鷲獅子部位の買い取り価格
【答え:貴方は彼らを助けてもいいし見捨ててもいい】
自分達の意思で都市郊外に身を投じた以上、その命は自己責任。
もちろん助けてもいい。
「お前らなぁ、もっと身の丈にあった冒険をしないと死――」
「うるせー、説教なんざ親父ので聞き飽きてるぞ!」
「まったく……」
リーダー格の少年は――不安そうにしながらも――虚勢を張っていましたが、仲間の少年少女はさすがにそこまで強気にはなれないようです。
命がかかっている事もあり、もはや鷲獅子狩りどころでは無い様子で泣きべそをかいています。ここから生きて帰る自信も無いのでしょう。
見かねた貴方達の中から「こちらの狩猟が終わるまで保護する」という提案が出て、一時的に保護して仕事が終わったら送り届けるという事で話がつきました。
それが決まるとリーダー格の少年も、どこかホッとした様子です。駆け出し冒険者ながらもプライドがあるのか、まだツンと意地を張ってもいましたが――。
「ほら、この人らに礼を言っとけ」
「う、うっせー。…………友達助けてくれて、あんがと……」
指導役が少年の肩を叩いて促し、貴方の前に連れて来ると、うつむきながらも小声でお礼を言いました。そして直ぐに恥ずかしそうに距離を取っていきました。
「なんか、悪いな、狩りの途中によ」
指導役は少年らには聞こえないよう、貴方に言い、「どうしても邪魔になるようならアイツに連れて帰って貰うよ」と友人の甲冑戦士を頼る提案もしてきました。
「ただ保護するってのも、アンタらに悪いしな……。あ、そうだ、都市まで送り届ける代金代わり、少しだけ雑用でもしてもらったらどうだ?」
冒険者の仕事は魔物を狩るだけではありません。
周辺の警戒や哨戒はもちろんの事、野営する時は食事の用意も必要になり、大事な商売道具である武器や防具の手入れもしなければなりません。
指導役は「どうせなら下請けとして雇って、解体作業の手伝いをして貰うのも手だな」と告げてきました。
「もちろん、どうするかはアンタ達とアイツら次第だ。オレは……まあ、アイツらに魔物の解体と食事作りの手伝い方ぐらいなら無料で教えるし、下手な事しねえように子守してもいい。もちろん、そっちもタダでな」
この申し出を受けるか受けないかも貴方の自由です。
ただ、指導役は駆け出し冒険者の少年少女達の様子に関し、何か思うところがあるらしく物憂げな表情を浮かべる事もありました。
多くは語らなかったものの、少年少女達を「クソガキ共、良い子にしてろよ」と言ってヤンチャをしかける子を心配そうに諌めたりもしています。
そして彼らにかかりきりになるわけでもなく、当初の予定通り、貴方達に実際に鷲獅子狩りをして貰う事にしたのですが――。
「おっと、その前に大事なことを伝えておかないとな」
そう言い、指導役が取り出したのは紙でした。
鷲獅子の部位について書かれており、「高価買取」「討伐方法指定」「ご来店ごとに1点付与」などという文言が書かれているチラシが何枚かあるようです。
「コイツは鷲獅子の部位を買い取ってる商会が配布してるチラシだ。買取価格が書かれてる。懇意にしてる商会が無いなら参考にしてくれ」
【鷲獅子の代表的な部位買取価格】
■羽根
鷲獅子の翼と上半身を覆う大きな鷲羽根。元々、矢の材料として――矢羽根として需要があったが、現在のバッカスでは鷲獅子の羽根を使って作ったケープが流行しており、服飾関係者に大きな需要がある。綺麗な状態でまとまった数があれば高価で買い取ってもらえる。羽根の色、質感でも価格は変化する。
■目玉
煎じて医薬品として使われている。魔術的に加工する事で視力強化の効果が期待出来る。また、状態が良ければ魔眼の材料としてそこそこの値段で売れるためホルマリン漬けにしてまとめて持ち帰る冒険者も少なくない。
■瞬膜
眼球を保護する膜。光学素子の材料として取引される。当然、傷が無いものが好ましく傷一つついているだけで価値は大きく下がる。
■甕器
鷲獅子が上半身に持つ臓器の一つ。ここに石を溜め込んでいる。独特な紋様を持ち、甕のような形をしている。食品とするには硬く味が無く、医薬品として加工する用途も特に無く、実用面ではこれといって役立つ用途は無い。が、それなりの金額で取引されている。
というのもバッカスでは鷲獅子の甕器を材料に甕型の美術品を作り、それを験担ぎに買い求め飾る文化があるため。鷲獅子という、鳥王と獣王の両方の相を持つために様々な意味で縁起が良いと尊ばれている。大きければ大きいほど高く売れる。
■鉤爪・骨
