転がり込む好機
【答え:下半身を横か下から狙うのが好ましい】
部位の買取価格的に、上半身は出来るだけ無事な状態が良い。投槍を突き刺すとなると、どうしても損壊する。
当てやすさも考えつつ、被害の少ない場所を狙うのが無難。
「今回は下半身狙いの方が良いだろうな。いまは上半身の方が高く売れる」
鷲獅子は翼と上半身が鷲の身体で、下半身が獅子の身体。
いまの需要では鷲の身体の方にある部位が人気なので、そちらを出来るだけ損壊させずに済む殺し方を取るのが無難でしょう。
上半身に投槍を投じると羽根の被害はそこまで大きくならないかもしれませんが、下手をすると臓器が――収入源となる甕器が壊れます。
「翼を狙った方が落としやすくはある。鷲獅子は呼気と翼で飛んでるからな。ただ、翼は特に動いてる部位だから狙いにくいぞ」
ゆえに狙うなら下半身。
可能であればあまり高空を飛んでる時に刺さず、落下時の衝撃を押さえられるように降りてきたところを狙うのが良いでしょう。その方が損壊が少なく済みます。
極端な話をすると完全に地面に降りてきている時を狙うのが良いものの、人と戦い始めるとそこまで簡単には降りてきません。相手は常に動いています。
もちろん、空からの攻撃手段であるブレスを使い切るまで盾や木で凌ぎ、業を煮やした鷲獅子が降りてくるのを待つのも手ですが――。
「慣れるまでは縄付きの投槍を使った方がいい。飛行能力を削がないと厄介だ。斬りかかったものの、目の前で飛ばれて頭をザックリやられる時があるからな」
鷲獅子狩りには他の方法もあります。
ただ、貴方達は近接戦闘と投槍が武器となるため、今回のところは事前に決めていた手順で実際に鷲獅子狩りを始めていきました。
飛来した鷲獅子に対し、大楯持ちの冒険者が囮を買って出て、それに気を取られている鷲獅子に投槍を投じる。
槍で体勢を崩され、最大の長所である飛行能力を阻害されてもなお、鷲獅子は足掻きます。鷲の鋭い鉤爪と獅子の雄々しい立ち回りは騎馬突撃の如し。
しかし、地上戦に持ち込めば貴方達の敵ではありません。
鋭く重く飛びかかって来られようが鉤爪を大楯で防ぎ、突撃が止まった隙に前足を鈍器で砕き、あるいは剣で切り落として膝まづかせる。
暴れる鷲獅子は投槍と縄の手綱で操られ、その持ち手に対して襲いかかろうにも木と防御陣地に阻まれ叶わずも足搔くだけ。
部下より新しい槍を受け取った貴方が――差し出された鷲獅子の首に向け――鋭い突きを繰り出すと濁った断末魔をこぼして鷲獅子は絶命しました。
手はず通りにやる事で無事に勝利できました。
貴方は倒れゆく敵の巨体を肩で担ぐ形で支え、魔術で強化した身体能力で解体場に鷲獅子を運んでいきました。
その足取りは堂々としたものでした。
その立ち振る舞いを保護された少年少女達が見つめていました。
初の鷲獅子狩りとはいえ、危なげなく成功させてみせた貴方達に向けられるものは驚嘆混じりの尊敬の視線のようでした。
「あんた、すげー強えんだな……!」
リーダー格の少年は特にキラキラとした瞳で貴方を見上げ、その手腕を興奮した様子で褒め称えました。
その後も鷲獅子狩りは続きました。
何度か鷲獅子が一気に二匹以上飛んでくる事もありましたが、一度要領を掴んだ貴方達の敵ではありませんでした。
そのため、狩猟開始1日目で十分な成果を出していきました。単に鷲獅子を殺せたというだけだはなく、収入の上でも実りの良い狩りとなったようです。
「おーい、そろそろ切り上げて、メシにしようぜ」
日も暮れ始めた頃。
少年少女達を引き連れ、宿泊場にて夕食の用意をしていた指導役がおたまを片手に貴方達を呼びにきました。
体力的にも魔力残量的にもまだ戦えない事もない貴方達ですが、日が暮れると視界が悪くなる事もあり、今日は切り上げる事を勧められました。
鷲獅子も近辺を飛んでいる様子がありません。
灯らしい灯のない都市郊外を夜の帳が包みつつありました。
「鷲獅子は昼行性だからな。下手につつかなきゃ、向こうも夜は寝てるさ」
