魔物達のフィールドサイン
【答え:①(②、④でも正解)】
①大楯はブレス対策になる。
他の道具でも使い道はある。④は物次第。
「ブレス対策に大楯は持っていっといた方が良い」
「森の木も盾にはなるけど、常に都合のいいとこに生えてるわけじゃないしね。盾で受けつつ反撃していけばチクチクやってても殺せるわ」
貴方のクランは大楯を持っていましたが、全身を覆えるほど大きいものというと数少なく、クラン内の共有金庫から経費で買い足す事にしました。
大きすぎると取り回しづらいものなので、扱いに慣れていないのであれば盾持ち担当と攻撃担当にわかれると良いかもしれません。
「他は返しのついてる投槍と縄もあった方がいいな。巻き取り機があるとなお良いが、力に自信があるなら木に巻きつけて数人がかりで巻き取ってもいい」
「鈴があってもいいかもね。縄張り意識の高さから、りんりん鳴り響いてる鈴の音を気にして飛んできたりするし……。目立つ色合いの風船でもいいけど」
「俺は小麦粉とか毒も勧めとくぜ」
大盾も鈴も有用だが、他の道具だって使いようだろう――と言いつつ、黒狼系獣人は小麦粉や毒を使う意義を説き始めました。
「鷲獅子は全身で息をする。そんな鷲獅子に向かって小分けにした小麦粉の袋を投げつけると楽しいぞ! 全身の穴に小麦粉が入って息が詰まるかも」
「アンタ、小麦粉はいま思いついてテキトーに言ったでしょ」
「うん」
「小麦粉は……うーん、どうかな……。鷲獅子の呼吸器はまず全身の体毛が濾過器になって、呼吸器内も鼻毛の如く小さな毛が生えてるから砂漠の砂嵐の中でも活動できるし、小麦粉程度なら軽くむせる程度かなぁ……?」
「雨降ってりゃ小麦粉が固まって詰まったりしねーかな」
「ああ、それはあるかも……色々と大変そうだが」
「もしくは逃げる時の煙幕とかな。あと、毒も投げときゃ吸い込んでくれるぞ。俺の時は吸い込んでくれた」
えへん、と胸を張って言う黒狼系獣人の隣で獅子系獣人が「こいつの場合、風で吹き返えされて自分にも毒がかかって全身がただれた事もあったわ」と呆れ顔でバラしました。ちょっとした――常人なら死ぬ――失敗談です。
ともあれ、道具はどれも使いよう。
対峙する相手の生態も交え、効果的な運用方法を考えていけば武器防具に限らず日用品でも魔物討伐の役に立ってくれるでしょう。
貴方は他にも準備しておくべき物を指導役に教わり、自分でも着想を得て仲間達と色々と用意する事にしました。
そしてその後、実際に鷲獅子狩りに行く事になりました。
その狩りには指導役が同行する事となりましたが、それだけではなく――。
「私も同行させてもらおう」
当日になって甲冑の戦士が同行を申し出てきました。
指導役の友人の冒険者らしく、指導役の手伝いにきたようです。
当の指導役は「呼んでないから帰っていいぞ」「シッシッ!」と追い返そうとしましたが甲冑の戦士は笑って断って勝手についてきました。
「私は役にたつぞ! 主に戦闘面で」
「いらねー。オレ様は報酬貰うが、お前の分の報酬を貰うアテなんて無いぞ。帰れ帰れ、円卓会に帰れ。もしくは開拓戦線の最前線に行け」
「私は知っている……そうやって追い返そうとするのは、ツンデレと言うのだ!」
「うぜえ……! 皆、コイツの事は無視していいからな」
かくして、追い返そうとしても帰らない甲冑の戦士が反復横跳びしながら勝手についてくるのを無視しつつ、貴方達は都市郊外へと出かけていました。
目指すは鷲獅子の縄張り。
都市からは少し距離が離れているため、野営をしつつ向かう遠征になるようです。帰路も含めれば一週間ほど都市を離れる事になります。
しかし、貴方達は食料も宿泊の準備も抜かり無く行っており、今まで他クランの随伴とはいえ遠征をしてきた経験で問題なく郊外活動を行えています。
「オレ様は口は出すが戦闘には手を出さないぞ。基本的に」
今回はアンタらの狩りだからな――と釘を刺してきた指導役が道案内を務め、貴方達は鷲獅子の縄張りへと向かっていきました。
指導役は大体の生息地まで案内を終えると、貴方に先頭を譲り、「ここからは自分で探してみな」「必要に応じて助言するし、質問も受け付ける」と言いました。
