顔を出したルシオに一目惚れしたのが出会いで、それからは美香の一方的なアピールとアタックにより振り向かせる事が出来たのだ。
「でも、あの時私に好きって言ってくれたのは嘘だったのよね、ルシオ」
美香は涙を液晶画面に零した。あの頃の記憶を洗い流したいと思ったからだ。自らの穢れを、人間の闇を、忘れてしまいたいと思ったからだ。
しかし、ボヤける視界の中でもルシオの顔だけはハッキリと焼き付いていた。
美香は結局のところルシオを忘れられないでいる。まだ好きでい続けている。叶う事なら、これからも永遠に『恋人』で居続けたいと願っている。
しかし、もう不可能なのだ。
「よし、ルシオの事は忘れよう」
あれから何時間かして、美香はようやく布団から這い出てきた。彼女の手にある携帯の画面からは、もうルシオの画像が消えている。
「私は、もう卒業したから」
そう自分に言い聞かせ、部屋を出る。それから下の階でテレビを見ながら寝そべる男性に声をかけた。
「ただいま、あなた。三年間の留学、楽しかったわ」
美香の薬指がキラリと光る。彼女の抱えるたった一つの真実を、一時の恋の行方を、ルシオは永遠に知ることは無いだろう。
突如大学から消え、日本に帰ってしまったガールフレンドの行方を、ルシオは永遠に見つけることは出来ないのだ。
最近一人称ばかりなので三人称のリハビリ。