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推理材料の痕跡

【答え:①③】

 ①は鷲獅子の「補給跡」の岩。③は鷲獅子の羽。

 ただ、④も鷲獅子が関わっている可能性が……。




「鷲獅子は呼気によって石を飛ばしてくる」


 そう言いつつ、指導役は砕かれた大岩の一部を手に取りました。


「そして嘴は岩を砕くほど鋭い。鷲獅子はその嘴を利用し、こうして岩を砕いて飲み込んで体内に保管してるってわけだ。甕器と言う特殊な内臓にな」


「本日はここに鷲獅子の現物クチバシを用意したぞ。ホラ」


「そうそう、これが現物……おい、どこから取ってきた」


「ああ、さっき向こうの方を飛んでたから投石で落として殺して切り取ってきたんだ。どうだ、授業の役に立つだろう?」


 甲冑の戦士は「えっへん」と胸を張りながら鷲獅子の嘴を差し出しました。


 それを差し出したのとは逆の手には頭が一撃とうせきで消し飛んだ鷲獅子の死体があり、指導役は頭痛がするような様子で眉間を押さえました。


「頼むから、一帯の鷲獅子を全滅させてくるのなよ」


「いかんのか?」


「いかんわーーーーッ! 今日はコイツらが主役! コイツらが鷲獅子を狩りにきたのッ! テメーが狩った死体を漁りに来たんじゃねーのよ!? 勉強にならねえだろ!? よろしくてッ!?」


「なるほどなー。カンペキに理解した」


「わかったらその辺で三角座りしてろ。大人しくしてなさい」


「三角座りか。苦手だなぁ……」


「人並みに出来りゃいいんだよ……? 頼むから座ってて?」


「ふっ……任せろ」


 甲冑の戦士は素直に指示に従いました。


 指導役は頭が痛そうにしてましたが、指導を続けていきました。指導のためにも死体となっている鷲獅子の前足を手に取り、それを切り取っていきました。


 切り取り、前足の鉤爪を見せてきました。


「コイツが実物の鉤爪。鎌みてえな形をしてるだろ?」


 形そのものは普通の鷲と大差のないものですが――大きさに関しては遥かに大きなものとなっています。もはや本当に鎌の刃に出来そうなほどです。


 実際、バッカス王国では鷲獅子の鉤爪を武器として加工する事もあります。


「で、こっちの木の幹に空いてる爪痕は真っ直ぐだ。鷲獅子の爪じゃあ、ここまで真っ直ぐには出来ない。別の魔物……多分、この辺なら槍撃蟷螂のモノだろうな」


 鷲獅子の爪痕ではないものの、魔物の痕跡です。


 魔物も種によっては爪研ぎをします。


 爪痕から魔物が「ここにいた」と知れるだけではなく、爪痕の形や大きさで「どんな魔物がいたか?」について推測も可能になります。


「鷲獅子狩りから話は逸れるが、この爪痕が残された位置を見てみろ。地面から3メートルの高さにある。これが槍撃蟷螂の爪痕だとしたら、体長3メートルはゆうに超える個体のだろうな」


 こうして、爪痕の位置でも大きさを推測できる材料を得る事が出来ます。


 魔物に限らず生き物は、その場にいなくても痕跡で色んな事が伺い入れるものだ――と指導役は貴方達に言いました。


 その指導役の後方に――三角座りしている甲冑の戦士が槍の如き巨大なカマキリの腕を手にし、キコキコと動かして遊んでいるのが見えましたが、誰もその痕跡についてはツッコミませんでした。



「あの木の葉に引っかかってる羽根、アレは鷲獅子のだろうな」


 そう言って、指導役は木を揺らしました。


 すると木の葉と共に羽根が「ゆらり、ゆらり」と落ちてきました。


 落ちてきた羽根と、頭が消し飛んでいる鷲獅子したいの羽根を見比べるとよく似た色合いのものでした。十中八九、鷲獅子の羽根でしょう。


「羽根を持つ魔物は足跡を残すことが少ない分、こうして羽根という痕跡も残す事がある。羽根でも魔物の大きさを判断できない事はないが、部位ごとに羽根の大きさも変わるから爪とぎほどしっかりした痕跡ではないな」


