狩りのための野営地作り
【答え:森が途切れている場所】
あまり木が生い茂ってるいると鷲獅子が降りてこられないが、開けすぎていると危ないのでいざという時は森に逃げ込める場所で狩りをするのが無難。
森の中に広場がある場合、そこもいざという時は逃げ込みやすいので正解。
「そもそも、今回ここを狩場に選んだのは森があるからだ」
指導役は「もちろん鷲獅子が生息してる事もあるけどな」と言いつつ、せっかくなので森の木々を障壁として活かす方法を勧めました。
「今回大事なのは、生い茂る森が近い事だ。森の端に限らず、森の中心を切り拓いて広場を作る手もあるぞ」
ここは鷲獅子の生息地という事もあり、森林の中には他の冒険者が切り拓いた狩猟用の広場も点在しています。
そこでは先人が切り出した木を使った簡素な小屋や防御陣地も築かれている事もあるため、空いているのであれば使わせて貰うのも良いかもしれません。
森の傍で戦うのは戦闘以外の役にも立ちます。
倒した鷲獅子の解体作業――肉や内臓を取り出す作業を森の木々、という屋根の下で行えば新手の鷲獅子の目をあまり気にかけずに解体に専念出来ます。
戦闘班と解体班、さらには鷲獅子以外の魔物にも気を配る周辺警戒班に分かれてのが鷲獅子狩りの定番と言われています。
バッカス王国においては鷲獅子に限らない話ではありますが。
「つーわけで、とりあえずここに討伐用の陣を敷こう」
今回の狩猟は泊りがけの遠征。
戦闘用だけに限らず、宿泊のため野営地作りを行います。指導役は簡易野営地建設の計画に関して話し始めました。
「今回作るのは主だったものは3つ。戦闘用陣地、宿泊場、解体場だ」
戦闘用の陣地は森の端に作成します。設置型の弩砲を盾付きで設置しておくも良し、切り出した木で作った盾を並べるのも良いでしょう。
「ここが竹林だったら竹束を――竹で作った盾を設置しておくのも良い。鷲獅子のブレス対策にな。竹は良いぞぉ、現地でササっと取れて原価はタダだからな」
今回は投槍器で狩りを行うため、弩砲などは設置せず、竹も生えていないのでロープを張っておく事にしました。
「縄は木を支柱にして、高い位置に……今回は2メートルより少し高めに張っておけばいいだろ。鷲獅子の突撃対策だ。慰め程度だがな」
鷲獅子は普通の人間より巨体です。
そのため、人間なら邪魔にならない位置に丈夫なロープを張り巡らせておくだけで引っかかってしまいます。
ただでさえ森林に入り込んでいくのが苦手な飛行種の魔物の侵入をさらに阻害し、人間はチョロチョロと動き回る事が出来る陣地が構築されていきます。
「縄に予備の投槍も引っ掛けとくぞ。それじゃ、次は宿泊場作りだ」
寝泊まりと食事、休憩を行う安息の場です。
魔物が攻めてきた時のために四方を防御陣地にして固め、いくつか罠も仕掛け、接近を察知するための鳴子も仕掛ける事になりました。
「雨除けと鷲獅子の視線避け兼ねて、天幕張っとくぞー」
ロープと同じく木を柱とし、深緑色の雨除けシートを宿泊場の上方へと張っておきます。今回はシートの上側に木枝を貼り付ける事で鷲獅子からさらに見つかりづらくする一工夫も追加されました。
「便所は風上な」
指導役が円匙を手にそう言うと、女性陣から文句の声が上がりました。
風上にトイレを作る事に関し、生理的にも体面的にも反対しているようです。
「風下に置きたいのはわかる……別にオレ様も自分のかぐわしい香りをお届けしたいわけじゃない。ただ、便所を使ってる時に消臭剤を使うよう、気をつけてほしいから風上に置くんだよ。駄目? 駄目か……うーん、まあ、いいんだが……」
バッカス冒険者も排便、排尿ぐらいします。
多種族国家であるバッカス王国の国民にはどちらもしない種族も存在しているものの、普通の冒険者は冒険中も便所に行く必要があります。
その際、臭いも当然に香ります。
これも痕跡の一種となり、魔物に人間の位置を知らせかねないものとなります。そのため野営地の寝所近くの便所では消臭剤を使うのが好ましいとされています。
それを促すための「便所風上設置」だったのですが、反対多数で頓挫しました。
指導役はその意見を受け入れましたが、なぜ自分がそのような提案をしたかは理論的に説明しておきました。後輩冒険者達のためにも。
「オレは特殊性癖ではない。わかったな?」
強く、重ねて、説明しました。
便所の事はさておき、底冷え対策もした寝所を作り、重要な防御陣地や罠を再度点検した後、荷物置き場を作る事にしました。
