煙る森
【答え:甲冑の戦士を雇い、鷲獅子の群れと戦う】
勝機があるなら好機を逃さない。
商機もあるなら時に大胆に振る舞う事が成功への近道。
「私を雇い、金鷲獅子と相対させる、か」
甲冑の戦士は貴方の告げた言葉に笑みを浮かべました。
「私がキミ達と組む利点は? 私1人でも今から鷲獅子達を全滅に追い込む事は不可能ではない。私はここで抜け駆けしてもいいのではないだろうか?」
戦士は意地悪な笑みを――試すような笑みを浮かべました。
貴方は指導役に見せて貰った「鷲獅子の買取表」を見せつつ、戦士に対して「組んだ方が実入りが大きくなる」と説きました。
戦士はニコニコと笑って「その通り」と頷きました。本当は抜け駆けするつもりは無く、貴方の交渉術を確かめていたようです。
「私1人でも勝てる。だが、勝っただけでは収入はない。殺した魔物の解体作業をしなければならないし、切り出した部位を都市まで運んでいく必要がある」
20体以上の鷲獅子を1人で捌くには相当に時間がかかりますし、それを1人で持ち帰るとなると一度の運搬では足りず往復する必要があります。
となると見張りでも立てておかないと盗られる可能性もあります。非効率です。
猛者であっても、何もかも1人で事足りるとは限りません。
「戦うのは良いのだが、さすがにアレだけの数を全部解体して持って帰るのは面倒くさいし、金鷲獅子の部位でも特に高く売れるものだけ適当に選んで持って帰るぐらいになりそうなんだ。なので、戦闘担当として雇って貰えると楽でいいなぁ」
「報酬どうするんだ」
「戦闘だけではなく帰路の護衛含めて……そうだな、成功報酬で売却益の1割で」
「あん? 随分と安いな」
指導役は戦士の言葉に頭をひねりました。
彼は「鷲獅子は金鷲獅子を含め全て退治してもらえる」という思考があったのですが――甲冑の戦士の方は「そこまでするなら3割要求する」と言いました。
そして、成功報酬で1割と言った理由について説明し始めました。
「今回、キミ達は鷲獅子狩りを生業の一つにするべく来たのだろう? ならば、せっかくなので群れの討伐を手伝ってもらおうと思ってな。楽をしたいなら売却益の3割を貰うが、討伐を手伝ってくれるなら1割でいいよ。あ、金羽根一つもつけてほしい。母さんのお土産用にしたい」
「金鷲獅子を相手取らせるのか……」
指導役は貴方達を戦わせる事に関し、渋い顔を見せました。
しかし甲冑の戦士は「大丈夫だろう。多分」と気安い様子で言いました。
「金鷲獅子は私が担当しよう。ついでに他の鷲獅子に対する囮や誘導はやってもいい。数は多いが、私が金鷲獅子を抑えておきさえすればやりようはあるだろう?」
最後の問いは貴方ではなく、指導役に向けられたものでした。
指導役は僅かに思案した後、頷いて言いました。
「お前が――ガラハッドが金鷲獅子を抑えるなり殺しておいてくれて、なおかつ他の鷲獅子に対する囮と誘導もやってくれるなら、何とか出来ると思う」
指導役の考えている案というのは、甲冑の戦士を囮にする案でした。
囮に鷲獅子達が気を取られているうちに、貴方達が戦う。
甲冑の戦士もほどほに戦う変則的な挟み撃ちの策です。
「森まで誘き寄せて貰えばアンタらも動きやすくなるだろ。コイツが木の上を走ったり飛んだりして、鷲獅子の気を引いているうちに鷲獅子をサクサクと不意打ちで落としていく、とかな」
「造作もない事だ。少なくとも私の方は」
相手の巣まで乗り込むと、岩山に登っていく事になるので木という遮蔽物には頼れなくなる。ならば森まで誘き寄せ、地の利を活かそうという方策です。
鷲獅子の群れを誘き寄せるというのが中々に難しいものの、そこは手練の戦士が囮を担当するという事もあり、問題はないでしょう。
ただ、鷲獅子の群れを密かに仕留めていく貴方達の方は、ちょっと大変かもしれません。鷲獅子相手に戦う経験は積めているものの――貴方は慎重に、それでいて貪欲に「確実に鷲獅子を倒す方法」を求めました。
いくつか思いつく限りの方策を提示し、そういった事が可能か聞きました。