 しかし、近辺に鷲獅子がいる事は確かのようです。


 こうした残留物は「どういう魔物がいるか」という判断に役立ち、危険な魔物の残留物を早期発見する事が出来れば危機回避の役にも立つでしょう。



「こっちの靴跡も痕跡だ。これは当然、人間のもんだろう。大半の魔物は靴なんて履いてないからな。履いてる奴もいるけど」


 靴跡は乾いた地面に残っていますが――。


「この靴跡は一週間ほど前のかもな。ギルドの観測部にこの近辺の天候記録を照会しておいたんだが、二週間前から一週間前まで長雨が続いてたらしい」


 現在、地面は乾いています。ですが長雨の時にぬかるんだ地面の上で走り回り、それが残って乾いていったものがここに残っているかもしれない、という話です。


 さらに、その靴跡は一定方向を示すものではありませんでした。


 方向そのものは靴先跡の方向から伺い知れますが、どこかに向けて歩いていったという靴跡ではなく、あっちこっちに動き回ったものとなっていました。


 単にここを通りがかっただけなら、靴跡は一定方向。


 あるいは行き来した事で二方向になるかもしれません。


 そうならず、複数方向へ向かう跡が残ってるという事は――。


「ここで戦闘があったのかもな」


 指導役は戦闘の際、踏み荒らされた地面がこうして靴跡として残っているのではないか、という推測を述べつつしゃがみこんでさらに細かく調べていきました。


「見ろ、この靴跡はくっきりと跡が残っていない。地面を蹴った際……ぬかるんだ地面を走った時、靴跡が乱れ、えぐれている事がある」


 これだけ激しく走った跡が残っているのなら、戦闘した可能性は高い。


 これは数日前のもののようですが、これがほんの数時間前のものなら非常に危険な痕跡かもしれません。誰かと戦っていた魔物が生き残っていたりしたら、まだこの辺りを興奮しながらうろついているかもしれません。


 ただ、どうも残っているのは靴跡ばかりの様子。


 魔物の足跡らしきものはありませんでした。



「靴跡ばっかりって事は、戦闘があったと仮定すると人間同士で殺し合ったか、あるいは――空を飛んでいる相手だったのかもしれねえな」


 これが鷲獅子に関わる痕跡かは不明確です。


 痕跡は多弁ではありません。ただ、沈黙しているようでいて、向き合ってよく観察すれば読み取れる事は少なくありません。


 僅かな情報でも逃さず捉え、積み重ねていけば不明瞭な過去を解き明かしていくパズルのピースとなっていく事でしょう。


痕跡フィールドワークに関する知識は、計画的な魔物狩りには必須だ。覚えといて損は無いぜ。全てを頭で覚える必要はない。手帳や図鑑に頼りつつ覚えろ」


「智は力なり、という事だな」


「そうだ。あと、痕跡は単に特定の魔物の追跡と狩りに使えるだけじゃなくて、周辺にどんな魔物がいるかの把握に使える事から戦闘を避ける用途にも使える。手に負えない強敵の痕跡があれば、急いでその場から逃れるとかな」


 バッカスにおいて、その手の痕跡に関する情報は国が――国営である冒険者ギルドが編纂し、冒険者達のに公開しています。


 ギルドが主導で頻繁に魔物の生態調査を行い、その調査結果を冒険者達にフィードバックして「魔物相手の勝率を高める」という事を行なっているのです。


 調べられる生態は魔物の生活習慣や残しやすい痕跡ばかりではなく、姿形や大きさ、戦闘手段、そして弱点――どのような毒が効くか、どこが比較的脆い部位か――という事も含まれます。


