サタデーナイト
【キーワード】
・創作
・クラブ
・錬金術
今夜は日記を認めようと思う。2018/12/29、土曜日、週に一度のサタデーナイトだ。私は予定していた通りの時間に家を出る事にした。
むろん、服装は完璧だ。髪型はワックスで固め、その上からヘアスプレーで固定する。肌荒れケアのため男性用化粧水を顔に塗り、かわいた所で下地を乗せる。
あくまで自然にだ。それ以上の事を望んではならない。私は徒歩で少し離れたナイトクラブに立ち寄ると、身分証と入場料を差し出す。そして一言。
「ご苦労さま」
あえて常連であるかのような雰囲気を放つ。五年も通い続ける内に自然とそうなった。私は許可を貰い建物の中へと足を踏み入れる。
中では多くの男女が既に踊っていた。ここで慌てるのは素人、そのまま私はカウンターに向かい、瓶ビールを一本だけ購入する。大事なのは『飲んでいるふり』をする事。そうすれば自然に人は寄ってくる。
私のちょうど真向かいで創作ダンスを披露する若者が見えた。中々に上手い。
しかし慌ててはならない、私は一口ビールを口に含むと、音楽に乗せてゆっくりと体を動かしそっと笑顔を作った。
それに気づいた男がこちらに向けて手を差し伸べる。ふむ、ダンスを見せてみろと言いたげだ。彼の近くで身を揺らす女達の目がこちらに注がれた。これが好機である。
私はすかさずビールをカウンターに置き、フロアに身を乗り出した。そのまま得意のダンスを披露する。幼少よりヒップホップを学んでいた私からすれば、ナイトクラブ等箱庭同然。彼らの注目を一身に受け、彼らの歓声をその身に浴びた。快感である。
女達の内一人が身を乗り出し腰を振る。私の前に尻を向け、突如踊り始めた。まるで鳥や小動物の求愛行動だ。それを見るや、私は彼女の腰に手を当てそっと揺する。彼女を楽しませる程度に体に触れる。時折強く抱き締め、また時折髪を撫で、わざとらしく唇に触れる。それも全て、ごく自然にだ。
彼女の酔いがピークに達した頃、私はそっと彼女の口に指を入れた。そのまま愛撫するように口の中を掻き回し、ゆっくりと引き抜く。
恍惚の笑みを浮かべる彼女を他所に、私はその唾液を持ち込んだ脱脂綿に含ませケースに閉まった。
「ありがとう、また共に踊ろう」
そう囁くと次の女を探す。
「待っていてくれよ、我妻よ。もうすぐ君の病を治してあげられるはずだ」
誰にも知られず私は呟いた。
そう、私は錬金術師。実験の失敗で存在を失った妻を蘇らせるため、女性のDNAを集めている。
だが、まだ成功には至らない。妻が存在した証すらこの世には無い。
私は錬金術により魂を唾液から引き剥がす実験に成功している。しかし、私はあと何人とこのような行為を繰り返さねばならないのだろうか。
ため息をついた瞬間、ふと肩を叩かれた。
「エドワードさんですよね、五年ほど前から続いている女性の変死事件についてお伺いしたいのですが」
ファンタジーにするなら最初からそういう雰囲気を出すべきだった。あまり納得のいかない作品。このオチは好きではない。女とダンスした辺りから改変するなら次のようになる。
盛り上がった私達は、そのままモーテルへと向かう事にした。彼女は適当な理由をつけてグループに別れを告げてはいたが、恐らく彼女の仲間は気づいているだろう。
私は飲みかけのビール瓶を片手にナイトクラブを後にすると、女を強く抱き締めキスをする。甘くとろけるようなキスだ。それから近くのタクシーを拾い、予約しておいたモーテルへと向かった。
毎週この夜は激しいものだ。私は身なりもルックスも良く、私の価値に気づくことの出来る女が率先して寄ってくる。私はそれを深く理解していた。
今宵の女性も素敵である。上の中といったところだろうか、中々の美人。とりあえず風呂に入るよう促し、部屋を暗くして彼女を待った。
「遅いな、何をしているんだ」
まさかとは思うが、私から何かを盗み取り逃げたのだろうか。不安になった私は慌ててシャワールームを開いた。そこに居たのは……。
「き、君は誰だ」
よもや別人であった。年度で鼻を高くし、テープで輪郭を変え、ウィッグまで被っていたそいつは、元の姿など想像もつかない存在に成り代わっていた。
「もはや、錬金術じゃないか」
私はニコラ・フラメルを永遠に許せないだろう。