事の始まりと狩場選び
バッカス王国。国民の大半が魔術を使う魔術大国。
そんなバッカス王国に生まれた貴方は「冒険者」となり、バッカス国営冒険者ギルドの魔物討伐依頼をこなし、生計を立ててきました。
冒険を続ける中で仲間を増やしていった貴方は皆で冒険者クランを立ち上げ、総長としてクランを切り盛りし、仲間と共に冒険者街道を邁進してきました。
その甲斐あってか、仕事もクラン経営も順調。
国中に名が轟く……とまでは行かずとも、大手冒険者クランに実力を買われ、下請けとして声がかかるほどの冒険者集団へと成長していました。
ただ、貴方は現状に満足していません。
仕事は向こうからやってきて稼げているものの、大手の下請け仕事が多く、大手や有名冒険者クランと比べるとまだまだ稼げる余地があると考えていました。
今より更に稼ぐには、そろそろ「脱・下請け」を狙うべきだと思いました。
仲間の冒険者達も概ね同じ意見であり、連日、「どうやって独立独歩で稼いでいくか?」という議題で話し合う日々が続いていました。
仲間達とより良い未来を目指し、意見を交わすのは楽しくはあるものの――貴方は意見がまとまらない事に危惧を抱いていました。議論が続いているという事は解決案がまだ固まらない事が原因でした。
まとまらない議論の事を、貴方は立ち寄った店の店員にこぼしていた。
その店は行きつけの冒険者用品店であり、クラン全体で取引のある店で――そういう縁もあり、接客していた黒髪エルフの店員は快く相談に乗ってくれました。
「今は鷲獅子狩りが稼げるそうですよ。貴方達ぐらいなら、手頃な獲物です」
貴方は店員の教えてくれた魔物の事を思い浮かべました。
鷲獅子。
鷲の翼と上半身、獅子の下半身を持ち、天空を自在に舞う飛行種の魔物――という事は知っていましたが、交戦経験も無いのでそれ以上の事は知りませんでした。
ただ、いま鷲獅子狩りで稼げるのは事実らしく、貴方は仲間の了解が取れれば試しに鷲獅子狩りを始めてみようと決め、店員に礼を言って店を出ようとしました。
「鷲獅子狩りの知識のある冒険者を指導役に雇った方がいいのでは?」
店員の意見に対し、貴方は最もな事だと頷きました。
短期の契約にしろ、鷲獅子狩りに慣れている先達の力を借り、まずは「どう戦えばいいか?」を学んだ方が効率的だろう、と考えました。
ただ、教えてくれそうな先達に心当たりはありませんでしたが――。
「何ならウチで紹介しましょうか?」
と、店員が言ってくれたので、仲間と相談して仲間も賛成してくれたら頼みにきます――という事に話になりました。
その翌日。
クランの仲間も鷲獅子狩りに賛成してくれたので、用品店の店員に改めて紹介を頼んだところ、店の隣にある邸宅へと連れて行かれました。
その邸宅の縁側で酒瓶を抱えて寝ている男性を指差した店員は「この子ですよ」と鷲獅子狩りの指導を行う冒険者を紹介してくれました。ついでに眠りこけている冒険者を叩き起こしてくれました。
「ほらほら、起きなさい。もうお昼ですよ」
「いてえ。いてえよ師匠……」
「喫茶店でも行って、色々と教えてきて差し上げなさい」
「ア~? 教えるって、何を……」
「鷲獅子狩りについてですよ。指導役として導いてあげなさい」
「はあ? いや、師匠の頼みならいいんだが……」
酒瓶を抱え、何ともボンクラじみた冒険者は頼りなさげに見えましたが、普段から世話になっている店の店員の紹介だけに話だけでも聞いてみる事になりました。
「食堂行こうぜ、昼メシ食いながらまず相談。実際にオレを狩りに随伴させるかどうかは……まあ、話を聞いてから判断してくれや」
そう言った冒険者に導かれ、ひとまず食堂に行く事になりました。
「しかし、鷲獅子狩りかぁ……。しばらくやってねぇなぁ……」
頼りなさがさらに増しました。
「まぁ、出来る限りの事はするわ。まず、アンタらの実力とか教えてくれ」
そう言われ、貴方は先に自分達について語る事になりました。
貴方が率いる冒険者クラン「トナティウ」の戦力は以下の通りです。
【クラン・トナティウ】
■構成員:30人
■設立:2年
■得意分野:接近戦
構成員の8割が剣や槍、斧や盾の扱いに長けている。野戦でも中型の魔物程度なら数で上回れても多少なら蹴散らす。竜種討伐随伴経験有り。
他クランの下請けとして危険な前衛として立ち回り、生き残ってきた事から接近戦であればかなりの巧者。若手の冒険者達の中でもそれなりの有望株。
総長を含む3名が単騎で10メートル級の魔物と斬り合っても倒せるほどだが、個の力だけではなくタイミングがシビアな接近戦での連携も卒なくこなす。
■苦手分野:接近戦以外の全て
下請けではなく自立して稼いでいくために悪戦苦闘中。索敵魔術が得意な冒険者を口説き、新たに3名仲間を増やしたがそれでも索敵能力は並みのクラン程度。
戦術の幅を広げるため、全員で投槍器の訓練をしていたりする。身体強化の魔術により、威力は最初から高かったが訓練のおかげで槍でも50メートル先の獲物なら動いていようが大抵当たるようになった。
「設立2年でそれなら、中々良いクランじゃねえか」
相談に乗ってくれる事になった先輩冒険者は率直な感想を述べました。
それぐらい強ければ引く手数多だろ――という言葉も添えつつ、少し思案し、「それぐらいなら鷲獅子狩りも出来そうだな」と呟きました。
「ちなみにアンタら、飛行種の魔物を狩った経験は? ……殆どない?」
問われた貴方は正直に「無い」と答えました。
魔物との地上戦はお手の物ですが、弓矢などを扱える者がほぼいない事もあり、空飛ぶ魔物と戦うのは専門外。今まで苦手分野は別のクランに任せてきました。
自クランだけで何とかしようと投槍器の練習をし、それなりの遠距離攻撃手段を手に入れたものの、実際に空飛ぶ魔物を相手取った事は殆どありませんでした。
「まあ、銛ぐらいの大きさの槍でも50メートル先に大体当たるなら通常種の鷲獅子狩りには十分だろ。なに、何度かやってればコツは掴めるさ」
ちなみに投槍器とは投槍の補助器具です。
弓矢における弓の如く、ただ素手で投げるより遠く鋭く投げられる道具で、魔術があるバッカス王国は魔術を交える事で重い槍でも軽々と遠くまで投げる事も可能となっています。
ちなみに貴方は100メートル先の鉄板を貫通するほどの威力で槍を投げれます。クラン内で一番の腕前の持ち主です。
クラン内に貴方に次ぐ使い手が育ちつつあり、もはや十分に魔物狩りに使えるだけのアトラトル使いが育ちつつありました。
「鷲獅子は飛行種の魔物だ。アンタらなら、投槍で対抗する事になるだろう」
指導役の言葉に貴方は頷きました。
問題は「どこで」「どうやって」狩っていくかという事。
それを指導して欲しい、と願ったところ、指導役は答えではなく問題を出してきました。直ぐに答えず貴方に思考を促しました。
「アンタらの戦力なら、どこで鷲獅子狩りをするのが一番だと思う?」
【問題:鷲獅子狩り、どこでする?】
①見晴らしの良い草原
②山裾に広がる森林地帯
③大山脈に囲まれ乾燥した砂漠地帯
④山が多く平地の少ない山脈地帯