都市郊外での宿泊は初めての経験らしい少年少女達は怯えつつも、星々が煌めく広大な星空に見とれていたりもしましたが指導役が「天体観測は食後にしろよ」と彼らに食事の配膳を促しました。
「今日はカレー作っといたぞ。少し特殊なカレー粉なんだが――」
指導役が作ったのは鷲獅子の下半身の肉を使った煮込みカレーでした。筋張った肉をよく煮込んだらしく、口の中でトロリと溶けてしまうほどです。
ただ、カレーらしい匂いはしないカレーでした。
食事の匂いも魔物を引きつける要因になりかねないので、それの対策をしたカレーを作ったようです。香りの面では少し物足りないものの、ちゃんとしたカレーに舌鼓を打つのは都市に帰ってからのお楽しみです。
「狩りが上手くいったのはいいんだが、アイツ遅えなー」
指導役はそう言って友人の事を心配しつつ、魔術を使って遠くの様子をうかがっていたようでしたが、やがて「お、帰ってきた」とつぶやきました。
その少し後、甲冑の戦士がテクテクと帰ってきました。
爽やかな笑みを浮かべつつ、「やあ、お土産だよ」と鷲獅子を差し入れてきました。どうも遊び相手にしていた鷲獅子を連れ帰ってきたようです。
連れて来られた鷲獅子はまだ死んでいません。
ただ、足や翼の関節を折られ、嘴も縛り閉じられ、芋虫のようにしか動かない状態で生け捕りにされてきていました。
「なんだお前、剥製にでもするのか? 酷い状態だが」
「いやいや、後で使うかもしれないと思ってね」
甲冑の戦士はそう言って笑いつつ、「土産話もあるよ」と言いました。
「うろついてたら、巣があったよ。それなりの規模のものが」
「鷲獅子のか?」
「うん。二つ向こうの岩山の山頂付近にね。私がこっそり様子をうかがったところ20匹以上の鷲獅子がいた。それなりの群れみたいだね」
甲冑の戦士は呑気な様子でそう言いつつ、カレーを口に運びました。
「あと、金鷲獅子もいたよ。10メートル級の。おそらくアレが群れの主だろう。立派な金羽だった」
金鷲獅子は鷲獅子の上位種の一つです。
全高も全長もゆうに10メートルを超え、翼開長はその3倍近い大型の魔物。
間近で大翼を開いている光景は威圧感たっぷり。駆け出し冒険者などはその姿に「戦意消失しかねない」と言われるほどのものです。
羽根は煌めく金色。
希少な金鷲獅子が陽の光を浴び、悠然と空を舞う姿は吉兆とも言われています。
が、その一方で通常の鷲獅子を遥かに凌ぐ力を持っている事から冒険者の遠征部隊を一気に壊滅に追い込む凶星としても恐れられてもいます。
しかし、強く美しい事もあって金鷲獅子の部位はどれも高額で取引されており、一匹狩るだけでも鷲獅子百匹分の利益を叩き出すとも言われています。
指導役は巣の存在は勘定に入れていたものの、希少で強力な金鷲獅子がいるとは思っていなかったため、驚いていました。
「お前、どうせ土産持ち帰るなら金鷲獅子を殺してきてくれよ」
「え? 良かったのか? お前が全滅させるなと言ったじゃないか?」
「あー、確かにそう言った。ただ、金鷲獅子は強えからなぁ」
さすがに、金鷲獅子は貴方の冒険者クランだけでは手に余ります。
いずれ狩れるであろう見込みは十分あるものの、いま貴方が自由に動かせる戦力だけでは取り巻きの鷲獅子に対抗するのが精一杯でしょう。
鷲獅子対策に持ってきた大楯も金鷲獅子相手では十分な備えにはなりません。金色の大鎌の如き鉤爪で盾ごと貫かれかねません。
現状のままでは正面対決は必ず負けます。
ただ、何かしらの策があれば……ひょっとすると勝機はあるかもしれません。
その勝機を考える貴方に対し、指導役は試すような視線を向けてきました。
「さて……どうする、各々方。
金鷲獅子は強敵だが、倒せば一気に大金が手に入るぞ。
この好機、どう対処する?」
【問題:金鷲獅子が率いる群れを――】
①「策など無用。とりあえず戦ってみる」
②「討伐は諦めるが、都市で目撃情報を売る」
③「夜襲っていうのはどうかな?」
④その他