かける兄弟
【キーワード】
・虎
・牛丼
・兄弟
ベトナムの熱帯雨林を、兄弟が駆け抜ける。彼らからすれば、景色が背後に吹っ飛んでいくようなものだろう。
「兄貴、本当にニホンってところから帰ってきたのか?」
どうやら、二人は久方ぶりに再開を果たしたらしい。兄貴と呼ばれた方は頬を緩ませた。
「ああ。向こうではなかなか良い暮らしだったが、やはりスリルに欠けるんだよなァ」
そう語る兄貴に対し、背後を追うもう一人が感心したように喉を鳴らした。
「ニホンってのはどんな場所なんだ?」
「ああ、飯が美味いぞ。牛丼だとか唐揚げ定食だとか、体に良さそうなのばかりさ」
「ほへー、でもなんで兄貴、逃げ出したんだい?」
そう問われた彼は、困ったように口を開いた。
「やらかしちまってな」
次の瞬間だった。森の中に発砲音が響き、鳥が空へ一斉に羽ばたいた。
「あ、兄貴ィ!」
そう叫ぶのも無理はない。腹部を銃で打たれた兄貴は、その場に崩れ落ちる。
「い、行け。逃げるんだ」
苦しそうに唸る彼の言葉に素直に従った弟はジャングルを駆ける。
背後で人間の声が聞こえてきた。
「コイツがサーカスから脱獄した虎か。発信機を付けてて正解だったな」
弟が身代わりになるとかでもよかったかも。