指導役は頷きながら答えました。
「わかった。さらに狩りやすいよう、オレが場を整えよう」
指導以外の仕事となるので、追加料金は取られる事になったものの、良心的な価格となりました。準備に必要な物品の代金を請求されるだけで済みそうです。
「あとはアイツらを――」
指導役は保護した少年少女らの方を見て、金銭的なもの以外も求めかけましたが、直ぐに首を振って「いや、なんでもない」「金だけ貰えりゃ問題ねえよ」と言って改めて何をするかを貴方に説明しました。
説明が終わった後、準備を進めていきました。
「オレは楽したいから戦闘の方には参加しねえぞ、大将」
「えぇー、どうせなら私と一緒に囮役を頑張ろう」
甲冑の戦士がそう誘ったものの、指導役は「誰かがガキ共のお守りをしなきゃダメだろ」と言い、「今日のところは休んでおいてくれ」と貴方に言いました。
そして、徹夜で準備を進めていきました。
保護している少年少女らに「あんまり夜更かしするなよー」と言いつつ。
「さて、朝までには仕込みを終わらせとかないとな……」
指導役はまず、生け捕りにされている鷲獅子のところへ行きました。
甲冑の戦士が遊び相手に使い、半死半生の状態で連れ帰ってきた鷲獅子です。再生能力は持ち合わせていない事もあり、相変わらず芋虫のように暴れています。
「悪いが、調合に付き合ってくれや」
そう言い、指導役は持ち込んでいた荷物の中から道具を取り出していきました。
それは「薬の入った瓶」「こね鉢」「匙」「手帳」といったもの。
指導役は手帳に書かれたレシピを見ながら鉢で薬物を調合し始めました。
甲冑の戦士は焚き火をいじりながらそれを見つつ、「毒か」と呟きました。
「ああ。毒をアイツらの武器に塗る。で、鷲獅子相手に使う」
「毒の効果は?」
「麻痺毒を作ろうと思う。オレは専門家じゃねえから、手持ちの材料だとこれぐらいが限界だ。これだけで殺す、と言うより殺しやすくなる程度だな」
「なるほど。だが麻痺毒でも当たりどころが悪ければ死ぬだろう。重要な臓器が動かなくなったり、呼吸困難になったりな」
「まあな。要は神経毒だし」
鷲獅子狩りを――鷲獅子の群れの討伐を円滑に進めるの補助として、指導役は魔術も交えながら毒を作っていきました。
毒は魔物討伐に便利なものです。
バッカス王国では指導役のように薬物調合の知識を持ち合わせ、現地で魔物ごとに見合った毒を作っていくという冒険者も存在しています。
魔物によっては毒が全く効かない種もおり、他には以前は効いていた毒が効かなくなるという事例もあります。そこで現地で魔物を捕らえ、毒を飲ませて効き目を確かめながら調合するという事もあります。
指導役は調整と確認のために生け捕りにされた鷲獅子を使い、効果を確かめながら殺していきました。鷲獅子は苦しみながら死んでいきましたが、動物愛護の心はあっても「いや、魔物は別だから」と差別する指導役は気にしませんでした。
下準備は毒の用意だけでは終わりませんでした。
毒とは別の薬物――薬液を人数分作成した後、指導役は夜の森に入っていきました。甲冑の戦士は当たり前のように護衛としてついていこうとしました。
「いいよ、オレ様一人でやってくるから。オメーは寝てろ」
「いやだー、まだ眠くないぞ私は」
「ガキか……。ほら見ろ、向こうのガキ共は良い子で寝てるぞ」
指導役の視線の先には保護された子供達が寝ている姿がありました。
子供達は「見張りする!」と意気込んではいたものの、くたくたで緊張の糸も切れていたためかスヤスヤと眠ってしまっていました。
誰も夜間の見張りまでは期待していない事もあり、咎められずに眠り、中には地面で寝かせずちゃんと寝床に運んでいく冒険者の姿もありました。
指導役はその光景を目を細めて見ていましたが、友人がニヤニヤと笑いながら自分を見ているのに気づくと「何だよ」とぶっきらぼうに問いました。
「いや、私達にもあんな子供時代があったなぁ、と思ってな」
「お前はアレほど可愛げあったかなぁ……」