そう言われた貴方の前には高木が茂る森林地帯が広がっています。そして、森が途切れた先には大きな岩山が連なる山脈がありました。
近くには小川もあります。山から流れてきているらしく、水質も綺麗なので水はそこから汲んでいけばいいでしょう。
勝手についてきた甲冑の戦士は木を紙細工の如く一刀両断して遊びつつ、貴方達を不思議そうな顔で見つめてきました。
「鷲獅子狩りをするのだろう? 呼べばいいじゃないか、鷲獅子なら直ぐ来るぞ」
「アホ。人が今後の事も兼ねて指導してんのに答え教えてんじゃねえ。まあ、厳密には答えではないが……」
指導役は友人の呟きに溜息をつきつつ、「呼ぶ」という事に関して解説を始めていきました。
「事前に説明した通り、鷲獅子は縄張り意識が高い。だから人が立てる大きな物音に反応してホイホイやってきてくれる事も多いのさ」
「私達が戦う魔物は大抵、そういう性質を持っているがな」
バッカス冒険者が対峙する魔物達は凶暴を通り越して半ば狂っており、自分の身体が大半吹き飛んでも構わず這ってくるほど血気盛んです。
人間に対してはまったく怯まずやってくる怖いもの知らずであるため、鈴の音などを鳴らし続けているとやってくるほどです。
鷲獅子も何らかの音を聞きつけると直ぐにやってくる事でしょう。
甲冑の戦士は「私は騒音鳴らすの得意だから鳴らそうか?」とワクワクした様子で――どこからか取り出した――盾を2枚、シンバルのように持ちました。
「戦闘中も武器と防具を打ち鳴らして、敵愾心を煽り、引きつけるのが前衛の仕事だ。呼び出すための囮も任せろー、バリバリ」
「やめろ! 今回は、とりあえずやめろ」
指導役は甲冑の戦士を慌てて止め、貴方達に向き直りました。
友人に任せっぱなしだと指導にならん、と思いつつ。
「確かに騒音で魔物を引き寄せるのは、バッカスじゃよくある狩猟方法だ。ただ、寄ってくるのは鷲獅子ばっかりじゃねえ。呼んでもない魔物も近づいてくるのが当たり前だ。魔物は人を恐れないからな」
音に頼るのは自由。
ただし、そればかりに頼っていると狙った獲物だけ探し当てる技術に恵まれず、余計な戦闘を重ねる事になる。
だから地道に特定の魔物だけ探す技術も身につけるべきだ――と指導役は説きました。説きつつ、特定の魔物だけ探す方法も教えてくれました。
【特定の魔物だけ狩りたい時は?】
①高所から目視あるいは魔術で見つける
②魔物の行動を読んで先回りする
③魔物が残した痕跡を追跡する
「高所からの確認は、あえて語るほどの事でも無いな」
「いや、下手に高所に登る危険性も説くべきだろう」
「今日初めて、お前からまともな意見が聞けたよ……」
指導役にそう言われた甲冑の戦士は「えっへん」と胸を張りました。
「こいつの言う通り、高所は気をつけないと目立つ。山の頂上に登っても鷲獅子はそれよりさらに高所を飛んでこっちを見つけてきたりするからな。鷲獅子に限らず、音で誘き寄せる方法で注意した事と同じような失敗をする可能性がある」
「迷彩服なり布でも被ってこそこそ登るべきだな。この辺りの高所であれば……あそこの岩山だが、あそこは危険だろうからなぁ。私なら登るが」
「お前の場合、正面から何匹も蹴散らすだろうからなぁ……」
指導役は褒めつつも呆れ顔を見せました。
「魔物の行動を読んで先回りする、については魔物ごとの生態を覚えていけばいい。魔物は凶暴だが魔物ごとに居心地のいいところを探すからな」
「その居心地の良い場所に寝床を……巣を構えたりするわけだ」
「その通り。で、痕跡については……もう既にここにある」
指導役はそう言い、辺りを指し示しました。
そこは山と森の境界に位置する場所で、いくつかの痕跡が残っています。どれも自然に出来たものではなく、何らかの生物が残した痕跡のようです。
「どれが鷲獅子の痕跡か当ててみてくれ。
鷲獅子がどんな魔物か、よく思い出しつつな」
【問題:鷲獅子の残した痕跡はどれ?】
①何者かに砕かれ、手のひら大の破片をこぼしている大岩
②木の幹を真っ直ぐに貫く鋭い爪痕
③木に引っかかっている白く大きな羽根
④誰かが走り回ったと思しき靴跡