最後のリセット
【キーワード】
・鳥居
・和菓子
・マスコット
「凄い賑やかだね」
僕の隣を付き合って二年目になる彼女が嬉しそうに歩いている。この日を楽しみにしていたと言わんばかりだ。
「毎年この時期は観光客で賑わうからね」
僕も冷静な返事を心掛けてはいたが、やはり気分の高揚は収まらない。今すぐにでも走り出してどこか遠くに行きたい気分だ。
「ほら、今年も来てるよ!」
彼女はそう言うと、僕の手を引いて駆け出した。目指す先に何が居るのか、見なくとも安易に想像がつく。彼女の好きなお稲荷さんのマスコットキャラクターだ。
そいつは僕らに気がつくとぴょんぴょんと飛び跳ねて見せた。何度見た光景だろうか。
「今年も記念写真撮る?」
僕は答えの分かり切った質問をする。無論、彼女は笑顔で首を横に振った。
「どうせちゃんと写らないもん、それより色々回ろうよ!」
彼女は忙しない。落ち着く事を知らない。僕はそんな彼女と過ごす時間があまりにも幸福で、祭りをより楽しむつもりで駆け出した。
「そろそろ、花火だね」
彼女の囁く声に、僕は頷く。結局あれから僕ら二人は射的をしたり鳥居で隠れん坊したり、金魚すくいに飽きたら和菓子を貪りヨーヨーを買って、沢山遊んだ。
「今年の祭りもこれで最後か」
寂しそうに彼女は言う。それに対し、僕はそっと手を握ることで返事した。
「また来年も一緒に来ようね」
そう囁く彼女に、僕はなんと返したらよかったのだろう。
僕は来年彼女と祭りに行くことを諦めていた。今年が最後。大切な思い出作りだ。
「ねぇ、僕と付き合って、よかった?」
まだ暗い空に目を向けながら、僕は問う。
「もちろん。私を守ってくれるからね」
「あはは、ありがとう」
僕は乾いた笑いを浮かべ、花火を待つ。
「元気ないよ、どうしたの?」
不安げな彼女をそっと振り返って、僕は微笑む。
「ううん、楽しいよ。君と出会えて本当によかった。素敵な思い出だよ」
「どうしたの? なんか変だよ?」
柄にも無いことを言ったからだろうか。それも、今回は許して欲しい。
「ううん。これでいいんだ。あ、そろそろ来るよ」
そう言うと僕は、彼女の前に立った。花火が見えないように。
「愛してるよ……ずっ」
次の瞬間、こちらに向け火薬の雨が降り注ぐ。僕は彼女の身代わりになれただろうか。
俺の書く小説は毎回どこか寂しい雰囲気がある気がする。