 そのため、討伐経験のない魔物を狩る場合、ギルドに立ち寄って更新し続けられている生態調査の結果を閲覧していくのが無難でしょう。


 ただ、それだけでは足りません。


 ギルドで得られる情報はあくまで紙や人越しに得られる情報なので、最終的には実際に魔物と相対した時の生の情報より劣るものもあります。


 情報を閲覧するだけではなく、強敵に挑む際は「実際にその強敵を狩った経験を持つ冒険者」を案内人として雇うのがさらに堅実な方法でしょう。


 それこそ、今回のように――。

 


「さて、話を戻すが痕跡から察するにここは鷲獅子が石の補給を行う場所で立ち寄る可能性もある。100%立ち寄るとは限らないけどな」


 痕跡を辿り、探せばもっと良い「待ち伏せが出来る場所」が存在している――と指導役は言いました。


 その言葉に促され、貴方達は班をわけて周辺を探索しました。


 何度か空を舞い、移動している――あるいは獲物を探している鷲獅子の姿を見かける事になりましたが、ひとまずは勉強のために戦闘を控えました。


 先に鷲獅子について詳しく知り、次の狩りに活かすために。


「そろそろ、こっちの存在には気づいてるだろうけどなー」


 指導役はそんな言葉をこぼしました。


 そして、森の中で身を潜めつつ鷲獅子が旋回している真下にある森を――そこにある木々を指差し、口を開きました。


「あの鷲獅子が飛んでいる下のあたり、木枝が風で大きく揺れてるだろ? 鷲獅子が巻き起こす風が強く当たっている影響だ」


 風自体は普段から呼吸で起こしている鷲獅子ですが――。


「普通は、あそこまでの風は吹かさない。鷲獅子が強く息を吐くのは戦闘時と興奮してる時だ。興奮する要素はオレ達を……人間の存在を感じ取り始めてる時だな」


 幸い、森の木々が貴方達を隠してくれています。


 それによりまだ完全には見つかっていません。


「だが、聴覚で森の中に、馴染みの無い音を……人間の立てる音を聞きつけてるんだろう。これが開けた草原ならとっくに見つけられている」


 まだ完全には見つかってはいない。


 だけど油断するな、と指導役は告げてきました。


「鷲獅子は非魔物生物ふつうの鷲に類似した身体構造を持つ。天空からでも地を這う小動物を望遠鏡無しで見つけるぐらいに眼は良い。鳥の眼だ。オレ達も木が生い茂ってるとこを選んで歩かないと見つかるぞ」


「ワー! 見つかってしまった」


「アイツみたいにな。…………見つかってんじゃねーよ、バーカ!!」


「ハハハハ!」


 指導役の視線の先には甲冑の戦士の姿がありました。


 甲冑の戦士は楽しげに鷲獅子に襲われています。


 うろちょろ動き回ってブレスを避け、業を煮やした鷲獅子が上空から急降下で襲いかかり、その鉤爪で掴んで空へと連れ去っていきました。


 連れ去っていきましたが指導役は友人を見捨てる事にしました。



「助けなくていいのかってか? アイツなら大丈夫だ。ほら、あの甲冑なら鉤爪も防げるし……落とされて死ぬタマでもない。掴んで貰って飛んで、遊んでんだろ」


「ふははははは! これが空からの景色!」


「ほらな。おーい、あんまり遠くまで行くなよ~」


「わかってる~」


「晩飯までには帰ってくるんだぞ~」


「承知した~」


 指導役は友人の事を捨て置き、貴方達に付き従いました。


 そして、狩場を周ってあらかたの目星をつけ終わると集合し、いよいよ狩場の最終的な選定をする事にしました。



「この辺で狩りをするとして……具体的にはどこで戦えばいいと思う?」



【問題:選ぶべき戦地はどんなところ?】


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