14階段
【キーワード】
・しらたき
・カレンダー
・ペンギン
私は布団に包まった状態で顔だけ出して壁を見る。カレンダーを確認するためだ。
「あ、あと一日」
意図せず口から心の声が漏れる。それほどに追い込まれてしまっていたらしい。しかし、私の中では高揚感がフツフツと湧き上がってくる。あと一日、たった一日乗り切るだけだという現実。それが私に再び勇気を与えてくれるのだ。
「あと一日、耐え切ってやるともさ」
私の表情は自然に緩んでいた。14日間耐え切ったという事実が、私の心に余裕を与えてくれたらしい。
「へへ、何が二週間で必ず引っ越す部屋だよ。たった一日だぜ。あとたった一日耐え切るだけじゃないか」
そう言いつつ、スマホの画面を覗く。時刻は23時55分。あと5分で日付も代わり、引っ越してから15日目となる。すなわち二週間と一日だ。
「何が曰く付き物件だ。余裕で住めるっての」
そう口にした瞬間だった。
──コツン、コツン、
部屋の外から足音が響いてきた。
「始まったか」
部屋の外には階段がある。それを上ってくる足音だ。
「さぁ、かかって来やがれ」
昨日、ふと気になり段数を数えたところ、階段は14段あることが分かった。
「今日が14日目の夜だ。上り切るんだろ」
今まで住んでいた人もきっとそれに気づいていたのだろう。
だから足音が上りきる14日目より前に他のアパートへ引っ越しする。しかし、私は違う。私はここに住むと決め、足音と戦うことを決意しているのだ。
──コツン、コツン、コツン、コツン……。
どうやら、登り終えたらしい。足音が止まり、玄関の向こう側から荒い鼻息が聞こえてきた。
風邪でも引いているのだろうか、具合の悪そうな呼吸音が響いた後、突然玄関のドアノブがゆっくりと回った。
鍵は閉めているはずだ。開くはずもない。念の為新しい鍵に変えておいたし、チェーンもかけてある。入ることは出来っこない。
案の定、回り切ったドアノブが何度か揺れたが、ドアは開かなかった。さぁ、これで諦めてくれ。そう期待こそしたが、どうも甘かったらしい。
──ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ……。
ドアノブが何度も何度も捻られる。いや、それだけじゃない。まるで借金取りのようにドアを何度も叩き、ペンギンやインコが餌箱を漁るように郵便受けを開け閉めする。
「…………ッ!」
想像を超える騒音に、私は思わず耳を塞ぎ布団の中に包まった。しかし、それだけでアレが落ち着くはずもない。
延々と響き続ける騒音、荒い鼻息、唸り声。
──びちゃっ。
玄関に何かが落ちる音がした。しかし、震えで体が硬直した私は、その音が何なのか見ることも出来ない。
「………………ッ」
必死に声を押し殺し、自らの存在感を限りなく0に近づける。だが、そんな私の努力も虚しく、どこから入り込んだのか玄関の方から寝室に向けて足音が響いてきた。
着実にアレは近づいてきている。
「フーーーッフーーーーーッ」
鼻息がはっきりと聞こえる距離までやって来た。
そいつは丸く震える私の布団に伸し掛ると、隙間から指を這わせる。
──ニュルっ。
しらたきのような感触が脚を這う。鉄分と焼けた内臓のような臭いが布団の中に広がり、背中に痛みが走った。
恐怖のあまりに涙が滲みだし、私は必死になって布団から逃げ出した。
振り返ることも無く家を出て、裸足のまま階段を駆け下りる。そんな私の背後で、アレの声が聞こえてきた。
「一緒に……住もう、よ」
私は一切振り返ることなく走り続け、息が切れた頃になって地面に崩れ落ちた。
「も、もう無理だ」
家は既に見えなくなった。もう安全だと思い、嫌な感触のした部位を確認する。
足の裏には潰れた蛆が張り付き、背中には剥がれた爪が刺さっていた。
たしか、あの家では孤独死をした男が居たとか。常に一人で、死体が腐るまで誰にも発見されることがなかったらしい。
「やっぱり、やっぱり引越しをしよう」
誰にでもなく決意する私の真後ろで、ふと声がした。
「一緒に……住もう、よ」
しらたき!? ペンギン!? ど、どう使えばいいんだこのキーワードは!
めっちゃ難しかったです。しかもホラーを書けと言われたので。ペンギンなんてホラー要素皆無じゃないですか。
ペンギンの描写を『ペンギンが鳴くような、低く不気味な音が枕元に響いた』の方が良かったか???