「私はカッコイイ系だったな」
「ハッ! 言ってろ」
「私はカッコイイ系だったな」
「うぜえ! 二度も言わなくていい」
そんな話をしつつ、2人は貴方達に断って「偵察と下準備の続きに行ってくる」と夜の森に姿を消していきました。
その翌朝の朝食後。
指導役は夜のうちに作った狩場の地図を渡しつつ、告げました。
「狩場は鷲獅子の巣がある山の麓。そっちにも広い森があるから、そこでやろう。出来ればこっちまで誘き寄せたいが……少し遠いからな」
なのでこの後直ぐに狩場まで移動する。
移動して、最後の下準備を行うと告げました。
「最後の下準備は、狩場の下見だ。地形を覚えておこう」
指導役は昨夜のうちに森を回り、目印を作っておいて地図にも目印がどこにあるかを記載していますが、貴方達に自分の目で確かめる事も求めました。
「討伐そのものは森の上空に誘き寄せた鷲獅子に、毒を塗った投槍を投げて殺していくってもんだ。単純だろ? 相手の数は多いが、要領は昨日と同じさ」
落ち着いてやれば、そこまで厳しい戦いにはならない。
指導役はそう語り、場に張りかけた緊張の糸をほどほどに緩めました。
「最初はとにかく多くの鷲獅子に投槍を当てにいってくれ。トドメは一通り当て終わってからだ。その頃には大半の鷲獅子が飛ぶだけの気力が無くなってるだろう」
あとはもうその首を刈り取っていくのみ。
ちょっとした収穫作業。気負いすぎる必要はない。
抵抗はあっても、既に鷲獅子討伐経験がある一団。群れをまとめて正面から相手取るのではなく、森の中に落ちた鷲獅子達を各個撃破していけば勝てる。
油断し過ぎてはならないものの、硬くなり過ぎなければ大丈夫だという言葉を繰り返し交えつつ、指導役は言葉を続けました。
「向こうにとっちゃ卑怯でいけ好かねえ戦い方だろうが、オレ達は冒険者だ。魔物に正々堂々勝負しろ、って言われても知ったこっちゃねえ」
そう言って笑いつつ、指導役は貴方達に薬液を渡していきました。
下見が終わり、実際に討伐が始まったら目につけろと言いました。
それは調合した毒薬とは別のものでした。
「魔術で加工した目薬だ」
効果は特定の煙幕が「ほぼ透明に見える」というもの。
「戦闘が始まったら、森の中でいくつも煙幕を焚く。煙幕で鷲獅子側の視界を阻害しつつ、こっちは目薬の効果で煙の中からでも見通せるようにする」
見通しつつ、投槍で攻撃を仕掛ける。
投槍で仕留めきれずとも、森の中に降りてきた鷲獅子相手にも戦いやすくするための煙幕。そして目薬です。
「とはいえ、向こうはドンドン風を吹かせてくる。あまり近づき過ぎると煙幕を消し飛ばされて、効果薄れるから注意してくれ。向こうの風込みでも煙が長続きするだけの量の煙幕を用意してるが、過信はしないように」
必要な説明が終わり、移動と下見を行いました。
そしていよいよ群れ相手の討伐となったのですが――。
「は? 大将も金鷲獅子相手に戦いたい?」
貴方は普通の鷲獅子ではなく、金鷲獅子との戦いを所望しました。
自分達はただの鷲獅子狩りで終わりたくない。今後も強くなっていく。
今はクラン単独で金鷲獅子の討伐は出来ないものの、いつか出来るほどに強くなるため、ここで自分だけでも経験を積んでおきたいと言いました。
指導役は迷った表情は見せつつも、甲冑の戦士が「私はどちらでも構わないよ」と笑って言うと貴方を見つめて告げました。
「死ぬぞ、アンタ」
貴方はその言葉を肯定せず、死んだら蘇生魔術の世話になると言いました。
そこまで言うと指導役もそれ以上、止めはしませんでした。
ただ、最後に一言だけ告げました。
「武運を」
短く言い、「オレ達も狩りを手伝う!」と騒ぐ子供達を避難させるために「キリキリ歩け」と引きずりつつ遠ざかっていき、後の事は貴方達に任せていきました。
残った甲冑の戦士は共に金鷲獅子に挑む貴方に戦う上での注意事項を話し、「トドメは任せるよ」と言いながらまずは群れを誘き寄せるために動いていきました。
「それじゃあ、勝ちに行こうか」