装飾品の材料として買い取ってもらえるが、大した金額ではない。そのため近所の子供にあげて「鷲獅子狩ってきたぞ」と自慢する冒険者が多い。
鷲獅子に限らず、大して高価ではない魔物の部位を持ち帰り、子供にあげている冒険者は少なくない。街角で子供達が魔物の頭蓋骨を被ったり、ニコニコ笑顔で皆で担ぎ上げていたりする光景はバッカスではよく見受けられるものである。
■血液
強壮剤の材料として取引されている。腐っているものは売れないので新鮮なうちに持ち込むか、防腐処理をしておく事が求められる。
■上半身の肉
糞味。人間の食い物ではない。捨てる。冒険者界隈ではクランの新入りに地位暴力として食べさせる者も少なくない。ゴミ。
■下半身の肉
下半身である獅子の部位も筋ばってあまり美味しくない。ただ、煮込み料理にすると良いダシが取れ、肉も柔らかく食す事が出来る。しかしさほど高価ではない。大量のゼラチン質を含んでいる事からかつては美容品の材料として好まれていたが、現在は他に良いものが見つかったため需要減。
■下半身の皮
獅子皮の下衣として加工される事が多い。買取価格はそこまで高くない。
■上半身と下半身結合部の肉
合成獣系の魔物の結合部の肉からとれるエキスは医療用として高価に売れる。ただ、鷲獅子から取れる量はさほど多くない。合成獣系の魔物の中で複数の魔物が合成されている場合、これ目当てだけに狩られる事も。
■鷲獅子の「黄金」
バッカス王国には鷲獅子は金脈に住まうという言い伝えが伝わっていたが、これは間違いで鷲獅子に金脈を探すような能力は無い。たまたま寝床にしている事はある程度である。
ただ、金脈に関してはともかく、鷲獅子は金物を拾い集める習性があり、死んだ冒険者などの装備を拾い集め、巣に収集している事がある。
魔物にはこのようなカラスの如き収集癖を持つものも存在しており、この手の都市郊外遺失物の所有権はバッカスでは拾った者にあるが、もちろん本人や遺族に渡しても良いし捨て置いても良い。
■剥製としての価値
鷲獅子関連の商品としては最高の価値。甕器以上の価値があり、大翼を広げた鷲獅子の威容と美しさは素封家の間で人気が高い。
しかし、少しでも傷があると価値は大きく下がる。外形に傷一つつけず鷲獅子を殺す、あるいは捕らえるのは非常に難しく、剥製専門の冒険者がいるほど高い技術が要求される。
「大体こんな感じだな。剥製は……さすがに今回は狙えないが、興味があるなら勉後々、勉強して手を出していくといい。鷲獅子に限らず剥製需要はあるからな。単純に討伐するより難しいから供給も少ないんだが」
剥製作りの知識を持ち、職人稼業を兼ねる冒険者も存在しています。
魔物を無傷で捕らえるための技術は剥製作り以外にも役立つものがあるため、習得するに越したことはないでしょう。
「それと、鷲獅子狩り本番……の前に、討伐の手順をおさらいするか」
出発前に討伐の手順について話し合っているものの、指導役は実戦前に再確認を勧めてきました。
早く鷲獅子と戦いたくてウズウズしている人が貴方のクランにいるようですが、指導役は「手順確認は大事なことだ」と譲りませんでした。
「手順は千差万別だが、アンタらの場合はこんな感じだな――」
【今回の鷲獅子討伐手順】
①鷲獅子を見つけ、誘き寄せる。
②縄とかえしのついた投槍を投じ、突き刺す
③投槍につけている縄を巻き取る
④鷲獅子を無理やり地面に落とす
⑤殺す
「――って感じだな」
討伐の肝となるのは投槍。
それも銛のようにかえしのついた投槍を投槍器で飛ばし、それを介して空中を移動する鷲獅子を無理やり引きずり下ろすという手はずです。
「ここらの鷲獅子は、そこまで飛翔能力は高くない。飛んでると足で踏ん張れない事もあって丈夫な縄で引っ張ると存外簡単に体勢を崩して落ちてくるぞ」
ベストなのは一投目で仕留める事。
しかし、それが出来ない場合は――。
「仕留め損なったら森に下がって鷲獅子のブレスと突撃を警戒しつつ、二投目を狙う。投槍担当と大楯担当で攻撃と防御を分業したら事故も減るだろう」
投槍だけで殺す事も可能ですが、貴方達の本領は野戦。
鷲獅子を地に落とし、地上で正面からやりあう事で真価を発揮するでしょう。
「引きずり下ろせば、後はもうアンタらなら余裕だろう。打ち込んでる縄とは逆方向から攻め立てればいい。縄を握ってる奴は機会を見計らって引っ張ってさらに体勢を崩してやれ」
そのような手筈で戦う事になりました。
ただ、指導役は本番前にもう一つ、貴方達に問いかけました。
「ちなみに、投槍はどこを狙えばいいと思う?」
【問題:投槍は鷲獅子のどこを狙って投げる?】