大人になった
【キーワード】
・友達
・自宅
・葬儀
「ねぇ、ゆうくんの家行っちゃダメ?」
退屈そうに呟くを僕を、母が咎めた。
「今日はおじいちゃんのお葬式って言ったでしょ」
そんなことを言われても、僕がおじいちゃんに最後に会ったのはもう2年以上昔で、物心つく前だ。覚えているはずもない。
それに、葬儀なんて経験もなく、どうすればいいのかすら想像がつかない。
「ねぇ、ママってばぁ」
僕はより一層退屈そうに、クッションを天井に放り投げて遊ぶ。それを見て見ぬふりしながら、母は黙って化粧に勤しんでいた。
大人というのはどうも面倒な生き物だ。母は大して嬉しくもない日に自らを飾ろうとする。
父は会社が嫌いだと口にする割に自宅には顔を出さない。
僕のように、友達が待っているという単純な理由だけで人生を見ることが出来ないらしい。ただただ決められたノルマをこなし、型にハマった生き方をしている。
子供ながらに思うのは、大人というのはとても退屈な生き物だという事だ。
「ママ、ゆうくん待ってるってば」
僕の言葉には一切耳を傾け用としなかった母だったが、ようやく化粧が終わったのだろう。僕の首根っこを掴んで服を脱がせた。
「ほら、ちゃんとした服を着なさい。今日はパパの実家に行くんだからね」
そんなことを言われても、僕には遊ぶ予定がある。そんなこと、母が聞きいれてくれるはずもないのだが。
「ほら、もうパパが迎えに来るわよ」
母の言葉を待ちわびていたかのように、家の外でクラクションがなった。僕の憂鬱は加速する。
人が死ぬというのは、どうしてこうも面倒なのだろう。どうして大人はこうも必死に生きているのだろう。
「…………老けたな、俺も」
俺は、ゆっくりとベッドから起き上がった。こんな夢を見たのは、きっと昨日の今日だからだろう。
さて、顔を洗わなくては。棺桶に眠る母に顔向けできないからな。
いつしか俺も、大人になっていたらしい。
わびさびとした日本っぽい情景描写っていうのがすごく好きです。