あの人のいる場所
【キーワード】
・まつ毛
・缶コーヒー
・夜景
「お疲れ様」
先輩は無愛想に私の傍へ腰掛けた。
「もぅ、遅いですよ」
すっかり空になってしまった缶コーヒーからは、まだほんのりと甘い香りが漂う。そんな私の手を見つめ、彼は薄い笑みを浮かべた。
「結構、待たせちゃったね」
「えぇ、かなり」
無愛想を貫く私に、彼は頭を下げる。
「ごめんよ、ずっとずっと待っててくれたのに」
遠くに輝く夜景が、チカチカと瞬く。あの中に、私の家もあるのだろう。
「まさか、のこのことやってくるだなんて思ってもいませんでしたよ」
私は自分の家を探すふりをして、ガードレールから身を乗り出した。
「それは僕のセリフだよ。まさかこんな山奥に来てくれるだなんて、さ」
どこか申し訳なさそうに、それでいて嬉しそうに。彼の言葉はか細く有りながらも、私の心に響いてくる。
「噂を聞いたの。だから、来ちゃった」
そう答える私を、後ろからそっと抱きしめた先輩は囁く。
「ごめんよ、君を一人にしてしまった。あの日、あの時、僕が犯人を抑えていれば、こんな事にはッ」
声を荒らげ、次第に力が強くなる彼を、私は制した。
「辞めて。そんな昔の話、もういいのよ」
力が緩む彼を向き、そっと目を瞑る。唇が重なり、冷たい夜風も気にならない程に心が暖まった。
「…………さようなら」
あれからどれほどの時間が経ったのだろう。もう太陽が見えていた。そして、彼の姿は消えてしまったようだ。
先程まで感じていた彼の温もりを、私は思い出すように唇に触れる。
丑三つ時に、一度だけあの世の人と会える場所。その噂を信じて良かったと思う。
「さてと、帰ろっと」
パトロール中の白バイに跨りながら、私は濡れるまつ毛をそっと拭った。
「また、いつかね」
もう二度と会えないのだろう。だが、それでいい。私は彼に、さようならを言えたのだから。
恋愛ものが好きなんです。誰かが言ってました。『物語』というものは、『愛』と『死』によって生まれるって。