単に地面に置くだけの荷物置き場も確保したものの、それだけではなく横広の穴を掘っていき、そこにも荷物置き場を設置していく事になりました。
「状況次第では、ここを即時放棄しないといけない事がある。例えば鷲獅子より遥かに強い魔物が来た時だな。可能性はゼロじゃねえから、その時の備えとして荷物置き場は掘っておく」
穴を掘り、そこに板やシートを被せておく荷物置き場です。
即時放棄、直ぐに撤退――となった時、重要度の低い荷物は穴の荷物置き場に置いておき、危機が去った後で回収に来るという事前策です。
必要であれば穴の底にもシートを引きます。
これにより、その辺りに固めたおいておくより魔物が荒らしづらくなります。人型の器用な魔物が来た時は諦めざるを得ない時はありますが。
「よし、宿泊場の次は解体場。あと一息だ」
解体場は宿泊場から離し、戦闘用陣地から少しだけ離れた場所におきます。ここに討伐した魔物を運び込み、集中して解体を行います。
ここにも防御陣地を敷きつつ、大きめの穴を掘ります。
「解体した魔物の不要な部位はここに投げ入れ、後で埋める。これも臭い対策だ。魔物は魔物の死体の臭いでも異変を察知するからな」
今回の狩りは定点での待ち伏せ。
一箇所に野営地を構え、釣りをするが如く魔物を誘き寄せて――音や臭いを使って誘き寄せて狩るので、不要になった死体は埋めておく事になりました。
「魔物の死体を吊るしておくと同種が怒り狂ってやって来てくれる事もあるんだけどな。アンタらは初の鷲獅子狩りだからほどほどにしとこう、ほどほどに」
かくして準備は完了。
いざ、鷲獅子狩りに挑む事になったのですが――。
「おーい、おーい」
「……アイツ、まだ鷲獅子で飛んでたのか」
怒り狂う鷲獅子に掴まれ、楽しげに飛んでいる甲冑の戦士が上空から声をあげ、貴方達を呼んでいます。特に怪我をせず、空の旅を楽しんでいるようです。
掴んでいる鷲獅子の方は目を血走らせ、獲物である甲冑の戦士を殺そうと躍起になっているものの適当にあしらわれてしまっています。
「向こうになぜか駆け出し冒険者がいるんだ。雑魚は空から掃討しておいたんだけど、あのままうろついてたら危ないから保護してやってくれ~」
「お、おう」
「私はちょっと向こうで戯れてくるから~」
甲冑の戦士は岩山の方へ連れていかれました。
指導役はそれから目をそらし、貴方と貴方のクランの冒険者に「悪いが手伝ってくれ」と戦士の言う「駆け出し冒険者達」のところへ向かいました。
そこでは話の通りに駆け出し達がいました。
装備は貴方達より遥かに貧相で、冒険者と言うには頼りない少年少女達が弓矢や棍棒を手に、へたりこんでいます。
その周りには20匹以上の狼型の魔物――森狼の死体がありましたが、どうもその殆どは彼らではなく甲冑の戦士が援護して倒してあげたもののようです。
少年少女達はその助けが無いと死んでいたかもしれません。
そして、貴方達が保護しにくるとホッとした表情になりました。
「た、助かったぁ……」
「死ぬかと……」
「あ、あの……お姉さんお兄さん、ありがと……」
「助けてくれなんて頼んでねーし!」
少年少女達の反応は様々でしたが、リーダー格の少年以外はそれなりに素直らしく、助けて貰った事に礼を述べています。
指導役は彼らが負っている傷を治癒の魔術で治しつつ、問いました。
「お前ら駆け出しだろ? 何でこんなとこにいるんだよ」
「鷲獅子狩りして、一山当ててやるんだ!」
「ぼくら、お金あんまなくて~……」
「でも、ここまで辿り着くだけで命からがらで……」
「びびってんじゃねーよ! オレ達ならやれるっつーの!」
指導役が少年少女達に事情を聞いたところ、鷲獅子狩りに来たようですが……彼らの腕前では鷲獅子狩りは不可能でしょう。
装備は貧弱。準備も乏しい。筋はそこまで悪くないようですが、それでも十分な力を持っている貴方達より遥かに弱い駆け出しの冒険者達です。
今は幸運に恵まれ、何とか狩場にたどり着く事には成功し――まだ生きていますが、鷲獅子に挑めば100%死ぬと言っても過言ではないほどです。
幸いと言うべきか、食料などの物資は十分以上に持ってきているようです。
「…………」
指導役は危なっかしい駆け出し達の事をチラチラと心配そうに気にしています。
貴方は、この状況でどうしますか?
【問題:駆け出し冒険者達をどうする?】